平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/3/26(第201号)
銀行の不良債権問題(その1)
  • 妄言が生まれる背景
    経済論議では奇妙な主張が、しばしば当然のように受取られ、世論もそれが正しいと支持する。いくら本誌などが、それは「おかしい」「理屈に合わない」といってもだめである。橋本政権の財政再建を始め、この結果でたらめの政策が次々に行われた。不思議なことに、このようなどうしようもないはずの政策が、マスコミや世論の強い後押しで実行されると言う事実である。橋本政権の財政再建など、世論調査で圧倒的に支持された政策である。現在、経済諮問会議の有力メンバーの財政学者の本間氏などは、当時「まだまだ財政支出の削り方が甘い」とテレビに登場して怒っていたほどである。

    この橋本緊縮財政により、景気が大きく落込み、それがきっかけで金融破綻が続いた。そして景気対策の方法が問題になった。すると驚くことにこの財政学者は一転して、「日本は法人税が高いから起業家が育たない」と主張し始めた。財政再建のため増税が必要と言っていた学者が豹変して減税を言い始めたのである。法人税の減税が景気対策として一番有効とテレビで発言し始めたのである。結果は、本誌が何回も事前から言っていた通り、まるで効果はなかった。日本の開業率は落込む一方である。だいたい景気の先行きが悪く、需要が伸びない今日、税金が安くなるから事業を始めようと言うおっちょこちょいはいない。実際、経済企画庁のマクロ計量モデルでも、効果が小さい所得税減税より、さらに法人税減税の効果はみじめなほど小さい。しかしこのような「妄言」でもマスコミを通して連日流されると、人々はそれが本当と思い込み、そのような間違った政策でも、世論を気にする政府が実行してしまうから恐い。

    しかし今日の日本は、このような「妄言」の類で溢れている。その度に筆者は、本誌で「それは違う」と言い続けるほかはないのである。まさに「モグラたたき」である。そして最近特に声が大きくなったモグラは「長い経済の不調の原因は、銀行の不良債権」と言う主張である。これが米国にも伝わったのか、ブッシュ大統領までこれを取上げ、解決を迫るほどである。

    筆者は、銀行の巨額不良債権が小さい問題とは考えない。しかし銀行の不良債権が原因で10年も景気が低迷したとは絶対に考えられない。反対に景気が長い間低迷したことが、銀行の不良債権問題を複雑にし、大きくしたのである。また景気低迷による株価の下落は銀行に不良債権の償却余力を奪った。さらに景気低迷は、地価の下落を通して不良債権を増やすことになった。もし経済が比較的順調に進んで、地価の下落が一定のレベルで止まっていたなら、銀行の不良債権問題は今日ほど重大にはならなかったはずである。一番幸運なケースでは、時間はかかるかもしれないが、何ごともなく過ぎていた可能性もある。


    この主張は最近ではよく聞かれる。筆者が印象に残っているのは、3年ほど前のテレビ朝日系のサンデープロジェクトでのある人物の発言である。そしてこの人物は、この番組に出演してほどなく故人となられた。この人物は、観念論者の集まりである経済同友会の幹部であった。経済同友会は、「小さな政府」の信奉者の集まりで、いつも強く財政再建の主張を繰返していた。この人物はその中でも最も急先鋒として有名であった。しかし橋本政権は財政再建をやろうとして、急速な景気後退と拓銀・山一などの大手金融機関の破綻を招いた。

    この日の番組の主旨は、どう見ても財政再建を強く主張していた人々の代表である同氏を呼んで「説明」を求めるものであった。筆者も、この人物がどのような弁明をするか注目していた。たしかにこの人物が主張した財政再建政策が行われ、景気が大きく落込んだところまでは認めた。しかし財政再建路線が失敗した原因を、なんと同氏は「銀行の不良債権の存在」だと言ったのである。同氏は一晩考え、「はっ」と「これだ」と気が付いたと言っていた。「一晩考えた」と言うセリフに、筆者もアキレかえった。しかしこれらの人々はこのような弁明には長けていると逆に感心した。

    たしかにこの頃から経済がうまく行かないと全て銀行の不良債権のせいにする風潮が強くなった。そして間違った主張を行っていた連中の言い訳も全てこれである。しかし話は逆である。間違った経済政策を行ってきたから「銀行の不良債権」問題が深刻になり、そしてこれが経済に悪影響を及ぼす可能性が大きくなってきた。つまり経済について「めちゃくちゃ」なことを言っていた人々に、「銀行の不良債権問題」が都合良く弁明に使われているのである。

    したがって「長い経済の不調の原因は、銀行の不良債権」はよく聞く話であるが、何故「銀行の不良債権」が原因なのか説得力のある説明を聞いたことがない。このセリフを使うエコノミストは実に多いが、その合理的なメカニズムを筆者は聞いたことがない。たしかに金融機関の危機が叫ばれる時に、株価全体が一段と下がることがある。しかし金融機関が危ないと言われる場合は、それまでに全体の株価が相当下がっているのが普通である。株価が下がり、不良債権の償却が難しくなるから銀行の株価が下落するのである。このように「長い経済の不調の原因は、銀行の不良債権」と言う話は、全くとは言わないが、ほとんど「嘘」、つまり妄言と言うのが筆者の結論である。

    ところが文芸春秋4月号に、この説を合理的に解明したと言う論文形式の文章が載った。「現役官僚の衝撃リポート、破綻か再生か「日本経済の罠」」と言う大袈裟なタイトルであった。経済産業省(旧通産相)の34才の小林慶一郎と言う若手官僚の文章である。筆者もタイトルに興味を持ったので、これを読んでみた。しかし賛同できたのは最初の部分だけであった。小林氏が、「従来の日本経済低迷の不良債権犯人説」は理論的基盤が弱いと認めている部分だけである。筆者に言わせれば、理論的基盤が弱いのではなく、「でたらめ」と言うことである。


  • 妄言の証明
    小林氏は「日本の大きな不良債権の存在自体が、企業間の相互不信を呼び、効率的な企業運営を妨げた。そしてこのため企業は投資活動を抑制し、経済低迷を長引かせた。その証拠として、分析で供給連鎖が複雑な産業ほど、バブル後の90年代を通して生産が落ちている。また、手形決済などもこの時期に大きく落込んでいる。」と主張している。

    そして不良債権が最大の問題と思い込んでいる同氏は、次の四つの解決策を提示している。「何もしない」「調整インフレ」「銀行休日に強制的に不良債権を処理」「市場メカニズムによるバランスシート調整」の四つである。そして同氏は、消去法で最後の「市場メカニズムによるバランスシート調整」しか解決策にはならないと言う結論を出している。


    これに対して筆者は、当然、反論することになる。まずスタートの現状分析から彼は間違っている(つまり全く話にならないのである)。企業の投資活動は、バブル崩壊後もそんなに落ちていない。地価の下落などの影響(消費の低迷なども当然影響している)もあり、企業日本の設備投資は増えていないことはたしかである。しかし設備投資額のGDP比率は、15%前後を一応キープしている。97年度には16.1%まで記録している。さすがに橋本政権の緊縮財政による大幅な景気後退により、99年度は瞬間的に14%台を少し切り込む水準に落込んでいるが、これでも設備投資が絶好調と言われている米国の水準を少し上回っている。バブル期前でも82年度14.8%、83年度14.7%と言う低い時期もあった。バブル絶頂期の19%台の水準は、最近25年間の間では、むしろ例外である。ちなみに筆者が示した数字は平成12年度版(最新版)の経済白書の数字である。小林氏は「企業は投資活動を抑制」と断言しているが、一体何の数字を根拠にしているのであろうか。いい加減にしろと言いたい。

    97年の三洋証券のデフォルトが原因で金融市場はめちゃくちゃになり、拓銀、山一はこのあおりで破綻した。ちょうどそのころ「早期是正措置」と言う訳のわからない政策が強行されていた。貸し渋りが話題になったのはこの頃以降である。一方これ以前は、銀行は、巨額の不良債権を抱えている不動産やゼネコン向けなどを除けば、むしろ貸出に積極的であった。実際、今日問題になっているスーパなどの流通企業は、むしろバブル崩壊後も大きなの投資を継続したことが致命傷になっている。「そごう」が良い例である。

    手形決済の件もひどい。不良債権の存在によって手形決済が減少したような言い方である。たしかに一部の業者や信用不安の企業に対して、手形ではなく、現金引替えでなければ商品を売らないと言う話は聞く。しかしこれは全体の話ではない。むしろ手形決済が減少したのは、企業が、経費節約のために手形発行を止めたからと考えられる。手形作成に手間がかかり、さらに印紙が必要である。また手形を受取る業者も、受領書に印紙が必要である。そこで企業は手形の発行やめ、期日に現金を銀行振込む方式に変えた。これは90年の前からやり出す企業が増えた。始めの頃は、これも新しい試みとして新聞でも取上げられたが、一般的になってからは新聞にも取上げられることはなくなった。

    もちろん期日現金払いができるのは、信用のある大企業に限られる。ところで業者の中には手形を受取ったらすぐに割引いて、運転資金にしているところもある。そこで気のきいた企業は、業者のために、期日現金払いがあると言う証明書を発行して、業者にこれを渡している。業者はこれを銀行に示し、融資を受けると言う仕組を用意しているのである。

    小林氏が旧通産省に入省した91年のころには、既にこのような流れも話題になっていない可能性が強い。しかし世間では、経費節減のための手形発行の省略が広がっていた可能性が強い。つまり手形決済が減少した理由は、不良債権の存在とほぼ関係ないと考えられる。

    小林氏は90年代の経済のスランプは不良債権の存在と決めつけ、他の可能性を排除している。そして四つの解決策を提示し、消去法で「市場メカニズムによるバランスシート調整」しかないと言う結論である。一見論理的であるが、全く非論理的である。解決策なんて他に何十も考えられるはずである。そして氏が解決策と考えている「市場メカニズムによるバランスシート調整」も、現実に実行が絶対不可能な方法である。これについては別の機会に述べたい。

    文芸春秋は、筆者もずっと読んでいるが、このような稚拙な文章を読んだ記憶がない。結局、この文章で価値があるのは、「従来の日本経済低迷の不良債権犯人説」は理論的基盤が弱い(端的に言えばめちゃくちゃ)と認めている部分だけである。そして小林氏の説が怪しいとしたなら、「日本経済低迷の不良債権犯人説」は一体どうなるのであろうか。結論を言えば、「日本経済低迷の不良債権犯人説」は真っ赤の嘘と言うことである。



逆に日本経済低迷が銀行の不良債権問題を深刻にしたのである。しかし地価の下落が続いており、銀行の不良債権問題はのっぴきならない状況になってきた。世間では銀行の不良債権問題を早く処理しろと言う声が大きくなっている。しかし処理方法を間違うと、とんでもないことになる可能性が強い。これについては来週号で取上げる。また余裕があるなら、今週取上げた手形に関連し、手形に関わる印紙の非課税化についても述べたい。

日銀が事実上ゼロ金利政策を復活させた。今回は銀行も前回のゼロ金利時代より普通預金金利を引下げた。これによって普通預金に運用資金が集中する動きを封じ込めるつもりである。つまり今回のゼロ金利政策では、かろうじてコール市場が機能する態勢を整えた訳である。

日銀の金融緩和や日米首脳会議を受け、21日の株価は急騰した。明らかに先物主導の上げ相場であった。公的資金の流入も噂されている。これと関係があるのか、インターネットの人気のある株式関連の掲示版が、この数日前から次々に閉鎖されていた。

日本の株価の今後を占うのは難しい。政策をリードする人物も政局の動きによって変わる可能性がある。現在は亀井政調会長と言う現実主義者がリードしているが、もし亀井氏が今の立場を離れると言う事態になれば、少なからず影響がある。

また日本の株価は米国の株価の動向に影響される。株価は米国離れをしたと言う話があるが、そんなことは考えられない。
米国の景気動向のポイントはズバリ「消費動向」である。株価下落による逆資産効果などの影響がどれくらい大きいかと言うことである。消費はまだ大きく落込んではいないと言うことであるが、株価下落の影響がこれから広がる可能性がある。とにかく米国経済にとって株価の影響は、日本で思われているより大きい。

米国景気の底支えに「減税」が期待されているが、予定されている減税の規模は決して大きくはない。以前、筆者も、米国は「利下げ」「財政」と政策に余裕があると考えていた。しかしどうもそうではないようである。つまり米国も株価が落着かないと、案外打つ手は限られているのである。したがって日本に対する要求もこれから強くなるはずである。

土地の公示価格が公表された。住宅地が4.2%、商業地7.5%の下落である。銀行の融資残高が600兆円とすれば、毎年どの範囲の額の不良債権が発生する可能性があるかが容易に想像できるはずである。もちろん全ての融資先が倒産すると言うことはなく、また融資の全てが土地担保の融資ではない。しかし少なくとも今年の銀行の不良債権の償却額の予想である4兆円は、この数字と桁違いとも受取られる。つまり銀行の不良債権の解決については、色々意見があると思われるが、最終的には地価を上げる方策を考えるしか方法はないと筆者は感じている。「先送りはいかん」「厳しく不良債権を査定しろ」と言った、エコノミストや政治家の主張がいかにばかげているか分るはずである。筆者には、日本人は本当に「ばか」になったのではないかと思われる今日この頃である。


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