平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/3/19(第200号)
与党の緊急経済対策
  • 株価が落ちる理由
    与党の緊急経済対策が決まった。しかし米国の株価下落などにの影響もあり、12日週明けの株式市場は、まるでこれを無視したかっこうで下落した。さらに森首相退陣(総裁選の前倒しは、事実上の退陣表明)で日経平均は1,000円上がると言う話も、吹っ飛んでしまっている(この話は本誌が前から言っているように嘘であり、そのことが証明されたみたいなものである)。

    筆者は、株価対策が本当に必要になる一応のメドを11,000円前後と考えている。これは採用銘柄の入替え前の銘柄での日経平均のバブル崩壊後の最安値水準を意識している。しかしこれはあくまでも一応のメドである。最近の株式市場は、徐々に良い材料に反応せず、悪い材料だけには敏感に反応するようになってきた。つまり危険な状態に一歩近付いた。この段階にいたっては、やはり株価対策の用意が必要と考える。

    株価対策と言うと必ず、「市場の価格メカニズムを壊すものであり、有害である。」と言う市場原理主義者の意見が幅をきかす。少し前に「金庫株のための法改正」など(株価対策としてはほとんど効かないが)、第一段の対策が公表された際にも、日経新聞は株価対策反対の意見で溢れていた。たしかに筆者も、一番の必要な政策は、景気の底上げと考えている。しかし新年度の予算が審議中と言うことになれば、次の景気対策と言っても具体策は難しい。したがって別の方法で市場に直接効果のある政策も必要と考える。


    株式市場を始め、市場と言うものは、必ずしも有効に機能しない場合がある。これについては4年前97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」で述べた通りである。本来、市場では、需要が増え価格が上昇すれば、供給が増え価格の上昇が抑えられる。また供給が増え価格が下落すれば、需要が増え価格の下落を止める。このように市場は、価格がパラメータとなって需給を調整する。ちなみに株式市場のパラメータは株価である。

    しかし市場はいつも理想的に機能する訳では無い。しばしば買いが買いを呼び、つまり価格が上昇することによってより多くの買いを呼ぶことがある。売る方もこの価格上昇を見て、将来もっと価格が上昇すると判断すると売ることを惜しむことになる。このような状況になれば、どこまでも価格は上昇することになる。バブル期の地価の上昇などは典型的な例である。
    反対に、売りが売りを呼ぶ展開がある。この場合には価格はどこまでも下がり続けることになる。特に市場参加者が不安な心理状況の時にはこの状態になりうることがある。そして筆者の感想では、日本の株式市場はこの状態に近付きつつある。11,000円はこの一つのメドである。

    このような不均衡な市場に対しても、「ほっておく」と言う考えもある。ほっておいて株価が極端に安くなれば、誰かが買ってくると言う考えである。むしろ政府や公的機関が市場が介入することの方が問題と言うのである。彼等は、完全競争下でこそあらゆる市場は正しく機能し、資源の最適な分配がなされると言う。フリードマンに代表される市場至上主義者の考えである。彼等はむしろ競争を妨げる規制撤廃が重要と考える。このような考えの人々は、日本にも沢山いる。彼等の多くは「小さな政府」の信奉者であり、エコノミストや市場関係者の中に多い。

    この考えに真っ向から反対するのは共産主義である。市場はいつも失敗するから、政府が責任を持って全ての資源の配分を行うと言うのが、共産主義者の主張である。

    そして先進各国の政府と市場の現実の関係は、ちょうど両者の中間にある。資本主義の原則である市場の機能を活かしながらも、市場が機能しない分野や、市場が異常にぶれた場合には、程度の差はあるが政府や中央銀行が介入を行うと言うのが普通である。フリードマンのように全てを市場にまかせれば良いと言うのんきな者はいない。
    米国のFRBグリーンスパンのここ数年の第一の関心事は、米国株式の動向であった。最近立て続けに行った利下げも一種の株価対策である。株式が経済に深く関係している米国の場合では、株価の大きな下落は、日本人が考えるより深刻な問題である。いかなる状態になっても、ほおっておいた方が良いと言う考えはちょっとクレージである。


    一つの適正株価算出方法は、企業の清算価値に今後一定期間の収益を金利で現在価値に還元した合計金額を発行株式数で割ることである。日本の企業の場合は社内留保や土地などの含み益が大きいため、清算価値は比較的大きい。しかし地価の下落は止まらず、この清算価値は日々小さくなっている。さらに米国経済の後退や政府の緊縮財政転換などに伴い、今後の企業収益は落ち込む可能性が大きい。実際、企業の決算の下方修正が続いており、このことをはっきり示している。唯一の救いは円安であるが、これがいつまで続くか分らない。ちなみに筆者は、日本の経常収支の黒字は続いており、中長期的には為替は円高に動くと予想している。

    このように見てくると日本の株価が下落するのは当然のことである。しかし問題になるのは、株価下落が及ぼす経済への悪影響である。例えば株価下落が銀行の決算などに影響することははっきりしている。そして株価下落が経済に与える影響は、米国の場合ほどではないが、日本でもかなり大きいと言う認識は必要である。

    株式市場のような金融市場では、時々適正水準を単に下回ると言うより、それを大きく超えた暴落と言う現象が起ることがある。14年前のブラックマンデーのようなケースである。問題は、このようなことが日本で再び起る可能性である。正直に言って、筆者にはよく分らない。しかし筆者は、ブラックマンデーのような急落ではなく、むしろだらだらとした下落がいつまでも続くような気がする。最近の株式市場の反応の仕方を見ていると、そのように思われるのである。気が付けば、「こんなに下がったの」と言う感じである。

    したがって政治家も株価対策と言っても腰が入りにくい。一見、株価対策である与党の緊急経済対策にもそれが表われているかのように見える。いつものように実現性に疑問があったり、効果が疑わしい項目がずらっと並んでいる。市場関係者の評判も決して良くない。しかしよく中身を見てみると、たしかに結構注目される項目もある。


  • 緊急経済対策の問題点
    与党の緊急経済対策として実に多彩な項目が挙げられている。株式の譲渡益の減税から銀行の債権放棄、さらに土地流動化まで実に幅広い。たしかにやり方によっては効果のあるものがあるが、この原案のままでは首を傾げたい項目も多い。これから緊急経済対策は政府との摺り合わせを経た後、法改正が必要なものについては国会の承認を得ることになる。当然この過程で内容が変わるものも出てくるはずであり、また今取上げても無駄になる項目もある。

    緊急と言いながら、実際は実にのんびりした対応である。これも株価が下落しているのに、ちょっと前まではエコノミストを始め多く人々が「景気は回復している。次は財政再建だ。」と言っていたのが影響している。橋本政権の頃と全く同じパターンである。なんと昨年の夏場にはほとんどのシンクタンクも経済成長率を上方修正していたのである。政府も着実に景気は回復していると言う見方を、簡単に変えるわけにはいかなかったのである。

    本誌は、昨年の暮から、今日の日本で一番の問題は、経済に対する議論が混乱していることと指摘している。そして日本経済の問題の一番の重要なポイントは「日本の過剰貯蓄体質」と「地価の継続的な下落」である。両者は密接な関係があり、地価の下落を止めるには、日本の過剰貯蓄体質を改め、経済活動を活発にする他はない。しかし「日本の過剰貯蓄体質」を変えることは絶望的である。唯一採りうる手段は、政府が国債を増発して、過剰貯蓄を回収し、その資金を直接民間に流すことである。政府が希望しているのは、円安による外需依存による解決であろうが、これはこれまでと同様に将来の円高となって跳ね返ってくる結果になり、失敗に終わる可能性が強い。


    このような観点から与党の緊急経済対策をざっと見ていく。注目されるのは三つの項目である。まず「民間資金による株式買上げ機構の創設」であり、銀行・企業の持合い株の解消を睨んだものである。筆者は、これを民間の資金で行うのではなく、政府が資金を出すべきと考えている。金融の仲介機能が低下している現状で、必要なことは官から民への直接的な資金の流れである。
    また買い取った株式が下落した場合のリスクをどちらが負担するかと言うことが問題になっている。これについては政府が保証し、損失が出た場合は公的資金で補填する方向で行くようである。

    構想では機構は受け身の立場である。銀行・企業の要請で時価で株式を購入することになっている。たしかにこの機構は株価下落の下支えになるかもしれないが、株価を押し上げる力にはならない。さらに株価が含み損を抱えるような低い水準の状態で機構が創設されても、銀行は株式を売却すれば、その時点で損が確定することになる。つまり創設されても損失の発生を嫌う銀行は機構への売却をためらい、機構が開店休業と言う状態が予想されるのである。そうではなく株式買上げ機構は、単に持合い株を買上げるだけでなく、市場から株式をどんどん買上げることが必要と筆者は考える。どうも政府は株価がどうしようもないくらい下落した場合には、年金資金などの公的資金による買い支えを考えているようである(既に行っていると言う話もある)。いわゆるPKO(プライス・キーピングオ・ペレーション)である。

    次は都市再生計画である。東京や大阪が対象となっている。具体的に東京都からは首都圏再生の5ケ年10兆円構想が出されている。環状道路の整備、羽田空港の拡張、電線の地中化などである。筆者は、是非これらに大深度を利用した高速地下鉄の建設を加えてもらいたいと考える。だいたい今のところ東京だけと言っても年間2兆円の規模ではあまりにも小さ過ぎて、中途半端である。日本の貯蓄はもっとすごいスピードで増え続けている。全国で最低でも年間10兆円の規模が必要である。破綻した銀行に何十兆円もの資金を投入するくらいなら、破綻する前にその資金で景気の底上げを行う方がずっと賢明である。

    財源が財政投融資と言うのも気になる。たしかに財投資金も相当余っていると思われる。しかし財政投融資と言うことになれば、またくだらない採算や収益性と言った問題が持出されるのである。やはりこれにも国債発行による資金を充てるべきと考える。もっとも財投資金と言っても、最終的には財政の投入と言う結果に終わり、どちらでも同じと言うことも考えられる。

    三つ目は日銀に対しての物価目標の設定要請である。端的に言えば調整インフレを起こすような金融政策、つまり一段の金融緩和の要請である。しかしこれについては、先週で言ったように、日本の現状では、日銀の政策だけでは実行不可能である。財政出動が伴って始めて、物価の上昇するような状況が期待できると考える。


    この他に個人マネーの株式市場への呼び込み政策がある。しかし税制の改正くらいで個人は株式投資は行わない。大半の金を持っているのが、極端にリスクを避けたがる老人達である。したがって税制の改正で株式市場に新たに流れてくる資金量はしれている。
    もし資金がある程度まとまって流れてくるとしたなら、株価が大きく上昇した時であろう。隣の人が株で儲けたと言う話を聞いて、初めて自分でも株を買ってみようと思うのである。今日は全く逆の状況である。株価は下落を続け、投資信託は目を覆うほどの大損である。したがって老人達が、税金が少し安くなるからと言って、株を買い始める言う事態は考えられない。

    税制改正などによって期待される資金流入量は限られている。ところが一方、昨年の後半にはNTT株の放出とNTTドコモの大型増資で株式市場から多額の資金が吸い上げられた。特にNTT株の放出では、民から官への資金の逆流である。約一兆円の資金であった。このようなことが一方でなされているのに、税制改正で民間から微々たる資金を株式市場に集めようと言うのは矛盾した行為である。一体政府は何をしたいのかさっぱり訳がわからない。このようなところにも日本経済に対する議論が今日混乱している姿が垣間見られる。



世間ではとんでもない考えが、もっともらしい正論として通用している。したがってこのようなとんでもない考えが、時として政府の経済政策を誤らせている。橋本政権時の財政再建論、景気対策時の減税(日本ではほとんど効果がない)など数限りない。そして今日でも経済論評にはこの種の妄言であふれかえっている。最近では「銀行の不良債権の処理が日の景気回復に最も重要」と言う妄言が幅をきかしている。まず来週はこれを取り上げる。

18日のテレ朝日系サンデープロジェクトでも、自民党の岩崎・石原代議士や竹中・金子慶大教授が出演して、「銀行の資産査定を厳しくしろ」「ゼネコンを整理しろ」といまだに訴えていた。また番組では、二つの銀行(噂されている銀行は誰でも知っていることである)が危ないと言う話が出ていた。しかし当事者や関係者ではなく(ここが大切な点である。やり玉に上げられるのはいつも立場の弱く、不幸な少数派である。)、むしろ彼等は、このような話を楽しんでいるかのように見える。ほとんどの視聴者も、他人の不幸話で、自分の幸運さを確認すると言うなさけない存在である。テレビ番組もそのことを承知して番組を作っている。それにしてもあまりにも無責任で軽率な発言である。

先に破綻した長銀などの大手の処理には一行当たり3兆円前後の資金が投入されたことから考えて見れば、日本の銀行で健全な銀行などあるはずがないことは容易に想像がつく。日本の銀行は全て似たりよったりの状況である。悪い銀行から順番に整理すれば、最終的には日本には銀行なくなると言う話である。またこれまでいくつもの銀行が整理されたが、経済状況が良くなるどころか、当然悪くなるだけである。拓銀が潰れて北海道経済がどうなっているか考えればすぐ分ることである。

これらの代議士や学者のたわごとを聞いていると、現実の経済を知る人は腹が立つはずである。いつもこのようなばかな連中を登場させ、ばかな発言をさせているマスコミの意図が解らない。彼等は、決して政治家や学者ではない。単なるバラエティータレントである。番組ディレクター(文学部出身かもしれない)の振付け通りに踊っているだけである。

ガルブレイスへのインタビューが3月16日の日経に載っていた。発言はどれも納得のいくものであった。特に「日本は市場経済国のなかで唯一、国民の多数が消費を美徳と思わない国」「景気後退がはっきりした米国での経済対策は、減税より財政支出拡大が必要」はするどい指摘である。
ガルブレイスの例のように、日経に載る外国の著明なエコノミストのコメントは大体筋が通っている。ところが新聞に載る名前を聞いたことのない外国人の経済学者や市場関係者のコメントは、実に訳が分らないものが多い。これは一体どう言うことなのであろうか。

米国の株価下落が収まらない。しかし米国の株価は、PER(株価収益率)から見れば、現状でもまだまだ割高である。もし株価が一定のPERまで下がるとしたなら、これは大変なことである。取り敢えず、週明の日米の金融政策決定会議の結果と、それに対する市場の反応が注目される。
米国は、金利引下げの余地があり、財政にも余裕があると筆者は考えていた。しかし案外米国の場合は、採りうる政策が限られているようである。もし金利政策が効かない場合には深刻である。

米国株価の下落だけが取上げられているが、欧州の株価も下落している。これからはEUの動きも注目される。しかしこちらは多数の国の声の調整が必要になり、それだけに時間と手間がかかることになる。これまで大きな問題がなかったわけであり、今回の世界同時株価下落問題がEUの試金石となる。欧州も、米国ほどではないが、国民の金融資産に占める株式の割合が大きくなっている。それだけに株価下落の影響は大きいはずである。

これまで欧米の景気の良かった大きかった理由は、継続的な株価の上昇である。これによる資産効果によって消費が堅調で、これに伴う設備投資がなされていたからである。このように、何回も繰返すが、先進国の経済成長率を決めるのは需要の大きさである。


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