平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/6/16(第20号)
  • 「野村証券の総会屋に対する利益供与事件」は各方面に色々な波紋を及ぼしている。この経緯については、よく知られている。そこで本誌は、この件であまり注目されていない所に着目したい。
    それは野村証券が、この総会屋の資金の運用で、大きな失敗をしていることである。この総会屋は野村証券にとってVIP中のVIPのはずである。それでこのありさまである。普通のVIPの場合には、どれくらいの損でおさまっているのであろうか。一般の顧客が証券会社のアドバイスを受け投資し、損をすることがあるのも不思議ではない。最近の外債投資が良い例である。ただ証券会社が、顧客にわざと損をさせようとしているとは考えたくはない。
    なにも運用の失敗は証券会社だけではないと考えられる。かなりの機関投資家と言われている人々が運用で損を抱えているのではないだろうか。実際のところ損が大きくならないと表面化せず、実態はよくわからないのである。最近破綻した生保も運用で失敗している。しかし、損している人間がいるなら、反対に大儲けしている者もいるはずである。欧米の投資家のパフォ-マンスは高いとよく聞く。ひょっとしたら日本の機関投資家は「国際的なカモ」になっているのではないか。ときには、欧米が日本に金融の自由化を求めてくる理由が、こんなところにあるのではないかと邪推したくなる。ビックバンで儲かる金融商品が増えると言う話も怪しい。
    筆者は、最近、日本人が「相場」とか「ゼロサムゲ-ム」に向いていないように感じられる。情報と言うものに皆同じような反応を起こし、同じ行動をとろうとすることがその原因の一つである。つまり日本人の思考パタ-ンが読まれやすいのである。時には情報も操作されているように思われることさえある。日本のファンドマネ-ジャ- や運用担当者の雇用形態もこの種の仕事には向いていないような気がする。つまりサラリ-マンにとってこの種の業務は難しいのである。
    それならば、いっそうのことリスクのある運用を全てやめるのも一つの判断である。それが本当に行われた場合、ショックを受けるのは欧米の投資家だけであろう。


規制緩和と日米関係を考える
  • 6月20日から米国のデンバ-でサミットが開催される。 今回のサミットで日本に課せられる課題は「経常黒字の大幅増加を回避」することであり、「経済宣言」にもこのことが盛り込まれそうである。特に米国は日本に対して、具体的に「内需の拡大」を求めてくるであろう。問題はこれに対する、日本政府の回答である。
    日本の経済政策による「内需拡大策」は「万策尽きている」状態である。金利もこれ以上の低下は望めない。政府支出の増大や減税も、現在押し進めていられる「財政再建」の前では無理である。唯一好調である「輸出」つまり外需については、今回のサミットでテ-マになるように各国から懸念が表明されており、縮小することが求められるであろう。最近の為替の動きを見ても、今後は外需にも頼れないようになってきた。
    ここで注目されるポイントがある。各国、特に米国の要求が「貿易・サ-ビス収支(以降貿易収支と省略)の黒字の縮小から経常収支の黒字の縮小」にはっきり変わってきていることである。ご存じの通り、日本には海外に大きな資産を保有している。これらからは毎年大きな利息や配当が生まれる。つまり貿易収支が均衡しても、まだ大きな経常収支の黒字が残る可能性があるのである。つまり、近い将来、日本に対して貿易収支を赤字にすることが要求される事態も考えられる。

  • 筆者の懸念は、日本政府がこの「内需拡大」に対する回答として「国内の規制緩和」を最後の切り札として持ち出すことである。実際、4月の日米首脳会談ではこれを持ち出している。つまり「財政再建で歳出はカットするが、不足する内需は規制緩和でカバ-できる」と米政府に説明している。これに対する米高官の見解は「規制緩和も重要だが、これを行うと逆に最初はデフレ効果が生まれ、効果もなかなか現われない」とのことである。筆者は、この高官が「規制緩和は内需拡大つながらない」と言いたかったのであろうと理解している。サミットで日本政府がまた「規制緩和」を内需拡大策として持ち出すか注目している。
    どうしたわけか、日本では「規制緩和」を行うと「内需拡大」となり、景気は良くなると皆信じきっている。実際、最近公表された通産省の試算や経済企画庁の試算の結果も「規制緩和を行うことで内需の拡大が可能」と出ている。特に経済企画庁の試算にいたっては経常収支の黒字がGDP比率で0.9%も低下することになっている。

  • 「規制緩和」の経済効果については、上記のような官庁だけでなく学者や各種シンクタンクが行っているが、結論は似たりよったりである。各試算のだいたいのシナリオは次の通りである。
    1. ある分野に「規制緩和」が行われると、競争が活発化し、生産性の向上と価格の下落を生む。
    2. 上記の分野の製品価格の下落は、他の分野の生産コストの削減の助けとなり、結果的に全体の物価の下落につながる。
    3. 最初に「規制緩和」が行われた分野では、失業者はでる。しかし、消費者は物価下落により購買力が増大し、消費を増やす。さらに消費の増加は新たな設備投資を誘発し、GDPは増え、失業者は吸収される。
    このように「規制緩和」を行うことにより、内需も増える。特に経済企画庁は失業も労働市場の規制緩和で解決できると言う試算になっている。つまり、「規制緩和」を行えば、日本経済が抱える問題が一挙に解決できると言う提案である。

  • 誤解を招かないように最初に言っておきたいのは、筆者は「規制緩和」は必要なことであり、今後も押し進められるべきであると言うことである。ただし、これにより「内需の拡大」が起こる保証はないから、発生する失業に対処するため、同時に「内需拡大策」を別途行うべきと考える。
    よく携帯電話やPHSの普及を「規制緩和」の成果と考え、試算の中に取り込んでいるものもある。筆者は、これは「IC の進歩」などの技術による一種のイノベ-ションと考えている。ちょうどパソコンの売り上げ増が、ICやOSの進歩によって飛躍的に使いやすくなったことに起因していることと似ている。携帯電話の普及はなにも日本だけでの現象ではなく、世界中で同時進行している事柄である。こんなものまで「規制緩和」の成果の中にいれたら、「規制緩和」による経済効果を過大評価することになり、しいては世間をミスリ-ドすることになる。他にも「規制緩和」の成果としてはおかしいものがある。その分野で少しでも「規制緩和」があれば、その分野の経済成長が全て「規制緩和」の成果とカウントするのもおかしい。とにかく重大なことは、このようなことによって、誰も「内需拡大」の方策について真面目に考えなくなることである。
    本誌では「規制緩和」について5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」で取り上げた。今週号はその補足である。時を置かず急遽、再びこのテ-マを取り上げたのには理由がある。
    サミットの場で「内需拡大」の要請が出ることはわかっており、上記の官庁の試算がサミット前に公表されたと言うことは、この要請に対して、日本政府はこの「規制緩和策」で対処すると言うことが想定されるからである。はたして各国、特に米国がこれで納得するか疑問である。理解が得られない場合には、やはり経常収支の黒字の解決は「為替」で行いましょうと言う結論になるのではないだろうか。このことは今後の為替の動向や景気動向を予想する際には重要なことである。

  • 話しは「規制緩和」の試算に戻る。これらの試算の無理な点は価格(物価)が下がれば消費が増えると言う前提である(詳しくは5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」を参照願いたい)。こんにち日本人は狭い家に置き場がないほどに「物」をもっている。家に過剰在庫を持っていると言うことである。つまり価格が下落しても購買意欲がわかないのである。例えば、食料品の価格が下がってもどれだけ消費が増えるであろうか。もし増えるとしたなら、それはサ-ビスである。しかし、そのあるの部分は「海外旅行」であり、その分の消費は海外に流れることが予想され、国内の消費が増えることは必ずしも期待できない。
    だいたい「消費」と言うものは物価が上昇する時に、通貨の価値が減らないうちに使おうするため増えるのであって、下落している場合には、もっと待てばもっと安くなると考え、思われるほど増えないものであり、むしろ貯蓄に回る確率の方が高いである。だいたい常識として、バブル期の資産効果みたいなものを除けば、消費は手取りの所得(名目)の増加にほぼ比例して増えるのであって、必ずしも実質所得の増加に比例して増加しない。
    価格が下落しても、消費がそれほど増えないとしたら、上記の試算はガタガタになる。新たな設備投資の誘発もなくなるとすれば、GDP の増加もなくなる。したがって、失業も解消されないことになる。特に日本のように労働市場が膠着的な国での失業の解消は難しい。失業がそのままなら、さらに消費も伸びない。

  • 「物価下落による消費拡大」はあやしい前提条件であるが、ただ確実に言えることがある。それは「規制緩和」による生産性の向上により、日本製品の国際競争力が強化されることである。価格の下落により、輸入品に競争で優位に立ち、輸出も伸びることになる。しかし、このことが続けばこれが「円高」の要因となる。またこのことによる設備投資の増加を予想することは困難である。したがって、筆者の結論では、「規制緩和」の効果がドル建てのGDPの増大とある程度の失業を残すことである。そして「規制緩和」は一時的と言え経常黒字を拡大させると言うことである。つまり、筆者の考えでは、「経常黒字縮小策」が求められているサミットに「規制緩和」と言う「経常黒字拡大策」を日本政府は持って行くことになる。
    米国は、需要が供給力を上回っており、貿易収支は赤字の国である。また労働市場も大変流動性に富んでいる。つまり、米国経済にとって「規制緩和」は整合性のとれた政策である。ただ、前述の米高官の話しによれば、その米国にあっても「規制緩和」は当初はデフレ効果が大きく、本当に効果が現われるまで時間がかかったと言うことである。日本の「経常黒字縮小策としての規制緩和策」に米国が一応敬意を示すことになろうが、内心ではあまり同意できないだろう。

  • 日米両国の間にある問題は「経済問題」だけではない。「安保のガイドラインの見直し」などの問題もある。当分日米の協調はあらゆる面で必要である。米国も中間選挙が来年であり、まだ時間がある。また足元の景気も良い。したがってサミツトの場で「経常黒字縮小」と言う課題についても、それほど強くは要求はしないのではないか。ただ、今後「経常収支」や「貿易収支」が発表される度にマ-ケットが「円高」に進んでも、それが「円の独歩高」である限りは、米政府はそれを放置すると言うだけである。
    最近までの「円安」は、2年前の円高を「内需拡大を行う」と言う条件で米国の協力を取り付け、実現したものである。いわば米国から円高不況の日本へのプレゼントみたいなものであった。経常収支が黒字の日本の「円」を「円安」路線にシフトすることは、思惑の円買いもあり、日本一国の力だけでは困難であったのだ。その日本がこんにち「円高」になってもかまわないと言う政策スタンスに変わったのだから、米国から見ればよく理解ができないであろう。もちろん「内需拡大」は無理だが「円高」も困ると言った「子供の言うようなこと」は通用しない。



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97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」