平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/2/10(第2号)
国と地方の長期債務残高を考える
  • 日本経済の将来については極めて悲観的な見方が広がっている。「金融機関の巨大な不良債権」「マネチメディア分野で広がる日米の格差・追上げるアジアの新興国」「進まない行政改革と先行きの見えない景気の動向」そして「巨大な政府の債務の累積」などがおもな論拠である。
    特に最後の累積債務については深刻らしく、大蔵省の試算が「国と地方の長期債務の残高が97/3で488兆円、98/3では年間のGDPをオ-バ-する」と言うことで、これは大変と2/7日付朝刊ではこのニュ-スを一面トップにしている大新聞が何紙かあるほどである。

  • では本当にこの累積債務が日本経済に深刻な悪影響を与えているのか、検証してみたい。
    これまでも慢性的に不足する税収を補填するため国債が発行され続け、特に景気後退時には景気対策の公共工事や減税の財源として大量に発行され、今日の巨大な残高となった。多くのエコノミストやマスコミは国債発行そのものに否定的であり、政府の責任を追及する立場である。これまでも国債の残高が増えるたびに「借金が国の将来を暗くする」「政府の間違った政策によって次の世代に大きな負担を残す」「野放図なバラマキ行政によって物価上昇を招く」等ずっ-と非難され続けてきたのである。
    筆者は、これらの観測が現在のところまったく当っていないと考えるし、今後も当分の間国債の残高が増え続けることが大きな問題を引き起こすことはないと思わない。むしろ現時点においては「景気対策のための国債の発行に躊躇すべきでない」と主張したい。

  • 参考までにではこの残高絶対額がどの程度のものなのか試算してみよう。
    国と地方の長期債務残高は488兆円で、人口1億2千万人だから一人当りの借金は約400万円である。これが大きいのかそうではないのか一般企業の財務数字と比較して見よう。比較の相手としては同じ公共性を持つという観点から大手電力会社を選んでみる。東京電力は従業員数が4万4千人に対して5兆4千億円の借入金で一人当り1億2千万円。これを見る限りでは国の借金も随分小さいものである。これに対しては「分母には公務員数をとれ」と言う意見がありそうなので、それで(どこまでを公務員の数に含めるか議論のあるところであるが、一応、国100万人、地方200万人の合計300万人とする)で割り返してみる。結果は、一人当り1億6千万円となり、東京電力会社より若干多くなるが、言われているほど極端に大きいものではないと言うことを理解していただきたい。
    次によく言われる国債発行に反対する方々の論拠に反論してみよう。

  • 反対派の主な根拠は次の2点である。
    1. 政府の国債発行による資金需要が民間の資金需要と競合し、市場の金利が高くなる。いわゆるクラウディングアウトである。
    2. 現在の世代の借金を次の世代に残すのは問題である。
    まず「クラウディングアウト」であるが、今日のような低金利でわかるようにまず心配することはないし、今後も当分民間の資金需要と競合する場面は想像できない。
    これは日本経済持っているの貯蓄過多体質によるもので、これはそう簡単に変わらない。以前から世界の中で日本の金利は低く、特に最近では資金需要がなく、国債の発行金利が2%台と言う歴史的低金利となっている。日本経済は過小消費 (貯蓄過多)により慢性的に不足する需要を政府の支出に求めるか、海外に求める他はなかった。ここで政府が支出がセ-ブし、為替水準が適当であれば(外債の購入などにより継続的に資本の流出がありこのようなケ-スはまま起きやすい)輸出が増え、海外と摩擦を起こすだけである。貿易摩擦が起きるたびに内需拡大のかけ声が起き国債の発行が増額されてきたのである。このように国の債務残高の増加する要因の一部は日本経済の持っている体質に根差しているのである。
    次に「世代間の問題」であるがこれはまったく説得力がない。次の世代は借金を受け継ぐが資産も引き継ぐのである。次の世代が、生まれながら必要な公共施設が整備されているのであれば、借金を払うのは当然である。また、負債も資産を両方引き継ぎたくない場合には、海外に移住する選択も可能である。現在でも日本国籍を持ちながら海外で永住するつもりで、そちらに住んでいる人もいることを考えばまったく非現実的とは言えない。
    見落としがちなのは、国の債務は国民の負担であるが、一方国に対する債権を持っているのも国民である事実である。つまり生まれながらにして債権を相続するのも次の世代の日本人である。日本の国債はほとんど日本人が持っているので、アメリカなどとはちよっと事情はちょっと違うのである。

  • ここからはトリックぎみなので気軽に読んでもらいたい。
    現行の日本の相続税の税率では、資産家も三代相続が続くと財産はスッカラカンになる(筆者はそこまで過酷とは思わないが)と言う人がいるが、仮にそれが本当で、相続税の執行が適正に行われるならば現在発行されている国債も三世代(約百年間)のうちに全て償却され、問題は解決することになる。

  • 前号で懸念していた通りG7蔵相会議で「ドル高に達成感」が示唆され、さらにアメリカは日本に対して「内需拡大」と「経常黒字の削減」を求めてきた。政府は今の経済政策(緊縮予算による財政再建)を維持し、この要求をつっぱねるのか、それとも協調路線に沿った財政出動を何か考えるのか正念場に立たされている。

  • 2/8日(土)のあるテレビ番組でちょっと気になる場面があったので、それにコメントしたい。司会者の「最近の低金利により銀行預金にメリットがない。どうしたら良いか」と言う問に対して、ある銀行系のエコノミストが「 外貨建定期預金」を推奨していた。たしかに金利は何パ-セントか高いが、為替というものが年間何十パ-セント以上変動することが特に変わったことではないのだから、預金者は大きなリスクを負うことになる。さらに定期預金であるから契約を結んですぐに解約できない。筆者は「為替予約を付けない外貨定期預金による資金運用」はプロが行うものと認識しており、たしかに「為替が変動することへの言及」を付け加えていたが、テレビ番組の中(コマ-シャルの中ではない)で一般にこの様なものを奨めるとは、「すごい度胸」と言おうか「軽率」と言おうかとにかく驚いた。
    こんなこともあり、次号では日本の金利水準が世界的にみた場合、本当に低いのか論証してみたい。



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97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」