平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/3/5(第198号)
公共投資の経済効果
  • 公共投資の波及効果
    近年、景気浮揚に対する公共投資の効果が小さくなっていることが指摘される。そしてこのことが、「公共事業の反対論者」に加勢している。ところでよく「公共投資の乗数効果が小さくなっている」と言われるが、厳密にはこれは間違いである。新規に政府支出や独立投資がなされると、その何倍かの所得の増加が生まれる。これが乗数効果である。しかし乗数効果は、経済理論上の用語であり、その値は1/S、つまり貯蓄率の逆数である。したがって貯蓄率が20%なら乗数は5になる。だから計算上は、1兆円の公共投資が増えると、5兆円の所得が増えることになる。しかし貯蓄率はほぼ一定(最近多少大きくなっている)であることから、乗数そのものは大きく変化していないはずである。

    理論上の乗数と、現実の効果との間には元々かなりの開きがある。これは海外からの輸入品の増加などによる波及過程でのモレや、失業手当など、社会保障制度の整備などによるものと考えられる。この説明については本誌では、以前にも触れたことである。ところで日本の官庁は、乗数効果と言う言葉を使わずに、現実の効果のことを波及効果と表現している。全国平均の波及効果の値は1.9から2.0くらいである。つまり1兆円の政府支出増で2兆円の所得増が生まれることになる。このように理論上の乗数効果と波及効果には相違がある。

    ところが波及効果は、乗数効果より本来は広い概念である。乗数効果は単線的な波及過程の所得増の合計に対して、波及効果は、現実の所得の全体での増加額を捉えている。つまり波及過程における誘発的な投資の効果も含んでいると考えられる。たとえば公共事業が増えたことによって、工事会社がトラックを購入するケースなどの効果も含めてカウントするのである。もっとも実際の効果をより広く測定すると言う意味でも、このような捉え方のほうが良いと思われるし、さらに技術的にもこの方が数字を把握することが容易なはずである。そして波及効果が乗数効果より小さいと言うことは、いかに実際の波及過程のモレが大きいかと言うことを意味している。

    近年小さくなっているのは乗数効果ではなく、その波及効果である。これは十分考えられることである。一つは波及過程のモレが一段と大きくなっていることが考えられる。たとえば工事資材の輸入量が増えている場合などがそれである。また公共工事で失業者を雇用しても、その失業者が消費者金融から借金しており、せっかく払った給料からこの返済に充てられる部分があれば、それだけ消費が減ることになり、次の波及効果が小さくなる。またこの失業者がそれまで失業手当をもらっていたなら、給料が入っても、とりたてて消費を増やさないことが考えられる。この場合には波及は中断されることになる。つまり失業給付制度が整備されるほど、失業が発生した場合の消費の落込みはたしかに小さくなるが、雇用対策の効果も減殺されることになる。

    この他に波及効果を小さくしている要因がある。工事の合理化である。具体的には人手がかからない工法の採用などである。建設重機の活用により、人手は大幅に減員となっている。以前のようにツルハシやシャベルを持った作業員を見かけることめったになくなった。

    工場製品の使用増加も合理化に寄与している。たとえば瀬戸大橋建設に見られるような、橋梁を工場で作成し、それを船やトレーラーで現地に運び、ボルトでジョイントすれば終わりと言うやり方である。従来工法のような、足場を組んだり、生コン用の形枠を作る必要はない。

    無駄の削減言う点では、レンタル建機の活用もその一環である。以前なら工事会社が自前の建機を購入し、これを使っていた。しかし今日では、大手の工事会社でも、必要な期間だけ建機をレンタルして使用している。
    これらの工事の合理化は、技術の進歩の成果と言う反面、受注の際の価格競争が激しくなっていることの反映でもある。工事単価が毎年下がり、利益を確保するには、無駄を省く工法が必要になるのである。

    工事単価の引下げは、談合批難の結果だけでなく、前述したように工事の絶対量の減少に伴う競争激化が原因である。作業員の削減や下請け会社への単価引下げの要請も強い。作業員の給料も年々引き下げられている。バブル期には3K職場と言われ、人が集まらなかった影響で、作業員の日当もその分高かったが、今日では見る影も無い。

    したがって工事の合理化や作業員の削減で、公共工事の生産性はかなり上がっているはずである。しかし一方には、先週号で述べたように雇用対策を主眼とした公共工事もある。この種の工事は合理化一辺倒では、なんのための雇用対策かと言うことになる。一般の公共工事とは違う入札基準を考えるべきである。

    工事の機械化と人員の削減で、特に単純作業を行っていた多くの作業員は仕事がなくなっている。これらの人々は、仕事にあぶれると同時に、収入が全くなくなる。そしてこれらの人々の一部は、東京や大阪の公園に寝泊まりすることになったのである。


    公共工事の合理化は、公共事業の経済効果、つまり波及効果の値を小さくしている。つまり同じ額の公共事業が行われても、所得の増加が以前ほどに大きくならない。工場製品の工事金額に占める割合が大きくなって、工事の無駄が少なくなれば、波及効果も小さくなるのである。工事代の削減が時代の要請とすれば、経済効果が小さくなるのもやむを得ないのである。

    地域によっても波及効果の値に違いが生じる。全国の平均の値は1.9から2.0である。しかし長野県などはこの値が極端に小さく、1.2以下と言うことである。これは長野県ではオリンピックに備えた公共工事が長く続いたため、工事に伴う誘発投資がほとんどなくなったことが一因と思われる。さらに工事資材の他府県から流入が多い場合には、波及過程が他府県にモレることが考えられる。たとえば工事は長野県で行われても、鋼材が千葉県、セメントが埼玉県から入荷している場合などである。しかしこれは長野県で公共工事を行うことが無駄と言うことを意味するものではない。たとえ長野県内での波及効果が1.2でも、他府県に残りの波及効果が流れているからである。両者を合計すれば、全国平均の1.9から2.0の値に近付くものと推測される。


  • 工事会社の生産性
    日本の公共工事のコストは、世界と比べる高いと言う話をよく聞く。しかし日本の狭い国土に加え、複雑な地形のもとでの工事である。また地震国である日本では、構築物は地震に対する強度が必要である。さらに都市が出来上がった後に工事を行っているので、都会では地域住民からの工事に対する苦情が頻繁にある。そのため建設機械や工法は、防音や防振に細心の配慮が必要である。これらはすべてコストアップ要因となる。したがって公共工事のコストの国際比較をする場合には、これらの要素を考慮すべきである。

    実際、日本の工事会社は海外での実績もある。英国とフランスを結ぶユーロトンネルも日本の工事会社が造った。筆者は、為替の動向にもよるが、日本の工事会社がコスト的に国際競争力がないと言う話は嘘と考える。
    さらに公共事業にの中には、これまで述べてきたような雇用対策を主眼とした工事も含まれる。近年、この種の工事も合理化されているが、全体から見れば、効率が悪いことは当然である。筆者の感想は、日本の公共事業の現場は、全体から見れば、まだ効率が悪い部分(効率より雇用を優先すべき工事)もあるが、生産性は年々確実にアップしていると言うことである。


    ところが驚くことに、「建設・土木業界は年々生産性が下がっており、これが平成不況の元凶である。景気の回復にはこれらの業界で負組の退出が不可欠である。」と主張する学者がいた。2週間前のテレビ朝日のサンデープロジェクトに登場した竹中慶大教授である。彼が持出したグラフでは、他の業界が上昇しているのに対して、建設・土木業界の生産性が10年ほど前から連続的に下降している。筆者もこのグラフを別の経済雑誌で見たことがある。この教授もこのグラフを使用しているのであろう。

    ところで筆者は、生産性と言う言葉の持つ意味を数値に置換えて表現することは難しい作業と考える。このことは本誌も何度か取上げたことがある。ましてや異業種間の生産性の比較はさらに難しい。たしかに生産性を数値に置換え、容易に比較ができる分野もある。4トントラックは2トントラックの倍の荷物を運べるとしたなら、前者は後者の2倍の生産性があると言えるであろう。また生産工程を改良することによって製品の歩留まりが良くなれば、これも生産性のアップとなろう。銀行においても、ATMの導入や電算化によって窓口業務を行う人員が減れば、生産性がアップしたと言えるであろう。

    しかし一方、生産性を捉えることが難しいとか、そもそも生産性の概念とは縁の薄い業種もある。ホワイトカラーの生産性はどのように捉えれば良いのか。進学塾の先生の生産性はどのように計測するのであろうか。成績がどうなっても、受け持つ生徒の数が増えれば、生産性が上がったことになるのであろうか。
    このように生産性の持つ意味が解っても、それを数値に置換え、比較することは難しい。この「生産性」と言う言葉を使うには、その定義をはっきり示さないと誤解を与えるだけである。

    今週号では、工事会社の生産性について述べたが、筆者の捉え方では、確実に生産性はアップしている。しかし竹中教授が取出したグラフは、別の観点から生産性を捉えたものと考える。たぶん財務諸表などから計算したものと思われる。つまり利益水準をもとに生産性の推移を見ているのであろう。それがはっきりしているのならば納得がいく。バブル崩壊後、民間の工事は減少しており、最近では公共投資も減っている。そして競争激化によって受注価格が下落しており、現場の合理化を進めてもそれに追いつけず、利益が減っているのである。

    ようするに工事会社は儲かっていないと言う話である。したがって業界が儲かるようにするためには、かなりの数の工事会社が清算し、業界から去る必要があると言うことを言いたいのであろう。それならば、訳の分からない「生産性」の話を持出す必要はない。しかし筆者が一番問題にしたいのは、「工事会社の多くが業界から退出すれば、どうして景気が良くなるのであるか。」と言う話である。彼等の言い分としては、人や資源がそれによって成長分野に移動して、日本経済は成長軌道に乗ると言うことらしい。では成長分野とは一体どこなんであろうか。彼等の言い分では建設・土木業界の650万人のうち300万人は過剰と言っていた。この人員を受け入れる余地のある成長分野ならさぞかし株価も上がっているはずであるが。筆者にはそれが何なのかさっぱり想いつかない。とにかく工事従事者を300万人も受入れるのである。たしかに一年前なら「IT革命」とか言う嘘がまかり通っていたが、今日ではこのような話を信じる者も皆無であろう。

    今世の中には、公共投資が無駄であり、政府が依然としてこの分野に財政支出を行い、財政の赤字を膨らませているから、経済の困難から脱却できないと言う大嘘がまかり通っている。そしてこの風潮に悪乗りする経済学者が後を断たない。
    日本経済が不調な根本の理由は、マクロの需要不足であり、その原因は老人が巨額の使うあてのない貯蓄を持っていることである。さらにこの貯蓄は毎年増え続けており、政府の財政赤字の増大がそのスピードに追いつかず、需給ギャップが逆に大きくなっているからである。そのため資金余剰も増え続けている。その証拠に国債の利回りが年々下がっているではないか。工事会社の生産性なんてまるで関係のない話である。

    テレビ朝日のこの番組は、これらの学者と亀井政調会長との対談と言う形式であった。最後に、司会の田原総一郎氏が「このメンバーでまたやりましょう」と言ったが、亀井政調会長は「このような人々と話をしても無駄である」「タクシーの運転手や魚を扱っている人々から、話を聞いた方がよほど役に立つ」と言っていた。筆者も大賛成である。



来週号は、公共投資の話を一旦中断し、日本の官庁の考え方や行動のパターンについて述べたい。

株価の下落が止まらない。筆者の、下値のメドと考えている、11,000円に日経ダウは近付きつつある。森首相が辞めても、一時的には上昇するかもしれないが、次の首相によっては一段と下がる可能性が強い。4月になれば株価が上昇すると言う保証もない。日本経済の根本問題は、国民の過剰貯蓄であり、これが年々増えていることである。しかしこのことを全く考慮せずに経済論議が行われていることが一番の問題である。

「銀行の不良債権の最終処理が必要」とか「個人投資家の税制改正」が株価対策と言う声を聞くが、これらが株価対策になるはずがない。特に「不良債権の最終処理」がどうして株価対策になるのか。経済政策に変更がない限り、今後も地価の下落は続き、企業倒産も増えるはずであり、不良債権は新たに発生するのである。したがって不良債権の最終処理と言うこと自体もない。こんな簡単なことが何故わからないのであろうか。

まともな株価対策はもちろん景気対策である。具体的には本予算成立を待たずに、前倒し執行すべきである。そしてすぐに補正予算を検討することを表明するのが良い(予算案を作成した時期に比べ、状況が悪くなっているのがはっきりしている)。しかし確実に株価を上昇させるには、国が国債発行で集めた資金で買上げる方法が一番と考える(昔つくった共同証券のようなものの設置)。これが持合い株の受皿にもなる。株式を売った方も、売却で得た資金の使い道がなく、どうせ国債を買うのであるから。
今日の株価で30兆円くらいの株式を購入する。もし今後の経済政策を誤らず、株価が2倍くらいになったら、政府は30兆円くらいは儲けられるはずである。

ここ数日の急落は株価指数リンク債との関係が言われている。これについては以前から噂されていたことである。たしかに先物主導で日経平均は急落している。当局も外資系証券会社に株価捜査の疑いで調査に入ったが、結論はまだである。またリンク債は、私募債(機関投資家が買っているケースが多い)なので当局も実態をどこまで正しく把握しているのか分からない。ちなみに良く似たケースで問題になっているEB債(他社株転換債)は公募債であり、こちらは一般投資家が被害者になっている。
筆者も勉強不足だったので、リンク債が問題になる可能性があることは分かっていたが、当コラムでは取上げてこなかった。

リンク債は、高利回(本来の金利にボーナス金利を上乗せしている)であるが、一定期間の間に一度でも日経平均が一定の数値を下回れば(ザラ場だけでなく終値のタイプもあると言うから複雑である)、元本の保証がなくなったり、上乗せ金利がなくなると言う金融商品である。いわゆるノックイン債であり、一種のデリバティブ(金融派生商品)である。日経平均が下がってきたので、発行した証券会社は、日経平均が一度でも契約した日経平均の数値を下回れば有利になる(反対に顧客は損害を被る)。したがって発行証券会社が先物を売って、日経平均を下げようとしたのではないかと当局は調査に入ったのである。しかし実態はよく分からない。ノックイン価格の多くが、現在の日経平均近辺にあると言うこと自体が、思惑を呼び、売り材料になる可能性があるからである。この他にも各段階の大台割は、オプションの清算の発生などを伴い、下げを加速する可能性が強い。
ノックインの数値は日経平均12,000円から13,000円と新聞で報道されている。しかしどうもこれは事実ではなく、もっと低いノックインの契約もかなりあると言う話もある。最低では9,500円台もあると言う。


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