平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

普通の電話を使用。市外一律3分20円。国際電話や携帯電話へも割安通話。インターネットの音声帯使用により音質良好。



01/2/12(第195号)
老人の貯蓄と経済(その2)
  • 国債に向かう老人の貯蓄
    日本の経済が、貯蓄過多に成りやすいことは本誌でも、何回も述べてきたことである。先祖伝来の土地を売った代金は、子々孫々に受継がれるよう、かなりの部分は貯蓄される。所得に占める、ポーナスや退職金の割合が大きいことも貯蓄を増やす要因になっている考えられる。さらに最近のはやりであるリストラに伴う希望退職者に支払われる割増退職金は、ほとんどが貯蓄されると考えて良い。

    先週号まで年代別の貯蓄の様子を見てきた。日本の貯蓄のほとんどは50才代以上が持っていることが特徴であった。そして重要なことはこの年代層の持っている貯蓄が、これ以上消費に回る可能性がゼロに近いと言うことである。むしろ反対にかなりのテンポで増え続けるのである。つまり設備投資の大プームでもやってこない限り、今後も日本経済は常に有効需要が不足する経済である。

    老人の莫大な貯蓄が、動かない、つまりフリーズの状態にあり、これが今後も変わる可能性がないと言うことは、日本経済を考える上で大切である。このことを考慮せずに、経済のことを考えても何の意味もなく、時間と労力の無駄である。たとえば最近、日本は間接金融から直接金融に変わるべきと言う議論がある。たしかに大企業はその方向に進んでおり、既に無借金の企業も多い。直接金融の比重が多少大きくなる余地はある。しかしほとんどの中小企業については、直接金融と言うことは考えられないことである。その理由の一つとして老人の貯蓄に対する考えがある。多少利回りが良くても、「貯蓄が命」と考える老人がリスクを取るような運用を好むはずがないのである。つまり日本では、当分の間これ以上の直接金融の拡大は無理である。


    今日老人の貯蓄がフリーズ状態であると言う日本経済独特の事実を無視して経済の議論が行われている。このような議論は全く無駄であり、導き出される結論は有害でさえある。「財政支出による景気対策は限界にきている」「悪性のインフレが起る」「国債が暴落」するとか、絶対にあり得ない意見である。「これまで見てきたように財政支出増大による景気対策は効果はなかった」と言う、半ばアジテーションが飛び出す始末である。

    効果がなかったはずがない。効果はあったが、これまでの財政赤字の規模では、有効需要の不足を埋めきれなかったと言うのが正しい。結局余った貯蓄は結局国債を買っている。政府は国債を発行して、景気対策を行っている。しかしそれにもかかわらず、国債利回りが低下すると言うことは、財政の赤字幅が小さすぎると言うことである。これでは景気が浮揚するはずがないのである。


    もちろん利回りの低下すると言うことは、長期金利が低下すると言うことを意味する。しかし今日のように物価や地価の下落が続く現状では、実質金利がかなり高く(地価の下落を加味して実質金利を算出すれば、日本の実質金利は先進国の中で一番高いとも考えられる)、これに気がついている企業は無理な投資は行わない。実際、バブル崩壊後も、実質金利が高いにもかかわらず、投資を積極的に行ってきた企業が、今日企業存亡の危機に立たされているのである。

    またGDPの15%前後と、日本の投資水準は現状でも決して低くはない。むしろ過剰資本が問題となっている。最終需要の増加が期待できない現状では、設備投資は頭打ちとなると考えるのが普通である。結局、消費もだめ、設備投資もだめと言うことになれば、毎年増え続けるフリーズ状態の資金は国債に向かう他はないのである。


  • フリーズの状態の貯蓄と経済政策
    若者の貯蓄は、いずれ高額商品の購入や、住宅購入の頭金になる可能性がある。しかし老人貯蓄は、少なくとも相続されるまでフリーズの状態である。ましてや日本人の寿命は延びているのである。そしてこのフリーズ状態の貯蓄が年々増えていることが問題である。このことは国債利回りの動向を見れば、はっきり分かる。

    3年前の金融危機の際には「質への逃避」が起き、国債利回りは0.7%まで上昇した。反対に大蔵省の資金運用部が「国債での運用を減額する」と言う報道で、利回りが急上昇したことがある。しかしこれらの特殊なケースを除けば、日本の国債の利回りは89年以降毎年一貫して低下を続けている。筆者流に言えば、これがフリーズ状態の貯蓄が毎年着実に増加している証拠である。

    ここで問題になるのが、利回りの継続的な低下についての世間の認識である。多くの人々やエコノミストは利回りの低下を良いこと、あるいは歓迎することと捉えている。しかし現実では、利回り低下は消費、投資そして財政支出の不足を意味する。つまり日本経済の需要不足状態を物語っているのである。世間を見渡せば、まさにその通りである。生産設備の過剰、失業の増大、新卒者の就職難。利回りの低下はこのような経済のマイナス面を伴っていることに気がつく必要がある。

    なさけないのが日本に横行しているピントはずれの経済論議である。経済成長には生産性のアップが必要とか郵便貯金に資金が集まるのが問題とか、全くどうかしている。仮に郵便貯金の資金が民間の銀行に移動しても、銀行は国債を買って運用する他はないのである。したがって財投資金が不足して道路公団の高速道路の建設はなくなるが、その分国土交通省が国道建設を行うことになるだけである。

    構造改革が進まないから、経済が回復しないと言っている経済学者がいる。彼等は実現が困難なことを取上げて、構造改革と言っているだけである。また「構造」と言うものは簡単には変わらないから構造(筆者は、たとえば老人のリスクを好まない巨額な貯蓄の存在こそが重要な構造問題と考えている。)なのである。つまり彼等には具体的な考えがあると言うわけではない。「自分はばかだから何のアイディアもない」と言っているのと同じと思えば良い。

    日本の経済学者、エコノミスト、そして経済新聞の現状は悲惨の一言である。一方、米国人には時々感心させられることがある。筆者は、本誌で格付機関ムーディーズの日本国債の格下げに関して、何回か異議を唱えた。日本経済について理解して格付を変更していると思われないムーディーズの見解を、何も分かっていないマスコミが引用し、日本の財政赤字を問題にするケースがよくあったからである。しかし最近(1月12日)、日経にムーディーズの国債部門責任者へのインタビューが掲載されており、この中でポイントをついた発言があった。一部を抜粋すると「(日本の)過大な国内貯蓄という中期的な構造問題が背景にある。(中略)産業界も吸収できなければ、効率の悪さを承知で政府が国内貯蓄を使わざるを得ない」とある。まさに正論である。

    ムーディーズは日本経済の構造的な特徴をほぼ理解していると考えられる。いやようやく理解に到ったと言った方が正しいのかもしれない。ムーディーズは何回か日本国債の格付を下げている。たしかにその度に国債は売られ、金利は上昇する。しかししばらくすると再び国債が買われ、利回が低下する。このパターンの繰返しである。最近では格下報道にさえ反応しなくなった。筆者は、さすがにムーディーズも、日本経済と言うものを少しは真面目に分析してみたのではないかと想像している。そしてムーディーズも、格下にもかかわらず、日本国債が買われている現実を何回も見て、自分達の考えが間違っていたのではないかと気付いた。つまりこのままではムーディーズ自体が投資家から見放されると思ったのである。国債の格付に関しては、ムーディーズは、金融危機の時、韓国国債の格付を最優良から投資不適格まであわてて一夜で下げたことがある。これ以上のミスはできないのである。

    ところで話はちょっとはずれる。米国は極めて戦略的な国である。日頃は自分達の考えが絶対と考え、他の国の事情を軽視している。日米関係でも、最初は自分達の考えを押し付けてくる。そしてそれがうまく行かないと言うことを知って、ようやく相手のことを調べ始めるのである。しかし米国人は相手を徹底的に調べ、分析を行う。それを踏まえ、最後にはポイントをついた対日要求をしてくる。

    したがって政権の初期段階では、いつも対日要求のピントがずれている。先代のブッシュ政権の時もクリントン政権の時もそうであった。クリントン政権では、ミッキー・カンターと言う通商代表からルービン財務長官に対日交渉の窓口が変わってから、ようやく米国の対日要求がまともになった。しかし今度のブッシュ新政権の経済閣僚の発言を聞いていると、どうもこれまでのパターンを踏襲しそうである。ところで日米の経済交渉については、別の機会にまた取上げたいと思っている。


    4週間老人の巨額な貯蓄に関わる問題を取上げてきたが、結論を述べる段階である。日本の老人の貯蓄は年々増えており、なおかつフリーズの状態にあると言うことである。この貯蓄は、近い将来、消費に回ると言う可能性はほとんどない。また企業がこの資金を使って設備投資を増やすと言う動きもない。したがって政府がするべきことは、フリーズの状態の貯蓄を国債発行によって吸収し、これをまた経済の循環に戻してやることである。端的に言えば、財政赤字を増やすことである。さらに老人の貯蓄は年々増大しているわけであるから、政府の赤字幅はそれに応じて大きくする必要がある。これを行わなければ、経済は縮小均衡に向かい、デフレ経済が続くと言うことである。

    このような財政支出の増大は、政府の累積債務残高を増やすことになる。これについて気になる人々が多いのなら、国債を日銀が引受ければ良い(現在でも実質的にこれを行っている。昨年3月の保有国債残高は75兆円であり、年々この残高は増えている。)のである。日銀が引受けた国債に対しても、政府は利息を払うが、これは最終的には国庫に戻ってくる。つまりこれは、実質的な負担がない国債発行分であり、国債発行残高から差引いても良い。極端な話、国債を全て日銀が引受けるなら、実質的に国の国債発行残高はゼロになる。



来週号は「フリーズの状態の貯蓄問題」への対処について述べる。

日銀が公定歩合を引き下げた。昨年8月にゼロ金利解除を行ったのとは矛盾した政策である。当時、ゼロ金利解除を当然と言っていた、マスコミや経済学者はどう弁明するのであろうか。


普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


01/2/5(第194号)「老人の貯蓄と経済(その1)」
01/1/29(第193号)「老人と貯蓄(その2)」
01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
01/1/15(第191号)「経済論議のポイント」
00/12/18(第190号)「第二次金融不安の可能性」
00/12/11(第189号)「経済問題論議の混乱」
00/12/4(第188号)「シミュレーション分析の見方」
00/11/27(第187号)「面白い言葉二題」
00/11/20(第186号)「日本のエリート考」
00/11/13(第185号)「急がば回れ」
00/11/6(第184号)「「国債の日銀引受」への評価」
00/10/30(第183号)「財政問題の究極の解決法(その2)」
00/10/23(第182号)「財政問題の究極の解決法(その1)」
00/10/16(第181号)「巨額財政赤字騒動の不思議」
00/10/9(第180号)「財政赤字とマスコミの扇動」
00/10/2(第179号)「日本の需給ギャップ」
00/9/25(第178号)「経済成長率の話」
00/9/18(第177号)「日銀の独立性をめぐる誤解」
00/9/11(第176号)「日銀の独立性の怪しさ」
00/9/4(第175号)「ゼロ金利とマスコミの論調」
00/8/28(第174号)「今後の株価の動向」
00/7/31(第173号)「日本における「IT革命」」
00/7/24(第172号)「日銀から通貨庁へ(その2)」
00/7/17(第171号)「日銀から通貨庁へ(その1)」
00/7/10(第170号)「政府の経済への関わり」
00/7/3(第169号)「昨今の話題(その1)」
00/6/26(第168号)「効果ある失業対策」
00/6/19(第167号)「総選挙と「無党派層」」
00/6/12(第166号)「本当の「セーフティーネット」」
00/6/5(第165号)「日本の産業構造と失業」
00/5/29(第164号)「GDPと政策目標」
00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」
00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日常的に起こる経済問題をトーク形式で解説
日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン