平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/1/22(第192号)
老人と貯蓄(その1)
  • 消費の所得効果と代替効果
    所得のうち消費されない部分が貯蓄とすれば、貯蓄を考えると言うことは消費を考えることの裏返しである。本誌では98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」とその次の号で、消費の限界と言うものを取上げた。ただこの時には日本の一般的な消費動向について述べたものであった。今回は年代別の消費の特質と言ったものをこれに付け加えてみる。

    ところで日本経済の特徴は、常に需要が不足していることである。この不足を財政支出と輸出で補っているのが現状である。しかし日本経済は輸出に頼るため、変動相場制に移行以後、常に円高傾向にさらされている。一方、膨大な貯蓄を背景に設備投資は常に高い水準を維持しているため、いつも過剰設備を抱えており、国内の需要が不足すると、直ぐに輸出が増えることになる。

    需要不足の根本的な原因は消費の不足である。これまで日本の消費が伸びない理由として、規制緩和が進んでないからとか、物価が高いからと言われてきた。しかしこれらは全くの俗論である。最近の傾向を見ても、物価が下がり、規制緩和も進んでいるが、一向に消費が増えないことがはっきり分かったはずである。

    先週号でも引用した総務庁の1,999年の全国消費実態調査の結果では、世帯主が50才以上の層では、貯蓄は増え、一方40才代以下では減少している。特に70才以上では貯蓄が180万円も増えている。つまり70才以上の老人は、平均毎月15万円ずつ貯蓄をしていることになる。一方、30才代では住宅購入などの影響で、貯蓄より負債が多い。

    ところで消費には「所得効果」と「代替効果」と言うものがある。所得効果は、所得の一定比率が消費されることである。つまり所得が増えれば一定の割合で消費も増えること意味する。この場合の所得は名目所得である。

    また「代替効果」とは、ある物の消費が増えれば、別の物の消費が減る現象を意味する。つまり消費性向は一定であり、したがって所得が変わらなければ、消費の総額も変わらない。したがって新しい商品が登場し、これが売れた場合、他のものがそれだけ売上が減少することになる。よく気候の異常で季節商品が売れないと言う話があるが、そのような場合には他のものが売れているものである。つまりマクロ経済で見れば、異常気象による全体の消費額に及ぼす影響は案外小さいものである。これも消費の代替効果が働くからである。

    以前、規制緩和が経済の成長を促すとさかん言われ、各種のシュミレーションが公表された。しかし筆者は、日本のような成熟した消費社会では、そのようなことはないと主張し続けている。消費の代替効果を考えれば、規制緩和でなにかが売れたとしても、他の物の消費が少なくなっていると考えるべきである。また仮に携帯電話が売れ、これに関連する投資が一時的に増えても、反対に売れなくなった物の関連投資が減る。ただし後者は緩慢に起こるので分かりにくいだけである。

    規制緩和が経済の成長を促すと言う各種シミュレーションの詳細をよく見てみると、プラスの効果は全部カウントしているが、マイナス効果については目立つ事柄以外はほとんど取上げていない。分かりにくいものはないものと割り切っているのである。このような分析は世論をミスリードするだけである。何度も繰返すが、規制緩和の経済効果はほぼ中立と筆者は考えている。つまり規制緩和はけっして景気対策には成り得ないことを認識すべきである。


    年代別の購買力と言う観点から全国消費実態調査を見ると実に興味深い。40才代以下の世代は貯蓄が少なく借金が多い。反対に50才代以上の世帯には借金がほとんどなく、貯蓄残高が多く、なおかつ毎年の貯蓄増加額も大きい。

    伝統的な経済学では、消費には限界がないことになっている。そして消費が低迷するのは売る方の努力が不足し、規制が緩和されていないからと言うばかなエコノミストがいまだに多い。たしかに若い年齢層は、金さえあれば消費はどれだけでも増えることが考えられる。しかし所得が増えない今日の状況では簡単には消費は増えない。

    一方、50才代以上の人々は、資金的には余裕があるはずなのに、せっせとかなりの額の貯蓄を行っている。たしかに日本はかなり高い所得水準を長年続けてきており、必要なものは一応揃っている。また買いたいものがあっても、狭い住居では置くところがないのも事実である。

    日本の消費を考える場合には、これまで述べてきた年代別の貯蓄動向と資金的なゆとりを理解しておくことが重要である。おおまかに言えば、「買いたい物があるが、金のない若者」と「資金的なゆとりはあるが特に買いたい物がない高齢者」と言う図式になる。

    近年、携帯電話や「IT革命」が消費を増やすとさかんに言われたが、消費は依然として低水準である。これは当り前の話である。若者は、資金的な余裕がないため、他の消費を抑えて、携帯電話の経費を払っている。つまり前述の「消費の代替効果」で説明できる。一方、高齢者は資金的な余裕はあるが、携帯電話やインターネットには興味はない。これでは全体の消費が増えるはずがないのである。


  • 本当の弱者
    なぜ日本の老人の貯蓄額が大きいのかが次の大きい問題である。まず老人でも結構収入があることが注目される。70才代以上の老人世帯主では、年間平均約500万円以上の収入がある。全国消費実態調査の新聞報道では収入の内訳は分からない。たしかにこの年齢層では、年金が収入の大きな比重を占めていることは間違いない。この他には保険金や不動産収入などがあると想像される。また仕事して、収入を得ている人もある程度いると考えられる。そして70才以上の人々は一番貯蓄が大きくて、借金が少ない。したがって金融資産の収入も結構大きいと思われる。

    参考までに、30才未満年齢層の収入は500万円を下回る。そしてこの年齢層は貯蓄より借金の方が大きいのである。特に最近増えているフリータの年収は、250万円にも届かないと推定される。

    日銀の「ゼロ金利解除」の頃に言われていた、「低金利が年金生活者などの弱者に打撃を与えている」と言う話に本誌は異議を唱えた。これまで述べてきた数字を見れば、年金生活者が弱者と言うのは真っ赤な嘘である。老人の中には弱者(色々な事情で年金がないか、あるいは少ない人々)もいると言うのが正しい表現である。反対に若い人々、特にフリータなどは弱者そのものである。
    先の総選挙では、民主党は課税最低限の引下げを公約に唱えていた。しかしこれでは一番収入の少ない若年層の税負担が重くなる。またこの年齢層は収入より消費が多い層である。つまりこの年齢層に増税すると言うことは、まさしく景気に水を差すことを意味する。

    話はちょっと変わるが、今日の日本では、このような主張をする観念論者が増えている。これらの人々は現実や実際の数字を見ようとしない。自分達の発想の薄っぺらさがバレるのが恐いのである。しかしこのような人々はマスコミの受けが良い。そしてこのような観念論者があやゆる組織の上層部に増え、毎日、とんちんかんな発言を続けている。ちょうど日本が滅亡の道を歩もうとしていた戦前と似てきたのである。しかしこれについては別の機会にまた取上げることにする。


    日本の老人の問題は、消費を十分に行わないことである。500万円の収入のある70才代の貯蓄額が180万円と言うことは、貯蓄率が36%と言う驚くほど大きな数値になる。しかし住宅はほとんど自前であり、住居費がほとんどかからないと考えられるこの年齢層では、消費額が300万円以上と言うことは、現状でもけっこう消費額自体は大きいとも言えるのである。

    日本の貯蓄率が大きい一般的な理由は、前述の98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」で述べた通りである。それらを簡単に列挙すれば次のようになる。
    1. スペースの限界
      日本は住宅の一戸当りの面積が小さく、特に都市部の住宅は狭い。つまり新しい商品が発売されてもこれ以上置くところがないのである。
    2. 世帯数の限界

      日本においては、大家族制から核家族制への移行に伴って、これまで住宅や耐久消費財の購入が増え続けてきたが、この流れも限度に近づいている。
    3. 時間の限界

      経済が成長し、所得が増えても、一人の人間に与えられている一日の時間は24時間であり、これに変化はない。日本人は次々に物を購入しても、時間の制約でそれを消費しきれない状態にあることが考えられる。日本人の睡眠時間は年々短くなっている。これは、日本人が睡眠時間を削ってまでも物や情報を消費しているからと考えられる。しかしこれもそろそろ限界であり、何もせず「ぼぉーっと」していたいと言う人々が増えても不思議はない。


    以上が日本の消費が低調な一般的な理由であるが、今、特に問題にしたいのは老人の異常に大きな貯蓄率である。たしかに長寿社会の到来がこの大きな原因である。いつまで生きているか分からない状態では、貯蓄が必要と考えるのである。さらに筆者は、これは本誌でもどこかで一度触れたと思っているが、戦後の日本の「コミュニティの崩壊」と言うものが消費動向に大きな影響を与えていると考えている。またこの「コミュニティの崩壊」現象の進行が、長寿社会に対する老人を不安を一層増幅させ、貯蓄率をより大きくさせていると考えられるのである。





来週号は、今週号の続きである。

国債利回りがとうとう1.5%を切って1.4%台に突入した。一頃言われていた国債の増発による「国債の暴落」説は、本誌の言っているように全くのデタラメである。国債は、暴落どころか暴騰している。今週の本誌を読めば、その理由ははっきりする。日本のほとんどの貯蓄は老人が持っている。老人達が預金を大量に降ろし、急に大金を使い始めるような事態がどうして起るのだ。また企業は借入金の返済を急いでおり、銀行は国債を買う他はないのである。

為替は、11月後半から円安傾向で推移している。本誌も00/12/4(第188号)「シミュレーション分析の見方」で、当面円安で推移すると予想していた。しかし今回の円安局面は比較的短いのではないかと思っている。筆者が考える中長期的なトレンドはやはり円高である。4月から円高に転換すると言う意見があるが、筆者はもっと早く、2月頃からは元の水準に戻るような動きになると思っている。理由は、経常収支の大きな黒字を持つ国の通貨が、いつまでも安い状態にあることが考えられないからである。政府が経済政策で重大なミスを犯すか、あるいは空前の外債投資ブームでも起らない限り、どんどん円安が進むと言う状況は考えられない。


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01/1/15(第191号)「経済論議のポイント」
00/12/18(第190号)「第二次金融不安の可能性」
00/12/11(第189号)「経済問題論議の混乱」
00/12/4(第188号)「シミュレーション分析の見方」
00/11/27(第187号)「面白い言葉二題」
00/11/20(第186号)「日本のエリート考」
00/11/13(第185号)「急がば回れ」
00/11/6(第184号)「「国債の日銀引受」への評価」
00/10/30(第183号)「財政問題の究極の解決法(その2)」
00/10/23(第182号)「財政問題の究極の解決法(その1)」
00/10/16(第181号)「巨額財政赤字騒動の不思議」
00/10/9(第180号)「財政赤字とマスコミの扇動」
00/10/2(第179号)「日本の需給ギャップ」
00/9/25(第178号)「経済成長率の話」
00/9/18(第177号)「日銀の独立性をめぐる誤解」
00/9/11(第176号)「日銀の独立性の怪しさ」
00/9/4(第175号)「ゼロ金利とマスコミの論調」
00/8/28(第174号)「今後の株価の動向」
00/7/31(第173号)「日本における「IT革命」」
00/7/24(第172号)「日銀から通貨庁へ(その2)」
00/7/17(第171号)「日銀から通貨庁へ(その1)」
00/7/10(第170号)「政府の経済への関わり」
00/7/3(第169号)「昨今の話題(その1)」
00/6/26(第168号)「効果ある失業対策」
00/6/19(第167号)「総選挙と「無党派層」」
00/6/12(第166号)「本当の「セーフティーネット」」
00/6/5(第165号)「日本の産業構造と失業」
00/5/29(第164号)「GDPと政策目標」
00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」
00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」

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