平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/1/15(第191号)
経済論議のポイント
  • 国内編
    新聞社のアンケートによれば、今年のキーワードは「混迷」と言うことらしい。本誌でも00/12/11(第189号)「経済問題論議の混乱」で、日本経済に関する論議が混乱していることを指摘している。しかしこのようなことになった大きな原因は、日経新聞を始めとしたマスコミ自身が作ったものである。彼等は、日本経済に間違った認識を持ち、ポイントのずれた対策を主張してきた。分かりやすい例が景気対策として行った「減税」である。

    筆者は、日本において「減税」がほとんどないことを繰返し主張してきた。しかし小淵政権発足時、マスコミやこれに迎合するエコノミストが強く主張していた景気対策が「減税」であった。小淵政権は、世間、つまりマスコミやエコノミストが主張していた以上の額の「減税」を行った。しかしこの効果はほとんどなく、財政赤字を膨らませただけであった。そのうち一連の景気対策の計量分析が出ると思われるが、「減税」の効果はほとんどなかったことがはっきりするはずである。彼等の主張が正しかったなら、景気はとうの昔に良くなっていたはずである。ところがマスコミは自分達が間違ったことを絶対に認めよることはない。

    橋本政権時のマスコミの「財政再建」の大合唱以前から、マスコミは世論のミスリードをずっと続けている。さすがに最近では、自分達が何を言っているのかも分からなくなってしまっている。まさに自作自演の「混迷」の中にある。政府・与党は、マスコミの主張なんてその程度のものと考えるべきである。間違ってもマスコミの奴隷である「無党派層」に迎合するような経済政策を採るべきではない。


    そこで本誌は、日本経済を巡る論議の混乱を整理するための重要なポイントを二点指摘する。これらは何回か本誌で取上げたことであるが、改めてここで強調したい。一つは歯止めがきかない「地価の下落」である。

    日本経済は、他の国の経済とは違い「地価」の動向に大きく左右されている。バフル崩壊後「地価の下落」は続いており、また下落率も小さくなっていない。つまり日本の資産価額が目減りしている。日本の企業は500兆円の土地を持っていると言う話であるから、毎年5%地価が下落すれば、毎年25兆円の資産が減るのと同じである。また日本の株式も地価の動向と密接な関係がある。つまり地価の下落による株価下落の影響も大きい。さらに個人も土地や株式を持っており、地価の下落が資産の目減りにつながっている。

    世間では、現在の日本経済の苦境は、バブル崩壊による金融機関の不良債権の処理が遅れているからと言う「でたらめの話」がまかり通っている。たしかに金融機関の不良債権は問題である。しかし地価の下落が続く限り、これを処理するだけで日本経済が健康体になると言うことは決してない。不良債権を一つ処理しても、また新たな不良債権が発生するからである。

    今日、銀行だけでなく、一般の企業も不良債権の処理に走っている。代表的な方法は人員整理と資産売却である。いわゆるリストラである。個々の企業や銀行にとっては、このリストラは生残るために有効な手段である。しかし一斉に全ての企業や銀行がこれを行えば、日本経済にとっては大きなデフレ効果を生む。そしてこれによって新たに破綻する企業が発生すれば、また銀行は不良債権を抱えることになる。

    減価した資産に対して、引当金を計上するのではなく、このような資産はバランスシートから消すべきと言う主張がよくなされる。しかしバランスシートから消すと言うことは、その資産を売却することを意味する。ところが今日のように土地を始めとして、資産の価額が毎年下落を続けている現状では、その資産を購入した先がまた不良資産を抱え込むことになるだけである。却ってこのような企業行動が地価の下落に拍車をかけているのである。
    つまり個別の企業や銀行にとって正しい行動でも、日本経済全体で見ればかえってマイナスになることがあると言うことである。ちなみに本誌では、金融機関の不良債権の処理を急げと言った主張は一度も行っていないはずである。


    もう一つの重要なポイントは、年々日本の貯蓄率が大きくなっていることである。00/12/4(第188号)「シミュレーション分析の見方」で述べたように、世間の常識である「高齢化に伴って貯蓄率は小さくなる」とは全く逆の現象が起っているのである。一番貯蓄増加額の大きいのは70才以上の老人で、年間の増加額は180万円である(所得額ではない。所得額から消費額を差引いた額である。)。その次が60才台、50才台と続く。反対に40才台以下の年齢層では、逆に貯蓄額が減っている。このような傾向はずっと続いており、貯蓄額も年令が高くなるにつれ大きくなっている。逆に年令が若くなるほど借入金が大きくなり、特に30才では借入金が貯蓄額を上回っている。

    前述の京大吉田教授のシミュレーションは、日本は高齢化が進むにつれ、平均貯蓄率が下がると言う全く事実ではない前提でなされている。このような状況で、財政赤字が続くなら、資本の不足が起り、日本経済は崩壊すると言うものであった。これを回避するためには財政支出の削減と増税と言うのが結論であった。ところが現実の経済は全く逆の方向に進んでおり、高齢化とともに平均貯蓄率が大きくなっているのである。したがって筆者は、このシミュレーション分析を「インチキシミュレーション」と断言したのである。

    しかし驚くことに、この「インチキシミュレーション」は日経新聞でよく引用されている。「京大吉田教授がシミュレーションで証明したように、現在の財政赤字が続くと日本経済は崩壊する」と言う記事が載っており、筆者は愕然とさせられる。また1月5日の日経の夕刊の十字路と言うコラムでも、新宅と言うテルモ経営企画室課長がこのミュレーションを引用し、このままの財政赤字が続けば2,005年頃には日本経済は破綻に向かうと主張している。筆者が、これらの人々に言いたいのは、「とにかく現実の経済数値の推移を見ろ」と言うことである。

    経済白書の巻末に長期経済統計と言う主要な日本経済数値の40年間以上の推移が載っている。その1ページ目の最初の数字が家計貯蓄率の推移である。この貯蓄率はバブル崩壊後少しずつ大きくなっている。とくに96年以降は着実に大きくなっている。つまりこれらの人々の主張に沿った経済政策を採用すれば、逆に日本経済は崩壊に向かうことになる。

    たしかに急に老人が貯蓄をバンバン使い始めたなら(このようなことはまずない)、貯蓄が減り、資本が不足する可能性がある。しかしこの場合には政府はその分支出を削減できる訳であるから、財政赤字の増大は避けられるはずである。とにかく現実の経済数値を見ようとしない人々は、経済について語る資格はない。世論をミスリードするだけである。


    これら「地価の継続的な下落」「日本の貯蓄率の推移」を考慮しない経済論議は全く意味のないものである。両者が平成不況の根幹を成している。特に後者の貯蓄率の問題はバブル期以前からの問題である。つまりバブルの精算が終われば、景気が回復すると言うのも半分嘘である。


  • 海外編
    正直に言って、海外の経済を筆者は苦手としている。4年前に「今が米国の景気はピーク」と述べ、見事にはずれた。オリンピック(4年前はアトランタでオリンピックが行われた)と米国の大統領選挙の翌年は経済は後退すると言う経験則(たしかに日本、韓国、スペインではオリンピック開催の翌年に不況になった)を元に述べたのである。さらにそれ以降も、米国の株価がそのうち下落すると予想し、これもはずれた。

    それでも敢て米国経済にコメントするとしたなら、やはり注目されるのは米国の株価の動向である。ナスダックの方はかなり下落したが、NYダウはまだそれほど下がっていない。つまりまだ株価が下落する余地があると言うことである。しかし米国政府とFRBはこれに対して、「減税」や「利下げ」などで対応しようとしているので、一直線の下落と言うことも考えにくいのも事実である。

    日本経済と地価の動向の関係ほどではないが、米国経済と株価の関係は密接である。これまで株価上昇が経済に与えた好影響が、反対に下落したことによる悪影響に替わるのである。プラスだったものが、ゼロではなくマイナスになるのであるから深刻である。日本経済にも当然影響はある。

    米国株式の下落の影響は色々言われている。しかし筆者は、ここであまり取上げない事柄に言及したい。米国株式の動向と米国の公共投資の関係である。米国では、株価の上昇に伴い税収が伸びた。税収の伸びは、連邦政府に止まらず、州政府の財政にも恩恵を及ぼした。米国では公共工事は州政府の仕事である。各州政府はこの税収増によって20年ぶりに公共工事を大規模に行ってきた。20年もの間、必要な道路の補修などが行われていなかったのである。そしてここ数年の好景気と失業率の低下のかなりの部分は、この公共投資の増加に負うと筆者は読んでいる。

    しかし公共工事も一巡する頃であり、また株価下落により税収の伸びは期待できなくなり、今後は公共投資がかなり減ると予想される。また住宅建設もピークが過ぎたと思われる。
    米国の好景気の原因として「IT」ばかりが注目されていたが、株価上昇による公共投資と住宅投資の増加も大きく影響していたはずである。つまり株価の下落は米国経済に意外に大きな悪影響を及ぼすのである。

    既に州政府の公共投資の減少があるのではないか筆者は考えている。しかしこれを確かめる数値が入手できないのである。公共投資に拒絶反応を持つマスコミは、このような事柄は全く報道しない。せいぜい今後は失業率の推移に注目する他はない。米国の失業率は、4%と現在のところ依然小さい。もし公共投資のピークが過ぎたのなら、今後失業率は急速に大きくなると考えられる。


    海外で注目しているもう一つの国は韓国である。アジアの経済危機で、韓国経済はIMFの管理に入った。民間の資金導入が間に合わず、やむを得ない措置であった。そして韓国はIMFの管理下で色々な改革が行われた。しかしこれがうまく行っていないのではないかと筆者は見ている。これまで、米国の景気が良かったことと、為替安による輸出の伸びがあったから、問題点が表面化しなかったのではないかと思われる。一転して米国の景気が後退し、為替も円安傾向である。今韓国では大統領の支持率がかなり下がっており、この原因は経済である。これからが韓国経済は正念場を迎える。

    国民性の話をすれば、日本にも観念的な人が多いが、韓国はそれ以上に観念的な人が多いと筆者は考えている。先進的と思われる制度をまっ先に取入れるケースが韓国の方が目立つのである。大統領制、付加価値税のインボイス、そしてサマータイムなどである。しかし大統領制の評判もあまりかんばしくない。インボイスはめんどうなだけで、現在どのように活用されているのか分からない。またサマータイムは採用したが、直ぐに止めた。つまり現在日本の観念論者がよく主張している政策を韓国がいち早く実施しているのである。

    IMFの管理下に入り、韓国は金融改革を行っている。ペイオフも日本より早く、来年の1月から実施される。しかしその影響が既に韓国では現れている。昨年の暮れから中小の金融機関の破綻が続いているのである。つまりペイオフの影響は1年前から起っているのである。「ペイオフ」の前倒しの影響について本誌も同様のことを予想した。まさに「ペイオフ」に関しては韓国が実験台になっているのである。今後は、金融機関の破綻に韓国政府がどのような対処を行うかが注目される。





来週号では老人の貯蓄について述べたい。これはとても重要なことである。

日本の株価の下落が止まらない。これについては本誌前回号00/12/18(第190号)「第二次金融不安の可能性」で予想していたことである。ところで週刊誌も株価の暴落を特集している。筆者も、「週間ポスト」と「週間現代」が同じようにダウの一万円割れの記事を載せているのでざっと読んでみた。しかし予想通り一万円割れのはっきりした根拠はない。株価が下がっているので、読者にアッピールするようなタイトルをつけただけであろう。たしかに今なら株価の下落を予想すれば、かなり高い確率で当たるのは確かである。

しかし注目されるのは、両誌ともドイチェ証券の武者氏のコメントを載せていることである。彼は、常に弱きの相場見通しを行っている人物である。彼にコメントを求めたら、株価下落の予想を述べるのに決まっている。武者氏が頻繁にマスコミに登場してくると相場も底と言う話もあるくらいである。とにかく週刊誌の安直な編集方針が気になる。

しかし今回は、武者氏の予想がある程度当たる可能性が強いと筆者も考えている。現在のダウは、13,350円であるが、ダウ銘柄の入替えがあったので、これは旧ダウで15,500円くらいに相当すると思われる。安値の一つのメドはバブル崩壊後の最安値98年10月の12879.97円である。これを逆に新ダウで換算すると11,000円くらいの水準と思われる。筆者もさすがにダウの一万円割れはないと考える。

注目されるのは外人投資家の動向である。世間の見方と反対に12月はわずかであるが、外人は買越している。1月も現在のところ少し買越しのようである。
ところで株価対策必要性を唱えた亀井政調会長の発言は、日本のマスコミやエコノミストの間でとても評判が悪い。しかし外人投資家の投資行動は、この発言を重視しているからと筆者は考えている(外人投資家は言っていることとやっていることは違うようである)。外人投資家は、おばかな日本のマスコミやエコノミストと違い、リアリストの集まり(生活がかかっている)である。したがって、彼等の期待を裏切るような政策を行った場合には反動が恐い。


普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


00/12/18(第190号)「第二次金融不安の可能性」
00/12/11(第189号)「経済問題論議の混乱」
00/12/4(第188号)「シミュレーション分析の見方」
00/11/27(第187号)「面白い言葉二題」
00/11/20(第186号)「日本のエリート考」
00/11/13(第185号)「急がば回れ」
00/11/6(第184号)「「国債の日銀引受」への評価」
00/10/30(第183号)「財政問題の究極の解決法(その2)」
00/10/23(第182号)「財政問題の究極の解決法(その1)」
00/10/16(第181号)「巨額財政赤字騒動の不思議」
00/10/9(第180号)「財政赤字とマスコミの扇動」
00/10/2(第179号)「日本の需給ギャップ」
00/9/25(第178号)「経済成長率の話」
00/9/18(第177号)「日銀の独立性をめぐる誤解」
00/9/11(第176号)「日銀の独立性の怪しさ」
00/9/4(第175号)「ゼロ金利とマスコミの論調」
00/8/28(第174号)「今後の株価の動向」
00/7/31(第173号)「日本における「IT革命」」
00/7/24(第172号)「日銀から通貨庁へ(その2)」
00/7/17(第171号)「日銀から通貨庁へ(その1)」
00/7/10(第170号)「政府の経済への関わり」
00/7/3(第169号)「昨今の話題(その1)」
00/6/26(第168号)「効果ある失業対策」
00/6/19(第167号)「総選挙と「無党派層」」
00/6/12(第166号)「本当の「セーフティーネット」」
00/6/5(第165号)「日本の産業構造と失業」
00/5/29(第164号)「GDPと政策目標」
00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」
00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」

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