- 財政による失業対策
今週と来週で、筆者が考える日本の財政赤字の解消法を取上げる。ただし最初の話の進め方は、いささか読者の予想に反する形になるかもしれない。それはこの方が、読者の方が筆者の考えを理解し易いと考えるからである。
今日、日本には300万人の失業者がいる。しかし実際には雇用条件が合わなかったりして、求職活動自体を止めている人がそれそれ以上いると言われている。いわゆる潜在失業者である。つまり合計で600万人以上の失業者がいることになる。仮にまず政府はこのうち300万人の失業者を雇用(公務員として採用するかどうかは問わない)する。そして年間の一人当たりの政府の負担を1,000万円とすれば、総額で30兆円の財政の負担増と言うことになる。乗数効果を2(理論値はもっと大きくなるが)とすれば、30兆円の財政支出の増大による所得増加は60兆円である。これはGDPの12%であり、これによってかなりの需要の増大が見込める。
GDPの12%の増加により、さらなる失業の減少と大幅な設備稼働率のアップが実現する。さらに需要の増加に伴って、新規の設備投資が行われ場合には、経済効果の合計が60兆円を超えるものと考えられる。したがってこの一連の政策によって、日本の失業問題のかなりの部分が解決することになる。 また遊休状態の大量の生産設備があり、沢山の失業者がいる日本の現状では、需要が増大しても物価の上昇は限られると考える。ただし需要の一部は海外に流れるため、これによる需要増加の効果は少し減殺されることには留意しておく必要がある。
一方、税収はかなり増える。所得税や消費税だけでなく、企業の収益も増えるので法人税も増える。また企業業績が伸びるため、株式の取引も活発になり株式譲渡に伴う所得税も増える。さらに設備投資にも及ぶなら土地取引も活発になり、土地譲渡に係わる諸税も増えることになる。当初政府が支出した30兆円には及ばなくとも、かなり税収が伸びるので、差引のネットの政府財政の負担それだけ小さくなると考えられる。
ここまで述べてきたことは、まさにケインズ経済学の財政支出増大の乗数効果による景気対策そのものである。それを具体的な数字で説明したのである。しかしここで筆者が強調したいことは、日本の経済の現状こそケインズの理論が適合していると言うことである。
ただしここでケインズ流の景気対策を行った場合、注意することが二点ある。一つは税収の増加額が最初の財政支出の増加に及ばない可能性が強いことである。誘発的な設備投資が非常に大きいとか、ちょうどタイミング良く、人々が預貯金を取崩してても買いたいような大ヒット商品が出現し、乗数効果を大きく超える需要増による景気の過熱でもない限り、常識的には財政支出の方が税収増より大きいと思われる。つまり通常、財政支出による景気対策の最終の収支はどうしても多少赤字になると考えられる。
もう一つの注意点は、財政支出による景気対策は継続的に行われなければならないことである。一度財政支出増による景気対策を行った結果景気が多少上向いたからと言って、財政支出を止めたり、減額してはいけない。30兆円の支出を20兆円に減額するわけにはいかないのである。減額した場合、減額した10兆円に対しては、逆の乗数効果が働き、それだけ需要が減り、次には失業がその分増えることになる。景気の自律回復とよく言われるが、高い所得水準を長い間続け、物があり余っている日本ではこれは難しいことである。
したがって日本のように慢性的に需要が不足する国では、ずっと財政による景気対策が必要と言うことである。さらに支出増より税収増のほうが小さいため、財政赤字の累積額は半永久的に増加することになる。まさにこれは今日の日本の財政の姿である。そして重要なことは、公的債務残高の増加は、日本の現状では避けられないことと覚悟が必要なことである。公的債務の残高が増えるのは、「無駄な公共事業を行っているから」とか「公務員の数が多いから」と言うのは的外れの意見がある。しかし実際、公共事業を止め公務員を減らしても、結果的には、たいして公的債務の残高は減らないことはここで説明した通りである。そしてこのような日本の経済の体質の原因は日本国民の過剰な貯蓄である。
- 国債利回り低下の原因
「財政再建、つまり財政支出さえ減らせば、経済の全てがうまく行く」と主張する財政再建論者は、まず公的債務残高の数字の大きさで人々を脅している。例の国民一人当たり何百万円にもなると言う話である。もう少し気のきいた者は、「こんなに国債を発行すれば、金利が上昇し、かえって景気の足を引っ張る」と言う嘘をつく。いわゆる「クラウディングアウト」と言い、財政と民間が資金を取り合って金利が上昇する現象である。しかし実際は、この数年景気対策として大きな財政支出を行ったが、国債の利回りは逆に低くなったのである。
これは公的債務が増える以上のペースで余剰な貯蓄(貯蓄のうち投資に回されない部分)が増えていることが一番の原因と考えられる。したがって財政支出の増大によって、この余剰な貯蓄を消費しているのである。たしかにこれによって金利が低く推移しているから良いではないかと言う意見がある。しかし筆者は、この余剰な貯蓄こそ長期にわたる日本経済のスランプの元凶と考えている。
とは言っても、筆者の主張するような政策を行えば、やり方によっては一時的にせよ国債の利回りは上昇する可能性がある。一番の問題は財政支出増大の規模である。この額が大きければ、いくら過剰貯蓄の日本と言っても、民間の資金需要と競合(クラウディングアウト)することがあり得るのである。しかし筆者は、日本の貯蓄の大きさを考えると、今後相当の額の国債の発行を増額しても、利回りの上昇は一定の範囲内におさまると考える。
ここ数年日本は景気対策のためにかなりの国債を増発した。しかし国債の利回りは逆に低下したことは、本誌でも何回か取上げた。この第一の原因は、ここでも説明したように、過剰な貯蓄の存在である。しかしこの他にも原因がある。例えば国債の発行を期間の短いものを増やしているのも影響しているのである。期間の短い国債の発行を増やしているのである。これによって長期金利の基準として使われる10年物の国債の新規発行を抑えていることも、利回りの低位安定に寄与していると考えられる。
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