平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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00/10/23(第182号)
財政問題の究極の解決法(その1)
  • 財政による失業対策
    今週と来週で、筆者が考える日本の財政赤字の解消法を取上げる。ただし最初の話の進め方は、いささか読者の予想に反する形になるかもしれない。それはこの方が、読者の方が筆者の考えを理解し易いと考えるからである。

    今日、日本には300万人の失業者がいる。しかし実際には雇用条件が合わなかったりして、求職活動自体を止めている人がそれそれ以上いると言われている。いわゆる潜在失業者である。つまり合計で600万人以上の失業者がいることになる。仮にまず政府はこのうち300万人の失業者を雇用(公務員として採用するかどうかは問わない)する。そして年間の一人当たりの政府の負担を1,000万円とすれば、総額で30兆円の財政の負担増と言うことになる。乗数効果を2(理論値はもっと大きくなるが)とすれば、30兆円の財政支出の増大による所得増加は60兆円である。これはGDPの12%であり、これによってかなりの需要の増大が見込める。

    GDPの12%の増加により、さらなる失業の減少と大幅な設備稼働率のアップが実現する。さらに需要の増加に伴って、新規の設備投資が行われ場合には、経済効果の合計が60兆円を超えるものと考えられる。したがってこの一連の政策によって、日本の失業問題のかなりの部分が解決することになる。
    また遊休状態の大量の生産設備があり、沢山の失業者がいる日本の現状では、需要が増大しても物価の上昇は限られると考える。ただし需要の一部は海外に流れるため、これによる需要増加の効果は少し減殺されることには留意しておく必要がある。

    一方、税収はかなり増える。所得税や消費税だけでなく、企業の収益も増えるので法人税も増える。また企業業績が伸びるため、株式の取引も活発になり株式譲渡に伴う所得税も増える。さらに設備投資にも及ぶなら土地取引も活発になり、土地譲渡に係わる諸税も増えることになる。当初政府が支出した30兆円には及ばなくとも、かなり税収が伸びるので、差引のネットの政府財政の負担それだけ小さくなると考えられる。


    ここまで述べてきたことは、まさにケインズ経済学の財政支出増大の乗数効果による景気対策そのものである。それを具体的な数字で説明したのである。しかしここで筆者が強調したいことは、日本の経済の現状こそケインズの理論が適合していると言うことである。

    ただしここでケインズ流の景気対策を行った場合、注意することが二点ある。一つは税収の増加額が最初の財政支出の増加に及ばない可能性が強いことである。誘発的な設備投資が非常に大きいとか、ちょうどタイミング良く、人々が預貯金を取崩してても買いたいような大ヒット商品が出現し、乗数効果を大きく超える需要増による景気の過熱でもない限り、常識的には財政支出の方が税収増より大きいと思われる。つまり通常、財政支出による景気対策の最終の収支はどうしても多少赤字になると考えられる。

    もう一つの注意点は、財政支出による景気対策は継続的に行われなければならないことである。一度財政支出増による景気対策を行った結果景気が多少上向いたからと言って、財政支出を止めたり、減額してはいけない。30兆円の支出を20兆円に減額するわけにはいかないのである。減額した場合、減額した10兆円に対しては、逆の乗数効果が働き、それだけ需要が減り、次には失業がその分増えることになる。景気の自律回復とよく言われるが、高い所得水準を長い間続け、物があり余っている日本ではこれは難しいことである。

    したがって日本のように慢性的に需要が不足する国では、ずっと財政による景気対策が必要と言うことである。さらに支出増より税収増のほうが小さいため、財政赤字の累積額は半永久的に増加することになる。まさにこれは今日の日本の財政の姿である。そして重要なことは、公的債務残高の増加は、日本の現状では避けられないことと覚悟が必要なことである。公的債務の残高が増えるのは、「無駄な公共事業を行っているから」とか「公務員の数が多いから」と言うのは的外れの意見がある。しかし実際、公共事業を止め公務員を減らしても、結果的には、たいして公的債務の残高は減らないことはここで説明した通りである。そしてこのような日本の経済の体質の原因は日本国民の過剰な貯蓄である。


  • 国債利回り低下の原因
    「財政再建、つまり財政支出さえ減らせば、経済の全てがうまく行く」と主張する財政再建論者は、まず公的債務残高の数字の大きさで人々を脅している。例の国民一人当たり何百万円にもなると言う話である。もう少し気のきいた者は、「こんなに国債を発行すれば、金利が上昇し、かえって景気の足を引っ張る」と言う嘘をつく。いわゆる「クラウディングアウト」と言い、財政と民間が資金を取り合って金利が上昇する現象である。しかし実際は、この数年景気対策として大きな財政支出を行ったが、国債の利回りは逆に低くなったのである。

    これは公的債務が増える以上のペースで余剰な貯蓄(貯蓄のうち投資に回されない部分)が増えていることが一番の原因と考えられる。したがって財政支出の増大によって、この余剰な貯蓄を消費しているのである。たしかにこれによって金利が低く推移しているから良いではないかと言う意見がある。しかし筆者は、この余剰な貯蓄こそ長期にわたる日本経済のスランプの元凶と考えている。


    とは言っても、筆者の主張するような政策を行えば、やり方によっては一時的にせよ国債の利回りは上昇する可能性がある。一番の問題は財政支出増大の規模である。この額が大きければ、いくら過剰貯蓄の日本と言っても、民間の資金需要と競合(クラウディングアウト)することがあり得るのである。しかし筆者は、日本の貯蓄の大きさを考えると、今後相当の額の国債の発行を増額しても、利回りの上昇は一定の範囲内におさまると考える。

    ここ数年日本は景気対策のためにかなりの国債を増発した。しかし国債の利回りは逆に低下したことは、本誌でも何回か取上げた。この第一の原因は、ここでも説明したように、過剰な貯蓄の存在である。しかしこの他にも原因がある。例えば国債の発行を期間の短いものを増やしているのも影響しているのである。期間の短い国債の発行を増やしているのである。これによって長期金利の基準として使われる10年物の国債の新規発行を抑えていることも、利回りの低位安定に寄与していると考えられる。



さらにこの他に利回りの低下の原因があると筆者は考える。それはマスコミあまり話題にならないことである。しかしこれは重要なことであり、来週号で取上げることにする。


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00/10/16(第181号)「巨額財政赤字騒動の不思議」
00/10/9(第180号)「財政赤字とマスコミの扇動」
00/10/2(第179号)「日本の需給ギャップ」
00/9/25(第178号)「経済成長率の話」
00/9/18(第177号)「日銀の独立性をめぐる誤解」
00/9/11(第176号)「日銀の独立性の怪しさ」
00/9/4(第175号)「ゼロ金利とマスコミの論調」
00/8/28(第174号)「今後の株価の動向」
00/7/31(第173号)「日本における「IT革命」」
00/7/24(第172号)「日銀から通貨庁へ(その2)」
00/7/17(第171号)「日銀から通貨庁へ(その1)」
00/7/10(第170号)「政府の経済への関わり」
00/7/3(第169号)「昨今の話題(その1)」
00/6/26(第168号)「効果ある失業対策」
00/6/19(第167号)「総選挙と「無党派層」」
00/6/12(第166号)「本当の「セーフティーネット」」
00/6/5(第165号)「日本の産業構造と失業」
00/5/29(第164号)「GDPと政策目標」
00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」
00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99/12/20(第144号)「為替の話あれこれ(その1)」
99/12/13(第143号)「中堅以下の企業のリストラ」
99/12/6(第142号)「大企業のリストラ」
99/11/29(第141号)「商工ローンと日本人」
99/11/22(第140号)「あやしい常識」
99/11/15(第139号)「金融のさらなる量的緩和」
99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
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