平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/6/2(第18号)
内需拡大と公共工事を考える(その2)
  • 日本経済にとつて「内需拡大」が必要であることは、大方の人は認めるであろう。しかし、「内需拡大」が「公共事業」を想起させると言うことで、「財政再建」が強く叫ばれている今日の現状では、これを強く主張する者はほとんどいない。せいぜい、「規制緩和」を行えば「内需拡大」になるのではないかと言った安易な意見を時々聞くくらいである。
    「日本において将来、深刻な産業の空洞化が起こるか」と言うテ-マについては色々意見はある。筆者はこれまで、この件についてはやや楽観的に考えてきた。しかし、「日本経済の構造的な円高傾向(外債投資により円安となり、輸出が増え、次に円高となりさらに外債投資が増え、結果的に円安となり、また輸出が増え、再びさらなる円高になると言うパタ-ン)」が現実とすれば、それほど楽観視できないと最近考えるようになっている。
    日本の昨年末の対外純資産は100兆円で、さらにこの額は年々増加している。この元本には毎年7%くらいの果実(利息・配当)が生まれる。つまり貿易収支が均衡しても、この果実が生まれるため、これによりさらに円高が進むことになる(もっとも同じ額の海外投資を追加して行えば為替は変動しないことになるが、この追加投資が次のさらに大きい円高要因となる)。つまりこの「円高スパイラル」は輸出産業が壊滅するまで続く可能性がある。企業にとって、最終的に大事なことは「生き残り」である。つまり「円高」で採算が合わないなら、海外に生産拠点を移さざるを得なくなる。しかし、一旦、外に出た資本はなかなか国内に戻ってこないのではないか。英国が海外からの企業誘致にどれだけ一生懸命に取り組んだか、記憶に新しいところである。さらに「土地の高さ」を考えると、海外からの日本への新規投資がコスト面でも難しいのである。
    このまま「内需拡大」を怠り、余った資金の海外流出を放置すれば、将来的には産業の空洞化は避け難く、結果的には、日本はまるで金利生活国家みたいなものになると言うことである。もちろんそうなればハイレベルの失業は覚悟しなければいけない。

  • ではどのようにすれば、日本経済を「内需」型に変えることができるかが、問題になる。筆者の考えは「民間の投資を誘発するような公共事業」とそれを可能にする「法律などの制度の整備」である。先週号で述べた通り、公共事業なら何でも良いと言うわけではない。たしかに「公共工事」はそれだけでも「内需拡大効果」はあるが、工事によってはそれだけで終わるものもある。筆者が想定しているのはもっと波及効果のある「民間の投資を誘発するような公共工事」である。しかし、このような「公共工事」の多くには、色々な障害が付き物である。この障害の具体例は「住民の権利」とか「既得権」と言ったものである。ここにはできるなら「官庁」や「政治家」も触れたがらないところである。これらの権利者を説得するだけでも「気が遠くなるほど時間と労力」を必要とする。「制度の整備」が必要と言ったのはこの点を考慮したからである。効果的な「公共工事」を行うには、時には「私権の制限」が「制度の整備」の一環として必要になると考える。
    「私権の制限」と言うと強圧的に聞こえるかもしれないが、法律には常につきまとうものである。たとえば「容積率を緩和」すると言った場合には、ケ-スによって他人の「日照権」と言う「私権を制限」することとと同じである。ようは「公共性」と「個人の権利」のバランスの観点から「どれだけ私権の制限すること」が許されるかと言うことである。「政治」はそれを判断し、適宜、法律を執行、又は整備すべきである。
    こんにち「公共工事」の評判が悪い理由の一つとして、それがムダと思われるものが多すぎこと挙げられる。筆者も、最近は、「公共工事」が必要性で行われているより、「工事」が実行できるかどうかで判断されているように思われる。したがって最近の公共工事は「箱物」、つまり「建物」の建築に片寄っていると考えている。それも予算の消化のためか必要以上に豪華な物ばかりである。たとえそれが必要と思われても、住民の住居の移転を伴う「道路」の建設などは後回しである。「道路」の建設は、もっぱら誰も住んでいない山奥や用地の買収が容易な所で目立つのである。

  • 上記で述べた通り、公共工事の現状から日本では、「地方ではほぼ十分なペ-スで公共投資が行われてきた」のに対し「都市部は本当に必要な公共投資が行われていない」状態である。現状では、都市部には「大量の民間投資」が投下されているのに対して、「地方では決定的に民間投資が不足」しているのである。
    地方にはりっぱな道路があるのに「工場用地にはペンペン草」が生えているのである。筆者は地方経済の活性化には、「大都市圏との交通アクセス」を良くすること、具体的には「新幹線」と「高速道路」の建設しかないと考えている。さらに言えば、そのアクセス費用をなるべく小さくすることである。つまり「遠近格差の是正による物流コストの削減」である。「通信費」についてはこんにち徐々にこれがなされている。ところでこれらについては後日、また述べたい。
    問題は都市圏、特に首都圏である。住宅費が高いことを別にしても、交通アクセスは最悪である。かろうじて機能しているのは、交通体系を鉄道を中心にしているからであろう。しかし、全般的に、単に混んでいるだけではなく、首都圏の交通機関の速度は極めて遅い。筆者は「東京の地下鉄は世界一速度が遅い」のではないかと考えている。したがって、通勤の半径もけっして大きくはない。それだけ狭い範囲に大勢の人間が住んでいるのだから、宅地も狭いうえにぺらぼうに高い。しかし、これを解決しようとして新しい鉄道や道路を建設しようとしても、気が遠くなるほど、時間と費用が必要となる。つまり本当に必要な社会資本には投資があまり行われることなく、一方では「りっぱな庁舎や劇場」だけがドンドン建設されているのである。

  • 日本経済で有効に使用されていない資源がある。その代表例は、「企業の土地などの含み益」と「首都圏の農地」である。前者については、4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」で述べた通り、株価には反映されているが、利益にはあまり貢献していない。これについてては、また別の機会に触れたい。
    問題は「首都圏の農地」である。仮に「首都圏の農地」が宅地に使われるとした場合の収益を試算 してみると次のようになる。農家一戸当りの所有農地を1haとすれば、これは約3,300坪の広さになる。売却価格を坪20万円(実勢価格よりかなり安く試算した)し、全部売却すれば、代金は6億6千万円(税金はここでは考えない)となる。これを年3%で運用すれば、年間の運用益は約2,000万円となる。
    一方、農地で米を栽培する場合は、1ha当り約5tの収穫となる。米の売却価格を1kg当り300円とすれば、全部で150万円の収入になる。純益はこれから経費と自分の労賃を差し引いたものである。一説では、田んぼ1haを他人に貸した場合に受け取る賃貸料は年間約20万円くらいと聞く。土地の収益力に限るなら、この年間20万円の方が妥当な数字と考えられる。
    1ha当り 年間20万円と言う金額は小さいようであるが、国際的に見れば決して小さくはない。たとえば中国で年間20万円の収入があれば、万元戸つまり大金持ちとみなされる。現状では、農業で得られる収入を飛躍的に高くすることは難しい。
    つまり、農地から得られる収益は、宅地にした場合の100分の1にすぎない。このように「首都圏の農地」を農地のままで使うのは、国民経済的に大きなロスである。「首都圏の農地」はなるべく「宅地」として使われるべきである。一方、地方には農業にしか使いようがない土地が「休耕田」のまま放置されている。つまり「首都圏の農地」を削減し、それらの土地を復旧・活用することが全体として合理的である。

  • 現在でも「首都圏の農地」は徐々に宅地に替わっている。しかし、それは十分ではない。また、現在の交通体系を前提にすれば、これ以上の宅地の供給は難しい。新しい宅地はどんどん遠隔地に移っている。通勤時間の長さも限度に近づいている。
    これから新たな宅地を開発するには、どうしても新しい都心から伸びる鉄道や道路の建設が必要である。しかし、これまで述べてきたように、これらの建設が事実上不可能である。そこで、筆者が主張する「ある程度の私権の制限」みたいなものが必要になってくる。
    筆者のアイディアは、「地下の利用、特に深い地下の利用」いわゆる「大深度」の 利用である。30m乃至50m以上深い地下の利用である。現在でも法律上この部分が土地の所有権に触れず使用できるのか、筆者にははっきりわからない。かりに、もしそうでなく、法律上の整備が必要なら、それを行うべきである。つまり「大深度について国は、公共の福祉にそった範囲で、土地の所有者にことわりなく自由に使用できる」と法律を制定すれば良い(ただし憲法に触れる場合はちょっと面倒かもしれないが)。たしかに使用料については考慮する余地はある。実は、この「大深度」の利用は以前検討されたことがあったが、それ以降断ち切れになっているのだ。当時は技術的な問題もあったのかもしれない。
    しかし、現在では、この技術も確立されていると考える。「青函トンネル」「ユ-ロトンネル」さらには「東京湾横断道路」と日本のトンネル技術も実績を積んできた。むしろ地上のトンネルの方が技術的に簡単であろうし、コストもかからないと思われる。また、地下が地震に強いことも実証されている。
    大深度の地下鉄は有利なことがある。まず真直ぐに鉄道がひけることである。これにより高速の電車を走らせることができる。場合によってはリニアモ-タカ-を使うことも考えられる。これによって住宅に使える土地の範囲は飛躍的に広がる。
    地下鉄は最初から複々線で建設する。さらに道路を併設することも考えられる。首都圏にはこのような地下鉄を5線くらいは建設できるであろう。もちろん首都圏以外の都市圏にも同様の物を建設することは可能である。
    この地下鉄建設費用は、宅地開発により、土地取り引きが活発になり、その譲渡益税でかなり回収できるであろう。また国が一括して農地を買い上げ 、建設費用を上乗せして宅地として分譲しても良い。また、土地の所有者には売却代金がはいるが、時が過ぎ、世代が替われば、ある程度は相続税として回収が可能である。もちろん経済の活性化による税収増も期待できる。

  • 「大深度の地下鉄」建設による「内需拡大効果」は大きい。建設に係わる直接的な「所得効果」を除いても色々考えられる。「宅地の造成」「住宅の建築」「商店街の建設」以外でも考えられる。車の購入も増えるであろうし、家具も大きめの物が売れるようになる。さらに首都圏の地価が全般的に下がる可能性があることも大きい。地価の下落は、経済には一部マイナス面があるが、全体的には投資が活発化しプラスの方が大きいと考えられる。つまり産業の空洞化に歯止めをかけることにもなるのだ。
    日本のホワイトカラ-は生産性が低いと言われている。通勤に一時間以上かかっているなら無理もない。この通勤時間が半分になれば、生産性も多少上がるのではないか。
    とにかく日本経済にとって「内需拡大」は至上命題である。いま日本人がやっていることは、極めて貧弱な住環境にいながら、もう国内には投資先がないと錯覚し、せっせと海外に資金を送っているのだ。そしてこのことが、将来の「円高」の原因となり、ゆくゆくは自分たちの雇用機会をなくす要因になると言うことに気がついていないのである。政府も「財政再建」にしか関心がない状態で本当に良いのであろうか。



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