- 株価の構成
4月以降日本の株価の下落しており、株価の動向が注目される。そこで今週は、株価の変動について考えてみることにする。 個々の株価は主に企業の業績の見通しの変化で動く。したがって全体の株価は現在や将来の経済実態を反映して動くことになる。具体的には企業収益の動向が一つのカギとなる。しかし企業収益で株価変動の全てを説明できるわけではない。特に日本の株価についてはそれ以外の要素が重要である。
もちろん日々の株価は市場の需給で決まる。そしてこの株価に株式数を掛ければ、その企業の価値の総額(時価総額)が簡単に算出できる。問題は、この時価総額と本当の企業の価値とのギャップである。日々の株価より算出される時価総額より実際の企業価値が大きいなら、現在の株価は割安と言うことになり、将来株価が上昇する可能性が強い。反対に時価総額の方が大きい場合には、買われ過ぎと言うことになる。この差が大きい場合にはバブルと言うことになる。そして実態から時価が高くかけ離れている場合には、将来株価は暴落する可能性がある。いわゆるバブルの崩壊である。
次にちょっと面倒な話になるが、実際の企業価値の算出方法である。実際、これについては色々な考え方や方法がある。筆者は、3年前に本誌(97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」)で述べた方法が適切と考えている。適正な企業の価値は、企業の清算価値の株主の持ち分に、現時点から将来に渡り得られると期待される総収益をプラスしたものである。つまりS(企業の総価値)=A(清算価値の株主の持ち分)+B(将来の収益の合計)と言うことになる。そして逆に、この企業の総価値を発行株式数で割りかえすと適正な株価が算出される。
まずBの将来の総収益の算出方法である。詳しくは前述の97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」を参照願いたいが、今後期待される各年の予想収益を利子率で割り返し、現在価値に還元した値を合計して求める。先になるほど不確実性が増すので、年数は10年くらいが適当と考える。
次にAの清算価値の株主の持ち分である。会社が設立されたばかりなら、清算価値は払い込んだ資本金と同じである。しかし企業も古くなると、通常は社内留保があるはずである。また企業を清算するとしたら、さらにこれ以外のバランスシートには表わされていない含みの損益があるはずであり、これらを加味する必要がある。具体的には土地や有価証券の含み益などである。この含み益は隠れた社内留保と言える。これらの含み損益を求めるためには、企業のバランスシートを時価で評価替えする必要がある。評価替えは、保有している土地や有価証券だけでなく、貸付金や売掛金についても行う。つまり資産に含み益がある場合には株主の持ち分は増え、反対に不良資産がある場合には株主の持ち分が減少することになる。したがって収益力が全くない企業でも、資産に大きな含み益がある場合には、株価が高いことも合理的である。(企業には、この他、バランスシートに載っていない資産、例えばノウハウや顧客との関係などが考えられるが、ここの話では省略する)
以上のような方法で筆者は、企業の総価値を算出できるものとしている。そしてこの企業の総価値の変動が株価変動のベースになると考える。またこれまでの説明から分るように、この企業の総価値を決める大きな要素は、将来の企業収益と金利動向、さらに企業の含み損益を大きく左右する地価の動向の三つと考える。
ここで日米の株価構成の違いについて述べたい。将来の収益と金利動向で算出されるB(将来の収益の合計)の部分については日米で大きな相違はないと考えられる。問題はA 、つまり清算価値の株主の持ち分である。一般に日本の企業の配当性向は米国に比べ小さく、社内に留保される利益の割合が大きい。さらに時価評価が一般的な米国の会計基準により、通常米国の企業には、資産の含み損益がほとんどないと考えられる。したがって米国の株式は、主にB(将来の収益の合計)の部分だけに着目して企業の総価値を算出することができると考えられる。一方、日本の古い企業については、A(清算価値の株主の持ち分)の比重が大きい。このように一口に株価と行っても、日米の会計慣習の違いよって適正な株価の算出方法に相違が生まれる。
日本の地価は高く、日本の地価の総額は米国の3倍と言う話である。したがって地価の動向は経済にも影響が大きい。日本の企業も土地を保有しており、地価の変動が株価にも影響を与えるのである。今日大きな問題となっている不良債権も地価の急激な下落が主因である。
日本の株価は割高と言われている。たしかにPER(株価収益率)は日本の方が大きい。PERは株価を一株当たりの当期利益で割り返した数値である。つまり現在の株価で株式を購入した場合、何年で元が採れるかと言う数値である。米国の20〜25倍に対して、日本の場合には50倍くらいが普通(現在は40倍ちょっと)である。しかし日本の企業の場合、これまで話をしてきたように、A(清算価値の株主の持ち分)が大きいため、収益力だけで米国企業の株価と比較するわけにはいかない。筆者は、米国の株価との比較で、日本の現在の株価はそれほど不合理とは考えていない。
これに関連し、米株式のPER(株価収益率)も近頃大きくなっている。たしかにこれにはバブルの部分も含まれているが、株主の要望も反映している。社外流出である配当より、内部留保や株式の消却による高株価政策を株主が求めている。株主にとっては、配当収入より高株価によるキヤピタルゲインの方が税務上有利だからである。
ところで先程述べたように、日本において含み益が大きく、A(清算価値の株主の持ち分)が大きいのは古くて資産の多い企業である。新興の企業はこれがほとんどない。したがって新興企業の株価を平均のPER(株価収益率)と比較して判断することは間違いである。本来なら新興企業のPER(株価収益率)は古い企業より小さくなるべきである。ところがこの数値が100倍、200倍と言う新興企業が多い。まさにバブルそのものである。
- 株価動向のポイント
次に前段で説明した株価の構成を元に、今後の株価の動向を占ってみる。金利についてはゼロ金利が解除されたが、今後もどんどん上昇する状況ではない。また企業収益は、建設などの一部引続き不振な業種を除き、平均では一頃より好転している。たしかに個々の企業はリストラを進めており収益力は強まっている。したがってトータルでは、B(将来の収益の合計)の部分は多少のプラスが期待される。たしかにこれは株価の上昇要因となる。しかし決して最終需要はそれほど強くなく、さらに海外要因などの不透明さが依然残っており、今後の動向の判断は難しい。
しかし筆者がここで問題にしたいのは、A(清算価値の株主の持ち分)の部分である。地価は依然下落が続いており、企業の資産の劣化が進んでいる。特に企業はリストラの一環として土地の売却を行っており、今後も地価の下落は続くものと考える。
このように日本の株価は、収益部分では多少プラス、資産価格の部分では依然マイナスと言う状態が続くことになる。つまり机上の計算の結論では、プラスとマイナスの要因が相殺されると考え、株価は当分ほぼ同一水準で推移する状況と言える。また海外要因、例えば米国の景気動向によっては、日本企業の収益は影響を受け、株価もはっきりマイナスになることも考えられる。さらに地価の下落も依然続くと見られ、株価動向の見通しは決して明るくないのが現実である。
ここまで今後の株価動向について述べてきたが、これはあくまでもベースとなる株価である。実際の株価は、これ以外の要素が影響する。例えば信用の取組状況や税法の改正である。さらに株式市場への資金の流入・流出も重要である。実際、昨年来の株高は米国などからの株式投資資金の流入が大きく影響している。
以前筆者は、日本ではデフレ経済が続くが、株式市場には郵便貯金などから資金流入が期待されることから、不況下の株高もあり得ると考えていたが、現実は多少違うようである。たしかに一旦資金は株式市場に向かったが、最近では新規の資金の流入は細っている。反対に株安により、投資信託の解約も大きいようである。
ところで4月以降の株価の下落の理由は、日経平均銘柄の入替え、外国投資家の日本株式の売却など色々言われている。しかしこの下落がスタートしたのは、米国金利の上昇観測による米国株式の急落と日銀のゼロ金利政策の解除の示唆からである。つまり日本経済の行方について、マスコミや日銀が言っているほど明るいものではないことを市場は察知していると考えられる。 今後は、「政府の補正予算」と「税制の申告分離への一本化」が注目される。
これまで述べたように株式市場めぐる環境は、マスコミが喧伝するほど良くない。良い材料と悪い材料の綱引き状態である。むしろ今後も地価の下落が続くとしたなら、将来的には株価は下落する可能性が強い。これ対して前段で述べたように、どれだけ政府が対策を打つことができるかがポイントである。
このような状況で日銀は、8月11日にゼロ金利の解除を決めた。主な理由は「デフレ懸念が払拭された」と言う説明である。たしかに卸売物価は原油高などを反映してジワリと上昇している。しかし消費者物価はむしろ依然下がりぎみである。最終需要が弱い証拠である。政府が日銀のゼロ金利の解除に強く反対したのことは当然である。
しかし最大の問題は、日銀が土地などの資産の価格が依然下落していることを全く無視していることである。前述したように日本の地価総額は米国の3倍と言うように、国民経済の中に占める割合は極めて大きい。したがって地価の動向は経済に大きな影響がある。その土地の価格が下落しているのである。したがって「デフレ懸念が払拭された」どころか、日本はデフレ経済のまっただ中にいるのである。
過去においても、日銀は土地などの資産価格の動きを無視した金融政策を行い、何度も大失敗を繰り返してきた。一例として、バブル期に地価が高騰していたにも拘らず、物価が安定していたので金融緩和が続けられた。土地などの資産価格の動向は無視されたのである。反対にバブル崩壊後には、地価が大きく下落しているにも拘らず、引締めを強化すると言うミスを犯している。さらに地価が以前下落しているのにも拘らず、94年には周囲の反対を押しきり利上げを強行し、95年の80円を上回る超円高の原因を作った。まさに日銀の歴史は金融政策の大失敗の歴史である。ところが日銀では誰も失敗の責任を取ったものは過去にいない。ところが反対にいつも日銀は、自分達は被害者だと主張しているのである。
今日でも土地などの資産の価格が依然下落しており、これが景気動向に大きな影響を及している。しかしこの資産価格の動向を無視して、日銀は金融政策を行っている。日本における金融政策で、資産価格の動向を無視することは信じられないことであるが、実に日銀はそれをやっているのである。
たしかに実質金利の捉え方には色々ある。しかし筆者は、日本での実質金利にはどうしても地価の動向を反映させるべきと考えている。もし実質金利をこのような考えで捉えるなら、低いと言われている日本の金利水準は、反対に世界的に見ても、極めて高いものになる。実際、今日ピンチに会っているのは借金の大きい企業とローンで家を買った人々である。このような現実を見れば、まさにゼロ金利の解除は、現実の経済動向に全く逆行した政策である。
もっとも筆者は、今回の「ゼロ金利の解除」の主な目的は短資会社の救済と考えている。日銀にとって国民経済はどうでも良いことであり、日銀村の住人である短資会社の救済の方が大事なのである。日銀は、「ゼロ金利の解除」によってコール市場の取引が復活すれば良いと考えているだけである。したがって「ゼロ金利の解除しても金融緩和政策は継続する」と言った矛盾した発言を平気で行っている。本当に金融緩和政策の継続が重要なら、「ゼロ金利の解除」を行うことはないのである。
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