- 「IT革命」信奉者
今週は、世間で取り上げられることが多い割には本質が見えにくい、「IT革命」と言うものについて述べる。とうとうサミットで「IT」は主要議題として取上げられたり、「IT戦略会議」と言うとてつもなく大袈裟な名称の首相の諮問機関まで設置された。 テレビには「IT」の専門家のような学者がよく登場とし、「日本は米国に何年分もの差をつけられている。さらにアジアにおいてもシンガポールや韓国に抜かれている。」とさかんに危機感を煽っている。
ところでまず話を始めるに当って、「IT」の定義から行った方が良いと思われる。一般に「IT」、つまり情報技術と言えば、情報システム全般を示すと言う考えがある。従来のコンピュータシステムやオンラインシステムに問題のインターネット関連を加えたものと解釈できる。もちろんハードだけでなく、ソフトも含まれる。一般に「IT投資」と言った場合、これらへの投資の全てと言うことになる。
しかし人によって念頭に置いている「IT」の範囲はもっとバラつきが大きい。広く捉える人は、携帯電話までも「IT」に含めている。一方、「IT」をもっと狭い範囲で捉え、インターネットとそれに関連するシステムに限定している場合もある。しかしほとんどの人は、しばしば自分の考えている「IT」の範囲を明らかにしないままに、「IT」、「IT」と言っているのが現状である。したがって聞いている方が混乱してくる。 そこで本誌は、「IT」の範囲を明確にして話を進めたい。筆者は、ここでは「IT」の範囲を狭く、インターネットとそれに関連するシステムに限定することにしたい。その方が問題点が分りやすくなると考えるからである。
日本の経済は、もう一つ勢いがない。そして「IT革命」はこのような日本経済にとって、救世主と断言する「IT革命」信奉者が、今日日本では幅をきかせている。彼等は、「IT」化を進めれば、他に景気対策は必要はなく、むしろさらなる景気対策は経済に弊害があるとさえ言っている。 また「IT」化を進めるキーポイントは「通信料の引下げ」と「規制緩和」と主張している。つまり彼等の論理では、通信料が引下げられ、ネット取引に関する規制緩和が進めば、自然に日本におけるネット使用者が爆発的に増え、大きな経済効果が生まれ、失業問題も解決することになる。たったそれだけのことで日本経済が再生すると言うことが、「IT革命」信奉者の主張から導かれる結論である。そこで本当にそんなうまいことがあるのか、本誌でも考えてみることにしたい。
「IT革命」信奉者の特徴は、規制緩和が進んで供給側の環境が整えば、需要は自然に増えると言う信念である。しかし筆者の考えは全く逆である。需要、あるいは潜在的な需要があって始めて、供給側の環境の整備により需要が表面化すると言う考えである。
「IT革命」信奉者はよく、日本は通信料が高く、規制緩和も進んでいないので、インターネットの利用者が米国のように増えないと主張している。しかし筆者は、たとえ通信料がタダになっても、日本でのインターネットの利用者の増加ペースはそれほど変わらないものと考えている。
ところで日本の携帯電話の普及のスピードは米国を凌いでいる。数年前まで携帯電話の普及率は、米国より低かったが、瞬く間に追い抜いてしまった。さらにデジタル化においては、はるかに米国に差をつけている。ポイントは、携帯電話の料金が決して安くないのに普及したことである。いかに「IT革命」信奉者達がいい加減なことを言っているか、このことからも分る。どのような通信手段が普及するかは、料金以外の理由、例えば地理的条件や国民性などが強く影響していると考えるべきである。
さらにインターネットの利用料金についてはとんだ誤解があるようである。バシェフスキー米通商代表部は「日本の平均利用料金は米国の10倍に達する」と述べている。しかしこのようなことは絶対にない。もしこれが事実なら、日本全体の利用料金の総額は米国より大きいことになる。ちょっと考えてみれば簡単に分かることである。バシェフスキー米通商代表部に誤解を招くような情報を流す者がいるのであろう。ところがテレビに登場する「IT革命」信奉者もよく似たことを言っている。 これはよほど特殊なケースを比較した場合だけと考える。たとえば一日中繋ぎっぱなしのケースなどである。しかし今日問題になっているのは一般の人々の利用者数の増加である。一般の人々が一日中繋ぎっぱなしで利用することはまずない。そのような暇人は少ないのである。
このようなものを比較する場合には、夫々の国民の感性や習慣といったものの違いを考慮すべきである。とにかく米国人は「何々しっ放し」と言うのが好きである。冷暖房もつけっ放しが普通である。ほとんど使わない部屋にも冷暖房を行っている。一方、米国人に比べ、日本人はまだまだ不必要な資源は使わないと言うことが染み付いている。 つまり仕事で使うと言うなら別であるが、一般の人々が自分の家でインターネットを一日中繋ぎっ放しにしておくニーズは小さい。つまり繋ぎっぱなしの料金を比較しても意味がないのである。
- インターネットのニーズ
日本でインターネットの普及率や商取引の伸びが今一つ小さいことについては、本誌でも何回か取上げたことがある。筆者の考えるこの理由は、インターネットの利用料金ではなく、日本ではインターネットによる商取引のニーズ自体が小さいことである。
まずBtoC、つまり企業と消費者のネット取引である。ネット取引と言っても、実態はほとんどがネットによる通信販売である。ポイントはこれが伸びるかどうかと言うことになる。ラフに述べると、通信販売がどの程度利用されるかは、通信販売が便利と感じる人々の割合で決まる。
通信販売がどれだけ利用されるかは、人口の分布状態と都市化の進展で決まると言える。広い国土に人々がバラバラに住み着いている国ほど通信販売は盛んである。しかし日本は国土が狭く、都市化が進んでおり人々が買物にそれほど不便を感じないためか、通信販売に対するニーズは極めて低い。これまでも通信販売自体も先進国で最低クラスの売上である。
通信販売にニーズが高いのは、やはり近隣に商業施設がない人々である。日米で比較した場合、圧倒的に米国の方がこれに該当する人の割合が大きいと考えられる。郊外に住み、週に一度遠くのスーパにまとめ買いに出かけるのが米国人のライフスタルである。一方、日本人の大半は都市、あるいは都市の近郊に住み、毎日のように買物に出かける。日本では、深夜でもコンビニや郊外の本屋に買物に出かけることが簡単にできる。
次に日米の通信販売へのニーズを机上で簡便に計算してみる。ざっと日本で通信販売に適した所に住んでいる人の割合が1割とすれば、米国では3割くらいと言う感じである。米国の人口は日本の倍である。つまり米国の方が単純に6倍の通信販売の需要が見込めるのである。その米国でさえもネットの通信販売は相当苦戦しているのである。
したがって通信販売がネットに置き換わっても、日本では通信販売がそれほど盛んになるとは考えられない。よほどネットにマッチした商品でなければ日本ではうまくいかないであろう。ネットによる通信販売の総売上が、破綻した「そごう」の売上にさえ到達するには、今後何年もかかるものと予想される。 もっとも単純にネットの通信販売への需要だけでインターネットのニーズの大きさを説明するのは多少無理があることは承知している。しかしインターネットの普及率の高い国の傾向は、概ね人口密度が小さく、冬場に外に出歩くことが厳しい高緯度の国々と言うのも事実である。少なくとも、北海道を除き、日本ではこの条件に該当する地域は少ない。
次のBtoB、つまり企業対企業のネット取引である。これについては別の機会にまた取上げることになるが、簡単に結論を述べると、日本ではそれほど順調に伸びるとは考えられない。主な理由の一つは、よく指摘のある「系列」の問題である。もう一つは、物づくりに対する日米の思想と言ったものの違いである。
筆者は、インターネットの普及は必要と考えている。学校でのインターネット教育も必要である。今後、ネットを使うかどうかで収入に違いが出てくる可能性が強いことも承知している。しかし「IT革命」信奉者達が行っている危機感を煽るような言動は問題と考えている。人々の必要に応じて、普及が着実に進めば良いのである。インターネットが便利なものと認識されれば、携帯電話のように自然と普及するはずである。
「IT」信奉者の最大の問題は、「IT革命」によって、景気は自律回復をすると言う誤った幻想をばらまいていることである。日本のデフレ経済はその程度ではとても回復するものではない。現在増えている「IT関連投資」は主にインターネットのインフラ関連である。投資が今後もどんどん増えていくには、インターネット自体の需要が爆発的に増える必要がある。筆者の考えは、今週号で述べているように日本ではそれがちょっと難しい。現在「IT」で目立って売上を伸ばしているのは、インターネットのインフラを提供している企業だけである。したがって投資が一巡すればそれ以上伸びない可能性がある。 筆者は、一年後には「IT革命」と言う言葉自体が死語になっているとさえ予想している。 政府はしかっかりとした景気対策を別に行うべきと考える。少なくとも地価のこれ以上の下落にストップを掛ける規模の対策が必要である。「IT」関連産業がどれだけ成長できるか、まだ不透明であり、これだけに期待することは無謀である。
「IT革命」信奉者は、通信料の引下げに関連して、「NTTの接続料」の引下げを主張している。「NTTの接続料」の引下げとネットの使用料金がどの程度関係してくるのか不明である。たしかに「NTTの接続料」の引下げが実現すれば、利用方法によっては多少使用料金が小さくなるかもしれないが、それによってインターネットの使用が爆発的に増えるとはとても考えられない。むしろ「NTTの接続料」の引下げ問題は米国の通信会社の都合と考えている。
ところで、日本においては、潜在的にインターネットへのニーズが強いはずの地域がインターネットの使用が困難である。地方、特に山間へき地や離島である。 インターネットの設備投資に関し、幹線は商業ベースに乗ることから民間が投資を行えば良い。しかし地方では採算が難しい。したがって「IT」関連の公共投資はこのような地域に重点的に行うべきである。
またNTTにはエリアプラスとかタイムプラスと言う、定額料金による割引制度がある。筆者は、この定額料金を引上げても、これらのサービスの拡充をすべきと考える。現在、NTTの分割や競争促進と言った大袈裟な話になっているが、これらのサービスの拡充だけでも、インターネットの普及に十分寄与すると考える。特にエリアプラスの対象地域を拡張し、全国どこでも市内料金によりネットに接続できるようすれば、本当にインターネットが必要な人々が容易にネットが使えるようになる。「IT」に関しては、もっと足が地についた提案が必要と考える。
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