平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/5/26(第17号)
  • 「円高」については先週号で述べたとおり、いくらまで進むかについて筆者ははっきり分からないが、100円を切ることも十分ありうると考えている。米政府としては今後の日本の「貿易収支」や「経常収支」の動向に注目して行く必要があろう。今後は、これらの数字が脚光を浴びることになる。
    日本政府の経済政策についても注目されるが、選択肢はあまりないようだ。筆者には、「日米双方の政府にボタンのかけ違い」が存在するような気がする。これについては後日また詳しく筆者の考えを述べてみたい。


  • 「トヨタ・本田が今年の自動車の対米輸出台数を昨年並みに抑える方針」と言う報道がある。まず、輸出する車種については高級指向となることから台数が同じでも金額的には伸びる可能性がある。
    ただ、一応、これで米国でくすぶる自動車産業の不満はある程度は緩和することも予想できる。米国メ-カ-のなかには「円の為替水準」は100円と主張する強行派もいる。今後の輸出動向が注目される。
    しかし、かりに台数の減少により金額ベ-スでも減少になった場合でも、5/5(第14号)「為替の変動を考える」の第4段落で説明したように「自動車の輸出自主規制」は最終的な為替水準にはあまり、影響を与えないと筆者は考える。自動車の輸出が伸びなくとも、他のものの輸出がその分増えるし、輸入もその分「円高」が進まないと言うことは増加すべき輸入が増えないことを意味する。国民所得の観点からも、考えられる国民所得がその分増加しないことになる。その分輸出にはドライブがかかり、輸入にはブレ-キがかかることになる。つまり「自動車の輸出自主規制」は政治的には意味があっても、マクロ経済的にはあまり意味がない。ただ「円高の調整過程」が多少伸びることにはなる。ただし、政府が輸出入の全てに行政指導をするなら別であるが。


  • 「金融ビックバン」の一環として、「為替取り引きの自由化」が来年の4月から予定されている。ただ驚くのは、この自由化が始まると、「資金が日本から海外に大量に流出し急速に円安が進む」と予想する論者が圧倒的に多いことである。その理由は「税制」と「金利などの点で海外のほうが魅力的な金融資産が多い」と言うことらしい。これらは、まったくの予想らしいが、 予想で良いなら、筆者にも予想くらいはできる。筆者の結論は、これらと全く正反対の「超円高」になる可能性があると言うことである。
    たしかに当初は日本から資金がある程度流れ、「円安」になる可能性もあるが、その後は大量の資金が流入し、「円高」が相当進むと言うことである。詳しくは翌々週号あたりで持論を展開したい。


内需拡大と公共工事を考える(その1)
  • 筆者は、本誌で、日本は「内需拡大」が必要であり、政府はそれを実現するような政策を採用すべきであると主張してきた。「内需拡大の必要性」に対して、以前は反対する人はあまりいなかった。実際、日本は、85年の「プラザ合意」以降、「内需拡大型」経済を目指した経済政策を採用してきた。しかし、その後の「バブル経済」とその後遺症のためか、「財政再建」の前では「内需拡大の必要性」を主張することがためらわれる雰囲気である。
    現在、「内需拡大」のため公共工事を増やせと言う人はほとんど皆無に近いであろう。たしかに最近の「特養ホ-ム建設にまつわる官僚の不祥事」「公共工事にまつわる数々の談合」 などが明らかにされる度に、公共工事の評判はますます悪くなっている。特に地方においては、公共工事として「誰も通らない道路の建設」「お城のような県庁庁舎の建設」「入館者のほとんどいない文化施設の建設」がドンドン行われており、公共工事はムダの象徴のように思われている。膨大な国と地方の長期債務残高を考える、公共工事に対して拒否反応が出るのは自然と思われる。

  • しかし、筆者はあえて「公共工事による内需拡大」の必要性を訴えたい。財源は「建設国債の発行」によってである。「膨大な国と地方の長期債務残高」を考えるとこのようなことは無謀と思われるが、筆者はこれが、現在極めて理屈に合っていると考える。長期金利はかなり低位であり(実質金利はそんなに低くはないが)、資金は余剰の状態である。名目で考えれば以前の半分以下の利息で済むのである。公共工事の規模大きければ、景気の浮揚効果もそれだけ大きくなり、物価も多少上昇するであろう。これにより実質の金利の負担も小さくなり、税収が増えれば財政の負担もそれだけ軽減されることになる。
    しかし、この政策はこれまで採ってきた政策と同じであり、これによって税収は増えなかったと反論する向きもあろうが、それは数年前の経済状況がそれだけ大きく落ち込んでいたからである。特に「円高」で痛手をこうむった2年前は民間投資が落ち込み方が大幅であった。この落ち込みが大き過ぎたため、財政支出の増大もこの落ち込みをカバ-するのがやっとであった。つまり財政支出の効果は確実にあったのである。財政支出の効果はなくなったと言うのは全くの誤解である。
    逆に現在、日本政府は「財政支出削減」による財政再建を目指しているが、結局、景気浮揚がそれだけ遅れ、税収は伸びず財政再建も期待したほど達成されないであろう。その間に企業は海外に工場を移転せざるを得なくなり、産業の空洞化は進むことになる。「規制緩和」により内需拡大と景気浮揚ができると考えている人も多いが、5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」で述べた通り、筆者は「土地の規制緩和」を除けば、「規制緩和」が最終的には「円高」と「ある程度の失業」を生むだけと考えている。

  • しかし、忘れてならないことは、「国民の多くは公共工事を増やすことに反対」と言うことである。つまり現在の「財政支出削減策」は国民やマスコミの圧倒的支持を受けているのである。企業の経営者も同じである。ある新聞社の大企業の経営者に対するアンケ-トでは「財政再建」には過半数の賛成者がいたのに対して、「公共工事の増額」を主張するものはほとんど皆無であった。以前の不況下では、これらの人々は、政府に公共工事を始めとして、財政の出動を強く訴えるのが普通であった。全くの様変りである。
    とても筆者には信じられないが、これが現実である。もし「円高」がこのまま推移した場合、景気が一段と後退する可能性がある。これらの経営者はそれに対してなにか秘策を持っているのだろうか。また、最近、色々な方面から「金利を上げろ」とか「公定歩合も上げろ」と言う声が上がっている。ただでさえ実質金利が低くないと言うのに。これと前述の企業経営者へのアンケ-ト結果は、筆者にとって「とても信じられないこと」である。

  • では「公共工事」ならなんでも良いのかと言う話しになる。たしかに、現在のように生産要素がフル稼働していない時には、財政の増額は波及効果を伴いながら所得の増加が実現させる。そしてこれは何に投資してもこの効果は変わらない。ゆわゆる「財政支出増加の乗数効果」である。ただしこの効果は「財政支出増加分」についてのみ乗数効果があるのである。つまり、翌年の財政支出の規模が前年と同じなら乗数効果は生まれない。乗数効果はきわめて短期的な効果である。
    「最近日本の財政支出による乗数効果が小さくなっており、景気浮揚にあまり助けにならなくなった」と識者が言っているのをよく見かける。しかし、この考えは二つの点で誤っている。 乗数効果は「財政支出増加分」についてのみ生まれるのであり、「景気対策のための財政支出」全部に対して生まれるのではない。毎年財政による景気対策が行われても、その額が同じなら2年目以降は乗数効果は生まれない。「乗数効果が小さくなっている」と言うことも誤りである。乗数効果 は、1/sつまり国民の貯蓄性向の逆数であり、この数値は逆に、近年大きくなっているのである。ここ数年の財政支出による景気対策が行われてきたが、増加分で考えるとそんなに大きなものではなかった。「民間投資」の落ち込みが大きすぎたので、これをカバ-するだけでいっぱいだったのである。
    小さくなってきているのは「財政支出が生む民間投資の誘発効果」である。これは民間の資本が蓄積されてきているので当然である。5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」で述べたように「消費の絶対額」は毎年そんなに変動しない(ほぼ所得の伸びに比例する)が、「民間投資の額」の変動は大きい。つまり景気を左右するのは民間投資の動向である。したがって今後考える必要のあるのは、「民間投資を誘発するような財政支出のあり方」を考えることである。
    同じ「道路」を造っても「狸と狐」しか通らない所に造ってもしょうがないのである。「宅地の造成」とか「商業施設の進出」が期待できる所へ「道路」を造るべきである。「財政支出増加の乗数効果」の点では両者は同じであるが、後者では 「民間投資を誘発」ができるのである。景気浮揚効果も後者の方が断然大きい。しかし、現在の日本では、前者のような工事は行われるが、本当に必要な「道路」の建設は遅々として進まない。「民間投資を誘発」を生む公共工事が進まないことは色々な面で問題である。

  • 民間投資が増えず内需が拡大しないと言う事になれば、余剰の資金は海外に流れる。これは利息・配当を生むため次の「円高要因」となる。これを繰り返せば、極めて競争力が強い企業だけがかろうじて残る状態になり、失業は増大するであろう。
    現在の金融の状態はバブル期と同じである。さらに国内に滞留する資金が増えるようだと、資金が向かう先はまた土地と言うことになる可能性がある。これはバブルの再現であり、たしかにこれで消費が多少ふえるかもしれないが、その後がまた問題である。莫大な資金の有効な活用方法を考えることが急務である。
    筆者が現在の政府の「財政再建」に否定的なのは、これではまったく民間の資金が有効に活用されなくなるからである。財政支出は大きく分けて「公務員の給与のような経常費」と「公共投資のような政策費」がある。財政の削減と言った場合にはまず政策費が削られるのである。経常費が削られることはない。官庁の数が減っても、公務員の数は変わらないのだから実質は変わらない。そしてこれには景気浮揚効果がない。つまり「財政再建」を進める度に公共投資が削られ景気回復はその分遅れることになる。
    以下、次回号で日本において「内需拡大」がうまく進まない理由と、考えられるその対処方法について具体的に述べたい。



日常的に起こる経済問題をトーク形式で解説
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97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」