- 総選挙の結果
今週号は、予定を変更して、「先日の総選挙」と「日銀のゼロ金利政策の解除」について感想を述べることにする。 まず総選挙である。選挙結果はほぼ予想された範囲内であった。ただ注目される出来事は、投票率が伸びなかったのに、共産党が議席を減らしたことである。そして野党の第一党として大きく伸びると予想された民主党がそれほど伸びなかったことである。反対に、議席を減らすと思われた自由党と社民党が、以外にも議席を伸ばしたのである。筆者は、これは両党のテレビコマーシャルが無党派層にアッピールしたからと考える。民主党の伸びが小さかったことと共産党の後退は、反対にメディア戦略の失敗したためと見ている。特に政権と直接関係のない弱小政党には、メディア戦略の巧拙が獲得投票率に大きく影響するのである。
以前は、将来の自共対決が噂されるほどの勢いがあったが、今回の選挙結果からは、共産党の限界がはっきりしてきたと言える。これまで共産党に投票してきた無党派層の一部が他の野党(特に社民党)に流れたようである。また無党派層とは言えない大都市の保守層の一部が自由党に流れた(あるいは棄権した)と推測される。これは自民党の公明党との共闘体制に不満な人々の行動と考える。これが都市部における自民党惨敗の大きな原因であろう。これは無党派層の動きとは別の宗教団体の投票行動が、選挙結果に微妙に影響した結果と考えられる。そしてこれが今回の選挙の一つの特徴でもある。
投票日の5日前に新聞各紙は、与党の善戦を一斉に報道した。このアナウンスメント効果が問題にされている。たしかに前回の参院選では同様に各紙が自民党有利の予想を事前に行ったが、結果は逆に大惨敗となった。しかし今回はこのアナウンスメント効果の影響は比較的小さかったと判断される。やはり争点がはっきりしない選挙であり、無党派層があまり動かなかったためであろう。これは投票率があまり上がらなかったことからも分る。
今回の事前の予想で各メディアが大きく間違った事がある。投票率の事前の予想である。各社の予想では極めて高い投票率を予想していた。実際は、最低であった前回の衆院選をわずかに上回ったものの、決して高い数字ではなかった。たしかに事前に調査した投票率の予想よりも、いつも結果は低い。これについては、2年前本誌でも98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」で触れている。参考までにこの部分を抜粋してみる。
「アンケート調査に対して喜んで回答を行なう者は少数派であろう。自分のプライバシーを保護する観点からも、アンケート調査自体に警戒心を持つことは当然のことである。運悪くアンケートに答えるはめになった場合にも、なるべく手っ取り早く済ませたいと考えることになる。したがって追加の質問がありそうな回答は選択しない。例えば選挙の投票に関するアンケートである。よく「投票に出かけますか」と言う設問があるが、もし「棄権する」と回答すると、「ではなぜ棄権するのですか」と言った追加の質問が予想され、ついつい「投票に出かける」と回答してしまうのである。このためか事前のアンケート調査より実際の投票率は相当低くなるのが普通である。このようにプライバシーにかかわる設問に対する回答にはかなりバイアスが掛かっていると考えても良いであろう。」
しかしそれにしても今回は、事前の予想されていた投票率と結果の数字との落差が大き過ぎる。天候だけでは説明がつかない。どうも今後は、アンケート調査の設問に工夫が必要と思われる。
注目していた無党派層は、全体としては動きが鈍かったと言えよう。ただ大都市とその周辺ではある程度野党に投票しており、当落に影響があったと考えられる。 マスコミは、選挙前には「投票に行こうキャンペーン」を行い、無党派層を投票に駆り立てるが、フォローは行わない。今、調査を行ったら、無党派層のかなりの人々はどこに投票したかさえ既に忘れかけているのではないかとさえ思われる。無党派層はマスコミに簡単に操作されやすい人々である。しかし政治はこのような人々の支持を得ることを目的に政策を行うべきではない。振り回されるだけである。ちなみに民主党の主張と行動は、このような無党派層を強く意識している。したがって同党の主張は支離滅裂なものにならざるを得ない。
自民党は、一応233議席であるが、無所属を加えるとほぼ単独過半数を確保した。史上最低の森政権の支持率を考えると善戦と言える。また参院の勢力図を考えると、今回のような共闘による選挙はやむを得ない。また衆議院は解散があるから、勢力図は直ぐに変わる可能性がある。問題は来年の参院選である。そして自民党は、本当に森総理のままで参院選を戦うのか注目される。筆者は、今のところ次は河野洋平氏しかいないと考える。もし加藤紘一氏と言うことになれば、自民党はまた惨敗と言うことになろう。
- 日銀のゼロ金利政策の解除
現行のゼロ金利政策の解除が話題になっている。短期金融市場でも、これが意識され、金利は上昇している。解除の時期は、サミット後と4〜6月のGDPが公表される9月が有力視されている。ゼロ金利政策の解除については、これまでも何回も話題に上ったが、その度に撤回されてきた。そして筆者は、当分解除は実行されるはずがないと考えていたので、ここに来ての解除への動きが奇妙に見える。
もっとも筆者は、ゼロ金利の解除が日本経済の実態に与える影響は軽微と考えている。実際、解除後も金融緩和のスタンスは変えないと言うのが、日銀の考えである。金利が多少上がっても実態経済には、それほど影響がないと言うことである。ただし心理的な影響は予測できない。場合によっては、一時的にも株価や為替には影響があると考えておいた方が良い。つまりリスクがあると考えた方が良い。
しかしどうして日銀がゼロ金利政策の解除に執着するのか理解できないのである。日銀の言い分は「金利がゼロと言うのは異常な事態であり、また金利政策の自由度を持つことが必要」とか「景気も着実に良くなっており、デフレ懸念は遠のき、利上げのチャンスである」と言うものである。しかし金利がゼロと言うことだけが異常な現象ではない。金利がゼロでも貯蓄が増え、消費が増えないことも異常である。経済の現状が異常なのだから、金利水準だけを正常な方向に持っていくと言うことがおかしい。「デフレ懸念は遠のき」と言っているが、物価が上昇する徴候はない。むしろ街には失業者が溢れているのである。全く日銀の言い分には説得力がない。
「ゼロ金利の解除」に対しては、一部のエコノミストからは「金利を上げることにより、競争力のない企業の退出を促すことが必要」と、例のごとくばかげた賛成意見がある。このような意見は論外であるが、他の賛成意見もことごとくばかばかしいものばかりである。ここで取上げるのも時間の無駄である。 日本政府だけでなく、諸外国からも反対が多い「ゼロ金利の解除」に、何故日銀が固執するのかは大きな謎である。そこで一つ思い当たることがある。それは短資会社の経営問題である。
短資会社は短期金融市場のブローカである。市場参加者である金融機関の間に立ち、取引を仲介している。短資会社は出し手と取り手となる両方の金融機関から手数料を徴集して、仲介を行っている。コールや手形だけでなく、為替や債券、さらにCDなども扱っている。今、この短資会社が経営的にピンチなのである。短資会社は合併などでこの危機に対処しようとしているが、うまく行くかどうか分らない。
経営ピンチの原因は異常なまでの低金利である。あまりの低金利によって、短資会社を介して資金の運用を行う場合、手数料を差引くと逆ザヤになるケースがある。したがって、従来の資金の出し手が、資金を短期金融市場に出さず、銀行の普通預金で運用するようにしている。ピーク時には50兆円あったコール市場も、現在は20兆円を割込む有様である。このような状態が一年以上続いているのであるから、仲介業者の短資会社の経営がおかしくなるのも当然である。
しかし一つの大きな問題がある。短資会社と日銀の関係である。これまで日銀は短資会社を金融政策の先兵として使って来た。それだけに両者の関係は密接である。もし筆者の推測が当っているなら、日銀の「ゼロ金利の解除」は、この短資会社救済が主な目的ではないかと言うことである。たしかに日銀関係者の「ゼロ金利の解除するが、低金利政策のスタンスは変えない」と言うセリフは、この事情に妙に合致しているのである。もちろん日銀は否定するであろう。たしかに日銀にとってのファミリーの一員である短資会社の救済のため、市場にはリスクのある「ゼロ金利の解除」を行おうと言うのなら問題であろう。そしてジャーナリストもつまらない問題ばかり追いかけているのではなく、このような問題を真剣に追求すべきである。
この他にも短資会社の経営には色々疑問がある。短資会社は仲介業務に加え、一応自己資本の範囲内と言うことにはなっているが、自らポジションを持って資金の運用を行っている。ところが先程説明したように短資会社と日銀との関係は密接である。したがって日銀の日々の金融調整に関する情報は短資会社に筒抜けと考えられる。つまり短資会社が常に資金運用で確実に利益を得ることができる仕組ができているのである。
率直な筆者の感想は「日銀にとっては、日本経済なんかはどうでも良く(いつも心配しているようなポーズだけをとっている)、実際は常に日銀の論理と日銀村の利益だけしか考えていない」と言うことである。「ゼロ金利の解除」をめぐる日銀の動きを見ていると、そうとしか考えられないのである。このような日銀について、独立性を守るべきと言う意見が多いが、とんでもないことである。
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