- 失業の受け皿
4月の失業率は4.8%となり、0.1%とわずであるが前月より改善した。また有効求人倍率も多少上昇している。しかしこれは就職が決まっていなかった新卒者の就職が少し改善したことなどが原因であり、中高年の失業率はむしろ悪化している。さらに完全失業者の数は、前年4月より4万人多い346万人である。また総務庁の発表する失業者数には、雇用情勢のあまりの厳しさによって求職活動自体を控えている失業者の数は含まれていない。したがって実態は、数字に現れるているより悪いと考えられる。
全体では、悪化を続けていた雇用情勢がようやく悪化に歯止めがかかった程度である。しかし問題は、小渕内閣の積極的な景気政策をもってきても、やっとこれだけと言うことである。もし政策転換がなされ、景気が後退すれば、再び失業が増大することは必至と筆者は見ている。筆者は、失業が依然として最大の経済問題と考えている。そして失業問題が今日の最大の問題と考えるかどうかが政治家のセンスの判断基準と考えている。失業は単に失業者の問題に止まず、当然、社会全体に影響がある。これについては別の機会に述べることにする。
ところが驚くことに、世間や政治家はこの失業問題にあまり関心がなくなったようである。たしかに自分が失業に直面していない人々にとっては当然のことかもしれない。そして景気も既に底打ちしたと言う観測もあり、「次は財政再建」と、とんでもないことを言い出すエコノミストや政治家が出て来るくらいである。
筆者が考える失業問題の解決方法は、先週号で述べた、これまで行われている財政政策、金融政策の継続に加え、特定分野での競争の制限である。後者は、率直に言えば特定の産業分野に不況カルテルを認めることである。国内向けで、提供するサービスが同質であり、弱小業者がひしめき、かつ今後需要の伸びが期待できない業種がこの候補となると考えている。不況カルテルは既に廃止された制度であり、これを持出せば、当然、「守旧派」とレッテルを貼られ、非難の対象になることは必至である。しかし不況カルテルが今日ほど必要な時代はなかった。誰かが勇気を持って主張すべきである。
特に弱小業者が多い、建設業界へも対策を考えるべきである。公共事業には、公共物を造ると言う使命があると同時に失業対策としての働きが期待されるはずである。したがって後者の観点から、公共事業に効率性だけを求めることは、この考えに反する。筆者は、国・地方は失業対策としてはっきりしている公共工事については、どれだけの人員の雇用を確保できるかをポイントに公共工事を評価し、発注を決定すべきと考えている。公共工事を外部に発注せずに、市役所の職員でこれを行ったことが美談として語られているが、おかしなことである。今日の状況では、公共工事によって「官」から「民」に資金が流れることが重要なのである。
- 究極の「セーフティーネット」
前段で述べた失業対策は重要であるが、これだけで今日の失業の全部を解決することはできない。毎年生産性の上昇があることを考えると、1%くらいの経済成長では、底溜まりとなっている失業の解消はとても無理である。したがってこれ以外で、もっと大胆な失業対策が必要となってくるのである。
民間、特に世界規模で競争を行っている企業に雇用の確保を求めることは無理である。大体、日本の大企業はこれまでずっと過剰雇用を維持してきた。経済成長期に余分な人員を採用し続けたのが原因である。企業の永遠の成長神話を前提にした人員の仮需が大きかったのである。単に団塊の世代の人口が多かっただけでなく、企業もこの神話に乗って、当時積極的に大量採用を行ったのである。この人員が年功序列賃金と相まって、大企業にそっくり残っているのである。年功序列賃金はなるべく長く同じ企業に勤めるのが有利な制度である。
団塊の世代を中心とした企業の過剰人員は日本経済の色々なところに影響を与えている。日本の企業の特徴である社内失業もこれが一つの原因である。また中高年の雇用に流動性がないことも、各企業がこの世代に過剰雇用を抱えているが一因となっている。 そしてこれまで日本の企業がこのような過剰人員を維持できたのも、株主が低い利益率に敢えて異義を唱えない存在であったからである。また株式の持ち合いを別にしても、地価の継続的な上昇があって、利益率が低くても、含み益の増加による株価の上昇があったため、株主も静かにしていた。
しかし状況は大きく変わっている。地価が一転して下落を続け、また外国人による持ち株比率の増大により、企業経営にたいする株主の姿勢が厳しくなっており、余分な人員を抱えていることが難しくなった。さらに連結決算に含める子会社の範囲が広くなり、かつ世間の連結決算重視の流れが強くなっており、以前のように過剰人員を安易に子会社に転出させることも難しくなった。このように日本の大企業ではいつも過剰人員を放出する圧力が掛かっている。たしかに本格的な人員整理を行っている企業はいまだ少数派であるが、大企業もぎりぎりのところに来ているのが実態であろう。
筆者は、以前日本経済を「濡れ雑巾」と例えた。つまり企業がシビアになればどれだけでも合理化の余地がある。そして「濡れ雑巾」を少しずつ絞ることによって、円高などによる不況を克服してきたのである。今後も、輸出産業を始め、各企業は一段の合理化を進めるはずである。政府にはこの流れを止めるはできない。さらに景気対策を行っても、吸収できる失業は僅かである。前段で述べたように、最近の失業者の推移を見ても、これははっきりしている。したがって政府には発想を変えた政策が求められる。
筆者は、大企業の合理化による失業の受け皿としてズバリ「公務員の増員」を提案する。行政改革を行っている今日、公務員の増員とは何事かと非難されることは承知している。しかし筆者が強調したいのは、数ある政策の中の優先順位である。筆者は、失業問題が現在の最重要課題と考える。筆者の立場では、行政改革による公務員の削減より、公務員の増員による失業の吸収の方が比べようもなく優れた政策である。大企業から中高年者を公務員として受入れることにより、企業に新卒者を採用することができるようにすれば、どれだけ社会の安定に寄与するか考えるべきである。
日本では、日本の公務員の数が多いと言う誤解がある。しかし実際は、日本は先進国の中では比較的公務員の数が少ない国である。2年ほど前の数字であるが、国と地方を合わせた公務員の数は449万人であり、全人口の3.5%である。一方、他の先進国は公務員の数は日本より多い。ちなみに6年前の数字であるが米国は1,875万人で、全人口の7.5%である。たしかに日本の場合には、これに特殊法人の人員や第三セクターへの出向している公務員を加算した方が良いと考えられるが、これを加えても、米国よりずっと少ないことは容易に理解できる。
日本の公務員の待遇は良い。民間と違い、雇用の不安がない上に、報酬も悪くない。特に不況で所得が伸びない民間に比べ、公務員の好待遇が際立つようになった。しかし筆者は、これだけ失業が増えている日本で、雇用と報酬の両方を保証すると言うことは異常な待遇と考える。
公務員志望者が異常に多い。公務員試験のための専門学校が存在すること自体がこれまた異常な現象である。公務員の待遇に経済原理がもっと働くようにするべきである。つまり公務員志望者がいる限り、待遇を引下げる必要がある。相当報酬を下げても公務員志望者はいるはずである。例えば全体の報酬を2割カットしても、志望者はまだ相当いると考えられる。 そして一方、全体の公務員数を2割増し、民間からの失業を吸収するのである。これなら財政負担がほとんど変わらない状態で雇用を90万人増やすことができる。しかしこれは多少現実的ではない。報酬カットを1割にして、公務員数を2割増やすくらいが現実的であろう。この場合には財政負担が増えるが、新たに採用する公務員の年収を450万円くらいに押さえるなら、総額で2兆円の負担増に収まる。このような効率の良い雇用対策は他にはない。そしてこれが究極の「セーフティーネット」に成りうるのである。
|