平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

普通の電話を使用。市外一律3分20円。国際電話や携帯電話へも割安通話。インターネットの音声帯使用により音質良好。



00/6/5(第165号)
日本の産業構造と失業
  • 失業の受け皿
    一般に、所得の多寡は携わる職業の競争状態で決まる。誰でもなれるフリータはほぼ完全競争市場にあり、所得は最低クラスとなる。一方、医師や弁護士と言った困難な資格が必要な職業は参入障壁が高く、高い報酬が得られる。

    また、企業に勤める人々の場合は、企業の規模が問題になる。大雑把に言えば、より規模が大きい企業ほど報酬は大きい。これは一般に規模が小さい企業ほど、より厳しい競争状態に置かれているケースが多いからである。これを理解するには、メーカの販売系列を例に考えれば良い。一社のメーカの下に複数の代理店があり、代理店の下にさらに小規模の販売店がある。この場合、企業の規模だけでなく、従業員の給料もメーカ、代理店、販売店の順番に小さくなるのが一般的である。これはメーカより、代理店や販売店の方がより競争的になりやすいからである。

    たしかにメーカに参入するより、代理店や販売店に参入しやすい。したがって引き渡し価格も数の少ない側に有利な形で決まる。結果的に、従業員の所得の多寡にもこの価格交渉力の違いが反映される。つまり日本においては、所得の多寡は本人の才能や努力だけではなく、どの程度の規模の企業やどの程度の競争状態の業界で働くかで決まる。

    次に日本全体の産業構造と法律による規制の関係について考えてみる。まず日本の産業は大きく二つに分けられる。一つは最終需要が国の内外にあるものであり、もう一つは需要のほとんどが国内にあるものである。前者の代表はメーカとそこに部品を納入している業者である。そして後者はそれ以外の産業であり、ほとんどのサービス業はここに分類される。

    前者に対する法律による規制は、環境規制に代表されるようなものであり、競争を妨げることが目的と考えられる規制は基本的にはない。たしかに昔、資本の自由化に備え、通産省が自動車業界の再編を進めようとしたことがあった。しかし思う通りにはならなかった。例えば、2輪車を製造していた本田は、通産省に猛反対されながら、それを無視して4輪車への進出に成功した。今日ではとても考えられないような例外的な事件であった。むしろこの分野の企業は昔から内外の厳しい競争にさらされてきたのが現実である。

    この分野は世界的な競争下にあり、基本的にセットメーカに勤める従業員の所得は国際標準からかけ離れることはない。ただし部品メーカは二分される。汎用品を作っているメーカは競争がより厳しく、利益も限定される。したがって画期的な生産工程を採用し、劇的なコスト削減でも達成しない限り、グローバル化で競争が激しくなることから、今後も利益を確保することは難しい。その点、特殊な部品や独占的な技術を持つ部品メーカは有利である。技術が参入障壁になるのである。このような部品メーカはグローバル化で市場が広がることによって、むしろセットメーカより利益を得ることも可能である。


    しかし今週号の規制緩和で問題にするのは、このようなメーカのことではなく、もっと国内向きの産業群である。この分野の規制も、当初は必ずしも競争を阻害することが目的とは限らないものも多かった。許認可によってサービスを提供する企業を限定することが、サービスの質を保つためにも有効と考えられたからである。監督官庁にとって一番気を使いことは、ユーザからのクレームを少なくすることである。このような入口のハードルを許認可によって高くするのである。そしてこのような許認可を受けた者は悪いことはしないと言う考え方は、日本の風土に根差したものである。しかし結果的にこのような規制が競争を阻害し、業界を保護することになった。もっともこのような保護が、日本国内における所得の格差が広がることを阻止し、社会の安定に役立っていたのも事実である。

    しかしこの分野には、もっと厳密に見れば、他からほとんど参入が不可能なものから、参入が比較的容易なものまで色々ある。そして参入障壁の低い業種は総じて利益も小さい。このような業種では、他との差別化を図り、少しでも障壁を高くする努力がなされる。飲食店などは良い例である。しかし提供するサービスや商品が同質で、差別化すること自体が難しい業種も多い。このような業種では組合で協定価格などを設定して、収益の確保を目指すのが一般的である。もっとも組合などによる協定価格を結ぶことが困難な業種もある。建設業などである。このような業界は、過当競争に陥りやすく、ついつい談合と言う違法な行為に走りやすい。つまり誰でも事業が始めることが容易で、かつ提供するサービスが同質の業界は、今日の規制緩和と需要の減退で危機的状態にある。ところがこのような業界こそが、これまで失業の受け皿でもあったのである。


  • 本当の「セーフティーネット」
    日本経済は、輸出産業に代表される競争力のある産業と国内向けの産業で構成されている。そしてこれはこれで大変うまく機能してきた。国内向け産業は構造的あるいは規制によって競争が制限されており、ある程度の利益が確保でき、そこに従事する労働者もある程度の所得を確保することができた。
    極端なケースが、自由化前の金融機関である。以前は金融機関ほとんど価格競争のない状態にあり、この業界では世界的に見ても飛抜けて大きい給料が支払われていた。前述した国際標準からかけ離れることができない輸出産業の従業員の給料水準とは対称的である。したがって金融の自由化が進めば、日本の金融機関の給与も国際標準に収斂していくことは当然である。

    このようにうまく機能していた日本の経済システムにも、今、試練が訪れている。一つは経済のグローバル化に伴う、規制緩和の波であり、もう一つは継続的な円高傾向である。たしかにこれまでは、後者の円高にはなんとか対処してきた。輸出産業は円高に対して、製品の高付加価値化と合理化を行ってきた。特に大手輸出企業の合理化に伴い余剰人員の整理や新卒者の採用の抑制を行った。しかしこの結果発生した余剰人員は中小企業、特に国内向けの産業にうまく吸収された。一方、余剰人員を受入れる側も、それまでの人手不足もあって受入れに余裕があった。つまり日本経済は長い間失業率が上昇することなく、円高を克服してきた。

    しかしこの日本の円高の克服システムもそろそろ限界にきている。前段で説明したように、中小企業に人員を受入れる余裕がなくなってきているのである。したがって失業率もここ数年で急上昇している。この原因は色々考えられる。もちろん今回の不況や貸し渋りが中小の企業により大きいダメージを与えている。そして一番注目したいのが、今日の規制緩和の流れである。国内向けの業界で、安全確実と考えられていた金融機関からも失業が発生しているくらいである。

    エコノミストは改革と称して、規制緩和を押し進めるよう主張する。そしてそれに伴う失業には「セーフティーネット」の用意が必要と言う。実に聞き飽きたセリフである。ところが以前本誌で指摘したように、彼等は一体何が「セーフティーネット」なのかを決して具体的に説明することはない。彼等には、「セーフティーネット」について何のアイディアがないのである。ただ言っているだけである。
    筆者は、現実の「セーフティーネット」とは、公共事業による失業対策やここまで述べてきた中小企業の人員の受入れ機能と考えている。したがって「セーフティーネット」がどうしても必要と言うことになれば、特定の分野ではむしろ規制緩和にストップをかける必要があると考える。

    しかし日本で現実に行われていることは、この「セーフティーネット」となりうるものを壊しながら、失業対策を行おうとしていることである。全く矛盾した政策であり、これでは失業が減るはずがない。規制緩和や経済のグローバル化と言うものは、時代の流れであり、大半については受入れざるを得ない。また円高に対応してメーカが人員の削減を行うこともしょうがないことである。これに対して政府が行うことは、適切な景気対策による有効需要の創出により、これ以上失業が増えることを阻止することである。さらにもう一つ、本当の「セーフティーネット」を創ることであるが、これについては次週に述べる。



来週号では、筆者が考える雇用対策を述べることにする。



普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


00/5/29(第164号)「GDPと政策目標」
00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」
00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99/12/20(第144号)「為替の話あれこれ(その1)」
99/12/13(第143号)「中堅以下の企業のリストラ」
99/12/6(第142号)「大企業のリストラ」
99/11/29(第141号)「商工ローンと日本人」
99/11/22(第140号)「あやしい常識」
99/11/15(第139号)「金融のさらなる量的緩和」
99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

日常的に起こる経済問題をトーク形式で解説
日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン