平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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00/5/29(第164号)
GDPと政策目標
  • GDPの話
    GDP、つまり「国民総生産」は、なじみの深い数字である。またこの増加率は経済成長率として注目される。毎年、政府はその年の経済成長率の見通しを立てるが、世間では、あたかもこれが政府の経済政策の目標と見なしている。
    昨年度の政府見通しは、0.6%であった。経済成長率は、6月の中旬に公表されるが、この見通しはどうやらクリアされそうである。

    GDPは極めて基本的な経済数値であるが、GDPの集計作業自体は複雑であり、我々のような部外者には、細かい所まではなかなか窺い知ることができない。もっとも経済企画庁でもこの集計には手間暇が掛かり、四半期ベースの数字は3ケ月遅れでやっと公表されているのが現状である。またこの数字は需要面からのデータのみで作られており、所得や生産面のからの数字はこれからさらに半年遅れた年末に公表される。

    筆者にとって、GDPの具体的な集計方法についての説明は無理であるが、基本的な考え方については述べることはできると思われる。
    GDPはまさに国民の総生産額であり、総所得、つまり稼ぎの総額である。ただし生産額と言っても、これが貨幣で取引されるものに限定される。ここが一つの重要なポイントである。したがって自給自足の経済ではGDPは発生しない。つまり自分で椅子を作っても、GDPには加算されない。間違いなく椅子と言う生産物があるのに生産額には含まれないのである。
    よく問題になるのは家庭の専業主婦の働きである。家事労働の生産物はGDPに反映されない。ところがこの主婦も外に出てパートやアルバイトを行い、収入を得るとGDPに反映される。

    ここにA、B、Cの3軒の家庭があるとする。A家の主婦がB家へ家事のパートに出るとする。またB家の主婦もC家に家事のパートに出る。さらにC家の主婦も同様にA家に家事のパートに出るとする。そして三人の主婦は夫々パートの報酬として10万円ずつ得るとする。この結果、3軒の家庭は10万円の所得と10万円の支出が夫々増えることになる。したがってこの場合にはGDPは合計で30万円増えることになる。もし三人の主婦が行う家事が同質であり、各自が自分の家の家事は一切行わないとしたら、3軒の家事の実態が変わらないのに「国民総生産」は増えることになる。つまり実態は変わらないのに国民経済の統計上は30万円の経済成長が達成されたことになる。

    外で働く主婦が増え、食卓に並べられるデパートで買ってきたものが増えれば、それだけGDPは増える。所謂、家事のアウトソーシング化である。家事のアウトソーシング化が進むだけでGDPは増えることになる。また今日話題になっている老人介護の場合も、各自の家で老人介護するより外部に委託した方がGDPが増えることになる。考えさせられる問題である。

    ところが実際のGDPの集計には、筆者のこのような理解を超えるものも含まれているようである。どうも持家については家賃相当分がGDPに加算されているようなのである。たしかに賃貸住宅の場合は、家賃がGDPに算入される。借主は家賃を支出し、家主はこれを賃料を所得として受取る。同様に持家についても家賃相当額を所得と支出に見なそうと言う発想である。これは金銭の授受を伴わない「国民総生産」の一項目となる。このことが分かったのは、昨年1ー3月のGDPの確定値の発表の時である。速報値より確定値がかなり大きく修正された。その原因が、速報値では、持家についても家賃相当額の算入が抜けていたと言うことであった。

    たしかにGDPにはどのような数値を含めるかについて、色々な考えがあっても良い。実際、持家の家賃相当額の算入も、持家も賃貸住宅と同様に家屋の効用と言ったものを金銭的に捉え、これを国民所得計算に算入しようとする考えによる。しかしこのような数値がどんどん持込まれたならば、GDPを景気のバロメータと思っている人々にとんだ誤解を与えることにもなる。
    今後、ソフトウエアの制作費を経費ではなく、投資勘定に振替えようと言う動きがある。筆者もよく理解していないが、この振替によってGDPが増えることになるそうである。実態が変わっていないのに、GDPの算出方法の変更でGDPが増えるのである。


  • 政策目標の変更
    GDPをその国の豊さの指標とするなら、金銭の支出の伴わない「経済価値」をなんらかの基準で算出し、GDPに加算することは決して不合理ではない。この方針が徹底されるのなら、通常の国の政策もこのGDPを大きくすることが目標でも良いかもしれない。しかしこの考えをさらに徹底するのなら、例えば治安の悪い国の国民が治安対策に支出する費用はその国のGDPから差引くべきと考えられる。さらにGDPが大きくても空気が汚れ、環境が悪化している国は、その分もGDPからマイナスすべきかもしれない。

    このようにGDPの数値は、立場によって色々な捉え方がある。ここで困るのは、GDPの増加率、つまり経済成長率を唯一の政策目標とする考えである。目標の経済成長率が達成されても、一向に景況感が良くならないことがあり得るのである。つまり持家の家賃相当額が増えても、有効需要が増えないのである。もちろん失業も減らない。

    むしろ筆者は、日本では経済成長率が、今だに経済政策の最大の目標と見なされていること自体が問題と考えている。筆者は、経済成長率より雇用問題が日本の最大の問題として認識されるべきと考える。たしかにGDPが増え、経済が成長すれば、失業も減る。しかし現在の失業のペースやこれまでの累積の失業者の存在を考えると、この問題の解決には年率5〜6%と言う日本ではかなり無理な経済成長率を何年も続ける必要がある。現在の目標とされる1%くらいの成長率では、生産性の向上を考慮するとむしろ失業が増大する可能性が強い。

    日本は長い間、低失業率の状態が続いた。完全雇用と言うか、全部雇用の時代が長かった。失業より、むしろ人手不足の方が問題であった。この結果、特に大企業は人員の確保を優先したため、日本の雇用慣行と相まって、むしろ今日問題になっている慢性的な過剰雇用を抱えることになった。
    日本では、政府も社会も失業を真剣に考える必要のない時代が長く続いた。したがって、失業問題が表面化した今日でも、有効な対策が講じられない。例えば政府がよく行っている通信教育への補助金が、どうして雇用対策として有効なのかとても理解できない。失業対策のノウハウが全くないのである。
    公表される失業者数も、ハローワークでの求職者数であり、失業者の実数ではない。したがって失業率は傾向としては参考になるが、実態を正確には示していない。

    たしかにGDPの動きは国内全体の経済活動の状態を反映し、重要な経済数値である。またGDPの動きは貿易収支にも影響があり、各国も注目している。しかし日本社会にとって失業が今後の最大の問題と認識されるのなら、失業率がGDPと同等か、あるいはより重要な数値として扱われるべきと考える。前段で述べたように、GDPが増えても、雇用に繋がらないものもある。したがってGDPだけが経済政策目標と言う考えを変更する必要がある。そして失業の減少が最も政府の重要な政策と認識されるなら、もっと良い具体策が考えられると思われる。



来週号では、参入障壁と規制緩和について述べたい。これは所得の分配に関係し、今後重要な問題になる思われる。

地価の動向が注目される。三井不動産販売の4月始めの調査結果では、3ケ月前に比べ、首都圏の住宅地は0.7%の上昇である。また不動産研究所の3月末の全国の市街地価格指数は半年前の調査に比べ、3.1%の下落となっている。この下落率は前回調査(2.8%)より若干大きくなっている。また六大都市に限った場合の全用途平均地価は前回に比べ4.4%の下落となっている。ただし、住宅地と商業地の下落幅は縮小し、工業地は下落幅が拡大している。
これらの数値をどう解釈するかである。一応、大都市圏においては住宅地の下落傾向に歯止めがかかった状態であるが、工業地については依然下落が続いていると考えるのが妥当であろう。工業地については、依然メーカの過剰設備の整理が続いていると考えられる。また円高に伴う、工場の海外移転の影響も考えられる。
一方、首都圏の分譲マンションの売行きが好調なことが、住宅地価の下落にストップを掛けていると思われる。商業地についてもピンポイント的な上昇はある。ただしこれは首都圏などの大都市圏に限った現象と考えられる。問題はこれがいつまで続くかと言うことである。また全体では地価の下落は依然続いており、金融機関の不良債権額は増加していると考えられる。つまり厳しい状況は続いているのである。


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00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」
00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99/12/20(第144号)「為替の話あれこれ(その1)」
99/12/13(第143号)「中堅以下の企業のリストラ」
99/12/6(第142号)「大企業のリストラ」
99/11/29(第141号)「商工ローンと日本人」
99/11/22(第140号)「あやしい常識」
99/11/15(第139号)「金融のさらなる量的緩和」
99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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