平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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00/5/22(第163号)
グローバル化と市場の競争
  • グローバル化と参入障壁
    先週号で述べたように、経済の理論では、より多くの供給者と需要者が存在する時に、市場はより競争的になる。その場合、価格がパラメータとして動いて、需給を一致させる。そして完全競争の時、「パレート最適」が実現し、資源の最適な配分が実現する。しかし実際には一つの市場で、供給者や需要者の数が無限と言うことはない。市場参加者が多く、完全競争に近い市場から、供給側もしくは需要側が一人と言った独占市場まで混在しているのが現実の市場の姿である。

    したがって競争状態は、市場の参加者の数、つまりN対Nの関係で決まると言える。双方のNが無限大の場合には完全競争であり、1対NもしくはN対1の場合は独占市場である。現実の市場は両者の中間のどこかに位置している。そこで人々は、価格交渉で優位に立つため、グループを作る場合がある。各種の組合もその一つである。N対Nにおいて自分達の方のNをなるべく小さくすることが狙いである。世界の原油市場におけるオペックはこの典型的な例である。

    ここで注意が必要なのは、これまでの説明の市場はあくまでも抽象的な概念での市場である。現実の市場は、他からの参入者の登場を考える必要がある。その市場の参入障壁が低ければ、仮にその市場が独占状態でも、価格を不当に釣り上げれば、他からの参入者が登場し、独占が崩されることになる。つまり独占で利益を得るためには、その市場の参入障壁が十分高いことが必要である。


    市場での競争状態と利益の関係は、働く者の所得にも適用できる。一般的に、参入障壁が高い市場で働いている者ほど所得は高い。反対に完全競争に近い状態で働く者ほど所得は低い。ほぼ完全競争状態である今日のフリータの稼ぎは最低クラスにある。時給で1,000円と言うのは良い方であろう。一方、参入障壁の高い市場でかつ、規模の大きな企業の社員で年収1,000万円と言うのはめずらしくない。この場合、退職金や保険料の企業負担を加味すれば、実質的に年収は1,500万円近くになる。年間の労働時間が2,000時間とすれば、時給換算で7,500円である。時給7,500円のアルバイトは絶対にない。これだけ職種による競争状態で所得に格差が存在している。

    以前、日本では、アルバイトは一時的な職種であったが、いつまでもアルバイトを続けるフリータと言う存在が今日当り前になった。またフリータに限らず、競争的な業界や業種に勤める者の所得は今後は増えない。つまりこれまでほとんどの人々が自分は中流と考えていた日本でも、収入の格差が固定化する流れがはっきりしてきたのである。この傾向に拍車をかけているのが、経済のグローバル化である。

    それぞれの国の経済は日本と同様に、参入障壁に守られた所得の高い業種から、参入障壁の低い業種で構成されている。経済のグローバル化の究極の姿は、世界の市場が一つになることである。したがってグローバル化による影響が大きいのは、より参入障壁の低い業種である。この業種での競争が一段と激しくなるからである。世界の市場が一つになることから、米を作っている日本の農民の収入は、タイや中国の農民と同じレベルまで下がることになる。さらに大規模な耕作を行っているオーストラリアや米国の農業との競争もある。もっともこれは極端な観測であり、日本では今後も米作に対する保護政策はある程度続けられると思われる。しかし日本において、米作が半永久的に厳しい状況におかれることは容易に予想できる。

    同じ企業の中にあっても、職種によってグローバル化の影響は異なる。ホワイトカラーよりブルーカラーの方がグローバル化の影響は大きい。自動車メーカーを考えれば理解しやすい。同じ工程で同じ仕事を行っている者同士の収入は、世界的にほぼ同じ水準になると思われる。つまり世界の時給が15ドルとなれば、日本でも15ドル相当額が報酬となる。したがって円高が進んだ場合が問題である。円換算の賃金を引下げられない場合には、メーカーは工場を海外に移転する他はなくなる。

    一方、どの国にも比較的高い参入障壁を持っている産業がある。ほとんどの大企業はこれに属する。参入障壁が高くする要因は、先週号で述べたように、法律による規制の他では、特許権やノウハウと言った技術的なものや企業の大きな規模そのものなどがある。その他に過去からの宣伝広告費の累積効果や系列、さらに旧財閥のグループ関係なども参入障壁として機能する。

    グローバル化が進めば当然競争は激しくなるが、先進国の大企業がグローバル化で、即倒産して消え去ると言うことはまずない。単独で生残れない場合でも、合併や提携、または外国の資本などの傘下に入ることで生残りを図ることになる。競争激化に伴い、合理化が行われ、人員整理の対象となる可能性もあるが、全ての社員が解雇されるケースはまれである。退職する場合も中小零細企業に比べ、手厚い条件が提示されるのが普通である。

    以上述べて来たように、経済のグローバル化は、消費者にとってメリットがある反面、働く者にとって過酷な事態である。特に、参入障壁が低く完全競争に陥りやすい業種に携わる者にとっては厳しい。これによって所得の階層分化が進み、所得格差が大きくなる。日本においても、この傾向は最近顕著となっている。これが今後社会の軋轢と緊張を生み出すことになる。
    経済のグローバル化に強く反発しているのが欧米のNGOである。彼等の行動の背景には、この所得の格差の拡大があると筆者は考えている。しかし欧米とも現在は、景気が良く失業者が少なくなっているので、この不満がまだこの程度に済んでいるとも考えられるのである。


  • グローバル化に対する対応の違い
    交易の自由化に反発する行動は特に欧州で激しい。フランスの漁民が魚をぶちまけて激しく抗議する姿を以前テレビで見たことがある。日本ではちょっと見られない光景である。そしてこのような抗議が今日のNGOの行動につながるものと理解している。WTOやIMFに対する、NGOの抗議は、表面的には「環境問題」や「人権問題」として行われている。しかし筆者は、根本に経済のグローバル化の影響が、これら漁民や農民また中小零細企業と言った参入障壁の低い業種に携わっている人々の生活基盤を直撃することを、彼等が知っているからと考える。今後、両者が結びつきがはっきりしてくると、この運動は以外な盛上がりを見せるのではないかと考えている。つまりNGOの行動は決して「ハネ上がり者」の行動ではないと言うことになる。

    欧米、特に欧州にはまだ階級社会の名残りが色濃く残っている。農民の子供は農業を継ぎ、パン屋の息子はパン屋を継ぐことが当り前の社会である。これらの生活基盤がグローバル化で脅かされている。危機感を持つのが当たり前である。

    一方、日本ほど大きく経済の構造が柔軟に変わった国はない。戦前は大半の人々は地方に住み、農業に携わっていたのである。戦後、この人々は大都市に大移動し、日本は一大産業国家となった。また農家のほとんどは兼業農家となり、この人々の生活基盤は農業と言うより地方に進出してきた工場や政府や地方が行う公共事業などである。また農民の子弟がサラリーマンになることは普通のことであった。また商店などの自営業も同様の傾向にある。

    企業自身も構造を大きく変えている。時代の移り変わりとニーズの変化と共に事業内容を大きく変化させているのである。どの繊維会社も繊維の比重が小さくなっている。今だに魚を採っている漁業会社はない。このように今日日本で生残っている多くの大企業の事業内容は大きく変化している。また、これに加え、大企業の雇用調整や新卒採用減を中小零細企業がカバーしてきた。つまりこれまで日本の経済は、技術の進歩や、ここまで述べて来た「経済のグローバル化」に比較的柔軟に対処してきている。

    したがって一般の日本国民は、欧米で起っているような経済のグローバル化にたいする反発や抗議運動をもう一つ理解できないのである。日本のマスコミやエコノミストも同様である。しかし問題は、日本でも柔軟な対処はこれ以上無理と言うことである。日本でも状況は変わっている。そろそろ日本も限界にきており、欧米と同様の「経済のグローバル化」に反発する動きがあっても不思議ではない状態にある。それにもかかわらず、そのような動きがないのは、既に人々が諦めているのか、それとも日本人が鈍感になっているからと考えている。これについては翌々週あたりに取上げたい。



来週号ではGDPの話をしたい。
米国では利上げがあり、株価が下落し、日本の株価も下がっている。しかし米国では、ナスダックは下げているが、NYダウの方はそれほど下げていない。客観的に見て、NYダウも一、二度大きく下げる場面があっても不思議はないと思われるのであるが。


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00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99/12/20(第144号)「為替の話あれこれ(その1)」
99/12/13(第143号)「中堅以下の企業のリストラ」
99/12/6(第142号)「大企業のリストラ」
99/11/29(第141号)「商工ローンと日本人」
99/11/22(第140号)「あやしい常識」
99/11/15(第139号)「金融のさらなる量的緩和」
99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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