平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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00/5/15(第162号)
経済のグローバル化とNGO
  • グローバル化の受け止め方
    昨年12月のWTO(世界貿易機関)の閣僚会議の時、会場のあるシアトルには反グローバル派の人々が集結し、街は大混乱した。さらに4月には、彼等はワシントンに集まり、またもや気勢を上げた。ワシントンで開催されるIMFや世界銀行の一連の国際会議に合わせたものである。そして当然、次に注目されるのは、沖縄サミットに向けての彼等の活動である。

    しかし反グローバル派、つまり経済のグローバル化に反対している人々は、実に多種多様なグループの集合体である。代表的なグループは労働組合、人権NGO、環境保護NGO、宗教団体、学生運動家、アナキストなどである。彼等の抗議活動は日本でも報道されており、多くの人々も知っている。

    しかしこのような活動が行われているを知っていても、ほとんどの日本人には彼等の活動の背景はよく理解されていないのではないかと思われる。実際、「ハネ上がり者」の行動と思っている人も多いはずである。マスコミも騒ぎが起っている時には報道するが、反グローバル派の本質をさぐろうと言う姿勢はないようである。

    資源のない日本は、物を製造し、製品を輸出し、必要な資源や製品を輸入して成立っている。つまり経済のグローバル化が日本経済に恩恵をもたらしているのであり、このことは誰でも理解している。日本では、経済のグローバル化に反対する者がいるとしても、農家や発展途上国と競合する製品を製造している中小企業くらいであろう。また農家も度重なる自由化の流れの中で、半分あきらめているのが現状と思われる。マスコミや経済学者は、グローバル化に反対する人々をむしろ「既得権にしがみつく人々」と決めつけ、これらの人々を擁護しようとする政治家には「構造改革に反する者」とレッテルを貼って非難する。たしかに経済のグローバル化で損害をこうむるのは、国内の一部の産業や分野に限られる。


    経済活動において国境をなくそうとしている動きは、なにもWTOだけではない。EUのように通貨の統合までしようとする共同体もある。他にもASEANやNAFTA(北米自由貿易協定)がある。また南米にはブラジルなどのメルコスルやベネズエラなどのアンデス共同体がある。さらにこれら南米の地域経済統合体は、いずれ北米のNAFTAと共同市場を作る流れになっている。 日本もWTOでの活動と平行して、東アジアの各国との間で一段の自由化を模索している。

    つまり世界的に見ても、経済のグローバル化は既定の路線である。しかしどの国も競争力のない産業を抱えており、全ての分野をオープンにするような国はない。日米間に限って見ても、両国の自由貿易への取組は過去から色々な曲折を経ている。繊維に始まり、鉄鋼、半導体、自動車と、日本はこれらの強い分野で自主規制を強いられてきた。一方、米国が強い農業の分野では、日本は自由化の時期を伸ばすことで妥協を探るなど、日本側の防戦が続いている。特に膨大な貿易黒字を続ける日本に対しては、市場開放の圧力は強い。

    どの国も得意分野の自由化を主張し、弱い分野の自由化をなんとか回避しようと試みる。いずれの国の政府も自国の弱い産業を保護し、雇用の確保と社会の安定を目指すのが普通である。実に経済のグローバル化は、各国の思惑と妥協で進展してきた。そのため長い時間を要して今日の段階に達しているのである。

    そこに冒頭に述べたグローバル化そのものに反対する勢力が台頭してきたのである。日本ではそれほど関心を持たれていないが、この動きは今後の経済のグローバル化の進展に、相当大きな影響を与えると筆者は考えている。また彼等の行動を単なる「ハネ上がり者」の行動として片ずけることはできず、背後に多くの支持者がいると考えられる。したがって筆者はまず彼等の主張を理解することが必要と考える。


  • 経済のグローバル化の本質
    経済のグローバル化は、貿易の活発化を通じ、各国に利益を与える。特に日本のように国内の需要が常に不足し、産業の競争力の強い国にとっては、市場が世界に広がることのメリットが大きい。また消費者の立場でも、購入する商品の選択肢が増え、消費生活は豊かになるメリットは大きい。もちろん価格競争が激しくなるため、物価の安定し、消費者に限っては、経済のグローバル化は良いことばかりである。

    一方、生産者、つまり供給者側から見ると良いことばかりではない。たしかに国際的な競争力を持つ産業や企業にとっては、市場がそれだけ大きくなることは歓迎である。しかし国内にある産業の全てが競争力があるわけではない。特に人件費の高い日本では、生産費に占める人件費が大きい産業は、グローバル化で苦戦を強いられている。これらの産業は、製品の高品質化と一段の合理化が迫られている。しかしこの努力にも限界がある。むしろこれらの産業はどんどん発展途上国に取って替わられているのが現状である。そしてこの流れを加速しているのが、継続的な為替の円高傾向である。

    次に経済のグローバル化を経済の理論面から見ることにする。グローバル化の究極の姿は、世界の市場が、あたかも一国の市場の状態になることである。(もっとも究極的には人の移動、つまり移民の自由と言うことになるが、これを論じると話が複雑になるのでここでは取りあえず省略する)つまり国の間の参入障壁を徹底的になくすことが「経済のグローバル化」である。参入障壁をなくすには、単に輸入制限や関税の撤廃に止まらず、税制や会計基準の統一、さらには環境保護政策のレベルの統一も必要になる。唯一残る障壁は運送費だけである。さらにもう一つ、障壁として残る可能性があるのは「言語」であろう。

    世の中には、「競争」こそ人類の進歩にとって大切なことと信じている市場至上主義者、つまり市場原理主義者が多い。日本でもマスコミに登場する経済学者のほとんどが該当する。彼等に経済学を教わった者も同じ発想でろう。また若手の政治家の中にも同様の考えの者が多い。完全競争下でこそ「パレート最適」が実現し、資源が無駄なく配分されると言う考えである。したがって政府の経済への介入や各種の規制は、それを阻害し、非効率を発生させるだけと彼等は主張する。いわゆる彼等は「小さな政府」の信奉者でもある。例えば米作への保護政策やタクシー業界の競争の緩和政策は、彼等にとって「改革への逆行」と見なされる。

    そして彼等の一番の特徴は、考え方が観念的と言うことである。現実を見ないのである。また現実を見ないから観念的でいられるのである。現実の経済の構造は彼等の想定しているものと隔たりがある。彼等は、全て規制を撤廃すれば、競争が活発に行われ、経済も活性化すると主張している。しかし彼等は、現実の産業構造を理解していないから、このような主張ができると考えている。

    実際の産業構造は、参入障壁が高く価格支配力を持つ大企業からほとんど参入障壁のない零細企業や個人で成立っている。これらの参入障壁の低い業種では、ほっておけば競争がとことん行われ、生産物の価格も就労している人々の生活もままならなくなる水準に落込むことになる。一方、多くの大企業は、法律による規制と言う参入障壁がなくとも、規模の大きさそのものが参入障壁になる。また特許権とかノウハウと言うもので参入障壁をさらに高めているケースもある。そして最近では大企業の合併がさかんである。銀行、保険、証券などの金融機関と紙パルプ、化学、セメント、石油などの素材産業での合併が目立つ。これらの合併は、参入障壁を高くし、規模の経済性と価格の支配力を維持することが狙いである。

    このように日本の国内を見ても、参入障壁が高い業界から極めて低い業界まである。一般的に参入障壁の高い業界に勤める人々の方が所得が高い。一方、以前は参入障壁の低い業界は法律や行政主導、あるい組合を結成することなどでなんとか利益を確保し、所得を維持してきた。しかし世の中の流れは競争を促進する方向に変わってきており、各方面で規制緩和が進み、立ち行かない業界が続出している。そしてこの流れに追い討ちをかけているのがまさに「経済のグローバル化」である。つまり経済のグローバル化で発生する厳しい状況は、参入障壁の低い産業や業界に集中するのである。



来週号では、今週号の話をさらに進め、なぜ欧米のNGOが感情的と思われる行動で「経済のグローバル化」に反対しているかについて、筆者の考えを述べたい。


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00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99/12/20(第144号)「為替の話あれこれ(その1)」
99/12/13(第143号)「中堅以下の企業のリストラ」
99/12/6(第142号)「大企業のリストラ」
99/11/29(第141号)「商工ローンと日本人」
99/11/22(第140号)「あやしい常識」
99/11/15(第139号)「金融のさらなる量的緩和」
99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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