- 予言者の話
今週号は、筆者が昔に読んだことのある経済小説の一節から始める。ところで残念ながら、筆者はその小説の題名と著者名を記憶していない。(連休中、それについて色々調べたが、結局分からなかった。ご存じの方がいたら是非教えてもらいたい。) ある証券会社のセールスマンの話である。彼は、顧客の前でこれから急騰する株を予言し、見事にそれを当てるのである。今風に言えば「株のカリスマ予言者」である。
もちろんこれには「種」がある。彼は全国の株価情報を提供しているシステムの情報を事前に入手しているのである。具体的には証券会社が使っている「クイック」の情報である。「クイック」の端末は証券会社の店頭に置かれており、誰でもそれを操作して現在の株価や出来高をチェックすることができる。この予言者は、事前にこのクイックの情報を得ているのである。 株を買おうとする者は、まず買おうとする株の株価や出来高をこの「クイック」端末を使って調べる。あるいは証券会社の係員が「クイック」を使って、顧客に情報を提供する。つまり「クイック」を使ってデータを調べられる件数が極端に増えた株は、その時点以降、取引が急激に増える可能性が強いのである。データを調べられる件数が増える場合には、「買い」と「売り」の双方があるが、常識的に「買い」のケースが圧倒的に多いと考えられる。
この小説の予言者は、「クイック」による銘柄別の検索データを入手し、「来るぞ。来るぞ。」と言って、急騰する銘柄を見事に当てるのである。 しかしこれはあくまでも、小説、つまりフィクションの世界の話である。「クイック」は日経新聞の子会社のシステムであり、このデータが部外に漏れることは考えられない。またこの小説の時代には、このようなデータを収集するシステムもなかったと考えられる。
ところがインターネットの登場で状況は一変している。株価を検索できるサイトはいくらでもある。オンラインの証券会社のサイトがこれを提供しているのは当然としても、それ以外でもいくつものサイトで株価を検索することができる。中には1日のアクセス数が数十万に達するサイトもある。そしてサイトの主宰者がその気になってシステムを構築し、データを収集し、それを株式投資に利用すれば、かなり高い確率で利益を得ることができると考えられる。
問題は、はたしてこのようなサイトのデータを使った株式売買が、インサイダー取引やデータの不正使用に該当するかと言うことである。筆者は、国によって当局の対応に違いがあるのではと思っている。米国では、インサイダー取引にはならないとしても、データの目的外無断使用と言うことで問題となるかもしれない。一方、日本では、ひょっとすると検討すらされていないのではと考えている。
またサイトにデータを目的外に使用する可能性があることを明示すれば、この問題がクリヤできるかもしれない。いずれにしてもこのような行為はグレーゾーンにあると考えられる。冗談ではあるが、このような方法が全く合法的と言うのなら、筆者も出資者を募り、このようなサイトを構築し、株式投資に利用したいものである。
話はちょっと変わる。00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」で述べたようにインターネットを使った通信販売などは、参入障壁が低く、利益を上げることは難しい。つまり誰でも思いつくような商売は儲からないのである。インターネットは、むしろここまで述べてきたような「合法」か「違法」かすれすれの商売に向いていると筆者は考えている。ちなみに米国の代表的なEコマース各社は、売上高は伸びているが、「イーベイ」を除き赤字額が拡大している。
- ナスダックジャパンのスタート
前段ではインターネットを使ったデータ収集の話をしたが、もちろんインターネットを使ったインサイダー取引も問題になる。最近、米国ではFTC(米連邦取引委員会)がインターネットのデータの不正使用と言うことでナスダックの登録企業をいくつか摘発している。そしてこれらの会社の株価は急落している。これ以外にもサーバに不正侵入し、M&A情報を盗み出し、これを使って株式投資で莫大な利益を得たグループも摘発されている。もちろんネットを使った犯罪は、インサイダー取引にとどまらない。
インターネットに関係していなくとも、米国ではインサイダー取引や不正取引は深刻な問題である。大手監査法人「プライスウォーターハウス」の幹部2,698人のうち、過去2年に最低一回のSEC
ルールの違反などを犯したと自己申告した者は、実に1,301人にものぼると今年の始めに報道された。さらに職員の無作為に選び出しによる、ルール違反の推定発生率は86.5%である。つまり大半のメンバーがルール違反の取引を行っていることになる。もちろん監査法人と言うことになれば、インサイダー取引が行われたことも十分考えられる。また他の監査法人でも同様のルール違反が行われていることは容易に連想される。
しかし米国は、株取引のルールがはっきりしている国である。調査官も十分とは言えないまでも沢山いる。一方、日本は法整備が遅れているだけでなく、監査体制はとても貧弱である。これではインターネット時代の株式取引にとても対応できない。
東証の理事長が民間人になるか、それとも大蔵省の官僚出身者がなるかをマスコミは問題にしていた。しかし筆者は、これはどうでも良い問題と考える。問題は東証理事長としてどのような働きをするかと言うことである。もちろん理事長だけで全ての問題が解決するはずがない。 それにしても、ここ数年の間に東証一部に新規上場した企業や企業の従業員が問題を起こすケースが目立つ。そしてそのような企業の株価が異常に高かったのも特徴である。しかしこれらの企業の体質については、おそらく多くの人々が上場前から知っており、問題が生じることも皆が薄々感じていたはずである。そして筆者は、東証がこれまで通り、基準を満たしたからと言って上場を単純に認め、次々にそれらの企業が問題を起こすのなら、東証には役員自体がいらないと考える。
日本では、上場している企業の子会社を上場することを何の抵抗もなく行われている。中には子会社の株価が上昇して、時価総額が大きくなり、これに対する親会社の持ち分が親会社自体の時価総額より大きくなると言う全く矛盾した現象も現れている。一方、米国では子会社の価値は親会社の株価に反映されているものとして、子会社の株式を公開しないのが一般的である。
どうも日本では平気にこのようなことが行われているのは、株式を公開すること自体が異常なメリットを生むためと考えられる。この原因は色々考えられるが、日本の株式の公開市場の働きがいびつと言うことと、日本では慢性的な資金余剰があるためと筆者は考えている。 日本では、株式の公開基準が段階的に低くなっており、今後も多数の株式の公開が予定されている。そして最近の株式公開は、どう見ても株式を公開することによる莫大な利益だけが目的としか考えられないケースが目立つと筆者は見ている。また子会社でなくとも、出資している会社の株式を公開することも同様の矛盾を含むと考えるべきである。
重要なことは、株式を公開する企業の株主に莫大な利益があると言うことは、逆に公開後、それらの株を購入する者は、大きな損を被る危険性があると言うことである。たしかに公開後も株価が上昇を続けるのなら問題はない。しかし東証のマザーズに上場した企業の株価に見られるように、現実はそうなっていない。もちろん株式投資は自己責任で行われるものである。したがって株式投資には、ムードに流されない冷静な判断力がますます必要になってくる。
ところで6月にナスダックジャパンがスタートする。ここにソフトバンクグループは、自らが出資している会社を何百社も公開(新規登録)することを計画している。ソフトバンクは上場会社である。つまり米国の株式市場では絶対に見られない行動を行おうとしているのである。しかし不思議なことにこれを問題にするマスコミは皆無である。また前段で述べたようなインターネット上のデータの取り扱いも、日本でははっきりしていない。このような状況で、ソフトバンクと言う民間企業が強く関与しているナスダックジャパンがスタートする。マスコミも東証理事長の人事と言ったつまらない事柄ばかりを問題にするのではなく、日本の株式市場が抱えるもっと本質的な問題を追求すべきである。
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