平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/5/19(第16号)
  • 為替はどうやら「円高傾向」に動き出したようだ。しかしル-ビン財務長官は「強いドルが米国にとって良いこと」と言う発言を繰り返している。これはどうも以前から筆者が主張しているように、「円の独歩高」の可能性を示唆していると考える。つまり、これは「内需拡大をしようとしない日本の政策の結果」と言うことである。

  • 5/10東洋経済に「株価が警告する危ない会社」と言う特集があった。5月については、以前から金融機関の「5月危機説」と色々言われていたが、その他の企業についても考える必要があるようだ。たしかに、消費税引き上げ前の「駆けこみ需要」で3月に売り上げを伸ばし、一息ついたが、仕入れ代金の手当が付かないと言うケ-スは十分考えられる。長引く不況で体力をなくしている企業も多いはずである。今後は金融機関だけでなく、一般の企業にも信用問題が発生することの可能性はあると筆者は考える。
    最近の金利が低いと錯覚して(4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」で述べた通り、物価の上昇率が低いため日本の実質金利はけっして低くはない)、借入金を増やした会社なども要注意である。


金利と為替を考える
  • 筆者は、本誌で一貫して「金利差で為替水準が変動すると言う考えは合理的ではない」と主張してきた。実際、最近の「円高傾向」を見ればわかるように、金利水準とは関係ない為替の動きとなっている。なかには最近の長期金利の上昇を「円高」の理由にこじつけている論者がいるが、とてもこれでは説明にならない。現在、長期金利は2.5%(一時は2.1%まで上昇)くらいでありであり、これは2月ころの金利水準である。また日米の金利差もほぼ同じくらいであった。当時の為替は125円前後であり、直近の為替水準との「差」を考えると、いかに為替水準を金利差で説明することが根拠のないことかご理解できよう。
    また、長期金利が0.5%上昇したことがどれだけ意味があるか、検証してみよう。現在のレ-トを120円とすれば、その0.5%は0.6円である。米国債の金利に変動がないとしたら、つまり年間で0.6円以上為替が「円安」になれば損をすることになり、米国債で運用していた方が有利になるのである。たつたの0.6円である。榊原国際金融局長が言っているように「過去の為替の年間の平均変動幅は23円」と比べたらいかに小さいかわかる。年間0.6円を稼ぐために円にシフトしたと言う説明がいかに無理であるかわかる。最近の円高は、明らかにほとんど「為替差益そのものが狙いの資金流入」と考えて良いであろう。
    最近の為替相場は、本来、円高に向かうべきところが、反対に「円安」に向かったため(主に金利差があると言って外債投資が増えたため)、矛盾がだんだん大きくなってきていたのだ。現在の円高はこの矛盾の調整である。

  • では円高はいくらになるまで続くのであろうか。残念ながら、最終的な水準は筆者にもわからない。ただ、一応納得できる均衡値らしいものは予想できる。一つは、主だった輸出業者が言っている現在の輸出の採算分岐点の平均である106円であり、この近辺がメドである。ただし、この水準まで円レ-トが上昇すれば、輸入物価も下がり、さらに卸売り物価も下がることになる。つまり、中期的には106円からさらに少し円高の100~103円が均衡値と考える。もちろん為替は市場で決定されるものであるから、行き過ぎるケ-スも有りうるし、反対にそこまで行かないこともある。ただ、時間がたてば均衡値に向かって調整されるはずである。つまり前者の場合は反転することになるし、後者の場合は一段の円高の動きが起こることになる。
    海外投資の累積による利息や配当収入のことを考慮する必要がある段階に来ている。つまり一段と均衡値が円高方向に進む可能性があるが、それについては後述する。
    ただ、先週号で述べたように、今回は政府・日銀の市場介入がないのに、為替動向が反転していることだけは筆者には解せない点である。

  • 現在の「円高」を米政府も容認しているようだ(円の独歩高)。筆者は、資金の日本への還流が「加熱している米株式市場の下落」に繋がると予想した。そのため簡単には「円高」方向への動きを米政府は容認しないのではない(最終的には容認せざるを得ないと考えていたが)かと予想してきた。
    「米株式市場の下落」が起こるとしても、これは内部要因で起こるのであり、「資金の日本への還流」が与える影響はないと言う判断なのか、それとも現在の株価を維持できると言う判断なのか、筆者にはよくわからないが、いずれにしても注目される。

  • 最近、テレビのある番組で「水が高い所から低い所に流れる」ように「お金も金利の低い所から金利の高い所に流れるのが自然」と言っているのにはびっくりした。たしかにリスク(厳密に言えば流動性や税金なども関係してくるが)が同じならこれは正しいが、通常は、金利が高い方がリスクが大きいはずである。また、「リスクを勘案すれば同等になるような水準」に金利は決まると言った方が正しい。つまりリスクを考慮したら、どちらに投資してもほぼ同じようになるように金利は決まるのだ。
    「サラ金」の金利が高いのも、それだけ大きいリスクがあるからである。また、金利が高い所に資金が流れるのなら、「世界で一番金利が低いと思われる日本の国債」なんて買い手がいないはずである。資金は「金利水準とリスク」を勘案しながら裁定取り引きされているのである。金利が高いものはリスクが高く、リスクが低いものは金利も低いのである。極端に有利な金融商品と言うものは存在しないのである。もしそうゆうものが存在すれば、金融機関はそれを一般に売り出しなんかしない。自分達が投資するか、「お使い物」にするはずである。
    内外の金利差についても同じである。この場合の主なリスクは為替差損である。金利は、通常、将来を予告するように物価の上昇率の高い国の金利の方がその分高くなる。物価の上昇率の高い国の通貨はそれだけ将来価値が下がるのであるから、これは当然である。だから米国の方が日本より高いと言うことは、将来為替が円高になると言うことの予告である。つまり、どちらの国で運用してもだいたい同じ結果になるように金利は動いていると言える。
    「金利差による投資が正しいのは為替の変動がもたらすマイナスが金利差より小さいことが保証されている場合」だけである。たしかに円高が進み、これ以上円高には進みにくいと言った局面はこれに該当するかもしれない。

  • 「物価上昇率以上に金利差がある」つまり実質金利で見ても「差」があると言う指摘がある。これは難しい問題である。現在の金利差5%のうち2~3%は両国の物価上昇率の差で説明できるが、残りの2~3%の差の理由がはっきりしないのである。以前は、後者の値が小さく、金利差の説明は物価上昇率の差でほぼ説明がついていたのである。
    筆者はこれに対して一つの仮説を考えている。これは「日本から米国への資本投資の累積」によるのではないかと言う考えである。もっと正確に言えば、米国から日本への投資もあるので、これを差し引いたものである。つまり投資した元本に対して、将来、利息や配当が付くことになり、これが将来の「円高要因」になるわけである。したがって、為替のリスクは「物価上昇率の差異」に加え、「これまでの投資の累積」によって将来発生する「利息・配当」により構成されるのである。これらのリスクをカ-バ-するためには、かなり大きな金利差が必要になる。
    日本政府の経済政策が「内需拡大型」に転換することはほぼ絶望的である。したがって、いまの「円高傾向」が一段落すれば、また、資金余剰の日本から資本流出が続くことになる。つまり海外投資の累積はドンドン増えていくことになる。ようするに長期的には「円高のスパイラル」に入ることになる(実際には既に入っているのであろう)。今後は、貿易収支が赤字でも「円高」が進むと言う事態も考えらる。
    筆者は、円レ-トの均衡値を100~103円と予想したが、「海外投資の累積効果」を考慮すれば、均衡値はもっと円高の水準となる。繰り返すが、残念ながら、これがどの程度なのか、現時点で予想することは難しい。

  • 金利差で為替水準が変動すると言う考えは合理的ではない」と筆者は説明してきたが、これによく似た言い方で「金利差の変動で為替水準が変動」すると言う考えがある。つまり最近では「日米の金利格差が小さくなったから円高になった」とか「今後、日本の利上げが予想され金利差が小さくなることから円高になった」と言う話である。しかし、いずれにしても正しくないと筆者は考える。
    円高が進む過程では「資金が米国から日本に流れてくる」のである。米国の債券を売った資金が日本に流れてきて、場合によっては日本の国債を買う可能性があるのである。これにより米国の金利は上がり、日本の金利は下がることになる。つまり金利差は拡大すると考える方が正しい。理論的にはこの金利差の拡大は円高が進行が止まるまで続くことになる。つまり円高が進む局面では話が、まったく逆になる可能性が強いのである。
    将来の金利動向が今日の為替水準にどう影響を与えるか考えるのはもう少し複雑である。ここでは日本から米国債に投資する場合を考えてみる。
    資金を投資する見返りには、利息や配当などの「インカムゲイン」と債券や株式の価値(価額)の上昇による「キャピタルゲイン」がある。またこのほかに為替変動による為替差益がある。ここで市場に参加する主体を債券の投資家と為替のディ-ラ-だけとする。
    「将来金利が上がる」と言うニ-ュスにどのように反応するかである。ここで市場参加者は「金利差で債券が売買される」と信じ切っているとしよう。為替ディ-ラ-は「金利が上昇するなら米国債投資が増える」と予想し、ドルを買うであろう。すぐにドルの需要がなくても、いずれはドルを高く売れると考えるのである。一方、債券の投資家は金利が上がってから米国債を購入するか、その前に下落した債券を買うか判断がわかれる。下落した債券を買って、さらに一段の下落があれば、「キャピタルゲイン」の反対の「キャピタルロス」をこうむるからである。債券の投資家は金利格差の動向より、むしろ金利格差そのものの大きさに関心があるかもしれない。つまり長期に運用するなら多少の「キャピタルロス」があっても、それを上回る大きな「インカムゲイン」があれば良いと言う考えである。また、金利上昇の理由がリスクの増大を意味するときは、債券を買い増しをするより、むしろ売却する方が合理的な場合さえある。
    このように金利差と為替の関係では、市場の参加主体によって、ポイントが異なるのである。これまで、債券の投資家は「金利差があるから外債投資が増え円安となる」と言い、為替ディ-ラ-は「金利差が今後拡大するから外債投資が増え円安となる」と言ってきたのである。
    テレビなどの報道機関の解説者や多くのエコノミストと言われている方々は、これらの人々の話を鵜呑みにし、聞いてきた話をストレ-トに話しているだけである。そのため日によって「円安」の説明が異なっていたのである。しかし、市場参加者が、自分達が考えていることが論理的に正しいと言う自信があまりないので、「政府要人」の発言一つで狼狽し、結果的には簡単に相場は反転するのである。
    さすが現在のように、一旦、円高傾向に相場が変わったら両者とも合理的な説明はできない。2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」の後半で述べた通り市場のル-ルが変わったのである。
    もしこのまま「円高」が定着し、以前の水準の「円安」に戻らないとしたら、最近外債を購入した人や外貨預金をした人は大損することになる。また、2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」の最後で警告したように外貨預金もリスクを伴うものである。
    たしかにちょっと前までは、外貨建て資産に投資するのが当り前であり、利口なことと受け止められていた。社会全体がそういう根拠のない「空気」に支配されていたのである。マスコミもそれを助長したのは事実である。ム-ドに弱いのはなにも日本人だけではないが、今回はちょっと気になる点がある。これについては別の機会に述べたい。



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97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」