- 「B to B」の実態
日本の企業の間では、Eコマースが注目を集め、多くの企業が「余った経営資源をネット関連事業に投入する」と発言している。このような傾向は企業だけに止まらず、一般の人々にもちょっとしたブームになっている。コンピータメーカのテレビコマーシャルも「少ないコストで、誰もがネットでの商売を始められる」と囃し立てている。これをどう見るかが今週号のテーマである。
まずEコマースは、ネットを使った企業対企業間取引、つまりB to Bと企業対消費者のB to Cの二つに分けられる。前者の「B to B」は部品などの販売や仕入を世界的にネットを使って行おうと言うことである。しかし日本の多く企業グループや系列の間では、閉じられた形であっても電子取引は既に行われているケースが多い。セットメーカと部品メーカの間がそうである。この他にも一般の商品でも系列を通して販売される物はシステム化されている。特約店や代理店からの発注データは、メーカに送られ、このデータを加工して配送会社のコンピュータに送り、これを元に翌日の配送計画が自動的に作成される。
「B to B」はこのようなデータの流れを、企業の専用線ではなく、インターネットを使って行うと言うことである。たしかに通信コストは安くなるはずである。しかし通信コストの問題だけで、全ての企業がすんなりこれまでのシステムを捨て、インターネットに移行するとは考えられない。もっと大きなメリットが必要である。「B to B」のポイントはネットを使うことによる取引企業の拡大、そして売上増と仕入コストの削減である。
このように「B to B」の本質は、単に企業が技術的にネットを通じて取引を行うと言うことではなく、系列を越えて取引を行うかどかと言うことである。たしかに「B to B」により、仕入コストは安くなると思われる。したがって「B to B」による取引額がこれから飛躍的に伸びると喧伝されている。筆者も取引額自体は伸びると考える。
しかし筆者は、ネットを通じて見ず知らずの相手との新規の取引が飛躍的に伸びるとは考えない。取引には常に信用と言うものがついて回る。したがって大半は既存の取引がネットを通じた取引に替わるだけと考える。いわゆる「業務の改善」である。特に日本企業が、従来の取引先との関係をなくし、どんどんネツトを通じた新規の取引先との取引を拡大すると言うことは絶対に起らないと思われる。
「B to B」の目的は、企業にとってはっきりしている。コストの削減である。しかしこれは目標であって、必ずしも実現するとは限らない。確実に儲かるのはネットのインフラを提供する企業である。一方、国民経済全体では効果の予想は難しい。設備投資の増大はプラスの効果である。実際、IT関連の投資は増えると予想される。一方、「B to B」により取引先の見直しが進み、万が一脱落する企業が発生することになれば、失業が増える。したがって「B to B」のトータルの経済効果は、両者を足したものになる。 重要なことは、企業にとって「B to B」が当初予想の反して、収益を生まない場合には、IT関連の投資も尻すぼみとなることである。この場合にはまた日本は過剰設備が追加されることになる。このように「B to B」は企業にとっても、国にとっても不確実なものが伴っている。筆者の意見と感想は最後に述べる。
- 「B to C」の実態
一般の人々にとって、Eコマースでなじみやすいのは「B to B」よりも「B to C」(企業対消費者)の方である。卑近な例はネットによる通信販売である。しかし筆者の感想では、世間は「B to C」の将来性を過剰に期待している。ネットを通じた「B to C」は実に広範囲なものが出現している。しかしよく観察してみると、ほとんどが通信販売の類いである。たしかに中にはネットによる販売に適した商材もあり、これらはネットによる商売が主流となる可能性もある。
しかしほとんどの「B to C」の通信販売は利益が出るほどには伸びないと考えられる。実際、現在有名な電子モールに出店している所はほとんどが赤字と思われる。たしかにネット上に店鋪を持つこと自体のコストは小さい。そして乗り遅れるなとマスコミも煽っているが、簡単には売上は伸びないのである。 たいした実績がないネットビジネスでも株式を公開すると言うことになれば、とんでもない高い株価がつく。ところで筆者は、多くの株式を公開しようとしている日本のベンチャー企業の経営者を「タレント」と考えている。証券会社が芸能プロダクションであり、プロデューサーである。
事業に伴う収益を得るかどうかの最大のポイントは参入障壁である。その事業分野が成長していても、参入障壁が低ければ、たちどころに競争相手が現れ、価格競争が行われることになる。つまり参入障壁が低ければ、いくらコストが小さくても、利益を生まないのである。 ネツトの通信販売はこの参入障壁が極めて低い。仮に誰かが何かの通信販売で成功すれば、どっと参入者が増えるのである。このためネットで成功するには、事業者はユニークなもの、あるいは独占的に供給する商品を用意する必要がある。しかし現実にはそのような商材がゴロゴロ存在しているはずがないのである。もっともこのような商品なら、なにもネットによる通信販売でなくても、他の方法で収益を上げることができると思われる。
ネット上の証券会社が注目を集めている。たしかに株式はオンラインでの取引に向いている。しかしオンラインを行っている証券会社が儲かるとは限らない。利益が上がるとすれば、どっと参入者が増えるはずである。そして手数料以外での競争は難しいのであるから、激しい価格競争になると考えられる。ネット上の銀行も同様である。米国では口座を作ってくれれば100ドルをプレゼントすると言う銀行さえ現れている。これらの企業は赤字の企業が多く、場合によっては永久に赤字と言うことも考えられる。
たしかにネットに向いた商品もある。古書などはそれに該当するであろう。また世間から顰蹙を買うようなきわ物も向いているかもしれない。しかし大きな企業が大量販売するものがネットに向いているとは考えない。ネットによる通信販売は、しばらく伸びると思われるが、収益が伴わなければ、いずれ頭打ちとなる可能性が強い。
ネットビジネスでは、よく一人勝ちと言うことが言われる。しかしこれはそれだけ市場が小さいことも意味している。さらに「一人勝ち」になりやすい原因としてマスコミの働きが考えられる。各分野の一番のサイトがマスコミによく取上げられるからである。そのサイトにとっては宣伝広告費がそれだけ節約できるのである。そしてこのネットビジネスにとってこの宣伝広告費がキーポインになる。
商売用のホームページを作っても誰も見に来ない。個人のページなら口コミでアクセスは増えるかもしれないが、よほど特徴のある商材を扱っていない限り、企業のページは見られない。そのため告知が必要になり、宣伝広告費が必要になるのである。米国でもいくつもの有力サイトがアメフトのスーパーボールのテレビ中継に多額の宣伝広告費を出したことが話題となった。つまりアクセスを増やすために莫大な経費が必要なのである。
日本でもネットでアクセスを増やすビジネスが盛んである。しかし問題はコストの大きさである。この分野では色々なやり方があるので費用対効果がはっきりしない。そこで一つの目安として、クリック保証のビジネスが参考になる。1クリックが70円から100円が相場である。しかしこの値段で採算が取れる商売がどれだけあるだろうか。1個5,000円の商品で、粗利率が4割とすれば、粗利額は2,000円となる。要するに20クリックから29クリック当り1件以上の注文がなければ、宣伝広告費さえ賄えないのである。一体このようなうまい商売がそんなにあるだろうか。そこでネットで宣伝してアクセスを確保し、利益を上げるにはよほどの商材を扱う必要がある。「いけない物」を扱うのならいざしらず、まともな物はまず商売の対象にはならない。
アクセス関連のビジネスの提示する単価はこのようにべらぼうに高い。これを支えているのは大企業である。大企業は高いコストを掛けホームページを作っている。しかしアクセスがなければ意味がない。そこでどうしても採算無視で有力サイトに広告を出すことになる。そしてこの価格が一般に広く影響しているのである。筆者は、このような状況がいつまでも続くとは考えない。こころなしか有力サイトへの広告出稿量も最近減っている印象を受ける。
「IT革命」と言われ、ネットビジネスはこれからの成長産業と言われている。その中心がEコマースと言うことになっている。しかし筆者は、その楽観的な見方に否定的である。また通信費が下がれば、Eコマースは盛んなると言っている世間知らずの経済学者がいる。しかし筆者は決してそんなことはないと考えている。
たしかにIT関連の設備投資が増えている。しかしこれが将来も継続して増えていくためには、投資に対するリターンが確保される必要がある。「B to B」に関してはまだはっきりしたことは言えないが、一応今後も日本では投資が継続されると考えるが、これが経済全体を力強く引張るような力はないと考える。「B to B」の限界が理解されるには多少時間を要するのである。 一方、大企業の「B to C」に関しては、ブームが終わるのも時間の問題と考えている。また先週号で述べたように日本におけるインターネットの利用者数の伸びも頭打ちになっていると思われる。むしろ個人や小規模企業のサイトでの「B to C」の方が続くと思われる。 よくEコマースの今後の金額の大幅な伸びを予想したデータがあるが、これは「B to B」と「B to C」を合計したものである。圧倒的に「B to B」の金額が大きいはずである。「B to C」は、しばらくは伸び率が大きくても、金額的にはたいしたことはない。
最近、自律的な景気回復が可能と言う意見が多い。その根拠が「IT革命」と言うことらしい。筆者は、そんなことに浮かれているのではなく、政府は確実な追加景気対策を確実に行うべきと考える。IT関連の投資増加はあくまでも「おまけ」である。いずれにしてもEコマースについては、もっと述べたいことがあり、そのうちもう一度テーマとして取上げることにする。
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