- デフレ経済下の治安の悪化
日本の会社、あるいは企業はある意味で特異な存在である。日本の会社は、従業員から税金を源泉徴集する税務署の役目し、従業員の健康管理を行う保健所の役目をこなす。また従業員に教育を施す学校の役目や年金の事務まで行っている。この他に会社は社宅の運営、住宅融資、社内預金、保養所の運営、そして組合費の天引までやっているのである。
政府の徴税コストや社会保険料の徴集コストなどが他国よりも低いのは、実務を会社が方替わっているからである。このためか日本の公務員の数は決して、他の先進国に比べ多くはない。しかし日本の企業は、このため余分な経費を使い、利益も少なくなっている。もっとも利益が小さくなるので、その分法人税も小さくなっている。このような面倒なことは会社が利益を削って行うか、それとも国や自治体が税金を使って行うかと言うことになる。これまでは会社が行ってきたのである。特に大企業は、本来失業するはずの社員を社内失業者と言う形で、会社の内部に抱えるのが普通であった。これなんかは事実上民間が行っている一種の失業対策である。
一般的に事業は、公共事業体が行うより、民間が行う方が効率が良いと言うことになっている。つまりこれまでは会社と言う民間が社会福祉や失業対策の一部を、税金を納める代わりに行って来たのである。しかし経済のグローバル化と伴に、会社を取巻く状況は変わった。まさに競争が世界的になった。日本企業の株主も外国人が増えている。つまり会社も余計な事をせずに、利益を生み出すことを求められるようになったのである。具体的には福利厚生費のカットと余剰人員のリストラである。
一方、政府や地方自治体は、小さな政府の大合唱の元、公務員の数を抑えようとしている。つまり民間も公共も人を放出しようとしているのである。当然、その谷間に落込む人々が発生するのである。今日、そのような人々を、「運がない」とか「本人の問題」と言う言葉では済ませられない段階に来ていると筆者は考えている。
日本においては、ここまで述べてきたように、会社は実に多くの働きをしてきた。たしかに、会社のこのような行動に対しては、「会社人間からの脱却」とか「個の確立」と言う観点から否定的な意見も強い。筆者も日本の会社はちょっとやり過ぎと思う。しかし日本の会社が行って来たこのような働きを、利益の確保のためとか時代にそぐわないと言う理由で、今になって簡単に放棄することが良いとは思われない。社会が成り代わって、会社がやってきた働きを行う態勢にはなっていないからである。正確には、態勢がないと言う以前に問題意識もないのである。
日本は治安の良い国であった。しかし最近奇妙な事件が目立って多くなっている。そしてこれらには共通する特徴がある。筆者の印象では、このような問題を起こすのは、目立って若い「無職」の者達である。もちろん無職だから問題を起こすと言うわけではない。 昔、偉い経済学者が、日本の雇用状況を「完全雇用ではなく全部雇用」と称していた。実に適確な表現である。要するに自分の職業には必ずしも満足していないが、とりあえず職に就いていることを意味している。貧しかったせいもあり、とにかく昔の日本の社会では、ブラブラしている者が極めて少なかった。
過去の日本においては、会社は警察でもあった。ただし犯人を捕まえる警察と言う意味ではない。会社は防犯組織として機能していたのである。無断欠勤も会社の一番嫌う行為である。つまり会社は社員を管理しており、これが社会の秩序の維持に役立っていたことは事実であろう。 ところが最近の日本においては若年層の失業が急増している。たしかに世界的に見ても、失業者の増大は治安の悪化の大きな原因である。日本も例外でないと思われる。さらに現在の雇用状況を見ていると、若年層の失業者数は今後も着実に増えると予想される。したがって日本の治安が今後さらに悪化することが懸念される。
デフレと言う経済の縮小と、犯罪の因果関係を直接的に結び付けるデータは持ち合わせていない。しかしデフレによって失業者が増えることは明らかである。特にこのしわ寄せが、日本では若年層に片寄っており、これが奇妙な犯罪の増加に関係していると考えるのも自然である。デフレ経済は単に物価が下がり、失業者を生むだけではなく、徐々に治安にも影響を及すのである。したがってデフレの解消が、若年層の失業問題の全てを解決させ、直ぐに治安を改善させるとは思わないが、少なくとも一段の悪化をくい止めることにはなると考える。
先週号では若年層のフリータの問題を取上げたが、若年層の失業はもっと深刻な問題である。しかし一番の問題は、社会全体がこの問題に関心が薄いことである。デフレを解消することで、この問題がある程度でも解決するなら、財政の赤字が増えても、政府は対策を講じるべきである。
- インフレは本当に悪か
デフレは先週号から述べているように、社会に大きな悪影響を及す。しかしデフレの場合、どうしても影響が片寄るため、一般には軽視されがちである。そして日本のデフレ経済は10年くらい続いており、その弊害も徐々に顕著になっている。自殺者の数も異常に多い。一人の自殺者の後ろには、それに近い状況の人々が何倍もいるはずである。
無責任なエコノミストは、企業の競争力を付けるためには、いまだにリストラが不十分と言っている。そして彼等が必ず付加えるのは、リストラに備えたセーフティーネットを用意しろと言う主張である。しかし彼等は、肝腎のセーフティーネットの内容を具体的に述べない。筆者は、彼等が使うセーフティーネットと言う言葉が嫌いである。よく考えてみると「セーフティーネット」とは、これまで日本の会社が行っていた社内失業者の囲い込みや、政府の公共事業による失業対策ではないか。しかし彼等はいつもこのような公共事業には反対しているのである。最近、彼等は「IT革命」で失業問題も解決すると、また歯の浮いたことを言っているのである。
以前は景気が悪くても、会社は簡単には人員を整理することはなかった。会社はまさに「セーフティーネット」として機能していたのである。本来ハローワークは対象がブルーカラーであり、ホワイトカラーの就職の斡旋を前提にしていない。ましてや新卒者が就職にあぶれるような事態は過去にはなかった。文部大臣は最近、新卒者をなるべく会社が採用してくれるよう、経済団体の長に手紙を送った。悲しいが、笑えない話である。つまり全部雇用が当り前だった日本では、公共事業を除いて、失業対策はないも等しいのである。
筆者は、現在必要なのはマクロ経済政策であり、大きな需要の創造である。インフレが起るくらいの規模の内需拡大政策である。昨年政府は、ある程度の景気対策を行ったが、企業のリストラ圧力、地方の財政難そして地下の下落によって、効果がかなり減殺されたのである。つまりあの程度では不十分だったのである。
不思議なことにこれだけ問題の多いデフレには注目が集まらず、一方、インフレは「悪」と言う観念が蔓延している。インフレが「悪」とは一体誰が決めたのであろうか。国民のほとんどがみごとにマインドコントロールされているのである。 ロシアの経済が好調になっている。原因の一つは原油価格の上昇であるが、主な原因は2年前の経済危機によるインフレである。2年前ロシアは財政難で公務員の給料が払えなくなくなった。そこでロシア政府は紙幣をどんどん印刷して、それで給料を支払った。この結果、もの凄いインフレとなった。もっともこれを行わなかったら、エリツェン政権は潰れていたと思われる。
歴史的に見ても、物凄いインフレが起るのは、財政難で切羽詰まった状況下、政府が国民の人心を落着かせるためお札を大量に発行した場合である。しかしこれを行わなければ、物価上昇よりダメージが大きい混乱が社会に起るのである。日本でも終戦当日に大量の日銀券を大量にトラックで日銀から運び出した。その結果、日本でもインフレになったが、これを行わなかったら、終戦直後の混乱はもっと大変であったであろう。
ロシアの話に戻る。大量の紙幣の発行により、ルーブルは大幅に下落した。このため、輸入品の物価が急上昇した。ロシア国民は輸入品が買えなくなったため、自分達で食料品や製品を自分達で作るようになったのである。この結果、生産は伸び、経済成長率も大きくなったのである。 またインフレの常習国ブラジルはロシアの経済危機に前後して、やはりインフレとなった。しかしその後のロシアと同様に経済は持直し、今年はプラス成長に転じている。
何も考えていないエコノミストや中央銀行は、インフレが国を滅ぼすようなことを喧伝しているが、事実は全く逆である。インフレで困るのは働くことがない金利生活者と年金生活者、さらに強いて言えば公務員だけである。 インフレの常習国ブラジルでは、今年も例年通り盛大にリオのカーニバルが開催され、ロシアは大きな貿易黒字を記録している。インフレを起こした国の国民はハッピーになっているのである。 一方、デフレ経済の日本では奇妙な犯罪が増え、自殺者の数が記録的である。金利は史上最低水準なのに、世間では財政再建の声が日増しに大きくなっており、野党は「財政再建の十カ年計画」を用意している。このような日本の状況を見ていると筆者も頭が痛くなる。
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