- 日本の長期債務残高の現状
国の債務残高が増大している。国債残高だけでも99年度末には335兆円に達する見通しである。これに各種の借入金と地方の債務が加われば、600兆円を超える。そして2,000年度末の国と地方の債務残高は645兆円になると予想されている。これは国民一人当り500万円を越えており、対GDP比は130%前後となる。特に後者の数値は先進七カ国の中で最高水準である。このためか世間では、これ以上の財政支出による景気対策は限界とか、すぐに財政再建を始めるべきと言う声が大きくなっている。また膨大な公的債務残高に人々は将来の不安を感じており、これが日本の小子化の原因だと言う極端な意見もある。
一方、むしろ日本の財政状況は極めて健全と言う意見もある。たしかに債務残高は大きいが、資産も大きい。つまり日本の純債務は決して大きくないと言う主張である。OECD(経済開発協力機構)の統計では、日本の純債務のGDP比は21%であり、先進七カ国の中では最低である。すなわち日本の財政が一番健全であることを示している。ちなみにドイツは50%、米国は46%である。
両者の意見は真っ向から対立していが、筆者は、現在のところ後者の方が正しいと考える。ところでOECDの統計に対しては、日本の財政赤字を問題にする人々は、日本政府が所有している資産の内容を問題にすると思われる。しかし筆者は、各国とも資産については同じような問題があると考え、少なくとも日本の財政債務の残高だけが異常と考える根拠はないと思っている。一つ問題点を指摘すれば、最近の債務残高の増え方がちょっと大きいと言うことである。もっともこれには、橋本前政権の経済政策の失敗よる税収の落込みと、景気対策のための財政支出の増大と言う特殊要因がある。
しかし債務問題で最大の問題点は、債務残高自体の大きさではなく、債務問題の存在をことさら強調し、財政の再建を唱える意見や勢力が大きくなることである。来年度の予算案も中途半端な規模であり、決して景気を下支えするには十分ではない。これも財政事情が厳しいと言った意見の影響であろう。地方債発行が限度まで来ている地方はもっとひどい。地方では対前年でマイナスの予算が予想される。都に到っては、大手金融機関への外形標準課税構想と言いだすしまつである。これでは景気対策を行っているのか、景気の足を引張っているのか分らないのである。
ただし「累積債務問題は問題でない」と言っているだけでは説得力が乏しい。そこでこの問題を解決する方法、あるいは道筋と言うものを示して、理解を得るのが良いと思われる。本誌では、今週号から取りあえず二つの解決方法を提案することにしたい。
- 債務残高と相続税
政府の財政赤字の累積問題は、それほど重要とは思わなかったので、これまで本誌ではほとんど取上げてこなかった。例外は97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」であり、ちょうど3年も前のことである。そして解決方法の一つをそこで述べた。今週号では、これについてもっと詳しく、具体的に述べることにする。ただしここからしばらくは、話を分りやすくするため債務を国債に限って話を進めることにする。
国債残高は、現在のツケを責任のないはずの子々孫々に渡すものと言われている。しかしこれは正確ではない。子々孫々は生まれながら、労せず公共物を使用できるのである。もし子々孫々の税金で国債を消却するなら、その負担は公共物の使用料とも考えられる。さらに子々孫々は国債と言う負債を受継ぐと同時に、国債と言う資産を引継ぐのである。特に日本のように国債のほとんどが国内で消化されている国では、日本人が国債と言う借金を返済し、同じ日本人がそれを受取ることになる。つまり国債の消却は異世代間のやりとりの問題ではなく、むしろ同世代の者同士の問題である。
ところで日本には、所得のようにフローに掛かる税金の他にストックに掛かる税金がある。代表的なのは相続税である。日本の相続税は昔から過酷と言う評判である。三代で財産もステッテンになると言う話もある。したがってこの話が正しく、もし相続財産が国債だけと言うなら三代つまり100年くらいで、相続税だけで国債は消却が可能と言うことになる。つまり累積債務問題は100年のうちに自然に解決することとなる。国債の残高が増大しても、相続財産が増えるため、相続税が増えるのである。しかし現実は多少違うようである。
ここから話を相続税全般に広げる。順調に伸びていた相続税額も最近は伸び悩んでいる。原因の一つはバブル崩壊による資産価格の下落である。この他の伸び悩みの理由として、筆者は、日本人の平均寿命が伸びていることと、相続税対策が巧みになっていることを指摘したい。特に後者は問題である。例えば意味のない財団を設立し、そこに資産を寄付すると言った行為が目立つ。明らかに相続税対策である。客観的に見て、相続税対策を行う場合とそうでない場合には、相続税額に大きな開きが生じることが問題である。ちなみに平成9年度の相続税額はたったの2兆円である。
ところで資産家の資産が、消費されていたり投資や寄付されているのなら、経済の循環上で問題はない。問題は資産が預金されている場合や壺に保管されている場合である。特に後者の場合には完全に経済の循環から漏れてしまうのである。また預金されている場合も問題がない訳ではない。以前のように金融機関に集まった資金が投資に回されていた時代は良かったが、現在のように融資が預金額の伸びに追い付かない状況では、金融機関も国債を購入せざるを得ないのである。つまりその分の有効需要は減ることになる。一方、政府もこれによって不足する有効需要を補うための国債を発行せざるを得ない状況である。
ここで日本は二つの方法の中からの選択に迫られる。一つは、現状のように国民の持っている澱んだ資金を国債で吸上げ、これを財政支出の財源とする方法である。もう一つは相続税の課税を適正にし、税収を増やし、その分国債の発行額を減らす方法である。これについては澱んだ資金を税金として徴収するのであるから経済への影響も軽微と考えられる。たしかに澱んだ資金が減ることは金利上昇の要因となるが、国債発行額が減るのでこの動きは相殺されると考えられる。結論として、国の累積債務問題の一つの解決方法はこの相続税の執行の適正化である。もっともこれには相当の時間を要することはたしかである。
話はちょっと変わる。バブル崩壊で金融機関は大量の不良債権を抱えたが、一方では地価が高い時代に土地を売却した人もいるのである。この大量の資金が今銀行に眠っているのである。このような現象は諸外国ではちょっとないことであろう。したがって日本では、国債を発行して、この資金を経済の循環に戻すことが行われているのであり、このような国債の大量発行は決して異常なことではない。
ところで相続税には色々問題がある。相続税は税率が高いことだけが問題にされているが、それ以外にも色々時代に合わないところもある。しかしこれについては別の機会に述べたい。しかし少なくとも税理士が活躍すれば、納税額に大きな違いが生じると言う税の執行状態自体がおかしい。また、今後、相続税対策として資産を海外に移転させる者も増えると思われる。これに対する対策も必要となろう。
続いて、前述したような税法の適正な執行以外で、相続税収を増やす方法を提案する。それは積極的に国富を増大させ、相続資産額を大きくすることである。一つの方法は農地を宅地に変えることである。例えば関東平野の農地のほとんどを宅地に変えるのである。宅地にするためには大規模な交通インフラの整備を行う必要がある。筆者は、大深度地下を使った高速地下鉄の建設を念頭に置いている。宅地として使える農地は宅地として使い、地方で農業にしか使えない土地は農業に使うべきと言う考えである。地方には休耕田として使われていない土地が沢山あるのである。そして宅地が大量に増えれば、たとえ都心の地価が多少下落しても、全体では資産は増大するはずである。このような相続財産を大きくする政策によって、将来、相続税収も増えることになる。
ここまで述べたように相続税収の増加は国の長期債務問題解決にとってプラスである。もちろん相続税だけで債務問題が解決すると思わないが、相続税の増収によって、債務の金利増加分くらいは全てカバーされることがはっきりするのなら、国の債務残高を問題とする声も小さくなると考える。
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