平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/5/12(第15号)
  • 筆者は3/31(第9号)「日本の株式を考える」で「日本の株式相場もそろそろ上がり始めても良い頃」と予想した。また為替についてもいつ「円高傾向」に転換しても不思議がないと主張してきた。ここに来ての株式相場の上昇や円の急騰を見ると、筆者の予想もどうやら当っているように思われる。これで「ニュ-ヨ-クの株式相場」が下落すれば、筆者の予想はパ-フェクトと言うことになる。
    しかし、ここまでの経過を厳密に見ると筆者の想定とちょっと違うようだ。
    筆者は、最近の「円安」により輸出が急増し、これにより日米政府合意のもとに「円高誘導政策」が採られ、資金の米国から日本への資金の還流が起き、「円安是正」がなされ輸出にブレ-キがかかり、最終的に政府は「内需拡大策」を採らざるを得ないと言うシナリオを考えていた。
    筆者は、まず資金の一部が土地に向かい、そのことが株式市場にも好影響を与えると考えていた。そうなれば上昇する株は土地関連と言うことになる。ところが実際上昇が目立つのは輸出関連の銘柄のようである。「円高傾向」を前提にすればこれはおかしなことである。本格的な回復はやはりもう少し先のこととなるのか。
    次に、政府・日銀の介入なしで為替動向が転換することもちょっと解せない。2年前政府・日銀 は円高是正のための介入でかなりのドルを80円近辺で買っているはずである。つまり現在の相場で売ればかなりの利益が得られるはずであり、そのチャンスをみすみす見逃す手はないと筆者は考えるのである。それとも再度、為替動向が転換し、一段の「円安」の局面を予想しているのか、ちょっと注目される。
    日本政府は「円安是正」がやむなしと考えているようだが、米政府はそのことが米国からの「資金」の急激な流出のきっかけとなり、米国の金融市場が混乱することを警戒している。米国の言い分は「日本が内需拡大政策を採ることが先である」と言うことであろう。為替水準については「円高」はしょうがないが、「ドル安」はこまる。つまり狙いは「円の独歩高」であろうか。とにかく米政府のスタンスはちょっと中途半端に思われる。


  • いまのところ、「円高」への転換と進行は政府要人の発言が大きく作用している。ところが一方ではいまだに「為替の変動を金利差」で説明している向きがある。たしかに日本の長期金利は少し上昇している。しかし、これらの人の説明では、政府要人がそれを見て「円高誘導」の発言を行っていることになる。実際、これらの政府要人はかなり前から同じ主旨の発言を行っているのであり、金利の最近の動きは関係ない。ただ、「金利差で為替水準が動く」と固く信じている人が多いのなら、今後は金利を動かすことを示唆するだけで(実際に動かす必要はなく、それらしい事を発言すれば良いのだ)簡単に為替相場を操作できると考えられる。
    筆者は、最近の長期金利の上昇は外人投資家の「日本の債券」から「日本の株式」への資金の移動が原因と考えている。彼等はかなり以前から日本の株式を買っていた(かなり前から日本の株式のイ-ルド・スプレッドも低くなっており、表面的には投資対象としては良く見えたのであろう)が不良債権問題でもたついていた日本の株式にいやけがさし、しばらく債券に資金をシフトして運用を行っていたのであろう。そのためか日本の長期債券はかなり買込まれていたのは事実である。これに関しては4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」の冒頭で「国債が仕手化」 と表現し、これ以上の投資の危険性を警告しておいたつもりである。たぶん、4月に入って不良債権問題に一応メドがたったと判断し、これらの投資家が債券を売却し、その資金をいよいよ株式に投入して来たのであろう。米国からの新規の資金が日本の株式市場に入ってきていると言う報道とも合致する。つまり最近の株式相場の上昇はいずれにしても外人買いが大きな要因となっていると考えるからである。


  • 米国の国際収支の許容限度の基準が経常収支のようだ。貿易収支(貿易・サ-ビス収支)ではなく「経常収支」と言うことになれば、外債投資の残高が多い日本とっては重大なことである。これが意味することは「今後は日本経済が内需中心に運営をせざるを得ない」と言うことである。
    米国政府の見解は「GDPの2.5%以上の経常黒字は貿易摩擦を招く」と言うことらしい。今後は、為替相場の動向を考える時にはこの数値に注目すべきであろう。つまり、決して注目するのは日々の金利の変動ではない。
    また最近の報道で「金利が高い」と「金利が高くなる」あるいは「金利格差がある」と「金利格差が広がる」をそれぞれ同じことのように扱っているケ-スがある。これらはそれぞれ全く違う概念であり、経済に及ぼす影響も異なる。来週はこれについて述べてみたい。


規制緩和と景気を考える
  • 日本では最近「規制緩和」について色々議論がなされており、政府の方針も経済事項については原則撤廃の方向で動いている。とくに金融についてはいわゆる「日本版ビックバン」として具体的なスケジュ-ルも示されている。ただし、これについてはテ-マとしてはちょつと大きすぎるので、そのうち何回かに分けて論じたい。
    デ・レギュレ-ションの本来の意味は「規制の撤廃」のことであり、「規制の緩和」として受けとめられていることに象徴されるように、日本では必ずしも積極的に取り組んではこなかったことは事実である。この結果、「卸売り物価」と「消費者物価」の差はかなり大きくなり、内外価格差も大きいままである。
    世間では「規制緩和」が進めば、物価が下落し、需要も増大し、景気も良くなると考えられている。今週号ではこれらの点を検討してみたい。
    「規制緩和」と言った場合、法律による規制の他に社会の慣習による規制や税制までも関係しいくるが、ここでは取り敢えず「法律による規制の緩和」に話を絞りたい。

  • ただし、「土地」に係わる規制は特別と考えるので、まずこれについて述べる。たしかに「建築法の容積率の緩和」や「都市計画法の用途規制の緩和」は、土地取り引きを活発化し、住宅価格の低下を招き、住宅建設を増やし、景気にはプラスになると単純に考えても良いであろう。また、税制の改正がこれに伴えば一層効果的であろう。
    ただ、これが行き過ぎるとなんのための建築法や都市計画法かわからなくなってしまうのも事実である。
    また、土地については、内需拡大政策に深く関連してくるので別の機会にまた述べたい。

  • ではその他の一般的なケ-スで、「規制緩和」が経済に及ぼす影響を考えてみる。話を分かりやすくするため、「規制緩和」ではなく「規制強化」のケ-スで考えてみる。例えば「環境基準」が強化された場合である。工場は「環境基準」をクリアするために設備投資を行うことになる。この点では「規制強化」が新規の設備投資を誘発し、むしろ景気にはプラスに働くことになる。しかし長期的に見れば、環境基準の強化は海外の企業との競争上ではその分マイナスとなり、結果的には工場を規制の緩い海外に移転せざるを得ないかもしれない。そのような場合は反対に景気にはマイナスとなる。
    このような簡単なモデルでもわかるように、「規制緩和や強化」が景気に及ぼす影響を予測することはそれほど簡単なことではない。まして「規制緩和」が失業を生む場合は、極めて複雑になる。特に「労働市場が膠着的」と言われる日本においては、深刻な事態になる可能性がある。
    「規制緩和」が進めば、市場の競争原理が働き物価が下落することは予想することができるが、景気にどのような影響があるかは、状況によって変わってくると筆者は考える。

  • 経済企画庁や各種シンクタンク、学者が「規制緩和」が日本経済に及ぼす影響を試算している。だいたいのアプロ- チは次の通りである。
    1. 内外価格差が縮小すると仮定
    2. 生産性格差が縮小すると仮定
    3. 消費者物価指数の上昇率が卸売り物価指数の上昇率の一定範囲内(例えば1%)に収まると仮定
    アプロ- チに違いはあるが、結果は次のところまでは共通している。
    1. 「規制」で守られている分野の産業(日本では比重が大きい)において、競争が活発になり、価格競争が起こる
    2. この結果、物価が下落し、実質国民所得は増大する
    3. 「規制緩和」が行われた産業から失業者が出る
    筆者もここまでは共通の認識である(ただ失業については、規制緩和の程度にもよるが、そんなに大きなものとはならないと考える---新入社員の採用は確実に減るが)。問題は失業者の行方である。証券会社系のシンクタンクの一社を除きほとんどの予想は、実質所得の増大により失業者数以上の雇用が創出され、失業問題は解決されると極めて楽観的である。
    筆者は日頃から、 識者と言われる人々が、テレビなどで「失業対策や内需拡大のためには規制緩和を急ぐ必要がある」とさかんに発言しているのを聞きながら奇異に感じていた。これらの意見の根拠がこれまで述べてきた「試算」だとしたら問題であると考える。なぜなら「実質所得の増大による雇用が創出効果」がそれほど大きくはならないと筆者は考えるからである。

  • 基本的に、「規制緩和」による物価下落により起こることは「規制緩和がなされるセクタ- からそこの生産物を消費しているセクタ- (必ずしも消費者だけではない)への所得の移転」と筆者は考える。問題は増えた所得が全て使われるかである。貯蓄に回る部分があれば、失業者は雇用されない人もでてくることになる。
    だいたい消費と言うものはそんなに増えたり減ったりするものではない。(バブル期に見られたな高級品や絵画などの購入は消費と言うより半分投資と考えるべきであり、いま述べている消費とは性質が異なる。)また消費は名目所得の伸びにより増大するものであり、物価が下がることによる伸びは大きくないのである。
    実際、逆に物価が上昇する方が消費と言うものは増えやすいのである。つまり貨幣の価値が落ちる前に早く使おうと考える方が自然である。消費税の増税前の駆けこみ需要はその典型である。
    「規制緩和」による波及効果は徐々に現われるものである。つまり物価はダラダラ下がってくるのである。そうなれば急いで消費せずに貯蓄した方が有利と考えるのは当然である。したがって物価下落によって実質所得の増加があっても消費の増大はあまり期待できない。
    ただし輸出産業には「規制緩和」はプラスに働く。製造コストがその分安くなるからである。この結果輸出は増え、その分所得は増える。筆者は「規制緩和」により雇用増の方が大きいと言う前述の試算は、暗黙のうちにこの効果を含んでいるのではないかと考えている。しかし忘れてならないのは「為替の変動」である。輸出が増加することにより、為替は「円高」となり、この輸出増にもいずれブレ-キがかかることになる。
    つまり筆者の結論を申せば、「規制緩和」はドル建てのGDPの増加を生むが、ある程度の失業者も同時に生むことになる。失業者は職を得るかもしれないが、所得水準は以前に比べ下がる可能性があると言うことである。

  • でもこのようなことは、過去に輸出産業で経験済みである。「プラザ合意」後の円高不況に対して輸出企業は大幅な合理化を行った。しかし、この時には政府もこれは大変と「内需拡大」を掛け声に景気対策を行い、「消費税導入前の先行減税」などもあり、たまたま失業問題が表面化しなかっただけである(最終的にはバブル景気となったが)。結果的には生産性の向上に成功したため輸出がまた増え、さらに「円高」になったのであるが。
    「規制緩和」も合理化を行うといった点では対処は同じである。ただし、現在の政府の景気に対するスタンスや「常に規制緩和は失業を発生させずむしろ雇用を増大させる」と固く信じている人が多いことが問題であると考える。いずれにしても、今話題となっている「金融の規制緩和」の結果が一つの試金石になるであろう。

  • 筆者は基本的には「規制緩和」に賛成である。ただし、それには「雇用問題」が伴う可能性があると指摘しているのである。
    これらとは別に筆者は、前述の試算には考慮されていないことがらに注目している。それは合理化を進める際に起こるかもしれないイノベ-ションであり、それから派生するビジネスチャンスである。今まで規制で守られてきた産業ではそのようなことを考える必要がなかったのである。しかしこのような効果は事前には予想できないし、ましてや計量することはできないのである。

  • 必要性このように「規制緩和」の意味することは、規制緩和がなされる部門から他の部門への所得の移転であり、最終的には「円高」によるドル建ての国民所得の増大である。つまり「規制緩和」で一番幸せなのは「海外に旅行しようとする人々」と「合理化が及ばず、給料を減らされたり、職場を失う心配のない人々」と言う結果になる。そう言えば、「規制緩和で全てが良くなる」と声高に叫んでいる人々が国立大学の先生に多いと言うのは偶然であろうか。



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97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」