平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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00/1/24(第147号)
「ペイオフ解禁」の延期
  • ペイオフの実態
    「ペイオフ解禁」が1年延期されることになった。これについては昨年の後半から色々検討されて、マスコミも様子を報道していた。しかし、筆者は、延期することは当然と考えていたし、延期されること自体は特に大した事柄ではないと考えたいたため、本誌でもこれまで特に取上げることはなかった。そして「ペイオフ解禁」議論が延期する対象をどの預金種にするかと言うことになった段階で、「ペイオフ解禁」は延期されると予想された。
    同様なことは中曽根政権の売上税構想の時にも起った。各種団体が自分達の商品を非課税にするよう陳情し、事態が混乱して、構想そのものが空中分解したのである。結局、売上税は白紙となり、その後消費税が登場することになった。今回はこれに似ていた。

    筆者は、日本において「ペイオフ」は行うべきではないと考えている。「ペイオフ解禁」論議も白紙に戻すべきと考えている。どうしても行うと言った場合は、よほど万全な態勢が整ってからと考えている。したがってここ1年や2年のうちに行うと言う話ではない。しかし奇妙なことに各方面からこの「ペイオフ解禁」延期には非難が集中している。おもな理由は、モラルハザードを生むとか、公的資金の負担が続くと言うことらしい。また、金融再生が遅れると言う主張もある。

    ところで昨年の日経のアンケート結果を見ても、一般の預金者の「ペイオフ」に関する知識は極めて乏しい。そこで、まず筆者の理解している範囲で、この「ペイオフ」についての説明から始めたい。
    原則は、預金を預けた銀行が倒産した場合には、残存の資産を預金額に応じて預金を預金者に払戻すことである。それではひどいと言うことで、少額預金者の保護のため、一定額までは全額を無条件で払戻し、それ以上については、原則に戻り、残存の資産を預金額に応じて預金を払戻すと言うのが「ペイオフ」である。つまり少額預金者の保護の一環が「ペイオフ」であり、他の国でも行われている。限度額は、日本では一千万円であるが、米国は10万ドルである。日本の場合、この最低保証額の支払は預金保険機構から行われるが、財源は銀行が預金者から徴収している預金保険料である。

    預金保険機構ができたのは25年前であり、預金保険料の徴収も同時に始まっている。保証額を一千万円に決めるのも紆余曲折があったが、米国の10万ドルを意識して決定されたと考えられる。しかしずっと預金保険の制度そのものは存在していたが、国が預金を全面的に保護していたので、これが発動される機会はなかった。

    局面が変わったのは橋本政権の時であった。金融自由化、金融ビッグバンの一環として、「ペイオフ」も解禁することになったのである。いわゆる96年の「金融三法」の一つ、「預金保険法」の改正である。ただし、これには準備期間を設け、その間は金融秩序の維持を目的とした場合には、保証割合を大蔵大臣が決めることができることにした。つまり2001年4月までは、実質保証割合は100%と、実質的に預金の払戻しは全額保証されることになっている。

    今回問題になっているのは、この期限の延長である。しかし、その後97年の山一、拓銀などの破綻に見られるような想定外の信用不安が発生した。また、財政再建路線の強行によって、景気は落込み、97年、98年はマイナス成長である。さらに、筆者はこれを極めて重視するのであるが、地価の下落が依然続いている。つまり担保不動産の価値の下落が続いており、今の銀行の合理化くらいでは、資産価値の劣化に追い付いていないことも考えられる。たしかに株価は上昇しているが、先々週号で述べたように「株」は「一寸先は闇」である。つまりこのような状況では、「ペイオフ解禁」を延期することは、当然と言えば、当然であると筆者は考える。


  • 「ペイオフ」の問題点
    まず、第一に「ペイオフ」を実行する意味が解らない。つまりメリットがないだけでなく、悪いことばかりである。特に信用が存在し、経済状況が悪い日本において「ペイオフ」を行うことは、経済の致命傷となる。外国においても、制度として「ペイオフ」があっても、現在「ペイオフ」を実際に行っている国はないはずである。
    米国では昔行われたが、現在は行っていない。行ったと言っても、極めて小さな金融機関である。日本のほとんどの信用組合より小さな規模である。これでも手続きがとても繁雑であるため、現在は止めているのが実状である。有名な話はコンチネンタル・イリノイ銀行の場合である。米国政府は「ペイオフ」を行わず、国有化し、救済したのである。潰すのには大き過ぎると言う理由である。大きいと言っても、日本の地銀クラスである。また2年前には、信用不安が広がると、ヘッジファンドさえ、米政府が音頭をとって破綻を防いだくらいである。

    欧米では「ペイオフ」に変わり、P&A、つまり他の金融機関による資産・負債の承継、つまり営業譲渡が一般的である。これは経営不安が生じた銀行の資産・負債を、極めて短期間のうちに他の銀行に移す方法である。例えば金曜日の営業終了後、破綻を公表し、月曜日には新たな受け皿銀行の下で営業を行うと言うものである。筆者は、これとて日本の銀行の資産がほとんど不動産担保による貸付と言うの実状を考えれば、資産・負債の確定に手間を要し、情報が漏れない状態で、これを実行することはほとんど不可能と考える。特に現在のような地価の下落が続く状態では、二次損失を恐れ、受け皿銀行の出現そのものが簡単ではないと考える。

    次に預金者にとっても「ペイオフ」に伴う問題が色々ある。決済資金凍結による連鎖倒産などがよく言われるが、それ以外についても次の二点指摘する。
    1. 「ペイオフ」の場合の仮払金は20万円
      破綻銀行の損失が確定するまで数カ月かかる。これはこれまで破綻した銀行の処理を見れば容易に解る。ところが仮払金は20万円に過ぎない。残りは数カ月後である。自分の預金は一千万円以下と言ってもダメである。これに関しては、名寄せが必要になる。同じ銀行に、同一人物が複数の口座を持っているケースがある。この場合には同一人物の預金を合計して、一千万円の保険金の適用がなされる。この作業自体が膨大なのである。
    2. 日本には金融機関を選択できない地域が多い
      都会と違い、地方の場合、金融機関が少ない。仮に預金している銀行が経営不安と分かっても、別の銀行がないのである。


    筆者は、仮に「ペイオフ解禁」となり、銀行に経営不安が発生しても、政府は「ペイオフ」を99%行わないと考える。それは規模が大きく金融危機が発生する恐れがある場合は、例外的な措置として、政府の負担で、預金の全額を保護できるようになっているからである。ところが例外的な措置と言っているが、これが通常となると筆者は考える。「ペイオフ」の実行は、ある程度の規模の銀行が対象の場合には、「立て前」と考えられる。つまり実体は、99%について現在とそんなに変わりがないのである。しかしあくまでも時の政府の首脳の判断に任されているも事実である。

    問題は残りの1%の可能性である。変わり者が首相や大蔵大臣になれば、「ペイオフ」を実行する可能性が残っているのである。特に他人の意見を全く聞かないと言うタイプは危険である。そして実際に「ペイオフ」を行った場合の混乱の大きさについては想像がつかない。世界で大きな銀行の「ペイオフ」の実例もない。ましてや日本のように、一般の人々も金融資産の大半が預金と言う国はない。

    このように「ペイオフ解禁」となっても、銀行の危機に際しては、公的資金が現在と同様に投入される可能性が強い。ただし上述したように1%の「ペイオフ」の可能性が存在する。そして対象の金融機関が小さいほどこの可能性は高くなる。そこで問題になるのが日本のマスコミの動向である。実際に、例え「ペイオフ」となった金融機関の規模が極めて小さくても、次の破綻はどこかと喜んで騒ぎ立てるはずである。そしてこれが次の信用不安を呼ぶのである。日本の金融システムは三洋証券の会社更生法の申請によるモラトリアム以来、極めて脆弱になっている。例え破綻のスタートが小さな金融機関であっても、マスコミが騒げば、次々に破綻が連鎖する可能性があるのである。もちろん「ペイオフ解禁」と言う段階でも、マスコミが動き始めることは目に見えている。これが預金者の動揺を招き、取上げられた金融機関の破綻に繋がることが十分考えられる。

    このようにマスコミ以外誰もメリットのない「ペイオフ解禁」を何故急ぐ必要があるのか、筆者は全く理解できない。筆者の意見ははっきりしている。1%でも危険性があるなら、今日の状況では、絶対に「ペイオフ解禁」を行ってはいけないと言うことである。ちょっと前に2,000年問題でも日本中が騒いだではないか。



不思議なことに「ペイオフ解禁」延期に対しては、新聞、週刊誌では非難の嵐である。筆者は、「ペイオフ解禁」延期自体より、むしろこちらに関心がある。そこで来週号ではこれらに徹底的に反論を行いたい。


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00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99/12/20(第144号)「為替の話あれこれ(その1)」
99/12/13(第143号)「中堅以下の企業のリストラ」
99/12/6(第142号)「大企業のリストラ」
99/11/29(第141号)「商工ローンと日本人」
99/11/22(第140号)「あやしい常識」
99/11/15(第139号)「金融のさらなる量的緩和」
99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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