- 世間の経済成長の見通し
年頭にあたり、今週号のテーマはこれからの経済見通しについて述べることにする。もっともこれに関してしては、日経新聞などのマスコミが、専門家や企業経営者の意見を集約している。これによれば、一部の例外を除けば、大半の人は新年度の日本のGDPの成長率を1%位と予想している。とりあえず、マイナス成長を予想している者はいないようである。
しかし本誌99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」でご紹介したように、昨年のこの時期には、各種のシンクタンクやこれらの人々の大半は、今年度の成長率をマイナスと予想していたのである。根拠は、主に過剰設備が膨大で、設備投資が大幅に減少すると言うことであった。そして当時、景気対策には「公共投資より減税を」と言う主張がまかり通っていた。政府は、これらの世論をリードしている人々の主張を超える減税額を今年度の予算に盛込んだ。それにもかかわらずマイナス成長を予想するとはどうゆうことかと、当時筆者は、本誌でこれらの人々を非難したことを覚えている。
政府の0.6%の成長見通しを除けば、こんな中で強気の予想する向きは極少数派であった。筆者の印象では、強気だったのは、金森久雄氏とリチャード・クー氏くらいのものである。そしてどうも99年度については、今回もこの少数派の予想が正しかったようである。
ところがほとんど全部の人々は、来年度に関しては、一転し、プラス成長を予想しているのである。ただ奇妙なのは、大半の人の予想が1%に集中しており、予想のレンジが極めて小さいことである。これはエコノミストも企業経営者も含めた話である。ここで注目したいのは、1%の実質成長率が政府の見通しと同じ値と言うことである。昨年は政府見通しと違った予想をして間違えたから、今年は政府見通し通りの予想をしているとも考えられる。またこれらの人々の予想で共通しているのは、年度の後半から情報関連を中心に民間の設備投資が伸びると言うことである。
次に筆者の経済成長見通しであるが、正直なところこれがよく分からないのである。現時点では、あまりにも不確定要素が多く、予想ができないのである。どうしても数値で示すと言うことになれば、マイナスの2%からプラスの1%の間くらいと考えている。あいまいと非難されるかもしれないが、筆者の新年度の予想はそうである。つまり筆者も自信がある時とない時があり、実際今回はよく分からない。
昨年は、前述した99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」で述べたように、具体的数字を示さなかったが、金森久雄氏やリチャード・クー氏の強気の予想に賛成していた。たしかに筆者も昨年は予想に自信があったのである。 筆者は、金森久雄氏の経済予測には一目置いている。氏は今回も3%成長と、他の人々とは違う際立った予想を行っている。しかし筆者は、もちろん氏の考え方を尊重するが、今回は全く反対の予想を行う。理由は、氏が予想の前提としている政策を、政府がとても行えない状況になってきていると言うことである。
- 筆者の日本経済の成長見通し
筆者の経済成長見通しの根拠について述べることにする。まず分かりやすいよう、簡単に各需要項目別の動向を述べる。第一に「消費」であるが、これは名目賃金にほぼ比例して増加すると考えられる。しかし今年度の賃金の伸びは期待できない。大企業さえ本格的にリストラを行なおうとしている現状では、人々は消費より貯蓄を選好すると考えるのが自然である。パソコンが売れていると言うことであるが、他の消費がその分減る可能性が強い。また人には時間の制限がある。一日の時間は24時間に限られているのであるから、パソコンを使い始めたら、この点からも、他の消費は減ると考えるべきである。例えば酒を飲みに行く回数が減るなどである。株価の上昇による資産効果による消費の増加を主張する向きもあるが、株式市場は「一寸先は闇」である。 たしかに業種によって業績が好調で残業が増えところもあろう。これによって消費が増えるケースもあるかもしれないが、全体の消費は横這い、あるいは状況によっては減少と筆者は考えている。
次に住宅投資であるが、これは良くて横這い、悪ければ減少と予想する。理由については別の機会に述べる。輸出も良くて横這いである。為替レートの動向や米国の景気動向によってはマイナスと考えるべきと考える。財政支出はかなりの減少である。たしかに国の一般会計は3.8%増であるが、地方の財政支出は財源難で全く期待ができない。つまり公的支出のトータルはマイナスと考えられる。さらに、今年度はある程度の額の補正予算を組むことができたが、後ほど述べるように政局の関係で、これが来年度は難しいと考える。したがって国と地方の財政支出は合計で相当のマイナスを覚悟すべきと考える。
あまり話題になっていないが、これらに加え財政投融資も17.4%の大幅減少である。これは高金利時代の郵便貯金が満期となり、他に流れ、財源が不足するからとされている(筆者は疑問であるが)。
残るのは民間の設備投資であるが、これについては筆者もよく分からない。しかし多くの人々が予想するように、来年度の後半からこれが伸びると言っても、他の需要項目の減少をカバーする以上にこの金額が伸びるとはとても考えられないのである。だいたい設備投資が増えると言っている人々の根拠がはっきりしないのである。たしかに昨年は、根拠もはっきりしないのに、多くの人々が2年目の後半、つまり新年度の後半から民間の設備投資は増えると主張していた。したがって、それはこの主張の延長に過ぎないと考えている。しかし筆者は、他の需要項目が不調なのに、設備投資だけが増えると言う考え自体を疑問に思っている。さらに円高が続く現状では、有力企業が設備投資を行うとしても、国内に行うとは限らないことを付け加えておきたい。
筆者が、今年の日本経済が不調になると予想する一番の理由は、世間の「空気」の変わりようである。客観的にみれば、景気の状態や雇用情勢は昨年の今頃とそんなに変わっていない。むしろ厳しくなった人も多い。しかし昨年の今頃は、景気回復がなによりものコンセンサスであり、小渕政権の景気対策にも大きな非難はなく、小渕内閣の支持率も上昇に転じていた。筆者が昨年強気の経済見通しを行ったのも、このような「空気」を考慮したからである。
ところが自自公連立の話が出て来た頃から、この「空気」が変わってきた。自自公の連立に対する非難があり、マスコミもこれに呼応、あるいは鼓舞する形で今日に到っている。当初は連立に対する政治手法や政治姿勢に対する非難であったが、今日では経済政策にもこれが及んでいる。とても今後大胆な経済政策を行えるような状況ではなくなったのである。中途半端な新年度の予算案もその一つの現われである。
内閣の支持率の低下に伴い、小渕政権の経済政策に対する非難がマスコミに度々登場するようになった。政府の財政支出による景気対策に以前から否定的であった人々が、再び積極的に発言するようになっている。最近筆者がびっくりしたのは、経済同友会の有力メンバーであるリース会社の社長の経済団体の賀詞交換会でのテレビレポータに対する発言である。この社長は「来年度の財政支出の増加はかえって経済に悪影響である」と発言し、さらに「今年度についても財政出動は不要であった」とまで言い切った。
たしかにリース始めノンバンクは、今日の低金利により、不動産に手を出していない企業はどこも好決算である。日本の銀行の現状では、リスクをちょっと管理できるノンバンクはどこでも儲かっている。しかしこれには、政府の景気対策よる景気の下支えや20兆円の信用保証枠の設定による倒産の大幅減少が大きく寄与しているはずである。このように最近、このリース会社の社長のような財政支出に否定的な人々が再び活発に発言を始めていることが懸念される。
9日の朝日テレビ系サンデープロジェクトに登場した経済学者の言動も奇妙であった。この学者は経済戦略会議のメンバーであり、一年前は小渕政権の経済政策を高く評価していた。ところが今回の番組の中では20点と全くの落第点で小渕政権の経済政策を極めて悪く評価していた。この学者によれば、小渕政権の経済政策は自自公連立の頃から変わって来たと言うことである。しかし筆者は小渕政権の経済政策の基本的な姿勢はそれほど変わっていないと考えている。
またこの学者によれば、日本の産業には「海の人」(どうも競争にさらされている先端企業)と「山の人」(政府の保護政策や公共投資の恩恵を受けている企業)があり、小渕政権は後者の保護することにより、「海の人」の成長を阻害していると主張していた。しかし筆者は、先端企業は政府が特に関与することなく成長すると考える。そして「山の人」を保護することがどうして「海の人」の成長を阻害することになるのか理解できない。むしろ「山の人」を下支えすることによって、「海の人」の生産物の需要を確保している側面があるはずである。そうでなければ一体誰が「海の人」の生産物を買うのであろうか。売残りを全て輸出できる状況にはないはずである。
筆者は、自自公連立に伴うマスコミの論調の変化に合わせ、このような学者は主張を都合良く変えているだけと考えている。この番組出ているコメントを行っている元証券マンの評論家も同類である。これらの人々は経済の専門家でもなんでもない。単なるマスコミの業界で生きていくのが上手い、遊泳術に長けたタレントに過ぎない。同じ番組に出ていたリチャード・クー氏が、度々苦笑いしていたのが印象に残る。しかしこれらの人々の発言が、政府の財政政策に対する世間の評価を徐々に変えていることに影響しているのも事実である。筆者の元にも、600兆円を超える国と地方の借金を危惧するメールが寄せられるようになっている。しかしここで財政支出を削れば、次にはもっと大きな財政支出が必要になると筆者は考える。
筆者の来年度の経済成長率の見通しは、小渕政権が予定通りの経済政策が実施でき、不足する需要を補正予算でカバーできる最良のケースでプラス1%である。反対に政局が混乱し、小渕政権の積極財政に反対している人々により政権ができた場合には、大きなマイナス成長になることも覚悟すべきと考えている。仮に小渕政権が続くとしても、協力関係が変わり、小渕首相の指導力が弱くなれば、今年度並の財政政策も無理になると考える。当分の間、景気の自力回復と言うシナリオは無理である。現在、リスクを取ることができるのは政府だけなのである。 最後に、経済成長率の予想を寄せている人々の誰もが「地価の動向」と「米国政府の対日要求」について何も触れていないのが気になる。これらも当然新年度の経済成長に影響するはずである。
|