- 為替の均衡値
まず筆者が均衡値と考える円の為替レートの話から始める。本誌ではこれまでも適当な時点に何回か、このようなレートを提示し、その時のレートの妥当性についてコメントしてきた。しかし為替の均衡値に関しては人によって色々な考えがあり、その値もそれに応じ異なっている。筆者の考えでは、一応主な輸出企業の採算の取れるレベルの平均を為替レートを応用している。このような数字は時おり新聞など、マスコミでも調査を実施しており、入手が容易である。もっともこれはそれほど厳密なものではない。ただし筆者はこの数字をいくぶん円高方向に修正したものを均衡値としている。なぜなら円高に伴い輸入品の方は価格の下落があり、長期的には製品の原価率も改善する。そしてその分輸出品の採算点も多少円高方向に修正する必要があるからである。
以前には、本誌は円レートの均衡値を103円から106円と想定していた。しかしこれはアジアの経済危機以前の話であり、この時代にはアジア諸国の通貨が米ドルにしっかりリンクしていた。しかしアジアの経済危機直後は各国の通貨はフロートとなり、当座はものすごく暴落した。これに伴い、本誌では均衡値を115円から120円に変更した。それ以降アジアの経済も落着き、為替レートも上昇してきたので、今年の1月18日発行の本誌NO.98では均衡値を115円から120円に修正(やや115円近い水準)した。しかしそれから時間が経つのでさらに多少修正する必要があると考える。筆者は、現在の均衡値は110円前後と考える。理由はアジア経済が立直ってきたことと、日本の企業が本格的にリストラを行っているからである。
ところで以前、読者のご質問があり、超長期の円レートの見通しについてお答えしたことがある。本誌のNO.37であり、2年以上も前のことである。その中で筆者は、30年後の円レートを40円から80円と予想した。当時は円レートが円安のピークの前であり、円安が進行中であった。当時は、訳のわからないエコノミスト(ほとんどのエコノミスト)が、日本経済の弱体化とか「日本売り」と騒いでいた時である。筆者の根拠は、先週号で説明したように、日本の企業は「濡れ雑巾」の状態であり、大企業を中心にまだまだ合理化する余地が十分ある(合理化の余地があると言うことであり、企業が実際にそれを行うかは別であるが)と言う現実である。そして今日の状況を見ていると、筆者の予想が当る可能性が出て来たのである。
しかし筆者はそれが望ましいとは決して考えていない。筆者が考える適正な円レートは150円から160円である。もちろん今のままでこのような円安が実現したら、アジアの経済危機が再来すると予想される。とても許される状況ではない。アジア諸国の経済に影響を最小限にしながら為替レートを円安に持って行くには、日本経済を内需依存型に変える必要がある。ところが世論の動向や政治の動きを見ているとこれはとても無理である。したがって長期的には超円高経済を覚悟しなければならないことになる。しかしこれは日本国民にとってとても不幸なことである。
話を元に戻す。もちろん貿易・サービスの輸出・輸入の水準は、単純に為替レートの水準だけで決まるものではない。当然、相手国の景気などが影響する。また、円高が進行してもただちには輸出が減少することはない。一つの理由は、日本でしか生産していない製品があり、これらが為替の変動にあまり影響されないからである。もう一つは有名な「Jカーブ効果」である。ところで「Jカーブ効果」には二つある。一つは円高が進行しても、円高の割には輸出数量が減少しない場合、ドル建ての受取金額が逆に増えることである。つまり採算が悪化しても受取のドルは増えるケースである。もう一つは企業が輸出採算を改善をねらい、むしろ稼働率のアップを図り製品を増産し、輸出ドライブをかけるケースである。
98年8月の円安のピークから円は円高に転換している。さらに今年の8月からさらに一段の円高が進行し、今日にいたっている。ところが円建ての輸出金額はそれほど減少していない。逆に輸入も、日本国内の不況を反映して減少しており、貿易・サービス収支の黒字幅もそれほど減っていない。これには米国の景気が引続き良いことと、アジア諸国の経済が回復傾向であることに加え、前述の「Jカーブ効果」一つである稼働率アップによる輸出ドライブが作用していると考える。しかし現在の為替水準は採算点より円高であると思われるので、為替が現在の水準で推移すれば、今後輸出も徐々に減少すると予想される。
- 円高の善し悪し
「自国の為替が強いことの善し悪し」に対しては意見が分かれる。堺屋経企庁長官は「プラザ合意以降の円高では、予想に反して企業は収益を上げた」と言って、必ずしも円高が悪いとは考えていないようである。また速水日銀総裁ように「円高容認論」が持論の者もいる。さらに、どこまで本気なのかわからないが、米国の財政当局のように「ドル高は国益かなっている」といつも言っているところもある。
外国との関係で見れば、自国通貨の上昇すれば、相対的な国内の人件費のアップと資産価格の上昇を意味することになる。したがって日本においても、既に資産を持っている者や、安定した収入を得ている者にとっては「円高」は歓迎である。物価が下がり、海外旅行も安上がる。一方、雇用不安を抱えている者や競争力に劣る企業にとって「円高」は厳しい試練となる。一般的に供給側につらいことである。実際、米国政府のドル高歓迎論の中には「ドル高が米国国内の企業の合理化を進め、国際的な競争力を維持するためにプラス」と言う意見がある。つまり企業がサボらないようにドル高にしておくと言うことである。もちろんこれには米国の産業界からは反発がある。
筆者は、日本経済にとっては、むしろ前述の通り円安が好ましいと考える。また堺屋経企庁長官の考えには賛成できない。当時の日本は金利が相当高かったのであり、円高を受け、金利を低目に誘導する政策が採れたのである。また住宅建設を推進する政策が有効に働き、さらに地価も着実に上昇していたのである。今日のように名目金利を下げる余地がなく、銀行も機能不全に陥っている状態での「円高」は、水準にもよるが、日本経済全体には相当の打撃になるはずである。さらに当時、企業は人員整理まで行う段階までには到っていなかったのである。まだ企業自体にも余裕があったのである。つまり当時と今日では状況が全く違う。さらに論理的にも「円高」で企業の収益が伸びたと言うのは誤解を招く。「円高」に対応する政策に経済がうまく反応したから、企業収益が伸びたのである。実際、企業の収益が増えたのは、「円高」に転換してから2年以上経ってからである。
為替の変動は、国の全ての人々に影響を与える。円高は輸出関連企業にだけ打撃を与えると言う誤解がある。市場を国内に限定している企業にも影響がある。規制がどんどん撤廃されている今日では、輸入品との競争があるからである。「円高」を受け、輸出企業は合理化に励むことになる。この結果、その輸出企業はりっぱになる。しかし各分野で合理化を進めているから、内需は盛上がらない。そしてこのりっぱな企業の製品は国内では十分に売れない。したがってまた製品を海外に輸出することになり、これが次の円高の原因にもなる。つまり輸出企業が頑張れば頑張るほど、円はどんどん高くなるのである。
為替が変動する以上、企業の競争は国内の同業他社との競争に限られるのではない。有力輸出企業が合理化すれば、それに連れ為替は円高になるのであるから、どの企業もトヨタ、本田やソニーと競争していることと同じである。実質的には農業も同様の競争をしていることになるのである。そして1ドル360円の固定相場から変動相場制に移行して以来、「円高」と「合理化」の繰返しをずっと続けて来たのが日本経済である。一貫して為替が上昇し続けているのは日本くらいである。一体どこまでこの試練が続くのであろうか。まるで「シーシュポスの神話」ではないか。
- 気になった出来事
今週号では特別に、最近メディアに載った事柄で気になったものを幾つか取上げることにする。
- 橋本前総理が久々にテレビに登場し、持論を展開していた。フジテレビの「報道2001」である。この中でまた「財政再建」の重要性を強調していた。この番組を見ていた小渕首相が「今は景気回復が最重要」と怒ったと言うことである。当然である。本誌で何回も取上げているように、今回の景気回復は極めて難しい。従来の景気回復へのカードであった「輸出」と「住宅建設」は、既に橋本政権の時に使い切ってしまっているのである。
また橋本前首相のブレーンの政務秘書官で通産省の元官僚が本を出していることが紹介された。どうせろくなことは書いてないと思われるが、読む機会があったら(もちろん立読み)本誌でも取上げることにする。 筆者は、失政の責任を取って、橋本首相は総理の座から降りるだけでなく、議員も辞職すべきと考えていた。そのような人物がまたマスコミに登場し、この微妙な時期に、反省のかけらもない発言を行うとはどう言うことであろうか。また今日問題となっている「自自公の連立」も橋本政権の参院選の大敗が原因である。 筆者は、このような発言が予想される前首相を引張り出したテレビ局の考えは見え透いている。。テレビが、主流派を外れた極端な考えの政治家を次々登場させ、政局をひっかけ回すことだけを意図しているのである。しかしこのようなことで影響を受けるほど視聴者もばかではない。景気が難しい段階にこのような企画を行うのも、テレビ広告が持直しているからであろうか。とにかくこの番組もキャスターが変わってからは、姿勢が変質している。
- 教祖(代表)が人の足の裏を見て占う宗教団体が詐欺の疑いで警察の強制捜査受けた。この団体は以前から問題になっていたが、長い内偵を経て、強制捜査が行われたのである。ところが驚いたことに、この代表は、次々に各民放のテレビ番組に登場し、インタビューに色々答えていた。しかしテレビ画面を通した彼の印象は、「詐欺師」そのものである。せっかくテレビを通じた弁明がまったく逆効果になっているのである。
ところが筆者が一番びっくりしたのが、教祖(代表)の語る口調やトーンである。これがマスコミによく登場する銀行系シンクタンクの理事長でかつエコノミストのものとそっくりなのである。このエコノミストは典型的な財政再建論者である。「今、政府支出を徹底的に削減して我慢すれば、日本経済は立派に蘇る」と予言めいた発言を繰返している。ただ日本経済が蘇るのが5年後だったり、10年後だったり、その時によって違うのである。昨年は、米国の株式が大暴落し、米国経済未曽有の不況になると予言していたが、みごとに外れた。以前、主張に一貫性があると評価していた経済ジヤーナリストも、さすがに最近は、このエコノミストを「いい加減」と評価を180度変えている。 教祖(代表)の話の組立は、まず「あなたはすぐ死ぬ」などとんでもないことを言って、相手にショックを与え、自分のペースに話を持っていくのである。そして最後に「腹をくくりなさい」と相手に迫るのである。実に、話の組立まで、問題のエコノミストとそっくりである。このようなエコノミストには注意が必要なのである。 しかしこのようなエコノミストも3年前には、各方面に強い影響を与えていたのである。当時、このような人物の影響を受けていた政治家も大勢いたと筆者は考えている。世紀末には、このような予言者風のエコノミストが現われやすいのであろう。
|