- リストラの背景
世間ではリストラが話題になっており、本誌でもこれを取上げる。とりあえず今週号では主に大企業のリストラについて述べることにする。 日本でのリストラは、人員の整理を意味している。もちろん「リストラ」の意味するところは、リストラクチャリング、つまり「再構築」のことである。企業が、需要構造の変化などの経営環境の変化に応じるために、経営資源を再配置することが本来の「リストラ」である。ところが日本では、「リストラ」は人減らしと同じと考えることが定着している。
これは日本の企業が大きな過剰人員を抱えているからと考える。新しい分野への進出にも、過剰人員をまず整理することが必要と考えられているのである。また、新分野への進出には現在の従業員では無理と判断していることもある。一方、人員整理と言うとマイナスのイメージがあり、経営者の責任を問われかねないと言う事情も考えられるのである。しかし本当の理由は、単純に競争の激化により収益が悪化し、人件費の削減が迫られていることと思われる。特に中高年の人員の過剰が問題になっているのである。 日本の企業の人員の過剰は、生産現場より、間接部門に目立つ。事務部門、つまりホワイトカラーが過剰なのである。このためか、日本の企業の自己資本利益率は世界的に見ても極めて低い。
筆者は、10年ほど前に、いきなりエクソンの本社がニューヨークからヒユーストンに引越したのを知り驚いた。ところがもっと驚いたのは、エクソンの本社の人員が200人くらいと言う話である。たしかにエクソンと日本の大企業の本社機能の配置方法に違いがあり、単純に比較できないが、日本の企業でエクソンほどの規模ならば、役員と秘書だけでも200人を軽く超えると思われる。とにかく日本の企業の間接部門は大きいのである。たしかにこの理由の一つは、終身雇用にこだわる日本の企業が、生産部門の合理化に伴う余剰人員を間接部門で引受けたことも挙げられる。
たしかに日本の企業の間接部門のホワイトカラーの人数は多い。ところでホワイトカラーの生産物は経営判断に必要な「情報」、つまりインフォメーションである。それだけにホワイトカラー部門の適正規模を考えること自体も難しいが、ただ人数が増えるにつれ「情報」の伝達も、一人当りの生産性は落ちる可能性が大きいと考えられる。したがってこの部門に対するリストラの圧力は今後も強まる一方と考えられる。
日本には「窓際族」と言う言葉があり、大きな企業ならどの企業も多かれ少なかれこのような人々を抱えている。しかしこれらの人々の能力が特別劣ると言うことではない。ただ人員として過剰と言うことである。筆者の友人の会社は有力企業であるが、彼から、彼の会社の「窓際族」は三列になっていると言う話を以前聞いたことがある。日本の大企業は、余剰の人員も簡単には整理をしなかったのである。ここから話はちょっとずれるが、このようなコストがかかる間接部門を抱えながら、どうしてこれまで日本企業が世界に伍してやってこられたのかが不思議であろう。
これは「謎」である。たしかに一つの理由は比較的分かりやすい。日本企業の生産現場がそれだけ優れていたことである。問題はこれ以外の理由である。ここで筆者は、少ない利益でも我慢する株主の存在を指摘したい。しかしこれは株主の行動が不合理と言う訳ではない。バブル期の以前、日本では継続的に地価が上昇し、企業の株価もそれを反映し、長期に渡り上昇を続けたのである。株主にとって株価が上昇している限り文句を言わなかったのである。
ところがバブル崩壊後、地価は下落に転じ、これらの状況が変わった。一部の有力企業を除き、全体では株価は依然低い水準である。このような企業には、当然株主からの圧力が今後強くなると考えられる。さらにこれに最近の円高が加わった。つまり今、企業は、間接部門のリストラに加え、生産現場の一段の合理化を迫られることになっている。
- 大企業のリストラの実態
今日、有力な大企業がリストラを次々に実行したり、計画をしている。世間では「こんな企業までもがリストラか」と半分驚きの声がある。しかし大企業のリストラの実態は、まだまだ世間で受取られているほどには深刻なものではないと筆者は思っている。たしかにリストラの対象になっている本人にとっては重大なことかもしれないが、中堅以下の企業のリストラに比べるとずっと恵まれているのが実態である。
大企業、特に一部に株式を上場している企業の場合、リストラと言っても、対象者は、まず子会社や関連会社に出向や再就職をするケースが多い。給料も元の給料が保証される場合が多く、これらの会社の給料水準が低い場合は、差額を親会社が負担することになる。たしかに最近ではこれらの会社が受入れられる人員が限度に来ている場合が増えている。このような場合、代理店や特約店、または取引先に再就職を会社が斡旋するのが次の段階である。
そして再就職先が確保できないと言う段階に来た企業は、ここで始めて希望退職を募ることになる。しかし希望退職の場合は、退職金の割増など、できる限り良い条件を用意するのが普通である。特に世間体を気にする企業ほど好条件を提示する。つまり形式的にも円満な退職を目指すことになる。一方的な解雇と言うことは極力避ける。
しかし希望退職を応募した場合も、実際にこれに応じる人々は、会社の狙いとは違うケースが多い。最近、筆者の知っている会社の場合もそうであった。会社としては50才前後の中間管理職の退職を狙っていたが、実際希望退職に応じてきたのは55才を越えた人が多かった。後何年かすれば退職する人々である。しかし会社の方もそれで予定の人数が確保できたと言うことで納得する他はなかった。また退職する方は、多少予定より早く退職することになったが、割増退職金に加え色々な優遇措置があり、それほど不満がないのである。このように今のところ、大企業のリストラは実にのんきなものである。実際、大企業のリストラをめぐりストライキなどで揉めたと言うケースは、今のところほとんど皆無である。
リストラを行うにしても、大企業は神経を使っているのが普通である。最近、企業をめぐるスキャンダルの発端はほとんどが内部からの告発である。野村証券の総会屋事件もそうであった。この事件は次に第一勧銀に飛火し、最後は大蔵省と日銀への接待汚職に発展したのである。 実際、会社としては管理部門のスリム化を目論んでも、簡単にはできないのが実状である。特に最近では株主代表訴訟が流行になっており、会社の色々な情報を握っている管理部門の人員の安易なリストラなど、とてもできないのである。現在のところ、大企業とっては、あくまでも円満退職によるリストラしか方法がないのである。しかしこのような方法がいつまで続けられるか時間の問題ではないかとも、筆者は最近考えている。
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