平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/5/5(第14号)
為替の変動を考える
  • 為替は日々変動するが、これは当り前のことと受け止められている。日本を始め、先進国と言われている国々は現在、為替については「変動相場制」を採用している。このように為替が変動するようになったのは、73年であり、24年ほど前からのことである。背景としては、ベトナム戦争などによる、米国経済の疲弊による恒常的な貿易赤字が挙げられる。当初は各国の貿易収支の均衡を意図としたものであった。
    一口に24年前と言っても、随分昔からのことと感じる人もいると思われるが、筆者にはそんなに時が経過したとは思われない。また、為替の変動要因についても色々いわれるが、決定的なものはない。よく「ファンダメンタルズ」と言う言葉を使ってこれを説明する人がいるが、「ファンダメンタルズ」が何を指しているのかよくわからない。極めて曖昧な言葉で、人によって内容が違うようである。同じ言葉を使いながら、一方は「円安」になると言い、他方は「円高」になると言う。双方その根拠は「現在のファンダメンタルズ」だと言うのだから、ますますわからない。
    たしかに、為替の変動に「資金の移動」と言う要素が大きく係わるようになってきたためか、一段とわかりにくくなってきている。為替の変動要因についての議論は今後もまだまだ続くと考えて良いであろう。少なくとも「金利差があるから資金が流れる」と言った単純なものではない。筆者の考えは、2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」、3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」で述べたように、両国の「経常収支」が長期的な為替の変動の流れを決めが、その変換点のレベルと時点は双方の政府の政治的判断によると考えている。そしてその場合には政府・中央銀行の介入がきっかけとなる。このように人為的な操作(きっかけ)が必要なのは、以下に述べるように、今日の市場に「為替の変動」による貿易収支の調整機能がうまく働くことを難しくする要因が存在するからである。

  • 日本を除けば、アジア各国の通貨はだいたい米ドルにリンクしている。つまりその国の政府・中央銀行が目標値を決め、一定の幅に為替水準が収まるように調整している(いわゆるペグ)のである。もっとも、国際収支が大きく累積的に赤字や黒字になるような場合には、「平価の切り下げ」や「平価の切り上げ」で調整し、これに対処する。
    しかし、アジアには対米で常に貿易収支が黒字の国がある。中国や台湾である。これらの国に対しては、近年、米国からの圧力、つまり市場開放の働きかけが強まっている。特に中国に対しての関心が急速に高まっている。
    もっとも、中国もそれらの非難に対して次のように反論している。
    1. 米国の対中国赤字の数字には、中国から香港に原材料を輸出し、香港でそれが加工され、最終的に米国に輸出されたものも含まれている。
    2. 中国から製品を米国に輸出している企業は、米国資本の会社である。
    3. 米国から色々輸入しようとしても、「対共産圏への輸出規制」などにより、制限されている品物が多い。
    筆者には、中国のいい分はもっともと思われるが、中国は、たしかに安い労働費を背景に輸出を伸ばしており、それを脅威と見る向きもあろう。また、筆者も中国の「元」は少し安過ぎると思われる。中国人の賃金が日本人の何十分の一と言うのはちょっとおかしいのである。時期をみて、中国は「平価の切り上げ」を行うのが適当と考える。
    ただ、中国の立場に立てば、「平価の切り上げ」を行えば、周辺諸国との競争の上で不利になることであり、安易にこれは行えない。また、貿易黒字の分を国内の建設に使うことも考えられるが、それを行うと国内の景気が加熱し、物価上昇を加速すると考えているのであろう。(実際はどうなるか、色々のパタ-ンでシュミレ-ションを行う必要があると思われるが)

  • 結果的には、中国は貿易で稼ぎ出したドルを米国債に投資しているのである。また、このことによって「元」の対米ドル相場の安定を維持している。つまり、米国債の購入により為替の安定を図っているのである。
    これと同じことを行っているのが日本である。違うところは、日本では民間があまり意識せずこれを行っているところである。いずれにしても、為替変動による貿易収支の均衡メカニズムが機能しないかたちになっている。
    一歩引き下がって見れば、両国は米国にクレジットカ-ドを渡し、自国の商品を買ってもらっているようなものである。問題は、米国の国内景気が悪くなり、失業者が増えるような状況になるおそれが表面化してきた場合である。そうなれば、米政府もだまっていることはできないであろうし、その時が当事国政府の正念場である。

  • 昨今の「円安」で再び日本からの輸出増加が懸念されている。なかでも自動車の対米輸出の増加である。それに対して「自動車輸出の自主規制」が、今後話題になることもありうる。
    しかし、筆者は「自動車輸出の自主規制」を行っても長期的には全体の貿易収支には理論的にはまず影響がないと主張したい。また、よく各種の貿易障壁が対米黒字の原因のように言われるが、これも同様に影響がないと考える。
    根拠は「円が対米ドルでフロ-トつまり変動している」ことである。かりに自動車の輸出が減ったら、その分「円安」になるわけであるから、自動車以外の物の輸出が増えることになる。輸入面でも「円安」となれば輸入にブレ-キがかかることになる。さらに自動車の輸出減少により国内の景気がそれだけ悪くなるのだから、これらの動きを加速することになる。つまり為替が変動することによって、徐々に元の貿易黒字の水準に近づくわけである。一方米国にとっては日本からの自動車輸入が減れば、その分ドル高となる。つまり、それにより自動車以外のものの輸入が増え、日本への輸出が減ることになる。結局、日本からの自動車輸出が減る影響は一時的であり、長期的にはほぼ元の水準の貿易収支に戻ることになる。
    このような「為替の貿易収支の自動調整機能」を阻害しているのは「米国債購入に代表される日本からの資金の流出」である。

  • もし貿易収支の均衡を「為替の調整」で行わないのなら、流出している資金が国内に止まり、「内需の拡大」に使われるようにすることが必要である。その意味でも米国政府の要求(内需の拡大)は極めて「正論」と考える。筆者は、このような資金が国内で投資に回るような必要な措置を考え、施行するのが、「行政改革」と考える。けっして「財政赤字を縮小」することが「行政改革」とは思わない。
    だいたい平均的なアメリカ人は、広い庭付きの家に住み豊かな暮らしをしているのに(さらにそれは資産となっている)、満員電車で通勤している日本人は、一旦地震が起きれば消防自動車も入れない狭苦しい場所に、すぐ老朽化するような小さな家に住んでいるのである。こんな現状の日本から豊かなアメリカに資金が流れることはおかしなことである。これでは日本は変な国と思われてもしょうがないと筆者は考える。



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