平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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99/11/15(第139号)
金融のさらなる量的緩和
  • マネーサプライの増大
    日銀の金融政策は、ゼロ金利政策に見られるように、極限まで緩和されているはずである。ところが実体経済では設備投資は増えず、マネーサプライの増加も極めて低水準である。また、これだけ資金がだぶついているなら、もっと物価や地価が上昇しても良いのであるが、一向にその気配がない。銀行の企業への貸出も増えておらず、中小企業は国の特別信用保証枠の設定により、やっと資金繰をつけているのが現状である。今日問題になっている商工ローンの問題も、銀行の金融仲介機能の低下の話を抜きにしては語れない。

    日本では、このように十分に金融が緩和されているのに、企業は資金繰に苦労すると言う不思議な現象が起こっているのである。この原因は、本誌でも何回も取上げたように、銀行の信用供与機能が機能不全に陥っているからである。
    しかし日銀は、自分達ができることは全て行っており、これ以上やることはないと開き直っているのである。世間でも、日本の金融市場は「流動性のワナ」にかかっており、これ以上の金融緩和は無駄と言う意見が強い。実際、余剰な資金は短資会社や銀行の準備預金の形で滞留しているのが現状である。

    そこで今週号では、日銀がやることは本当にこれ以上ないのかを検証してみる。しかしこれには日銀を中心とした金融制度について専門的な知識が必要となり、多少筆者の手に余る。そこで今回は、9月30日付の日経新聞の経済教室の記事を参考にしたい。この執筆者は岩田規久男学習院大学教授である。昔、教授は小宮隆太郎氏と一緒に「企業金融の理論」と言う本を執筆していた。これはモジリアーニ=ミラーのいわゆるMM理論を取扱ったものである。筆者は、教授が企業金融の専門家と承知している。

    経済教室では、まず岩田教授は、銀行に問題ある今日では、日銀の現在のような対銀行だけの金融緩和政策では限界があると述べている。しかしやり方によっては、日銀による金融のさらなる量的緩和も効果があると述べている。そしてさらなる量的緩和によってマネーサプライの増大を図ることが、日本経済にとって重要であると主張している。


  • 日銀のポリシー
    まず岩田教授は、マネーサプライを増やすために次の3通りの方法を提唱している。
    1. 日銀の買オペの対象を銀行以外の金融機関や事業会社に広げる。
      日銀の買オペの場合、債券や手形を買い上げる対象法人は、今のところ銀行と短資会社だけであるが、これを広げようと言うのである。現在、銀行に問題があり、この先に資金が流れないのだから、この方法は単純であるが効果は期待できる。
      だいたい気心を知れた銀行や短資会社としか、取引ができないと言う日銀の姿勢がおかしいのである。実際、これは筆者も知らなかったことであるが、米国では買オペの対象に事業会社が入っていると言うことである。

    2. 日銀がドルを銀行以外から購入し、円を供給する。
      これも前段と同様に、機能不全となっている銀行を回避し、直接輸出企業に円を供給しようと言うことである。
      たしかに日銀が買オペを行った分の債券や購入したドルの購入分を、銀行が市場や企業から調達すれば同じことであるが、銀行が手持ちの債券やドルで買オペなどに対処するケースも考えられるのである。したがって日銀が直接事業会社からこれらを購入した方が確実にマネーサプライは増えると考えられるのである。

    3. 日銀による国債の引受けである。
      実際、現状でも日銀は国債を引受けている。毎月4千億円くらいの国債を市場から買い入れ、満期まで運用している。この他に買オペの対象に国債はなっている。
      日銀による国債の引受けがよく問題になるが、これは新発の国債を直接日銀が購入するケースのことである。しかし市場から購入しても、新発債を日銀が購入しても、日銀にとっては結果はほとんど変わらない。ただ新発債の場合には、発行条件が政府の言いなりなると心配する意見が予想される。しかし、これも市場の金利と連動することがはっきりしておれば、問題はないはずである。しかし一旦新発債の引受を行うと、止めどもなく国債の発行が行われる可能性があると、日銀サイドはさかんに牽制しているのである。
      日銀による国債引受による経済効果として期待されることは、前段までと同じように、銀行を通さないことによって直接マネーサプライを増大させることである。ところで日銀の国債引受については別の機会にまた取上げることにする。
    岩田教授は、最初の買オペの対象を銀行以外の金融機関や事業会社に広げることが一番実現性が高いと述べている。とにかく日銀が今のオペレーションの形にこだわる限り、マネーサプライは増えないのである。

    この経済教室ではさらに教授は、マネーサプライの増大による経済効果についても説明を行っている。マネーサプライ増大による資産価格の上昇は、銀行の貸出にも良い影響を与えると述べている。しかしこれについては本誌でも何回か取上げたことであり、ここでは割愛する。

    岩田教授は、バブルが発生した時のメカニズムを再現することが大切と主張しているのである。筆者も以前、本誌でミニバブルが必要と言っており、教授の考えに賛成である。筆者は、地価が永久に上昇すると言う神話が崩れた今日では、バブル期と同じような金融情勢になっても大きな問題は起こらないと考えている。世間では、日銀を始め、このような考えに目を剥く向きも多いと思われるが、むしろこのような人々の考えに沿った政策では景気は良くはならないのである。

    ところでバブル期と同じ政策を行えと言う、このような一見ラディカルな意見が、世の中に出てきたこと自体が、筆者には驚きであり、注目される。それも岩田教授のような経済学者から出てきたことに意義がある。そして教授の意見は、まさに話題になっている調整インフレへの道そのものでもある。



世の中の常識の中には、根拠のないものや状況が変わった現在では意味のないものが結構多い。受験勉強に熱心だった人々、つまり受験秀才の人々の中には、教科書に載っていることは全て真実と信じて疑わない者が多いはずである。気紛れに教科書に載せられた事柄が、世の中の常識になっているのである。これらの人々は自分の頭では物事を考えないのである。規制を緩和すれば景気が良くなるとか、インフレは絶対の「悪」と考える人々もこの類いである。
来週号では、ちょっと経済から離れ、「政治家と政治屋」について考えたい。同様に何にも考えない人々にとっては、政治家、つまりステーツマンが理想であり、反対に政治屋、つまりポリティシャンは軽蔑の対象になるはずである。これまで学んだ教科書ではそう教えているからである。


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99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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