- マネーサプライの増大
日銀の金融政策は、ゼロ金利政策に見られるように、極限まで緩和されているはずである。ところが実体経済では設備投資は増えず、マネーサプライの増加も極めて低水準である。また、これだけ資金がだぶついているなら、もっと物価や地価が上昇しても良いのであるが、一向にその気配がない。銀行の企業への貸出も増えておらず、中小企業は国の特別信用保証枠の設定により、やっと資金繰をつけているのが現状である。今日問題になっている商工ローンの問題も、銀行の金融仲介機能の低下の話を抜きにしては語れない。
日本では、このように十分に金融が緩和されているのに、企業は資金繰に苦労すると言う不思議な現象が起こっているのである。この原因は、本誌でも何回も取上げたように、銀行の信用供与機能が機能不全に陥っているからである。 しかし日銀は、自分達ができることは全て行っており、これ以上やることはないと開き直っているのである。世間でも、日本の金融市場は「流動性のワナ」にかかっており、これ以上の金融緩和は無駄と言う意見が強い。実際、余剰な資金は短資会社や銀行の準備預金の形で滞留しているのが現状である。
そこで今週号では、日銀がやることは本当にこれ以上ないのかを検証してみる。しかしこれには日銀を中心とした金融制度について専門的な知識が必要となり、多少筆者の手に余る。そこで今回は、9月30日付の日経新聞の経済教室の記事を参考にしたい。この執筆者は岩田規久男学習院大学教授である。昔、教授は小宮隆太郎氏と一緒に「企業金融の理論」と言う本を執筆していた。これはモジリアーニ=ミラーのいわゆるMM理論を取扱ったものである。筆者は、教授が企業金融の専門家と承知している。
経済教室では、まず岩田教授は、銀行に問題ある今日では、日銀の現在のような対銀行だけの金融緩和政策では限界があると述べている。しかしやり方によっては、日銀による金融のさらなる量的緩和も効果があると述べている。そしてさらなる量的緩和によってマネーサプライの増大を図ることが、日本経済にとって重要であると主張している。
- 日銀のポリシー
まず岩田教授は、マネーサプライを増やすために次の3通りの方法を提唱している。
- 日銀の買オペの対象を銀行以外の金融機関や事業会社に広げる。
日銀の買オペの場合、債券や手形を買い上げる対象法人は、今のところ銀行と短資会社だけであるが、これを広げようと言うのである。現在、銀行に問題があり、この先に資金が流れないのだから、この方法は単純であるが効果は期待できる。 だいたい気心を知れた銀行や短資会社としか、取引ができないと言う日銀の姿勢がおかしいのである。実際、これは筆者も知らなかったことであるが、米国では買オペの対象に事業会社が入っていると言うことである。
- 日銀がドルを銀行以外から購入し、円を供給する。
これも前段と同様に、機能不全となっている銀行を回避し、直接輸出企業に円を供給しようと言うことである。 たしかに日銀が買オペを行った分の債券や購入したドルの購入分を、銀行が市場や企業から調達すれば同じことであるが、銀行が手持ちの債券やドルで買オペなどに対処するケースも考えられるのである。したがって日銀が直接事業会社からこれらを購入した方が確実にマネーサプライは増えると考えられるのである。
- 日銀による国債の引受けである。
実際、現状でも日銀は国債を引受けている。毎月4千億円くらいの国債を市場から買い入れ、満期まで運用している。この他に買オペの対象に国債はなっている。 日銀による国債の引受けがよく問題になるが、これは新発の国債を直接日銀が購入するケースのことである。しかし市場から購入しても、新発債を日銀が購入しても、日銀にとっては結果はほとんど変わらない。ただ新発債の場合には、発行条件が政府の言いなりなると心配する意見が予想される。しかし、これも市場の金利と連動することがはっきりしておれば、問題はないはずである。しかし一旦新発債の引受を行うと、止めどもなく国債の発行が行われる可能性があると、日銀サイドはさかんに牽制しているのである。 日銀による国債引受による経済効果として期待されることは、前段までと同じように、銀行を通さないことによって直接マネーサプライを増大させることである。ところで日銀の国債引受については別の機会にまた取上げることにする。
岩田教授は、最初の買オペの対象を銀行以外の金融機関や事業会社に広げることが一番実現性が高いと述べている。とにかく日銀が今のオペレーションの形にこだわる限り、マネーサプライは増えないのである。
この経済教室ではさらに教授は、マネーサプライの増大による経済効果についても説明を行っている。マネーサプライ増大による資産価格の上昇は、銀行の貸出にも良い影響を与えると述べている。しかしこれについては本誌でも何回か取上げたことであり、ここでは割愛する。
岩田教授は、バブルが発生した時のメカニズムを再現することが大切と主張しているのである。筆者も以前、本誌でミニバブルが必要と言っており、教授の考えに賛成である。筆者は、地価が永久に上昇すると言う神話が崩れた今日では、バブル期と同じような金融情勢になっても大きな問題は起こらないと考えている。世間では、日銀を始め、このような考えに目を剥く向きも多いと思われるが、むしろこのような人々の考えに沿った政策では景気は良くはならないのである。
ところでバブル期と同じ政策を行えと言う、このような一見ラディカルな意見が、世の中に出てきたこと自体が、筆者には驚きであり、注目される。それも岩田教授のような経済学者から出てきたことに意義がある。そして教授の意見は、まさに話題になっている調整インフレへの道そのものでもある。
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