平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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99/11/1(第137号)
ニセ札とインフレ
  • ニセ札の経済効果
    2千円札が発行されることになり、最近ちょっとした話題になった。日本ではこの他に、10万円札の発行が検討されていると言うことである。ところが偽造された場合の損害が大きいと言う理由で、発行のメドが立っていない。しかし日本のお札は精巧にできており、偽造が難しく、信頼性は高いと言うのが一般の評価である。その点、米ドル札は偽造が容易なのか、よくニセ札が話題になる。そこで今週号は、このニセ札を取上げ、ニセ札の経済への影響と言うものを考えてみることにする。

    紙幣の偽造、つまりニセ札造りはどの国でも大罪である。無価値のニセ札と交換に商品やサービスを得るのだから、ニセ札を使うことは「詐欺」の一種と考えられる。
    では次に経済の面からニセ札の働きについて検討してみる。まず、限られた財をニセ札を使って購入するのであるから、全体では、需要が供給をオーバーすることになる。この結果、物価は上昇する。つまりニセ札を使う者は得をし、その他の者は損をすることになる。したがってニセ札の使用は、所得や富の分配に不当な歪みを生じさせるのである。この他に、ニセ札の使用によって全体として需要が増え、多少景気には良い効果が期待できる。また為替は、通貨が増加することによって下落することになる。以上の通り、ニセ札の使用は景気には多少なりともプラスとして働き、経済全体には、ニセ札の影響は悪いことばかりとは言い切れないようである。

    次に景気がものすごく悪く、商品の在庫が山積みになって、街に失業者が溢れている時にニセ札が使われた場合を考えてみる。この場合、物が余っているのだから簡単には物価は上昇しない。そしてニセ札を使って商品が売れることによって、商店には所得が発生し、この所得のある程度の割合は新たな消費を生み、これが次の所得を発生させることになる。まさに「ニセ札による乗数効果」である。

    ニセ札を使った者ものが一番得をすると言う倫理的な問題を別にすれば、経済全体で見れば、不況下においてニセ札が使われることは、むしろ歓迎される事柄と考えられるのである。ただし使われるニセ札の量的な問題はある。あまりにも大量のニセ札が使われると、需要が過剰となり、物価が上昇することになる。物価上昇を起こさないためには、ニセ札使用のメドは生産設備の遊休や失業がなくなる範囲までと言うことにはなる。


  • 信用収縮とニセ札
    今日、自国で通貨を発行している国は、管理通貨制度の元で通貨を発行している。国家の保証で自国通貨を発行しているのである。筆者の知っている限りでは、昔の兌換紙幣のように金との交換を保証している通貨は、今日の世界にはないはずである。以前は海外との貿易の決済についてだけは、各国が保有している金で行うことが前提であったが、貿易赤字が大きくなった米国が、ニクソン大統領の時代にこれを止めてしまった。
    したがって現在流通しているどの国の通貨も、通貨自体に価値があるわけではない。つまり今日流通している通貨も一種のニセ札と言える。言い方を変えれば、世界中の通貨は政府公認のニセ札である。

    経済に及す効果は、政府公認のニセ札と本来のニセ札は全く同じである。もっとも見た目には、両者に違いがないのであるから当り前の話ではある。したがって本来のニセ札の流通が増えれば、政府が通貨の発行を増やしたのと同じ効果がある。

    さらに色々な形態のニセ札が世の中には有る。日本で今年発行された「地域振興券」もりっぱなニセ札である。また政府が直接関与しないニセ札もある。一つは銀行が企業に与える信用供与などであり、これらも一種のニセ札である。そして特に日本で特徴的なのは、企業間の信用供与である。企業の間で商品やサービスの対価の支払の一定期間の猶予である。企業会計の勘定科目では受取手形、売掛金、未収入金、支払手形、買掛金、未払金、未払費用などに計上されているものである。機能を考えれば、これらも広義のニセ札である。

    今日、日本においては特に銀行の貸し渋りが話題になるが、筆者は企業間の信用も相当収縮していると見ている。企業間の信用については、企業の決算を締めてから分かるもので、はっきりしたデータがタイムリーに公表されないため、大きな話題になっていないだけである。現金でなければ品物は卸さないとか、支払いサイトの短縮を要請されたと言う話はよく耳にする話である。つまり企業間の信用がそれだけ収縮しており、それだけ流通していたはずのニセ札が大幅に減少しているのである。

    中小企業に対する信用保証枠設定は、小淵政権の大ヒット政策であり、確実に効果を上げている。もしこれがなかったら、中小企業に限らず、経済界はとんでもないことになっていたであろう。一部はゴルフ会員権や株式の購入に充てられると言った、本来の主旨とは違う使われ方もあろうが、これによって企業倒産が大幅に減少したのは事実である。そしてこの信用保証枠設定も、ニセ札大量発行のための制度である。
    信用保証枠は当初20兆円用意されたが、さらに10兆円の追加が予定されている。筆者が注目したいのは、これだけの多額の信用保証で資金(ニセ札)が出回っても、一向に物価が上昇しないことである。これは銀行の信用供与の減少だけでなく、企業間の信用も相当大きく縮小しているからと考える。

    たしかに日銀は金融緩和を行っているが、銀行から先に資金が流れて行かないのである。日銀が資金の供給方法を従来の形にこだわる限り、資金が末端に流れない状態が永遠に続くと考える。筆者は、地価が上昇するまで、銀行を通じた市中への資金の供給増は無理と考えている。このような現状では、今回の信用保証枠設定のように、政府が資金を直接民間に流すことが重要である。つまり政府によるニセ札の大量発行である。モラルハザードとかインフレ懸念と言った非難にはかまっておられないのである。話題になっている老人介護保険料も赤字国債と言うニセ札を使って、政府が負担すれば良いのである。

    米国は消費が好調で、景気も良い。ついには貯蓄率がマイナスと言うから驚きである。これには株価の上昇による資産効果などの影響が考えられる。また米国の消費性向が大きいことについても色々の仮説を提示してきた。しかし筆者は、以前から米国国民の消費意欲が異常に強いのは他にも原因があるのではと考えている。例えば今週号で取上げた、本来のニセ札が大量に出回っているとかである。たしかに米国のお札は偽造されやすいと言う評判である。もちろん半分は冗談である。



月間「現代」に日銀総裁のインタビュー記事が載っていた。そこで日銀総裁はとんでもないことを発言をしていた。そこで来週号では予定を変更して、これを取上げることにする。


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99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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