平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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99/10/18(第135号)
もう一つの実質金利
  • 一般的な実質金利
    今週号では、まず実質金利の推移を取上げ、別の角度から日本経済の実態を考えてみることにしたい。まず金利には、短期金利と長期金利がある。しかし実質金利を問題にする場合には、長期金利を念頭に置くのが普通のようである。

    また今日では、国債の流通利回りを長期金利と言っているのが普通である。したがって実質金利は、国債の流通利回りから物価上昇率、つまり消費者物価上昇率を引いた値である。しかし以前は国債は事実上買切り制が普通で、満期まで保有していた。つまり国債には発行市場はあっても、流通市場がないと言う状態が続いていた。既発債の流通市場がようやく出来たのは1,979年であり、その以前では適当な長期金利として使えるデータが筆者の手許にはない。

    長期金利のデータがこのような状態であり、今週号では、とにかくおおまかな実質金利の流れが分かれば良いと言う観点から別の金利を使うことにした。そこで昔からの継続したデータと言うことで、金利は国内銀行の貸出約定金利を変則ではあるが採用することにした。以上の数値で次の表ができあがっている。

    貸出約定金利を元にして計算した実質金利(%)
    年度約定金利消費物価実質金利年度約定金利消費物価実質金利年度約定金利消費物価実質金利
    717.35.91.4885.60.84.8952.7-0.12.8
    726.75.72.0896.42.93.5962.50.42.1
    739.015.6-6.6907.73.34.4972.42.00.4


    左の列が高度成長の末期つまり列島改造論時代、まん中がバブル期、そして右が最近の不況期である。この表を見れば分かるように、名目の約定金利に差があっても、物価の上昇率を差引いた実質金利にはそれほど大きな差はないのである。つまり高度成長期と最近の実質金利に大きな差はない。特に73年にはオイルショックの影響で消費物価は上昇し、実質金利はマイナスになっている。また97年度は物価上昇率が多少大きくなっており、実質金利も小さくなっているが、これは消費税率のアップの影響と考えられる。ちなみに98年度の実質金利は2%とほぼ元の水準に戻っている。

    今日、低金利時代と言われているが、これはあくまでも名目金利のことである。実質金利で見れば、たしかに高い水準ではないが、際立って低いわけではない。思慮のないエコノミストや要人が、今日の低金利は問題であり、預金者の利益を損なっているとよく言っているが、実質金利を見る限りそのようなことはない。むしろ低金利と言う理由で、設備投資や住宅の新規購入を行った人々の方がひどい目に会っているのである。


  • 地価動向を加味した実質金利
    この表を眺めているともっと興味のある事実に気が付く。バブル期の実質金利が意外に高かったことである。ところが実質金利が高かったのにもかかわらず、土地投機が活発に行われていたのである。また今日の実質金利はそれほど低くはないが、決して高いものではない。事実、日銀の短期の名目の金利政策はゼロ金利政策である。しかしそれにもかかわらず、設備投資が低水準であり、ましてや土地投機など起る気配もない。そして筆者は、これらの不思議な現象を解明するには、さらに別の数値の推移を同時に考慮するこしが必要と考える。それは地価の動向である。そして地価の動向が経済に重大な影響を持つと言う現象は、日本経済が抱える特異性である。

    実質金利と地価の対前年度上昇率(%)
    年度実質金利全国平均三大都市年度実質金利全国平均三大都市年度実質金利全国平均三大都市
    711.416.516.5884.821.743.8952.8-3.0-4.8
    722.012.412.8893.58.312.2962.1-4.0-6.4
    73-6.630.931.4904.416.622.1970.4-2.9-4.3


    まず地価の動向を簡単に述べる。高度成長期とバブル期には大きく地価が上昇した。しかし両者には多少違いがある。高度成長期には全国一律に地価が上昇したが、バブル期には大都市圏を中心に上昇した。これは列島改造時代に購入した地方の土地が、ブームが去った後に売ろうとしても全く売れなかった事態が教訓になっていたからである。したがってバブル期には、より流動性の高い大都市圏の土地が活発に取引され、その中で地価の高騰が起ったのである。
    バブル期の地価の高騰は東京から始まり、これが一段落した頃から土地の投機は関西に移った。さらに地方に波及すると言う段階でバブルがはじけたのである。したがってバブル崩壊の衝撃は、最も関西に大きく、地方にはたいした影響がなかった。
    バブル崩壊後、地価は下がり続け、今日においても下落が続いているのである。地価の下落は大都市圏を中心に続いており、これもバブル期に上がり過ぎた反動である。

    ところで地価動向が経済に及す影響を考えることが日本経済にとって重要である。日本では地価水準が異常に高く、日本全体の土地代が米国の土地代の何倍にも達するのであるから、地価動向が経済に影響を与えるのは当然である。このようなことは諸外国ではまず考えられないことである。

    ところがこの重要な地価の動向が経済の主要な管理項目にはなっていないのである。消費者物価指数にももちろん含まれていない。わずかに家賃の動向に影響を与え、これが消費者物価指数に反映されているくらいであろう。たしかに一般的な日常生活を送る上で地価の動向は関係ないかもしれない。そして消費者物価指数に地価の動向を直接含めることは無理である。しかし日本においては、土地の購入代金の大きさを考えると、地価動向を反映した物価指数と言うものが是非必要であり、政府の経済政策、金融政策はこれを重視して行われるべきである。これは以前からの本誌の主張である。

    さらに金利から消費者物価の上昇率を差引く現在の実質金利に加え、筆者は金利からこの地価動向を反映して物価の上昇率を差引いた「もう一つの実質金利」と言うものが必要と考えるのである。本誌でも、2年半前に97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」で「体感金利」と言う筆者の造語を使ってこれを主張している。この「体感金利」こそ「もう一つの実質金利」のことである。設備投資や住宅購入を考えるものにとっては、地価の動向を反映した実質金利こそ、まさに「体感金利」と言うもう一つの実質金利なのである。

    たしかに地価動向を加味した物価指数の算出は技術的な困難が伴うことが予想されるが、この数値があれば、バブル期の土地投機や今日の低調な設備投資を比較的簡単に説明できるのである。たしかにバブル期の実質金利は高かったが、地価の上昇も極めて大きかった。そして地価動向を反映させた物価上昇率はかなり大きかったはずである。したがってこの物価指数を使った実質金利はかなり低いはずである。むしろこれがマイナスになっていた可能性が強いのである。つまり金利が高くても土地投資にはどんどん資金が流入する条件ができていたのである。
    反対に今日では、地価が下がり続けている。したがって地価動向を反映した実質金利は逆に相当高くなっているはずである。これでは土地の購入を伴う投資が行われるはずがないのである。

    今日経営危機が伝えられる企業は、バブル崩壊後、積極的な投資を行ったところが多い。しかしたしかに名目の金利は低かったが、地価動向を加味したもう一つの実質金利は相当高い水準で推移しているのである。これらの企業の経営者は地価の上昇への反転を期待していたのかもしれないが、残念ながら現実はそうはならなかったのである。



来週号では、今週説明した「もう一つの実質金利」を使って、どうして日本は金融政策を過ったかについて述べたい。


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99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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