- 一般的な実質金利
今週号では、まず実質金利の推移を取上げ、別の角度から日本経済の実態を考えてみることにしたい。まず金利には、短期金利と長期金利がある。しかし実質金利を問題にする場合には、長期金利を念頭に置くのが普通のようである。
また今日では、国債の流通利回りを長期金利と言っているのが普通である。したがって実質金利は、国債の流通利回りから物価上昇率、つまり消費者物価上昇率を引いた値である。しかし以前は国債は事実上買切り制が普通で、満期まで保有していた。つまり国債には発行市場はあっても、流通市場がないと言う状態が続いていた。既発債の流通市場がようやく出来たのは1,979年であり、その以前では適当な長期金利として使えるデータが筆者の手許にはない。
長期金利のデータがこのような状態であり、今週号では、とにかくおおまかな実質金利の流れが分かれば良いと言う観点から別の金利を使うことにした。そこで昔からの継続したデータと言うことで、金利は国内銀行の貸出約定金利を変則ではあるが採用することにした。以上の数値で次の表ができあがっている。
貸出約定金利を元にして計算した実質金利(%)
| 年度 | 約定金利 | 消費物価 | 実質金利 | 年度 | 約定金利 | 消費物価 | 実質金利 | 年度 | 約定金利 | 消費物価 | 実質金利 |
| 71 | 7.3 | 5.9 | 1.4 | 88 | 5.6 | 0.8 | 4.8 | 95 | 2.7 | -0.1 | 2.8 |
| 72 | 6.7 | 5.7 | 2.0 | 89 | 6.4 | 2.9 | 3.5 | 96 | 2.5 | 0.4 | 2.1 |
| 73 | 9.0 | 15.6 | -6.6 | 90 | 7.7 | 3.3 | 4.4 | 97 | 2.4 | 2.0 | 0.4 |
左の列が高度成長の末期つまり列島改造論時代、まん中がバブル期、そして右が最近の不況期である。この表を見れば分かるように、名目の約定金利に差があっても、物価の上昇率を差引いた実質金利にはそれほど大きな差はないのである。つまり高度成長期と最近の実質金利に大きな差はない。特に73年にはオイルショックの影響で消費物価は上昇し、実質金利はマイナスになっている。また97年度は物価上昇率が多少大きくなっており、実質金利も小さくなっているが、これは消費税率のアップの影響と考えられる。ちなみに98年度の実質金利は2%とほぼ元の水準に戻っている。
今日、低金利時代と言われているが、これはあくまでも名目金利のことである。実質金利で見れば、たしかに高い水準ではないが、際立って低いわけではない。思慮のないエコノミストや要人が、今日の低金利は問題であり、預金者の利益を損なっているとよく言っているが、実質金利を見る限りそのようなことはない。むしろ低金利と言う理由で、設備投資や住宅の新規購入を行った人々の方がひどい目に会っているのである。
- 地価動向を加味した実質金利
この表を眺めているともっと興味のある事実に気が付く。バブル期の実質金利が意外に高かったことである。ところが実質金利が高かったのにもかかわらず、土地投機が活発に行われていたのである。また今日の実質金利はそれほど低くはないが、決して高いものではない。事実、日銀の短期の名目の金利政策はゼロ金利政策である。しかしそれにもかかわらず、設備投資が低水準であり、ましてや土地投機など起る気配もない。そして筆者は、これらの不思議な現象を解明するには、さらに別の数値の推移を同時に考慮するこしが必要と考える。それは地価の動向である。そして地価の動向が経済に重大な影響を持つと言う現象は、日本経済が抱える特異性である。
実質金利と地価の対前年度上昇率(%)
| 年度 | 実質金利 | 全国平均 | 三大都市 | 年度 | 実質金利 | 全国平均 | 三大都市 | 年度 | 実質金利 | 全国平均 | 三大都市 |
| 71 | 1.4 | 16.5 | 16.5 | 88 | 4.8 | 21.7 | 43.8 | 95 | 2.8 | -3.0 | -4.8 |
| 72 | 2.0 | 12.4 | 12.8 | 89 | 3.5 | 8.3 | 12.2 | 96 | 2.1 | -4.0 | -6.4 |
| 73 | -6.6 | 30.9 | 31.4 | 90 | 4.4 | 16.6 | 22.1 | 97 | 0.4 | -2.9 | -4.3 |
まず地価の動向を簡単に述べる。高度成長期とバブル期には大きく地価が上昇した。しかし両者には多少違いがある。高度成長期には全国一律に地価が上昇したが、バブル期には大都市圏を中心に上昇した。これは列島改造時代に購入した地方の土地が、ブームが去った後に売ろうとしても全く売れなかった事態が教訓になっていたからである。したがってバブル期には、より流動性の高い大都市圏の土地が活発に取引され、その中で地価の高騰が起ったのである。 バブル期の地価の高騰は東京から始まり、これが一段落した頃から土地の投機は関西に移った。さらに地方に波及すると言う段階でバブルがはじけたのである。したがってバブル崩壊の衝撃は、最も関西に大きく、地方にはたいした影響がなかった。 バブル崩壊後、地価は下がり続け、今日においても下落が続いているのである。地価の下落は大都市圏を中心に続いており、これもバブル期に上がり過ぎた反動である。
ところで地価動向が経済に及す影響を考えることが日本経済にとって重要である。日本では地価水準が異常に高く、日本全体の土地代が米国の土地代の何倍にも達するのであるから、地価動向が経済に影響を与えるのは当然である。このようなことは諸外国ではまず考えられないことである。
ところがこの重要な地価の動向が経済の主要な管理項目にはなっていないのである。消費者物価指数にももちろん含まれていない。わずかに家賃の動向に影響を与え、これが消費者物価指数に反映されているくらいであろう。たしかに一般的な日常生活を送る上で地価の動向は関係ないかもしれない。そして消費者物価指数に地価の動向を直接含めることは無理である。しかし日本においては、土地の購入代金の大きさを考えると、地価動向を反映した物価指数と言うものが是非必要であり、政府の経済政策、金融政策はこれを重視して行われるべきである。これは以前からの本誌の主張である。
さらに金利から消費者物価の上昇率を差引く現在の実質金利に加え、筆者は金利からこの地価動向を反映して物価の上昇率を差引いた「もう一つの実質金利」と言うものが必要と考えるのである。本誌でも、2年半前に97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」で「体感金利」と言う筆者の造語を使ってこれを主張している。この「体感金利」こそ「もう一つの実質金利」のことである。設備投資や住宅購入を考えるものにとっては、地価の動向を反映した実質金利こそ、まさに「体感金利」と言うもう一つの実質金利なのである。
たしかに地価動向を加味した物価指数の算出は技術的な困難が伴うことが予想されるが、この数値があれば、バブル期の土地投機や今日の低調な設備投資を比較的簡単に説明できるのである。たしかにバブル期の実質金利は高かったが、地価の上昇も極めて大きかった。そして地価動向を反映させた物価上昇率はかなり大きかったはずである。したがってこの物価指数を使った実質金利はかなり低いはずである。むしろこれがマイナスになっていた可能性が強いのである。つまり金利が高くても土地投資にはどんどん資金が流入する条件ができていたのである。 反対に今日では、地価が下がり続けている。したがって地価動向を反映した実質金利は逆に相当高くなっているはずである。これでは土地の購入を伴う投資が行われるはずがないのである。
今日経営危機が伝えられる企業は、バブル崩壊後、積極的な投資を行ったところが多い。しかしたしかに名目の金利は低かったが、地価動向を加味したもう一つの実質金利は相当高い水準で推移しているのである。これらの企業の経営者は地価の上昇への反転を期待していたのかもしれないが、残念ながら現実はそうはならなかったのである。
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