平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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99/9/20(第131号)
社会的欲求と日本経済
  • 為替動向と当局の金融政策
    今週号では、本題に入る前に最近の為替の動きと当局の対応について述べたい。まず、以前からの本誌の為替動向の見方は、中長期的には「円高」であり、今の為替動向自体はむしろ納得できるものである。ただ筆者の予想より少し早く円高の進行が始まったとは感じている。
    先月述べたように、筆者は、110円前後が為替の均衡値と考えており、現在の数値がとりたてて高い水準とは思わない。しかし円高は景気回復にマイナスと言うことは間違いない。さらに相場と言うものは常に行過ぎる危険があり、対応を間違えると、95年の超円高の再現と言った事態も有りうる。

    為替水準が行過ぎる場合には、たいてい「投機資金」の動きが伴うものである。米国の株価も長く膠着状態が続いており、投資家も思うように利益を上げていないはずである。彼等の目が日本に向くのも自然である。そして今後「投機資金」の動向によっては、とんでもない水準まで為替が動くことが考えられる。過去の経験から分かるように、日本の単独介入だけでは、この動きは阻止できない。国際協調、特に米国の協力が絶対に必要である。

    ところが米国の態度がはっきりしない。色々な考えや立場の人々がいて、為替政策への考えも異なっている。特に来年は大統領選挙があり、国内産業に目を向けるか、日米の政策協調を重視するかの選択で迷うところである。また一時の米ドルの独歩安から、円の独歩高に変わってきている。つまりドル安による国内物価などへの影響も限られるのである。したがって日本が考えるほどには、米国政府は為替動向についての関心が大きくはないと考えられる。
    そうは言っても、円高がどんどん進み、日本経済が再びガタガタの状態になるのもまずいと考えるはずである。

    そこで米国政府は、為替政策に協調した行動を採るため、日本に条件を飲ませることになる。既に米国政府の高官の発言から、この米国の条件と言うものは割りとはっきりしている。追加的な財政出動と一段の金融緩和である。つまり米国の要請は、財政政策と金融政策の両方が必要と言っている。

    規模の問題を別にして、第二次補正予算が組まれることは間違いない。つまり財政政策についてはメドがたっている。問題は金融政策である。ところが、先日の大蔵大臣の申入にもかかわらず、日銀は「既に十分な金融緩和は行っている」と言って、一段の金融緩和を拒否している。むしろ「ゼロ金利政策」の見直しを模索しているのが実態である。もっともこれは、9月16日までの話である。

    ところがこのコラムを書いている途中で、日銀が一転して量的な金融緩和の拡大する方向に変わったと言うニユースが伝わった。はたしてどの程度の金融緩和で、どの程度の効果があるのかはっきりしないが、方針の転換があるようである。これについては、為替介入資金の不胎化の問題を含め、さらに来週号で述べることになる。

    景気浮揚政策において、財政政策と金融政策のどちらに重点を置くかと言ったことは、昔からの議論のテーマである。85年の「プラザ合意」以降の円高不況の対策は、やや金融政策に片寄った政策だったと筆者は考えている。財政当局が「赤字国債の解消」を目指していたため、財政支出をけちったのである。つまり安上がりの景気対策を選択したのである。その分金融政策の負担が大きくなり、結果として過剰流動性の問題が残った。資産価格の高騰と言うバブル経済の背景には、この過剰流動性が存在したのである。
    しかし今日の日本では、資産価格の高騰と言う事態が起るとはとても考えられないし、そんなことを心配すること事態が異常である。むしろゆるやかな資産価格の上昇は、好ましい現象である。また万が一にも過剰流動性が問題になっても、以前に比べもっと適切な対処ができるはずである。

    米国と日銀の行動がまだはっきりしてない状況では、為替相場は当分不安定な動きとなろう。そして注目されるのは25日のG7の結果である。ここではっきりとした為替安定策が打ち出されない場合には、大きく為替が変動する可能性が強い。
    そもそも日本のような大きな経常黒字の国の為替を安い方向へ持っていくことは、論理的に矛盾した行為である。それを行おうとするのであるから、当局はよほど腰を据えて政策を行う必要がある。


  • 社会的欲求と日本経済
    ここからは先週号の続きである。日本では数々の理由で、消費に対する欲求と言うものが減退しており、消費より貯蓄を選好する傾向が強くなっている。しかしこれはあくまでも個人的な欲求に限った話である。住宅を除けば、たしかに日本は高い消費水準を長年続けており、個人的な消費への欲求は一応満たされている段階であろう。消費材の在庫も抱えており、品物を買っても置く所がないと言う状況である。通信衛星による多チャンネル化やインターネットと言う新しいメディアが登場しても、一日の時間は24時間であり、これらに振り向ける時間にも限度がある。睡眠時間も年々短くなっており、そろそろ限界である。

    このように個人の欲求と言うものは各方面から制限されているのが現状である。しかし個人的な欲求とは別に、人々には社会的な欲求と言うものがあるはずである。
    例えば「安全」「治安」「環境」などである。また「日本の誇り」みたいなものもこの範疇に入るであろう。そしてこれらを満たすために費用がかかるとしても、人々の多くはなんとなくそれに賛成すると思われる。

    さらに社会的欲求をより具体的に述べると、次のようになる。「空気はきれいに、騒音を小さくしてほしい」「開かずの踏切を立体交叉にしてほしい」「満員電車をなんとかしてほしい」「ホームレスがいない社会にしてほしい」などである。
    しかしこのような社会的欲求があることについては、誰でも理解するが、大きな声にならないのがこれらの欲求の特徴でもある。したがって政治家や政府も日頃からあまり真剣には取上げないのである。

    ところでこのような社会的欲求も時として大きくなることがある。阪神大震災の後の都市の防災態勢の不備や昨年のミサイルが飛んできた時の防衛態勢の不備などである。もっともこれらも時間がたつにつれ、しだいに薄れて行くのである。このように社会的欲求と言うものは、通常は表面に出ないが、潜在的に強く存在する欲求と言えるであろう。潜在化した欲求はなかなか表面化しない。人々はそれに慣らされて、あきらめてしまったり、それが普通と考えるようになるのである。日本の地下鉄の速度が異常に遅いことや、満員電車が異常であることに、外国に行って初めて気が付くのである。学校の先生や警察官の電車での「チカン行為」は異常なこととして取上げられるが、満員電車が異常なことは取上げられないのである。

    本来、社会的欲求はもっと表面に出て、政治の争点にもなるべきであるが、現実はそうなっていない。マスコミはこのような問題を日頃から積極的に取上げるべきと考えるが、実際はむしろ消極的である。筆者は、マスコミがこれに消極的な理由を、社会的欲求を満たすためには多くの公共工事を伴うからと考える。公共工事に否定的なマスコミは、むしろこれらの問題に触れることを避けるのである。

    現在の日本経済は極めていびつな形をしている。内外には莫大な金融資産を持ちながら、満員電車に代表されるように交通インフラは極めて貧弱である。人々は、家の中にはブランド商品の在庫が山となっているのに、一旦地震が起り、火災が発生しても消防車が入れないような狭い路地に住んでいるのである。

    公共投資には常に「採算」が問題にされる。しかし日本の金融市場は極めて低金利で推移している。筆者は、これはリターンが低い投資、たとへば社会資本への投資を促す市場からのサインと理解している。個人的欲求が小さくなった今日では、社会的欲求を満たす方向に資金が流れる必要があることを示しているのである。ところで公共投資と採算については、近々再び取上げることにしたい。



為替レートが大きく変動している。今回の円高に際して、特に日銀の動きが注目を集めている。そこで来週号では「日銀の独立性」をテーマに取上げたい。


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99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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