平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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99/9/13(第130号)
欲求と日本経済成長の関係
  • 経済成長の条件
    欲求、特に消費に対する欲求が減退した日本のような国の経済は持続的な成長はしない。つまり経済が成長するためには消費への欲求が持続的に発生する必要がある。今週号では日本のような国が経済成長するための条件を考えてみたい。
    もっともこれだけ経済水準が上がれば、「もう経済成長は必要ない」と言う人々も世の中には大勢いる。たしかに歴史的には、どの国でも、ほとんど経済成長がないか、あるいは極めて低成長の時代の方がずっと長いのであり、むしろ今の水準が維持できれば十分と言う意見にも納得させられる。しかし、今週号ではとりあえずこのような意見は別にして、経済成長の条件を考えたい。

    まず日本には十分な貯蓄があり、経済が成長する供給側の条件は整っている。生産設備も廃棄が必要なほど過剰にある。人手も大量の失業者が示すように余っている。ただ先週号で述べたように、消費に対する欲求が乏しく需要がないだけである。将来に備えた預貯金を引出してまで買いたい対象がないのである。
    つまりこれから日本経済が成長するためには、「預貯金を引出してまで買いたい対象」が出現することである。一つは「規制緩和」により、魅力的な消費材やサービスの出現である。しかし先週号で述べたように、日本では事実上「規制緩和」によってそのような消費の対象が生まれる可能性はない。仮にまだ「規制緩和」で出現するものがあっても、それらのGDPの押上効果は極めて小さいものであろう。

    もう一つの可能性は、大きなテクノロジーの進歩による画期的な大型商品の登場である。これだけ大きくなった日本の経済を成長させると実感させるには、相当大きな新商品である。過去においてのテレビや洗濯機などの電化製品や乗用車の登場くらいのインパクトが必要である。ところが差し当ってはそのような商品の登場する予感がないのが現状である。
    たしかにインターネットに代表される情報通信分野の成長が期待されている。特に米国ではこの分野の発展が、全体の経済成長に良い影響を与えているのは事実であろう。しかし以前本誌で述べたように、少なくともしばらくは、日本においては情報通信分野の成長はそれほど大きな期待できない。日本においては、まだまだ人々が直接相手に会って話をすることが重要であり、それが可能な国である。したがって米国のような国土が広く不便な国に比べ、情報通信分野に対するニーズは比較的小さいのである。

    当然、日本においても今後インターネットなどの情報通信分野は成長すると思われるが、当分の間、自動車産業ほどの大きさに成長することはとても無理と考える。つまり情報通信分野は成長によって多くの失業者に雇用機会が生まれると言うのは幻想である。

    実際、インターネットの発展によって莫大な利益を得ているのは、マイクロソフトやインテルなどである。現状では、日本のインターネット関連の成功者の利益など本当に微々たるものである。考えてみるとバブル期の不動産関連会社の利益の方が桁違いに大きかったのである。
    政府や政治家、そしてマスコミは、失業対策に情報通信分野の成長に過大な期待を持っているが、もっと冷静になるべきである。ハイテクのベンチャービジネスの振興による失業者の吸収なんて、とても期待できないことである。

    欲求が減退した日本で、唯一潜在的にあるのは住宅への欲求である。これが顕在化すれば、日本ももう少し経済の成長が可能性があると思われる。たしかに85年のプラザ合意以降、住宅の建設は順調に伸びた。しかしこれも96年の消費税アップ前の駆込み建設で一応終了した。むしろその後の住宅建設の激減が景気後退を深刻なものにした。たしかに景気対策の住宅減税により、今年に入って多少上向いているが、以前のような力強さはとても期待できない。

    日本の住宅は貧弱であり、これよ対する改善への強い欲求があるはずであるが、これが顕在化しないのである。どうも人々は半分あきらめているようである。大都市圏のマンション、つまり集合住宅の大半は将来スラム化すると思われる。資産形成の上でも一戸建て住宅が理想である。しかしこれはどうしても「土地問題」と「貧弱な交通インフラの問題」にぶつかる。

    筆者は、首都圏に限って言えば、関東平野の現在の農地の半分くらいは宅地に転換するような政策が必要と考える。首都圏においては土地を農地として使うより、宅地として使用する方が、経済的収益は数百倍になる。また農地は地方に休耕田としてゴロゴロ余っているのであり、ここでの農業生産を増やせば良いのである。つまり宅地に適した土地は宅地として使うと言う考えである。

    このような考えは、あたり前と思われるが、ところが現実は違う。現実が経済の原則に合っていないのである。そしてこのような事態を解決するのが政治の役目と考えるが、政治家は現実には目を向けず、歯の浮いたことばかり言っている。
    宅地の開発は郊外に伸びることになる。こうなれば都心と住宅地を結ぶ高速鉄道が何本も必要になる。ところが新たな鉄道を地上に建設することは無理である。日本では公共事業に必要な土地の収用が極めて困難である。成田空港を見れば分かるはずである。そこで注目されるのが、深い地下、つまり大深度地下の利用である。地権が及ばない、地下30mから50mのところに真直ぐの高速地下鉄を建設するのである。

    ユーロトンネルを造ったのも日本の建設会社であり、技術も日本にある。費用はユーロトンネルの建設費の例から、一本で2兆円くらいであろう。5本で10兆円である。日本は今、金融機関の救済と中小企業への信用保証と言った、後ろ向きのことに何十兆円も用意しているのである。高速地下鉄を建設費用10兆円は決して非現実的な話ではない。日本は歴史的な超低金利であり、今が最後のチャンスと思われる。この結果、経済活動が活発になるだけでなく、土地取引が活発になり、税収も増えるはずである。さらに農地から宅地に変わることによって、将来の相続税の増収も期待できる。

    「大深度地下の利用」のテーマは本誌でも過去に何回も取上げたが、日本人の持っている欲求を顕在化すると言う観点から今回も取上げた。


  • 経済の変質と財政支出
    現在日本では、財政出動を中心にした景気対策が行われている。これによって経済は少し上向きになっている。世間ではもう少しで持続的成長路線に乗ると言った意見もある。しかし筆者は、これは無理と考えている。そのうち設備投資も回復し、しばらくはプラス成長も続くかもしれないが、そのうちまた経済は下降すると読んでいる。設備投資増加による景気回復は、輸出が増え続けない限り、次の過剰設備の問題に繋がることになるからである。

    経済が持続的に成長するには、人々の消費に対する欲求と言うものが必要である。住宅への欲求を除けば、日本ではこれが乏しい。これまでも不足する需要を輸出と財政で補ってきたのである。筆者の意見では20年も前に、日本の経済は変質していたのである。これに人々が気が付いていなかっただけである。85年以降、何回も財政出動により景気を支えてきた。しかし自律的に成長路線に乗らなかった。これに対してこれまでの景気対策が間違っており、「これからは経済構造の改革が必要」と訳の分からないことを行っている自民党の総裁候補もいる。加藤前幹事長である。

    筆者は、過去の政府の財政出動が間違いだったとは決して考えない。効果もあったと考える。
    問題は今後の追加的財政支出に抵抗している人々がいることである。加藤前幹事長もその一人であろう。筆者は、日本の景気は正念場と考えている。住宅投資の伸びもこれ以上は無理であり、為替も円高傾向が定着しそうである。残された手段は補正予算などの財政出動による内需拡大だけである。これに対する抵抗が大きく、追加的財政政策がすんなり決まらないと言う事態になれば、為替安定への協力を米国から得られないことになろう。そうなれば95年の超円高の悪夢の再現である。

    筆者は、日本は財政支出で経済を支えることを今後もずっと続けて行かなければならないと考えている。これに対して「いつまで」と言う質問があるかもしれない。しかし筆者は、この質問に簡単には答えられない。
    土地政策がうまく機能して、住宅建設の大ブームが来れば財政支出はそれだけ削減できるであろう。また画期的技術の超大型商品が出現し、消費が盛上がる事態があれば、政府支出を削減できるであろう。ただ前段で述べたように、これが世間で言われているような、インターネットを始めとした情報通信分野の成長のことなのかどうかについては、筆者もまだ判断に迷っている。



今週号まで欲求と経済の関係について述べてきたが、欲求と言っても個人的欲求を中心にしたものであった。欲求には別に「社会的欲求」と言うものがある。筆者は、現在の日本ではこちらの方も重要と考える。来週号ではこれを取上げることにしたい。


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99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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