- 経済成長の条件
欲求、特に消費に対する欲求が減退した日本のような国の経済は持続的な成長はしない。つまり経済が成長するためには消費への欲求が持続的に発生する必要がある。今週号では日本のような国が経済成長するための条件を考えてみたい。 もっともこれだけ経済水準が上がれば、「もう経済成長は必要ない」と言う人々も世の中には大勢いる。たしかに歴史的には、どの国でも、ほとんど経済成長がないか、あるいは極めて低成長の時代の方がずっと長いのであり、むしろ今の水準が維持できれば十分と言う意見にも納得させられる。しかし、今週号ではとりあえずこのような意見は別にして、経済成長の条件を考えたい。
まず日本には十分な貯蓄があり、経済が成長する供給側の条件は整っている。生産設備も廃棄が必要なほど過剰にある。人手も大量の失業者が示すように余っている。ただ先週号で述べたように、消費に対する欲求が乏しく需要がないだけである。将来に備えた預貯金を引出してまで買いたい対象がないのである。 つまりこれから日本経済が成長するためには、「預貯金を引出してまで買いたい対象」が出現することである。一つは「規制緩和」により、魅力的な消費材やサービスの出現である。しかし先週号で述べたように、日本では事実上「規制緩和」によってそのような消費の対象が生まれる可能性はない。仮にまだ「規制緩和」で出現するものがあっても、それらのGDPの押上効果は極めて小さいものであろう。
もう一つの可能性は、大きなテクノロジーの進歩による画期的な大型商品の登場である。これだけ大きくなった日本の経済を成長させると実感させるには、相当大きな新商品である。過去においてのテレビや洗濯機などの電化製品や乗用車の登場くらいのインパクトが必要である。ところが差し当ってはそのような商品の登場する予感がないのが現状である。 たしかにインターネットに代表される情報通信分野の成長が期待されている。特に米国ではこの分野の発展が、全体の経済成長に良い影響を与えているのは事実であろう。しかし以前本誌で述べたように、少なくともしばらくは、日本においては情報通信分野の成長はそれほど大きな期待できない。日本においては、まだまだ人々が直接相手に会って話をすることが重要であり、それが可能な国である。したがって米国のような国土が広く不便な国に比べ、情報通信分野に対するニーズは比較的小さいのである。
当然、日本においても今後インターネットなどの情報通信分野は成長すると思われるが、当分の間、自動車産業ほどの大きさに成長することはとても無理と考える。つまり情報通信分野は成長によって多くの失業者に雇用機会が生まれると言うのは幻想である。
実際、インターネットの発展によって莫大な利益を得ているのは、マイクロソフトやインテルなどである。現状では、日本のインターネット関連の成功者の利益など本当に微々たるものである。考えてみるとバブル期の不動産関連会社の利益の方が桁違いに大きかったのである。 政府や政治家、そしてマスコミは、失業対策に情報通信分野の成長に過大な期待を持っているが、もっと冷静になるべきである。ハイテクのベンチャービジネスの振興による失業者の吸収なんて、とても期待できないことである。
欲求が減退した日本で、唯一潜在的にあるのは住宅への欲求である。これが顕在化すれば、日本ももう少し経済の成長が可能性があると思われる。たしかに85年のプラザ合意以降、住宅の建設は順調に伸びた。しかしこれも96年の消費税アップ前の駆込み建設で一応終了した。むしろその後の住宅建設の激減が景気後退を深刻なものにした。たしかに景気対策の住宅減税により、今年に入って多少上向いているが、以前のような力強さはとても期待できない。
日本の住宅は貧弱であり、これよ対する改善への強い欲求があるはずであるが、これが顕在化しないのである。どうも人々は半分あきらめているようである。大都市圏のマンション、つまり集合住宅の大半は将来スラム化すると思われる。資産形成の上でも一戸建て住宅が理想である。しかしこれはどうしても「土地問題」と「貧弱な交通インフラの問題」にぶつかる。
筆者は、首都圏に限って言えば、関東平野の現在の農地の半分くらいは宅地に転換するような政策が必要と考える。首都圏においては土地を農地として使うより、宅地として使用する方が、経済的収益は数百倍になる。また農地は地方に休耕田としてゴロゴロ余っているのであり、ここでの農業生産を増やせば良いのである。つまり宅地に適した土地は宅地として使うと言う考えである。
このような考えは、あたり前と思われるが、ところが現実は違う。現実が経済の原則に合っていないのである。そしてこのような事態を解決するのが政治の役目と考えるが、政治家は現実には目を向けず、歯の浮いたことばかり言っている。 宅地の開発は郊外に伸びることになる。こうなれば都心と住宅地を結ぶ高速鉄道が何本も必要になる。ところが新たな鉄道を地上に建設することは無理である。日本では公共事業に必要な土地の収用が極めて困難である。成田空港を見れば分かるはずである。そこで注目されるのが、深い地下、つまり大深度地下の利用である。地権が及ばない、地下30mから50mのところに真直ぐの高速地下鉄を建設するのである。
ユーロトンネルを造ったのも日本の建設会社であり、技術も日本にある。費用はユーロトンネルの建設費の例から、一本で2兆円くらいであろう。5本で10兆円である。日本は今、金融機関の救済と中小企業への信用保証と言った、後ろ向きのことに何十兆円も用意しているのである。高速地下鉄を建設費用10兆円は決して非現実的な話ではない。日本は歴史的な超低金利であり、今が最後のチャンスと思われる。この結果、経済活動が活発になるだけでなく、土地取引が活発になり、税収も増えるはずである。さらに農地から宅地に変わることによって、将来の相続税の増収も期待できる。
「大深度地下の利用」のテーマは本誌でも過去に何回も取上げたが、日本人の持っている欲求を顕在化すると言う観点から今回も取上げた。
- 経済の変質と財政支出
現在日本では、財政出動を中心にした景気対策が行われている。これによって経済は少し上向きになっている。世間ではもう少しで持続的成長路線に乗ると言った意見もある。しかし筆者は、これは無理と考えている。そのうち設備投資も回復し、しばらくはプラス成長も続くかもしれないが、そのうちまた経済は下降すると読んでいる。設備投資増加による景気回復は、輸出が増え続けない限り、次の過剰設備の問題に繋がることになるからである。
経済が持続的に成長するには、人々の消費に対する欲求と言うものが必要である。住宅への欲求を除けば、日本ではこれが乏しい。これまでも不足する需要を輸出と財政で補ってきたのである。筆者の意見では20年も前に、日本の経済は変質していたのである。これに人々が気が付いていなかっただけである。85年以降、何回も財政出動により景気を支えてきた。しかし自律的に成長路線に乗らなかった。これに対してこれまでの景気対策が間違っており、「これからは経済構造の改革が必要」と訳の分からないことを行っている自民党の総裁候補もいる。加藤前幹事長である。
筆者は、過去の政府の財政出動が間違いだったとは決して考えない。効果もあったと考える。 問題は今後の追加的財政支出に抵抗している人々がいることである。加藤前幹事長もその一人であろう。筆者は、日本の景気は正念場と考えている。住宅投資の伸びもこれ以上は無理であり、為替も円高傾向が定着しそうである。残された手段は補正予算などの財政出動による内需拡大だけである。これに対する抵抗が大きく、追加的財政政策がすんなり決まらないと言う事態になれば、為替安定への協力を米国から得られないことになろう。そうなれば95年の超円高の悪夢の再現である。
筆者は、日本は財政支出で経済を支えることを今後もずっと続けて行かなければならないと考えている。これに対して「いつまで」と言う質問があるかもしれない。しかし筆者は、この質問に簡単には答えられない。 土地政策がうまく機能して、住宅建設の大ブームが来れば財政支出はそれだけ削減できるであろう。また画期的技術の超大型商品が出現し、消費が盛上がる事態があれば、政府支出を削減できるであろう。ただ前段で述べたように、これが世間で言われているような、インターネットを始めとした情報通信分野の成長のことなのかどうかについては、筆者もまだ判断に迷っている。
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