平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/4/28(第13号)
日本の物価と金利を考える(その2)
  • 先週号の4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」で、日本では物価上昇率をあまり考慮されないまま、金利水準についての議論がされがちであることを指摘した。つまり金利(この場合は名目金利)が低くても、物価上昇率が低ければ、実質金利はけっして低くはならず、投資は増大しにくい。さらに、土地の取得を伴う投資の場合には、地価の動向が大きく影響する。この場合の投資家にとっての体感金利(筆者の造語:投資家にとっての実際感じる金利水準-- 具体的に示すなら、予想実質金利に地価の予想下落率の絶対値を加味したものである)は地価の下落が続くうちは極めて高くなリ、名目金利が低くても投資は実行されにくい。
    たしかに投資を決定する要因は金利水準だけではないが、金利が低くても投資が増えない有力な説明にはなる。

  • 物価上昇率が考慮されていない例は上記の「投資」との関係だけでない。重要なものは資金運用の予定利率や目標利益率との関係である。これらの数値が異常に高いのである。筆者は、これらの数値が大きいのは物価上昇が大きかった頃の惰性であると考える。手元にある資料(新聞記事)でも「建設業などの退職金共済組合の資金運用の予定利率を2%下げ4%台にする(3月9日付・日経)」ということである。この記事から類推すると日本における機関投資家の目標利益率は4.5%くらいと想像される。
    国債の利回りが2%そこそこの時代に、4.5%の利益を要求されるのである。これは重大なことであると筆者は考える。つまり資金運用担当者は確定利回りの投資だけでは、とてもこの利益目標をクリア-できないのである。それだけ「ハイリスク・ハイリタ-ンの投資」の割合を増やさざるを得ないのである。ハイリスク・ハイリタ-ンの世界とは、端的に言えば「ゼロサムゲ-ムの世界」つまり勝者がいれば、かならず敗者のいる世界である。これを日本では、サラリ-マンの資金運用担当者にやらせるのである。
    さらに業績評価を行う期間が短くなっているらしい。3ケ月毎に年率4.5%の利益を得るのは至難の技である。つまり、その分損をしてくれる人が必要であり、全員が目標の利益を得ることは理論上無理である。

  • 「高すぎる運用目標の問題」が重要なのは、これだけの目標利益を得るには外債投資しかないと資金運用者が誤解するからである。たしかに為替が変動しなければ、日米の金利差を考えると、外債投資有利と決定的に考えるであろう。しかし、金利差は両国の物価上昇率などを反映しており、将来的には円高になることを示唆するものである。つまりどちらの通貨で運用しても同じようになるように決まるのである。もちろん局面においては、どちらかの通貨で運用する方が有利であることもあるが、長い目で見ればこれも「ゼロサムゲ-ムの世界」である。たしかに円高が行き過ぎた2年前なら外債投資は有利と考えられただろうが、かなり円安が進んだ現在では、外債投資がかなり大きなリスクを負っていると考える。
    85年の「プラザ合意」から12年たった。その間、ドルは240円から125円に115円価値が下がった。この減価をカバ-するには年率で5.6%米国債の方の利回りが高いことが必要であった(さすがここまでは金利差は開かなかった)。このように日米の金利差が広がったと言っても、単純に外債投資を行うことは危険である。4/14(第11号)の冒頭で筆者が、「現時点の米国債投資は玉砕覚悟の投資」と言ったのもこうゆう理由である。そしてこのような投資をせざるを得ない状況を作っている背景の一つは、日本の物価の安定を考慮しない、無茶な「機関投資家の目標利益率や予定利率」である。ほとんど物価上昇率がゼロの日本で4.5%の金利がリスクなしで得られるならこんな楽なことはない。皆、働くのをやめ、「金貸し」をやった方がよい。

  • 外国の機関投資家は毎年高い運用利益を得ていると言われるが、ドルで運用すればその分利益率が高くなるのは当り前である。しかし、かりに金利差以上に利益率が高いのなら、それは、その機関投資家がゼロサムゲ-ムの勝者と言えるかもしれない。そして、その場合の敗者は日本の機関投資家である確率は高い。
    どうしても、高い利益率を求められるなら、運用の全てを「ドル建て」にすることが考えられる。これにより為替リスクが回避できるなら、運用も楽であろう。もし、どうしても高い配当を要求される場合には、リスクを伴うオプションを用意する他はなく、その場合には、運用を委託する側にリスクを負ってもらうほかはない。

  • 筆者は、日本のサラリ-マンの資金運用担当者が行う資金運用の全てを否定するわけではない。「ハイリスク・ハイリタ-ンの投資」が日本の雇用環境にはなじまないという考えである。
    各種のヘッジを利用することなどにより、リスクを最小限し、ある程度のリタ-ンを得ることは可能であろう。しかし、これを行っても年率4.5%の目標利益率は無理であろう。当分、資金運用者の苦悩は続くと言うことである。今後は運用利回りを考える場合には、なんらかのかたちで物価上昇率を反映させるべきである。

  • 偶然であろうが、「日産生命の業務停止命令(事実上の清算)」が今週号のコラムを作成中に報道された。生保にあぶない会社があることは以前からうわさされていたが、いよいよ現実となった。このニュ-スはそれ以降あまり大きく取り上げられていないが、破綻が銀行に限られたものではなくなったと言う点で、筆者には大変注目される。ただ、生保の場合は扱っているのは基本的には「契約」であり、「有価証券」ではないので、その点で、当局が対処する場合は幾分楽であろう。
    日産生命の破綻はバブルによる不良債権発生に加え、資金運用の失敗が原因と報道されている。つまりバブル期前後に募集した商品の予定利率が、今日では高過ぎたことが大きな原因であった。まさしく今週のテ-マにズバリ合致した出来事である。生保の契約は期間が長いところに特徴がある。期間が長くなればその間に市場金利が変動するのは当り前であるが、物価上昇率も変動するのである。特に個人契約の生保の場合、将来の保険金の使いでが問題となろう。そうなれば、予定利率を実質金利を反映させたかたちで決めることに合理性がある。もちろんその場合には、予定利率は変動型にする必要がある。

  • さらに、日本の予定利率や目標利益が高くなる要因の一つに、金融機関のコストが高いことが挙げられる。外国の企業と競争しているメ-カの社員の給料は、ほぼ国際的な合理的基準で決まる。またこれは為替の動きにも影響を受ける。つまり円高になれば、海外での事業展開を進めると言うかたちで企業は行動する。
    一方、実質的には国内向け企業である金融機関は、政府の保護政策(競争制限政策)により長い間利益が保証されてきた。この結果、日本の金融機関は極めてコストのかかる体質となつてしまった。国内では気がつかないかもしれないが、例えば人件費を国際的に見れば(ドル建てで計算すれば)、極めて高くなる。給料水準だけを見れば、まるで従業員の半分は外国の金融機関では役員クラスである。こうゆう状態で国際化や日本版ビックバンに対処できるか疑問である。
    筆者は、高経費体質を前提にした日本の金融機関の行動がバブルをより大きくさせた大きな原因と考えている。つまり、高経費体質の改善なしで、量的拡大だけを求めた結果である。無理な利益を求める無理な行動が大量の不良債権を生んだのだ。ただ、バブルの生成については、他の要素もあるので、次の機会に詳しく述べたい。



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97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」