平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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99/8/2(第126号)


エコノミストの格付け(その2)
  • 「清貧の思想」と経済
    どう言うわけか日本では、不景気になると「清貧の思想」と言うものが流行る。たいてい悪い家老が登場し、藩の主導権を握り、散財したあげく、藩の財政がパンクする。そこに清貧の志しを持った藩主が現れ、この家老を追い出し、藩の財政の立直しを図る。彼は藩の支出を削減すると同時に、殖産興業に努める。市場性のある商品作物の栽培を奨励し、これを加工させることもある。生産物は他の諸藩に売り捌き、この藩は繁栄する。そしてこの藩主は名君として後世に語り継がれ、銅像の一つも建てられるのである。

    同様な行動は現代の企業にも見られる。不景気が深刻になるほど企業はコストの削減に努め、生残りを図る。「清貧の思想」が不景気になるほどもてはやされるのである。たしかに個々の企業とって、経費の削減に努め、競争力を強化することは合理的な行動である。このように藩や企業の繁栄のためには、「清貧の思想」はオーソドックスな考え方である。

    ところが日本は、国の単位で「清貧の思想」に沿った政策を何回か行ってきたのである。ただし国の場合には、不況時に行っているのではないと言う違いはある。
    まず中曽根内閣は消費税導入をにらみ、「増税なき財政再建」と言う方針を打ち出した。財政支出は、「ゼロシーリング」の原則に沿って厳しく査定された。「ゼロシーリング」は4、5年続いた。次の「財政再建路線」は橋本内閣の時である。この時には財政支出の削減だけではなく、増税も同時に行った。97年度の予算はまさに財政均衡を目指すものと言える。

    この「財政均衡主義」を一番の売物としているエコノミストが、文芸春秋の8月号に「人気エコノミスト20人本当の実力」と言う特集で第二位にランクされている東海総研の水谷研治氏である。氏は橋本内閣の「財政再建路線」にはもちろん賛成していた。氏は常々、「財政再建を行えば景気は一旦落ち込む。しかし5年後にはりっぱに日本経済は再生する。」と主張していた。したがって景気後退がはっきりし、橋本内閣の経済政策は景気対策にスタンスが変わったが、この政策転換に強く反対していた。

    財政支出を削減し、景気が後退すれば、競争が激しくなり、個々の企業は合理化に努めることになる。市場では負け組が去り、勝ち組が残る。たしかに「財政再建路線」は企業の強化に繋がる。しかし問題は、勝ち組である立派な企業の生産物を一体誰が買うかと言うことである。結局、国内に需要がないため、輸出する他はないのである。冒頭の「清貧の思想」の藩も生産物を他の諸藩に売り捌くことによって繁栄したのである。中曽根内閣の「ゼロシーリング時代」や橋本内閣の「財政再建路線」時にも輸出は大きく伸びた。

    このように一見「清貧の思想」による財政支出削減は、その国に繁栄をもたらすように見える。少なくとも江戸時代においてはこの関係が成り立ったのである。しかしこれをもっと厳密に見ると、生産物を他の諸藩に売り捌くことがこの政策のポイントである。これにより他の諸藩から金や銀が流入することになる。しかし藩の財政は削減されて需要が不足しており、この金銀の全てを使って他の諸藩から同額の物を買うわけではない。つまり「清貧の思想」の経済政策はまさに「近隣窮乏」による繁栄と言える。


  • 「近隣窮乏策」の限界
    ところがこの「近隣窮乏的政策」も、現在では有効性が半減している。それは為替が変動するからである。たしかに中曽根内閣の「ゼロシーリング時代」は、ちょうど米国のレーガン政権の強いドル政策を行っており、日本の貿易黒字にかかわらず、反対に長い間ドル高の状態が続いた。このため日米の貿易不均衡は空前の大きさになった。日米の為替水準が急激な円高で修正されたのは、85年のプラザ合意以降である。もっともおかげで中曽根首相は幸い、緊縮財政を行ったのにかかわらず、在任期間中に深刻な不況に逢わなかっただけである。この矛盾は竹下内閣以降に持ち越されたのである。

    橋本内閣の「財政再建路線」時もちょうど米国がドル高政策を行っており、日本からの輸出は増えた。しかしこの為替も現在調整中であり、今日、為替は円高傾向にある。そしてこれが今回の景気回復の障害になる可能性がある。橋本内閣の間に「円安」のカードを全部使ってしまったのである。
    緊縮財政政策の次に来るものはいつも「円高」である。このことは過去に何回も繰返されている現象である。

    結論を言えば、「清貧の思想」、あるいは緊縮財政を行うことにより、自国の経済を強くし、経済的繁栄を実現するのは「為替が固定相場」の時のみ有効な手段である。さらに日本のような経済規模の大きい国が、「近隣窮乏策」で景気回復を図ろうすること自体、関係各国から避難を受ける政策である。

    しかしこのような「近隣窮乏政策」を一貫して主張しているのが水谷研治氏である。たしかに随分前から氏は財政再建を主張していた。東谷暁(ひがしたにさとし)氏のグループは、異常に「主張の一貫性」にウエートを置いた格付けを行っている。しかし筆者は、主張の一貫性なんかよりも、むしろ主張そのものが正しいかどうかの方がずっと重要と考える。経済は宗教とは違うのである。自分の主張に誤りを見つけたり、状況が大きく変わり、考えが辻褄が合わなくなったら、主張を変えるのが当然である。筆者にも見方を変えた事柄がある。たとえば米国経済への評価である。これは本誌のバックナンバーを見てもらえば分かる。

    ところが主張の一貫性だけと思われる水谷氏も、実は主張の内容をコロコロ変えているのである。当初「財政再建路線で景気は落ち込むが、5年後にはりっぱに日本経済は再生する。」と言っていたが、次の時には「10年後には立派に再生する」と言っていた。さらにしばらく後にテレビに登場し「2,010年には再生する」と断言していた。98年のことであるから、12年後である。わずか半年の間に5年後から12年後に変わったのである。実にいい加減である。現在は何年後と言っているのか興味はある。この種のエコノミストの特徴は、絶対に政府が採用しそうもない政策を堂々と主張し、その結果は10年後、20年後に分かるとまさに「雲を掴む」ようなことを言うのである。筆者は、水谷氏エコノミストと言うよりあやしい予言者と考えている。日本人は予言が好きなのである。
    ところで最近では奇妙な予言がどんどんはずれているのである。失礼であるが、そもそも20年後にご本人も生きておられるどうかも分からないのである。これだけ複雑になった現実の経済を前にすれば、有能で正直なエコノミストは、5年後の経済はとても予想がつかないと答えるはずである。

    さらにこの種のエコノミストの問題は、こんな粗雑な論理の展開でも、自信たっぷりに断言することで、けっこう各方面に影響を与えることである。おっちょこちょいの政治家はすぐにこれに引っ掛かる。成立と同時に実質廃案となった、あの間抜けた「財政再建法」もこの種のエコノミストの影響を受けた政治家達が押し進めたのであろう。ところが最近でさえ、世間知らずの政策新人類と呼ばれる政治家がテレビで「これからは財政の再建が重要」と発言していた。筆者も頭が痛くなる。

    財政の累積赤字の一番の問題は、累積赤字が大きくなると誰も国債を買わなくなることである。この結果、金利が高騰するはずである。ところが日本では全く逆の現象が起っているのである。現在の日本の金利は世界的に見ても史上最低の水準である。水谷氏やこの知ったかぶりの政策新人類が、これをどう説明するのか是非窺いたいものである。

    水谷氏は一年ほど前から、今度は米国の株価が大暴落すると予言していた。ところがその時点から既に何十%も上昇しているのである。たしかに米国の株価が高すぎることは、誰でも承知していることであり、いつかは大きな調整があると思っている。しかし明日にでも暴落するようなことを言っておいて、既に随分時間が過ぎているのである。水谷氏はこれについても弁明すべきであろう。最後に、この水谷氏でさえ、日本のエコノミストの中で第二位に格付けされたりするのである。いかに日本のエコノミストの全体のレベルが低いか、ご理解できよう。


今週号では予定していたポール・クルーグマン教授のところまで話が進まなかった。来週号ではこれを取上げることにする。
なお来週号の次の号は8月30日発行予定である。つまり2週間の夏休みをいただくことにしたい。


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99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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