- エコノミストとマスコミの関係
文芸春秋の8月号に「人気エコノミスト20人本当の実力」と言う特集があり、エコノミストの格付けを行っている。格付けを実行しているのは経済ジャーナリスト東谷暁(ひがしたにさとし)氏を中心とするグループである。詳細を知りたい方は是非文芸春秋の8月号を買っていただきたい。
たしかにここ数年、日本の大半のエコノミストの言動は異常であった。96年景気が回復しかけたが、この過程で住宅建設は既にピークに達しており、これ以上の景気回復には輸出の増加ぐらいしか手段がなくなっていた。ところが政府は、景気は自律回復していると判断ミスを行い、財政再建を政策の中心に据え、翌年度の緊縮予算の方針を決定した。筆者の考えでは追加の景気対策が必要な状況にもかかわらず、まったく反対の政策を進めたのである。
驚くことに、日本のエコノミストのほとんどは、財政再建は当然であると政府の経済政策に賛成を示し、なかにはこの程度の緊縮予算はまだ甘い、もっと大胆に削減すべきと主張する者さえいた。この緊縮予算に当初から一貫して反対していたのはリチャード・クー氏と金森久雄氏ぐらいである。
97年度に入って、景気が後退してきても、楽観的なエコノミストはすぐに持ち直すから、財政再建路線は堅持すべきとのんきなことを言っていた。しかし日本のエコノミストの迷走はまだまだ続いた。景気後退がはっきりし、拓銀や山一が破綻した頃から、今度は一斉に景気対策が必要と主張を変え始めた。しかし彼等の主張はピントがづれており、「公共投資は効果が限られるから、景気対策には減税を行え」と言っていた。ところが2兆円の特別減税が行われたが全く効果がなかった。すると「特別減税では効果が限られるから恒久減税を行え」とまたまた主張を微妙に変えたのである。
またエコノミストの多くは、当初「悪い銀行は潰せ」と言っていたが、長銀の事実上の破綻により国有化が決まる頃には、今度は銀行に公的資金を大胆に投入するよう主張し始めた。このような日本のエコノミストの一貫性のない言動を聞いていると東谷暁氏でなくても、エコノミストの格付が必要と考えるのは当然である。
しかし彼等の言動の変転を冷静に観察すると別の事柄に気が付く。彼等の言動が変わるタイミングはマスコミの論調が変わるのと軌を一にしているのである。とりあえず景気対策を行えと言い始めたのも、企業の広告宣伝費の支出が減少し始めた頃である。マスコミも背に腹をかえられなくなったのである。つまり日本の有名エコノミストの多くはマスコミや経済新聞に飼われたタレントと考えると分かりやすい。タレントだからプロデューサの意向を汲んで発言しているのである。もっとも中には稀に、自分の立場を忘れ、テレビの生番組で不規則発言をするエコノミストがいる。このようなエコノミストは、それ以降ぷっつりとテレビには登場しなくなる。扱いにくいタレントと評価されるからであろう。
しかし同様のことは他の分野の評論家にも言える。今日、プロデューサの意図とは別に、自分の意見を述べることができるような存在感のある評論家は極めて少ない。わずかに立花隆氏くらいのものであろう。しかし氏も佐藤孝行氏の総務庁長官就任時のコメント以来、めっきりテレビには登場しなくなったのである。彼も扱いにくい評論家と思われているのであろうか、気になるところである。またタレントとしてのエコノミストや評論家には二種類いる。一つはここまで話をしてきたようにマスコミの意向を汲み、主張をコロコロ変える者達である。彼等はいつでも主張を変えられるよう、発言にはあいまいな表現を使う。彼等は遊泳術に長けているのである。もう一つのグループは、内容が正しいかを別にして、年がら年中同じ同じことを主張している者達である。プロデューサはこの二種類を巧みに組み合わせて番組を作るのである。もっとも後者の場合は、主張を一旦変えるともうお呼びがかからなくなる。
エコノミストは、プロデューサの意向を汲み、踊ってみせれば、名も知られ、書いた本も売れることによって、経済的メリットも受けられると言う仕組みである。以前、テレビ番組の中で田原総一郎氏は「番組の中で景気対策には減税が必要と発言していたエコノミストが、番組終了後、田原さん減税をやっても何の効果もありませんよ」と言って来たと憤慨していた。しかしこのようなエコノミストを育てたのも当のマスコミと言うことを、忘れてもらってはこまるのである。
- 格付に対する異義
文芸春秋の8月号の格付に話を戻す。格付そのものには、筆者は半分は賛成し、半分は全く反対である。東谷氏等の格付の対象はバブル期前後からの発言である。しかし筆者は、むしろここ2、3年の言論を重視したい。バブル生成期とその崩壊の経済は、日本だけではなく世界的にもあまり例のないものであった。地価や株価の上昇による資産効果や、逆にこれらが下落したことによる逆資産効果の経済への影響と言うものが初めて注目された時代であり、経済を論じること自体が難しかった。また、当時米国経済も不安定な状態であり、日本経済も国内の均衡だけを考えるわけにはいかなかった。したがって立場によって見方が異なっても仕方がない状況であった。
筆者は、むしろ橋本内閣の間違った経済政策をどのように評価したかによって、そのエコノミストの実力と言うものが分かると考える。特にエコノミストが問題となるのは、言論が大いに混乱したここ2、3年である。これらのエコノミストの発言が世論をミスリードし、政策転換までに時間が要することになり、不況が深刻になったのも最近の話である。したがって筆者はここ2、3年の言動を中心にして格付を行うべきと考えている。
まず東谷氏等の格付で一番の問題は、上位の二名である。三和総研の原田和明氏と東海総研の水谷研治氏である。しかし最上位の原田氏については、テレビの登場回数が多いわりには印象が薄い。
筆者は、原田氏は自分の考えを主張するエコノミストと言うより、経済の解説者と言う認識である。また橋本政権の財政再建路線にはっきり反対を示していたわけではない。財政再建路線に危惧を示していた程度のエコノミストなら他にもけっこういたはずである。ただ原田氏が、テレビの司会者の「最近の低金利により銀行預金にメリットがない。どうしたら良いか」と言う問に対して、「 外貨建定期預金」を推奨していた。2年半ほど前の話で、本誌は当時、これを問題として取上げた。筆者は外貨預金や外債投資は基本的に金融のプロが行うものと考えている。為替の変動は大きく、金利差があっても大損することがある。機関投資家なら円安になった時点で為替予約などで利益を確定することができるが、一般の預金者はもろに為替リスクを負うことになる。たしかに原田氏以外でも、円安の局面が続き外貨建ての資金運用を推奨するエコノミストは当時いたのである。テレビは大衆が見るものである。中にはこれらの話を鵜のみにして結構損をしている人々がいるはずである。とにかく原田氏が最上位と言う格付なら、こんな格付自体を行う意味がないと筆者は考える。
しかしこの格付の最大の問題は、原田氏の次にランクされている水谷研治氏である。氏は一貫して財政赤字を問題とする観点から発言している。もちろん橋本内閣の財政再建路線にも大賛成であった。むしろもっと財政支出を削れと言っていた。また今日の景気対策にも反対している。どうも東谷氏を中心とするグループの格付は、主張の一貫性に異常にウエートをおいているようである。そうでなければ水谷氏がこんなに高いランクにくるはずがないと考えている。しかし筆者は、主張の一貫性より、主張そのものが正しいかどうかの方がずっと重要と考える。この観点から、水谷氏に失礼であるが、筆者の格付では、水谷氏はこの格付に登場する20人のエコノミストのなかで最低である。続きは来週号。
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