- インターネットにまつわる誤解
多くの経済学者やエコノミストは、今後、新産業としてインターネットなどの情報通信産業を発展させ雇用機会を増やすようにするべきと主張する。彼等は、日本がこの分野で立ち遅れている原因として、「規制緩和の遅れ」や「従来型の公共事業に予算配分の重点が置かれていること」など、さまざまの理由を挙げている。なかには日本の小中学校の教育に問題があると言う者もいる。
政府も情報通信産業育成のため色々な施策を行っている。「光ファイバー網整備の前倒」、「小中学校へのパソコン導入の推進」、「購入するパソコンの税務上の一括償却制度」などである。最近では、日本の通信費が高いからインターネットの普及が遅れていると言う声が大きいためなのか、郵政省は、NTTに通話料の定額制の導入を強く働きかけている。
筆者も、情報通信産業が今後の日本の重要な産業の一つの核となると言う考えに異論はない。また政府の施策についても十分かどうかを別に、方向は間違いがないと考えている。
ただ郵政省がNTTに要請している「通話料の定額制の導入」については一言ある。そして日本が欧米諸国、特に米国に比べ、インターネットの世界で大きく立遅れている本当の理由を探るのが今週号と来週号のテーマである。ところで筆者は、世間で言われている前述のような事柄によって、日本でのインターネットの発展が遅れているとは考えていない。もっと大きな要因は別にあると考えている。
まず、「通話料の定額制の導入」を行っても、インターネットの利用が飛躍的に増えるとは考えていない。通信費が安いことに越したことはないが、定額制には問題もある。むしろ定額制の弊害も考えておく必要がある。つまりインターネットへの繋ぎっぱなしのユーザが増え、回線の大混雑が予想されるのである。NTTが回線を増強すると言うのなら、それは結構なことであるが、それも限度があろう。へたをすれば、24時間中、午後11時以降の通信状況、つまりテレホーダイ状態になる可能性がある。また仮に通信回線の方が解決しても、プロバイダーの受入態勢がそれに追い付かないことも考えられる。特に定額制のプロバイダーは大変であろう。
米国の実情はどうなっているのか知りたいところである。たしかに通信費は定額制が一般的であると聞くが、そうなれば問題はプロバイダーの方である。筆者は、米国では、定額制ではなく従量制を採用しているプロバイダーが多いのではないかと考えている。そうでなければ、さすがの米国でも、インターネットも「テレホーダイ状態」に陥っていると考えられるからである。これは調べればすぐ分かることである。問題は、郵政省の役人が米国の実情を正しく承知して、なおかつNTTに「通話料の定額制の導入」を要請しているのかと言うことである。今のところNTTは、郵政省の要請に対して、ISDNのユーザにだけ「通話料の定額制の導入」を検討していると言う話である。筆者もその線が妥当と考える。
とにかく日本においては、インターネットにまつわる迷信が多すぎるのである。日本でのインターネットの普及のスピードが遅いことの原因も誤解が多いと考える。筆者は、一般に言われているこれらの原因は全て瑣末な事柄と考える。結論を早目に言うことになるが、筆者が考える「日本でのインターネットの普及が遅い原因」は、ズバリ日本においては、インターネットに対する「ニーズ」がないことである。
- インターネットと携帯電話
前段で、日本ではインターネットに対しての「ニーズ」がないことを話したが、これはあくまでも一般的な話である。筆者にとっては、インターネットは絶対なくてはこまると言うものではないが、便利なものであり、けっこう重宝している。つまり筆者はインターネットに「ニーズ」があるのである。どのようなサイトにアクセスされているのかをよく知らないが、テレホーダイの時間帯には多くの利用者がインターネットにアクセスするため、通信速度が極端に遅くなる。しかし「ニーズ」がある者は、このような現在の貧弱な通信環境でも熱心にインターネットを利用しているのである。もちろんこのような利用者も通信環境の改善にはもちろん賛成のはずである。反対に「ニーズ」がない者にとっては、上記のような問題が解決してもインターネットを使ってみようと言うことには多分ならない。そして欧米に比べ、日本においてはインターネットを必要とする人の割合が極端に少ないのである。
日本の通信業界にインターネットとほぼ同時期に登場したのが携帯電話である。たしかに携帯電話が始めて登場したのはもっと前であるが、料金が高いだけでなく、端末は肩に掛けるほど重く、サービス範囲も限られていた。移動電話としては、むしろ自動車電話が主流であった。しかしレンタル制だった携帯電話も買取制の開始とともに各社は新製品を投入し、普及に拍車がかかった。この時期がインターネットの登場とほぼ同じ頃であった。しかし携帯電話の普及の方はものすごく、欧米諸国より多少遅れてのスタートであったが、現在の普及率はこれらの国々を追い抜いているくらいと思われる。
一方、インターネットの方はこれまで述べて来た通りの状況である。米国との差は縮まっていない。むしろ最近では差が開いている言う人もいる。同じ通信分野のアイテムでも、日本での普及に大きな差が生じているのである。筆者は、これも両者のニーズの大きさに差があったからと考えている。携帯電話は便利なだけではなく、日本人の感性に合っていたのである。つまり携帯電話は日本人のニーズに合った商品であり、インターネットは必ずしも日本人のニーズに合った商品ではないと言うことである。
このような極めて簡単な事実を無視して議論するから混乱する。「通信環境が悪いから」とか「通信費が高いから」とか、はたまた「日本人は英語が苦手だから」ととんでもないことまで言い出す者までいる。北海道では、あまりクーラが売れないのと同じと考えれば良いのである。
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