平成9年2月10日より
経済コラムマガジン



99/6/28(第121号)


インターネットと日本経済(その1)
  • インターネットにまつわる誤解
    多くの経済学者やエコノミストは、今後、新産業としてインターネットなどの情報通信産業を発展させ雇用機会を増やすようにするべきと主張する。彼等は、日本がこの分野で立ち遅れている原因として、「規制緩和の遅れ」や「従来型の公共事業に予算配分の重点が置かれていること」など、さまざまの理由を挙げている。なかには日本の小中学校の教育に問題があると言う者もいる。

    政府も情報通信産業育成のため色々な施策を行っている。「光ファイバー網整備の前倒」、「小中学校へのパソコン導入の推進」、「購入するパソコンの税務上の一括償却制度」などである。最近では、日本の通信費が高いからインターネットの普及が遅れていると言う声が大きいためなのか、郵政省は、NTTに通話料の定額制の導入を強く働きかけている。

    筆者も、情報通信産業が今後の日本の重要な産業の一つの核となると言う考えに異論はない。また政府の施策についても十分かどうかを別に、方向は間違いがないと考えている。

    ただ郵政省がNTTに要請している「通話料の定額制の導入」については一言ある。そして日本が欧米諸国、特に米国に比べ、インターネットの世界で大きく立遅れている本当の理由を探るのが今週号と来週号のテーマである。ところで筆者は、世間で言われている前述のような事柄によって、日本でのインターネットの発展が遅れているとは考えていない。もっと大きな要因は別にあると考えている。

    まず、「通話料の定額制の導入」を行っても、インターネットの利用が飛躍的に増えるとは考えていない。通信費が安いことに越したことはないが、定額制には問題もある。むしろ定額制の弊害も考えておく必要がある。つまりインターネットへの繋ぎっぱなしのユーザが増え、回線の大混雑が予想されるのである。NTTが回線を増強すると言うのなら、それは結構なことであるが、それも限度があろう。へたをすれば、24時間中、午後11時以降の通信状況、つまりテレホーダイ状態になる可能性がある。また仮に通信回線の方が解決しても、プロバイダーの受入態勢がそれに追い付かないことも考えられる。特に定額制のプロバイダーは大変であろう。

    米国の実情はどうなっているのか知りたいところである。たしかに通信費は定額制が一般的であると聞くが、そうなれば問題はプロバイダーの方である。筆者は、米国では、定額制ではなく従量制を採用しているプロバイダーが多いのではないかと考えている。そうでなければ、さすがの米国でも、インターネットも「テレホーダイ状態」に陥っていると考えられるからである。これは調べればすぐ分かることである。問題は、郵政省の役人が米国の実情を正しく承知して、なおかつNTTに「通話料の定額制の導入」を要請しているのかと言うことである。今のところNTTは、郵政省の要請に対して、ISDNのユーザにだけ「通話料の定額制の導入」を検討していると言う話である。筆者もその線が妥当と考える。

    とにかく日本においては、インターネットにまつわる迷信が多すぎるのである。日本でのインターネットの普及のスピードが遅いことの原因も誤解が多いと考える。筆者は、一般に言われているこれらの原因は全て瑣末な事柄と考える。結論を早目に言うことになるが、筆者が考える「日本でのインターネットの普及が遅い原因」は、ズバリ日本においては、インターネットに対する「ニーズ」がないことである。


  • インターネットと携帯電話
    前段で、日本ではインターネットに対しての「ニーズ」がないことを話したが、これはあくまでも一般的な話である。筆者にとっては、インターネットは絶対なくてはこまると言うものではないが、便利なものであり、けっこう重宝している。つまり筆者はインターネットに「ニーズ」があるのである。どのようなサイトにアクセスされているのかをよく知らないが、テレホーダイの時間帯には多くの利用者がインターネットにアクセスするため、通信速度が極端に遅くなる。しかし「ニーズ」がある者は、このような現在の貧弱な通信環境でも熱心にインターネットを利用しているのである。もちろんこのような利用者も通信環境の改善にはもちろん賛成のはずである。反対に「ニーズ」がない者にとっては、上記のような問題が解決してもインターネットを使ってみようと言うことには多分ならない。そして欧米に比べ、日本においてはインターネットを必要とする人の割合が極端に少ないのである。

    日本の通信業界にインターネットとほぼ同時期に登場したのが携帯電話である。たしかに携帯電話が始めて登場したのはもっと前であるが、料金が高いだけでなく、端末は肩に掛けるほど重く、サービス範囲も限られていた。移動電話としては、むしろ自動車電話が主流であった。しかしレンタル制だった携帯電話も買取制の開始とともに各社は新製品を投入し、普及に拍車がかかった。この時期がインターネットの登場とほぼ同じ頃であった。しかし携帯電話の普及の方はものすごく、欧米諸国より多少遅れてのスタートであったが、現在の普及率はこれらの国々を追い抜いているくらいと思われる。

    一方、インターネットの方はこれまで述べて来た通りの状況である。米国との差は縮まっていない。むしろ最近では差が開いている言う人もいる。同じ通信分野のアイテムでも、日本での普及に大きな差が生じているのである。筆者は、これも両者のニーズの大きさに差があったからと考えている。携帯電話は便利なだけではなく、日本人の感性に合っていたのである。つまり携帯電話は日本人のニーズに合った商品であり、インターネットは必ずしも日本人のニーズに合った商品ではないと言うことである。

    このような極めて簡単な事実を無視して議論するから混乱する。「通信環境が悪いから」とか「通信費が高いから」とか、はたまた「日本人は英語が苦手だから」ととんでもないことまで言い出す者までいる。北海道では、あまりクーラが売れないのと同じと考えれば良いのである。


来週号では一歩進んで、何故日本ではインターネットのニーズが小さいかと言うことを検討したい。そしてこれによって、将来の日本におけるインターネットの発展の方向が見えてこようと言うものである。筆者は、インターネット技術と金融に注目している。

円高阻止のための政府日銀の介入が想像以上に大規模である。理由は色々言われているが、資金の流れには当分注意が必要である。とにかく為替は今後円安になると、トンチンカンなことを言っているエコノミストがいまだに多いのには驚かされる。



99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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