- 日本における資金の循環
今日、銀行の貸し渋りが問題になっている。一部の論者は、バブル期以降の貸し過ぎの方がむしろ問題であり、融資を回収している現在の銀行の動きはむしろ正常化の過程と説明している。しかし筆者は、単純にはこれに賛成できない。今、貸し渋りの対象になっているのは主に中小零細企業であり、特に担保が不足し、リスクの大きい企業である。しかしそもそも以前から、日本の銀行の貸出しには大きな問題があった。筆者は、金利を多少高くしても、このようなリスクのある企業の融資を行うことこそ本来の銀行の役目と考える。ところが日本の銀行は、リスクを全く取らないことが特徴であり、これが昔からの問題点である。そしてこれらの企業に対し、政府が信用保証枠を設定し、かろうじて倒産を免れているのが現状である。つまりこれらの企業のリスクは、全部政府が引き受けているのである。
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」で述べたように、日本の「お金持ち」は、消費を行わないだけでなく、自ら投資も行わない。この結果、日本の経済は有効需要が不足することになり、今日、日本経済が自律回復しない原因ともなっている。ただし、この「お金持ち」の資金が、日本の金融機関を通して実物投資がなされていれば、有効需要不足の問題は解決するはずである。ところが日本の金融機関はこの資金を実物投資ではなく、外債投資や国債の購入に充てている。したがって日本の経済は、不足する有効需要を輸出と財政支出に頼らざるを得ない構造になっているのである。この結果、輸出が減少したり、財政支出をカットするとたちまち不況に陥ることになる。
今日、日本の金融機関が実物投資に資金を融資しない背景には、金融機関が全くリスクを取らないことがある。そして担保の土地価格の下落により、日本の金融機関のこのような問題のある体質が今日浮彫りになってきたのである。今週号では特に銀行に焦点を当て、これを考えてみることにする。もっとも最近では、設備投資意欲の減退により、企業の資金需要も萎んでおり、銀行のこのような行動を加速させ、余剰の資金は国債購入にさらに向けられている。この結果、いい加減なエコノミストが主張していた「財政赤字拡大により、今後どんどん長期金利は上昇する」と言うご宣託はみごとに外れ、反対に長期金利は低下し続けていた。一時は再び1%割れ目前となり、政府日銀があわてて長期金利のこれ以上の低下の阻止に動いているのが現状である。
今だに、日本において財政赤字を続けると長期金利が上昇し、景気回復にはマイナスと言う主張が繰り返されている。たしかに今年度の景気刺激予算が決定した際には、急激な金利上昇が見られた。しかし、これは、それまでの金融不安による国債への資金シフトによる異常な金利低下があり、その反動の金利上昇である。したがって本誌の予想通り、それ以降は順調に金利は低下し続けたのである。ただしそのピッチが多少速すぎただけである。しかしこれも今日の日本の金余りを考えれば当然の動きである。補正予算の編成に反対するエコノミストや政治家の根拠の一つが、国債発行による長期金利の上昇である。しかしこれらの人々は、この現実の市場の動きを本当に見ているのであろうか。市場の動きは彼等の主張の全く反対に動いているのである。このような現実を無視した主張は危険である。筆者は、このような市場の動きをまともに見ない人々には、経済を語る資格はないと考えている。
筆者は、補正予算の編成が決定すれば、長期金利は一時的に上昇するものと見ている。理由は、市場参加者が、補正予算の編成が決定すれば金利は上昇すると予想しているから、そうなる(上昇する)のである。これはいわゆる一種の外挿(がいそう)と言う現象である。実際、自民党の総裁選の前倒しが観測されており、この影響で補正予算の編成が早くなると言う思惑で直近でも長期金利が上昇している。しかし補正予算編成決定による金利上昇は今回も一時的なものであり、そのうち低下に転じるはずである。
日本には毎年百兆円近い貯蓄が発生し、投資に回らない部分は資金の余剰となる。つまり日本には慢性的な資金の余剰がある。実物投資が活発にならないのなら、資金は国債に向かうことになり、そのうち金利は低下するのは必至である。ところで仮に消費や投資が活発になれば、資金の余剰は小さくなるが、景気対策費もそれだけ小さく済むことになり、国債発行もそれだけ小さくて済むことになる。このようにいずれにしても長期金利がどんどん上昇する状況ではない。また金利が上昇すると言うことは、誰かが国債を売却するからである。しかし国債を売却し資金を手にしても、他に有利な運用先がないため、また国債を購入する他はないのである。この結果、一旦上昇した長期金利も、そのうち低下し始めることになる。ただし市場は心理面の影響が大きい。このため日銀や大蔵省がまた「変なことを言わない」と言う条件は付く。ところで長期金利の動向については別の機会に再び述べることにする。
- 日本の銀行の機能
銀行の基本的な機能は、預金を集め、それを融資し、最後に元利を回収することである。ところでこの他に、銀行は金銭を安全に保管したり、決済の機能をなど持つが、これらの話はここでは割愛する。
銀行にとって貸付けは大切な業務である。預金者の預金を企業に貸付け、利益を得ると言う基本的な業務である。ここで重要なことは、貸付けには不良債権の発生と言うリスクが常につきまとうことである。そしてこのリスクの大きさは貸付先毎に異なる。貸付け業務に関わる機会費用の話を別にすれば、銀行は、この貸付け先の信用に応じて貸出し金利に差を付けるのが世界の常識である。つまり信用のない企業には高く、信用のある企業には低い金利を設定する。このように銀行の本来の貸出しは、リスクを勘案し、最大の業務利益を得ることである。つまりリスクを考慮しながら最大の期待値を実現することが銀行の仕事である。具体的には、金融の素人である預金者から預金を預かり、貸出しリスクを勘案して最大の利益を得るのが、金融のプロとしての銀行の役目である。つまり銀行の本来の機能は、預金者に成り変わってリスクを取りながら、なるべく多くの利益を得ることである。しかし日本の銀行は昔からこのようになっていないのであり、これが今日の問題である。
たしかに日本においては、銀行の貸出し金利は、企業によって異なっている。しかしその差は決して大きくはなく、この差は貸出し先のリスクの差と言うより、機会費用の大小が影響していると考えられる。つまり小口の貸付けの方が、融資金額当たりの経費がかかり、大口の貸付けよりその分金利が高くしているのである。このように日本では厳密にリスクの大小によって貸出し金利に差が付いているとは言えない。
日本において、なぜこのようなことになるかと言えば、日本の銀行は貸付けに際して、確実な担保を取るからである。ほとんどの場合、土地を担保に貸付けを行う。通常100%の担保を取るのであるから、仮に融資先が倒産してもリスクはないことになる。リスクがないのなら、貸出し金利に差を付ける必要はない。また日本の行政当局も融資には担保を取ることを強く指導している。いわゆる融資の「担保主義」である。金融不安以降この流れはさらに強化されている。したがって銀行より倒産する確率が低い有力な大企業を除けば、担保の伴わない融資は事実上ないと言うことである。プロジエクトファイナンスが一時話題になったが、このような融資が日本で定着するとはとても考えられない。そして大事なことは、担保のない企業は銀行から借入れができないと言うことである。
このように日本の銀行には、銀行が本来持っているべき機能を全く持っていない。郵便貯金の民営化が叫ばれているが、主張している人々には多少誤解があるようである。もっとも筆者も、基本的に郵便貯金の民営化には賛成である。筆者の考えでは、日本の銀行の機能は郵便貯金の機能と大差がない。住宅融資なんて郵便局が民営化しても十分にできる業務である。またどちらも結果として資金の大きな部分を国債で運用しているのである。つまり現在の日本には、官営の郵便貯金と「銀行」と言う名の民営化された郵便貯金が存在しているのである。ただし後者の従業員の給料はべらぼうに高いだけである。
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