平成9年2月10日より
経済コラムマガジン



99/5/31(第117号)


日本の銀行とリスク
  • 日本における資金の循環
    今日、銀行の貸し渋りが問題になっている。一部の論者は、バブル期以降の貸し過ぎの方がむしろ問題であり、融資を回収している現在の銀行の動きはむしろ正常化の過程と説明している。しかし筆者は、単純にはこれに賛成できない。今、貸し渋りの対象になっているのは主に中小零細企業であり、特に担保が不足し、リスクの大きい企業である。しかしそもそも以前から、日本の銀行の貸出しには大きな問題があった。筆者は、金利を多少高くしても、このようなリスクのある企業の融資を行うことこそ本来の銀行の役目と考える。ところが日本の銀行は、リスクを全く取らないことが特徴であり、これが昔からの問題点である。そしてこれらの企業に対し、政府が信用保証枠を設定し、かろうじて倒産を免れているのが現状である。つまりこれらの企業のリスクは、全部政府が引き受けているのである。

    99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」で述べたように、日本の「お金持ち」は、消費を行わないだけでなく、自ら投資も行わない。この結果、日本の経済は有効需要が不足することになり、今日、日本経済が自律回復しない原因ともなっている。ただし、この「お金持ち」の資金が、日本の金融機関を通して実物投資がなされていれば、有効需要不足の問題は解決するはずである。ところが日本の金融機関はこの資金を実物投資ではなく、外債投資や国債の購入に充てている。したがって日本の経済は、不足する有効需要を輸出と財政支出に頼らざるを得ない構造になっているのである。この結果、輸出が減少したり、財政支出をカットするとたちまち不況に陥ることになる。

    今日、日本の金融機関が実物投資に資金を融資しない背景には、金融機関が全くリスクを取らないことがある。そして担保の土地価格の下落により、日本の金融機関のこのような問題のある体質が今日浮彫りになってきたのである。今週号では特に銀行に焦点を当て、これを考えてみることにする。もっとも最近では、設備投資意欲の減退により、企業の資金需要も萎んでおり、銀行のこのような行動を加速させ、余剰の資金は国債購入にさらに向けられている。この結果、いい加減なエコノミストが主張していた「財政赤字拡大により、今後どんどん長期金利は上昇する」と言うご宣託はみごとに外れ、反対に長期金利は低下し続けていた。一時は再び1%割れ目前となり、政府日銀があわてて長期金利のこれ以上の低下の阻止に動いているのが現状である。

    今だに、日本において財政赤字を続けると長期金利が上昇し、景気回復にはマイナスと言う主張が繰り返されている。たしかに今年度の景気刺激予算が決定した際には、急激な金利上昇が見られた。しかし、これは、それまでの金融不安による国債への資金シフトによる異常な金利低下があり、その反動の金利上昇である。したがって本誌の予想通り、それ以降は順調に金利は低下し続けたのである。ただしそのピッチが多少速すぎただけである。しかしこれも今日の日本の金余りを考えれば当然の動きである。補正予算の編成に反対するエコノミストや政治家の根拠の一つが、国債発行による長期金利の上昇である。しかしこれらの人々は、この現実の市場の動きを本当に見ているのであろうか。市場の動きは彼等の主張の全く反対に動いているのである。このような現実を無視した主張は危険である。筆者は、このような市場の動きをまともに見ない人々には、経済を語る資格はないと考えている。

    筆者は、補正予算の編成が決定すれば、長期金利は一時的に上昇するものと見ている。理由は、市場参加者が、補正予算の編成が決定すれば金利は上昇すると予想しているから、そうなる(上昇する)のである。これはいわゆる一種の外挿(がいそう)と言う現象である。実際、自民党の総裁選の前倒しが観測されており、この影響で補正予算の編成が早くなると言う思惑で直近でも長期金利が上昇している。しかし補正予算編成決定による金利上昇は今回も一時的なものであり、そのうち低下に転じるはずである。

    日本には毎年百兆円近い貯蓄が発生し、投資に回らない部分は資金の余剰となる。つまり日本には慢性的な資金の余剰がある。実物投資が活発にならないのなら、資金は国債に向かうことになり、そのうち金利は低下するのは必至である。ところで仮に消費や投資が活発になれば、資金の余剰は小さくなるが、景気対策費もそれだけ小さく済むことになり、国債発行もそれだけ小さくて済むことになる。このようにいずれにしても長期金利がどんどん上昇する状況ではない。また金利が上昇すると言うことは、誰かが国債を売却するからである。しかし国債を売却し資金を手にしても、他に有利な運用先がないため、また国債を購入する他はないのである。この結果、一旦上昇した長期金利も、そのうち低下し始めることになる。ただし市場は心理面の影響が大きい。このため日銀や大蔵省がまた「変なことを言わない」と言う条件は付く。ところで長期金利の動向については別の機会に再び述べることにする。


  • 日本の銀行の機能
    銀行の基本的な機能は、預金を集め、それを融資し、最後に元利を回収することである。ところでこの他に、銀行は金銭を安全に保管したり、決済の機能をなど持つが、これらの話はここでは割愛する。

    銀行にとって貸付けは大切な業務である。預金者の預金を企業に貸付け、利益を得ると言う基本的な業務である。ここで重要なことは、貸付けには不良債権の発生と言うリスクが常につきまとうことである。そしてこのリスクの大きさは貸付先毎に異なる。貸付け業務に関わる機会費用の話を別にすれば、銀行は、この貸付け先の信用に応じて貸出し金利に差を付けるのが世界の常識である。つまり信用のない企業には高く、信用のある企業には低い金利を設定する。このように銀行の本来の貸出しは、リスクを勘案し、最大の業務利益を得ることである。つまりリスクを考慮しながら最大の期待値を実現することが銀行の仕事である。具体的には、金融の素人である預金者から預金を預かり、貸出しリスクを勘案して最大の利益を得るのが、金融のプロとしての銀行の役目である。つまり銀行の本来の機能は、預金者に成り変わってリスクを取りながら、なるべく多くの利益を得ることである。しかし日本の銀行は昔からこのようになっていないのであり、これが今日の問題である。

    たしかに日本においては、銀行の貸出し金利は、企業によって異なっている。しかしその差は決して大きくはなく、この差は貸出し先のリスクの差と言うより、機会費用の大小が影響していると考えられる。つまり小口の貸付けの方が、融資金額当たりの経費がかかり、大口の貸付けよりその分金利が高くしているのである。このように日本では厳密にリスクの大小によって貸出し金利に差が付いているとは言えない。

    日本において、なぜこのようなことになるかと言えば、日本の銀行は貸付けに際して、確実な担保を取るからである。ほとんどの場合、土地を担保に貸付けを行う。通常100%の担保を取るのであるから、仮に融資先が倒産してもリスクはないことになる。リスクがないのなら、貸出し金利に差を付ける必要はない。また日本の行政当局も融資には担保を取ることを強く指導している。いわゆる融資の「担保主義」である。金融不安以降この流れはさらに強化されている。したがって銀行より倒産する確率が低い有力な大企業を除けば、担保の伴わない融資は事実上ないと言うことである。プロジエクトファイナンスが一時話題になったが、このような融資が日本で定着するとはとても考えられない。そして大事なことは、担保のない企業は銀行から借入れができないと言うことである。

    このように日本の銀行には、銀行が本来持っているべき機能を全く持っていない。郵便貯金の民営化が叫ばれているが、主張している人々には多少誤解があるようである。もっとも筆者も、基本的に郵便貯金の民営化には賛成である。筆者の考えでは、日本の銀行の機能は郵便貯金の機能と大差がない。住宅融資なんて郵便局が民営化しても十分にできる業務である。またどちらも結果として資金の大きな部分を国債で運用しているのである。つまり現在の日本には、官営の郵便貯金と「銀行」と言う名の民営化された郵便貯金が存在しているのである。ただし後者の従業員の給料はべらぼうに高いだけである。


来週号ではバブル期の銀行の行動について述べたい。これにより日本の銀行の本質がもっと見えてくるからである。

読者の方から行間をもう少し開けるようご要望があり、さっそく今週号からそのようさせていただいた。



99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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