- 地価と日本経済
読者のご質問もあり、今週号では地価の動向と経済について述べることにする。筆者が考える今後の地価の動向は、2年前に97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」で述べたことと基本的には変わっていない。つまり超長期において日本の地価は下落する可能性は強いが、目先下落はストップし、場所によっては上昇に転じると考えている。2年前にも同様の予想をしたが、目先の地価動向は残念ながら予想をはずれ、依然下落を続けている。しかしこれについては、橋本内閣の財政再建路線による不況の深刻化を甘く見ていたからと言い訳する他はない。実際、財政再建路線が始まる直前には、地価の下落が止まるきざしがあったのは事実である。筆者は、まさか拓銀や山一の破綻するほどの信用不安が発生するとは考えなかったのである。そのような事態が起こる前には、必ず政府は手を打つと信じていたのである。 内閣も小淵内閣に代わり、ようやく適切な経済運営が行われるようになり、今度こそ地価の下落に歯止めがかかるものと期待している。しかしここまでの現実は厳しい。日本不動産研究所の調査によれば、3月末時点の6大都市圏の商業地の地価はピーク時の約五分の一になっており、住宅地も二分の一以下になっている。さらに全体ではこの下落傾向は続いていると言うことである。ビルの賃貸料も依然下がり続けている。特に大阪での下落が目立っている。 しかし一方には物件によって、下落が止まったと言う情報もある。住宅関連減税と低金利の住宅融資政策で久し振りに住宅建設は活況を呈している。マンションの売れ行きも好調である。このため好立地の土地の不足が目立ってきている。住宅関連減税も一応期限があるため、マンション業者も土地の手当に焦っている。この結果、条件の良い土地の値段は上がり始めていると言うことである。全体的ではないが部分的に地価の上昇が見られるのである。また、外人投資家も良質の商業用地への投資を継続的に行っている。つまり一等地についてはほぼ地価の下落が止まっていると推測されるのである。部分的であっても良いが、地価の上昇が起こると、その影響が少しずつ周辺にも及ぶものである。筆者は地価の底入れは近いと考えている。いずれにしても次回の日本不動産研究所の調査結果が注目される。 逆に日本経済の動向は地価の動向と密接な関係がある。これは先進諸外国にちょっと見られない現象である。地価との関係で、日本経済に近い特徴を持つのは香港の経済くらいであろう。まず株価も地価と密接な関係がある。日本のPER、つまり株価収益率は諸外国に比べ大きい。株価収益率は一株当たりの利益で株価を割り返した数値である。株に投資した時、何年で元がとれるかと言う数値でもある。株式がバブルと言われている米国でも25倍くらいなのに対して、現在でも日本はその倍くらいである。100倍を越える企業もごろごろしている。この一つの原因は日本の低金利であるが、もう一つの原因は企業が持つ内部留保と土地の含み益である。例え利益がほとんどない企業でも、清算した場合には株主の持ち分としてこれらのものが表面化するのである。特に古い企業ほど大きな土地の含みを持っている。もっとも土地の含みを持っていても利益が出ないと言うことは、経営がまずいからとも言える。逆に土地の含みを持たない新興の企業の株価は、金利の話を別にすれば、国際的に標準的な株価収益率に近い必要があると言える。 バブル期に日本の株式は高騰し、株価はバブルと言われた。しかし筆者は、株価がバブルであったと言うより、地価がバブルで高騰し、株価が忠実にそれを反映して上昇したものと考えている。今後、株価が今の水準を越えて上昇して行くには、企業収益の回復に加え、地価下落の終息ないし反転が必要と考えている。 また土地は、企業にとって借入金の担保となっている。よほどの信用のある大企業でない限り、担保なしで銀行から借り入れることはできない。ところがこの担保となっている土地の価格が下落しているのである。リスクを嫌う銀行が貸し出しを渋ったり、融資の回収に走ることは容易に想像できる。いま中小企業の倒産が小康状態を保っているのは、政府による信用保証と言う実に大胆な政策のおかげである。しかし、いつまでも政府の保証で信用を維持するわけにはいかない。早く地価の反転が待たれるゆえんである。
- 土地評価方法の変更
土地の評価方法には「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の三つがあり、これらを組み合わせて地価の鑑定が行われる。ただし「原価法」は土地が造成されたり、干拓によって土地が新たに生まれる場合に限られた評価方法であり、既成市街地では使えない。つまり通常の土地の評価は「取引事例比較法」「収益還元法」の組み合わせである。 国土庁の地価公示もこの方法による。しかしこれまでの実際の売買される土地の値段は、圧倒的に取引事例の比較により決定されていた。特にバブル期においてはどこかの土地が高値で取引されると、近隣の土地の評価も上昇すると言うわけである。このため土地の収益を元に算出する「収益還元法」を加味する公示価格は、実際に取引されている実効価格を追い掛ける展開になっていた。したがって実際の土地の取引価格は、公示価格の何割増し、時には何倍と言うひどいケースもあった。もちろんこのような高値で買った土地にビルやマンションを建てても、とても賃料ではペイはできない。唯一利益を得るには、この土地をさらに高く売る他はなかったのである。しかしバブル期にはこれが可能だったのである。 人々が目を覚ましていれば、そのような地価が暴落することははっきりしていた。ところがバブル期には銀行も酔ったようにこのような土地買収に大量の資金を提供していたのである。 たしかに国土が狭く、平地の少ない日本では、再生産のできない「土地」は特別の資産である。土地の保有に関わる経費も諸外国に比べ小さい。また銀行も担保物件として「土地」を重視している。さらに過去からの経験で、オイルショック時を除けば、地価は一貫して上昇してきた。人々が「地価はまだまだ上がる」と考えても仕方がない状況ではあった。しかし人々が「土地の使いで」と言うもう一つの要素を完全に忘れていたのも事実である。 国土庁は、今後土地の評価に当って「収益還元法」を重視することを方針として打ち出した。これも自然の流れと言える。 今後の地価動向については色々な意見がある。企業のリストラによって土地の売却が増え、地価はさらに下落すると言う予想もある。しかし、筆者は、地価も下落が続いたため、「収益還元法」での評価に既に到達した土地も現われていると考えている。前段で説明したように、場所によって、土地を買収し、建物を建てても賃料で収益を得られるケースが出てきたことに注目している。「収益還元法」での評価まで地価が下落すれば、これ以上の地価の下落はないと考えるのが普通である。もちろんこの水準まで全ての地価が下落したわけではないので、全体ではさらに下落することもありうるが、少なくともこれまでの全面下落と言う状況ではないと考えている。リストラによる土地の売却も世間で言われているほど大きくないと予想している。一つ危惧することは、経済自体がさらに悪くなり、「収益還元法」で算出される地価のさらなる下方修正が必要な事態である。この場合にはまた地価が下落する可能性が強くなる。 政府の土地政策が注目されている。筆者は、「収益還元法」での評価よりさらに地価が下落する場合には、政府は具体的な土地政策を発動すべきと考える。しかしこれについては別の機会にまた述べることにしたい。
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