平成9年2月10日より
経済コラムマガジン



99/4/19(第111号)


日本のお金持ち
  • 日本のお金持ちの特徴
    日本の個人の金融資産の合計は1,200兆円を超えている。一人当たりにすると一千万円の金融資産を持っていることになる。結構な額である。しかし、これは普通一般の庶民の持っている金融資産の額とは言いがたい。このうちの半分位は個人営業者の金融資産である。また高齢者が退職金などを将来の出費に備えて貯蓄している部分も大きい。一方、一般庶民は住宅ローンなどの負債を持っている。このように見てくると、一般庶民の代表と思われる現役のサラリーマンの持つネットの金融資産額は、世間で言われているほど大きいものではないことが分かる。
    ところで最近、「低金利が庶民のふところに悪い影響を与えている」と言うセリフがしばしば使われる。しかし、金融資産をそれほど持っていない平均的な庶民にとって、この言葉は当てはまらない。むしろ住宅ローンを返済している人々にとっては、低金利が有り難いのである。
    日本は外国に比べ、所得が平準化されていると言うのが定説である。しかし、金融資産の保有額についてのバラつきは相当大きいようである。日本にも「お金持ち」と言われる人々が結構いるのである。実際、この人々の金融資産を狙って、外国と日本の金融機関がしのぎを削っている。ところで日本の「お金持ち」には大きな特徴がある。これは諸外国の「お金持ち」と大きく違う点であり、そしてこのことが日本経済全体に案外大きな影響力を持っていると筆者は考えている。
    世界的に典型的な金持ちは、事業を興し、それで成功した人々である。日本でも歴史上の金持ちは同じような形で生まれている。紀国屋文左衛門が代表的であろう。彼等はリスクに挑戦し、それに成功し、富を築いた。紀国屋文左衛門も「ミカン」と「材木」で財を成した。ところが今日の日本においては全く違う種類の「お金持ち」が生まれているのである。土地を売って財を得た人々である。
    ある日地上げ屋さんがやって来て、大金で土地を買ってくれ、突然にお金持ちになった人々である。土地を売って金持ちになるケースは諸外国にもあるであろうが、日本ほど目立つ国はない。なにしろ日本の全体の土地の評価額でアメリカ合衆国がいくつも買えるのである。そして土地の売却代金のかなりの部分は消費に回らず、日本の金融機関に預けられていると考えられる。特に大都市近郊の農林系金融機関の資金のかなりの部分はこの土地の売却代金と考えられる。そしてこの資金が日本経済の循環に多大な影響を与えていると筆者は考えている。

  • 譲渡所得と恒常所得仮説
    可処分所得に対する消費の比率は消費性向と呼ばれる。日本においては、給与所得の消費性向は85%くらいである。ところが個人の土地の譲渡所得の消費性向は極めて小さいと考えられる。これについてはデータがないのではっきりとは断言できないのが残念ではある。たしかに土地の売却代金で家を建て替えたり、デパートで豪勢に買い物をしていると言う話はある。しかし譲渡所得の消費性向は極めて小さく、大半は貯蓄に回っていると考えられる。
    土地売却による所得の大きな部分が貯蓄に回ることに対しては、フリードマンの恒常所得仮説が有効と筆者は考えている。恒常所得仮説については本誌98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」で取り上げたので参照願いたい。この仮説は恒常的な所得の比重が大きくなれば消費性向が大きくなると言うものである。逆に恒常的ではなく、一時的な所得の場合の消費性向は小さくなると言うことになる。筆者は、恒常所得仮説は条件が揃えば有効と考えている。まさしく土地の売却に伴う所得は一時的であり、臨時的所得である。つまり恒常所得仮説により土地譲渡所得のうち消費に回る比率は極めて小さいと推測されるのである。ところで公共投資を行う際には、政府は極力土地の買収を伴わない投資物件を選択している。財政支出の土地代に充てられた部分は、途中で乗数効果が消えて、それ以上経済効果が波及しないからである。これについては本誌でも「福田ドクトリン」として何回か取り上げた。ただし筆者はこの考えに全面的には賛成ではない。
    恒常所得仮説が最近話題になったのは、今回の景気対策を「公共投資」で行うか、それとも「減税」で行うかが議論になった時期である。特別減税が全く効果がなかったのに対して、「小さな政府論者」のエコノミストが恒久減税なら効果があると主張を微妙に変え始めた頃である。しかし経済企画庁の試算によれば、「減税」のGDPの押し上げ効果はたった0.46であり公共投資の1.32に比べると極めて小さいものである。仮に減税の恒久化により恒常所得仮説が適用できても、いくら効果が大きくなると言うのか。筆者は極めてばかばしい論議と考えていた。筆者の記憶が正しければ、恒常所得仮説を恒久減税に適用することを最初に唱えたのは生保系のシンクタンクのエコノミストである。彼は時々マスコミに意見を発表しているが、それから判断するとどうも熱心な「小さな政府」の信奉者である。ところがいつの間にか日本中「恒久減税」なら景気対策として効果があると言う大合唱になったのである。ところで最近では、「減税」が景気対策として効果があると言う声がさっぱり聞こえなくなったのは、一体どう言うことであろうか。政府は彼等が主張していた額以上の減税額を決めたのに、ほとんどのエコノミストが今年度の経済成長率をマイナスと予想しているのは一体どう言うことなのか。
    最近ではこれらのエコノミストや経済学者は、財政支出を増やしても景気は回復しない。過剰な供給設備を破棄しなければ景気回復は無理と言うまたばかな主張を始めた。ところがこれに関してポール・クルーグマンは「需要低迷を放置したまま供給設備の破棄だけを行えば、経済は下方スパイラルに陥りかねない」と警告している。全く彼の意見は正しい。筆者は、今日の日本の景気回復の大きな障害の一つは日本のエコノミストの存在と考えているくらいである。ところが彼等の意見が世論を動かし、経済政策にも影響を与えるのである。昨年も経済効果がとぼしいと考えられる「減税」が参院選の争点なったが、これもこれらのエコノミストが行った世論のミスリードの働きが大きい。
    本題に戻る。日本で生産が行われ、所得が発生し、この所得で土地を買った場合、土地の購入代金が消費されるかもしくは投資されないとすれば、生産物は売れ残ることになる。土地の売却による所得のうち消費されない部分、つまり貯蓄金額に相当する生産物が余剰になるのである。ただしこれは貯蓄がタンス預金されたケースである。通常はこの金額が金融機関に預けられ、経済の循環に戻る。そして金融機関がこれを投資に変え、不足する需要を満たすことによって経済の循環が完結し、問題は解決するはずである。ところが今日有力な投資物件がないのである。ここから今日の経済問題が発生するのであるが、続きは来週号である。

来週号では日本のお金持ちと金融機関のリスクへの対応について述べる予定である。
読者から地価の動向と底値についてご質問を受けた。そこで再来週号は、予定を変更して日本の地価について私見を述べることにする。少なくとも筆者は、日本においては地価の動向は、景気の動向と密接な関係があると考えている。



99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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