平成9年2月10日より
経済コラムマガジン



99/3/15(第106号)


本誌の経済予想とその間違い
  • 本誌の経済予想のスタンス
    本誌のように経済を取り上げていると、頻繁に経済動向や数値について予想を行ったり、見通しを述べることがある。いつもこの予想通りに事態が進行すれば良いのであるが、不幸にしてそうならないこともある。もちろん予想がはずれるケースが多いと信頼を失うことになる。しかしこの予想がはずれた場合、どうしてはずれたかを考えることもなお重要である。予想がしょっちゅうはずれると言うことは、考え方に根本的な誤りがあるか、あるいは現状認識が間違っていることを意味する。
    本誌においてもこれまで各種の経済動向の予想を行ってきた。しかし基本的には一週間先とか一ヶ月先と言った短期的な予想は行わない。本誌ではもっと長い期間を想定した予想を行ってきた。これは、筆者がかろうじて予想できるのは経済数値の傾向とかトレンドと言うものであり、決して明日や明後日の為替レートと言ったものではないと言うことである。短期の動きには市場参加者の色々な思惑がからみ、数値の動きも必ずしも理屈通りにはいかない。また市場に関しても、いつも外部に正しい情報が伝えられている訳ではない。このような状況では短期的な動きを予想すること自体が意味がないと考えている。したがって例えば一ヶ月後の為替レートを予想すると言うことさえ、それ自体なんの意味もないと考えている。予想が当ったとしてもそれは単なる偶然である。しかし経済数値の中長期的な傾向とかトレンドと言うものを考えることは大切である。またそれはある程度可能と考えている。筆者は、実際のトレンドと適正と考える数値とのギャップを常に念頭においている。現在の数値が適正値から大きく離れていたら、適正値に戻ろうとする力が働くと考えるのである。ちなみに現在の為替レートについてコメントすれば、為替介入の影響もあり、今日のところやや円安に動いているが、適正値との関係で、中長期的にはやや円高に移行すると考えている。
    しかし本誌も過去に行った見通しが間違ったことがある。今週号ではこれを取り上げ、反省と若干の言い訳を行いたい。しかし前述したように何故予想が間違ったかを考えることは重要であり、このことこそが経済を見る目を養うと考える。

  • 予想がはずれた実例
    本誌は創刊以来2年以上たっており、その間数々の予想をおこなってきた。間違った予想はそれほどないが、それでもいくつかある。間違った予想は特に本誌の初期の頃に集中している。まずそれらの間違った予想を取り上げ、一つ一つ検証してみる。
    1. オリンピックの翌年の米国経済は落ち込む
      これは97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」で取り上げたテーマである。それまでオリンピックを開催した国は、決まって翌年景気が落ち込むことに着眼して述べたことである。オリンピック開催で特需が発生し、国民も気分が高揚し、その年は景気が良いが、翌年この反動で不況に落ち入るパターンが多かった。また、オリンピックの年には米国では大統領選挙が行われる。このため米国政府は景気が落ち込まないような経済政策を行ってきた。これが世界経済全体にもプラスに働いたのである。実際、東京オリンピックの後の日本、ソウルオリンピックの後の韓国、バルセロナオリンピックの後のスペインは全て不況になった。したがってアトランタオリンピックの後の米国も景気は後退すると推理したのである。
      ところが米国経済は好調を維持し、今日に至っているのである。筆者が考える米国経済が好調の理由は、海外からの豊富な資金の流入に加え、需要構造が米国が得意とするハイテク分野に移っており、さらに冷戦終結による軍事技術の開放などがあり、経済成長の条件が揃っていたことである。さらに労働組合の弱体化と、発展途上国からの低価格製品の輸入により、物価は上昇しないようになり、低金利政策も可能となっていることも大きい。
      しかし今後の米国経済を占うのは難しい。本誌でも98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」で取り上げたが、良い材料と悪い材料が混在しており、判断はたしかに難しい。しかし筆者は一応来年の前半まで、あるいは大統領選挙までは米国経済は大丈夫と考えている。株価もどこかの時点で大幅に下落する場面があるかもしれないが、しばらくすると回復すると考えている。それほど米国経済は今のところ良い循環になっていると思われる。
    2. 日本経済は不況下の株高
      これは2年前、97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」で本誌は、「そろそろ日本の地価も底を打ち、地価も多少上昇に転ずるのではないか」と予想したことである。海外に向かっている活動的な資金もそろそろ国内に還流してくるのではないかと考えたのである。これには米国株式の下落も暗黙に想定していた。資金は最初土地に向かい、この結果地価が上昇し、これを反映して株価も上昇する場面を想定した。一方、住宅投資は限界にきており、当時の財政再建路線により日本の景気は後退するであろうと考えた。さらに資金が還流することによる「円高」が加わり、この面からも景気は大きく後退せざるを得ないと考えたのである。つまり結論として「不況下の株高」である。
      たしかに「不況」は予想通りであったが、土地高、株高はみごとにはずれた。そして米国経済が前述したように好調を続け、さらに多くの活動資金が国外、特に米国に向かったのである。また国内に滞留する資金も土地には向かうことなく、債券に向かったのである。
      筆者が当時このように考えたのは、たしかに地価の下落が止まる徴候が見られたからである。特に都心の一等地の地価は若干上昇したケースもあった。海外資本の土地購入も活発化し始めていた。しかし、あまりにも景気後退が顕著だったため、この動きは完全に止まってしまった。結果的には再び下落し始めたのである。株価は、金融機関の信用不安も加わり、再び下げに転じたのである。今では、筆者は景気後退の影響を小さく考え過ぎたと反省している。
    3. 債券の上昇には限度がある
      97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」で筆者は当時の債券価格の上昇を「仕手化」していると警告している。当時の利回りは既に2.4%くらいまで低下していた。ところが筆者の予想に反して、債券価格はその後もさらに上昇し、利回りはついに2%を割り込んだのである。もちろんこの水準は歴史的にも世界的にも最低である。なんとピーク時には0.64%と信じがたい数値となった。たしかに日本の金融機関の信用不安の影響があったと言え、異常な数値ではある。
      本誌では明示しなかったが、筆者は、正直に金利は2%を割り込むことはないと考えていた。この根拠は、多少漠然としているがケインズが引用した言葉の影響であろう。これは「ジョン・ブルはたいていのことは我慢する。しかし二分の利子には我慢できない。」と言うものである。つまり長期金利は低下しても、2%以下になることはないと言う「常識」である。ケインズは英国のコンソル公債の利回りを念頭においている。たしかに永久債であるコンソル公債と10年満期の日本の国債の利回りを同列で考えることには多少問題はあるが、とても長期金利が2%を割り込む事態は想定していなかった。ところで長期金利の動きと「流動性のワナ」については別の機会にまた述べることにしたい。
      前段で述べたように、筆者の予想に反して、資金は土地に向かわず、国債に向かった。もし言い訳が許されるなら、筆者の読み間違った原因は、今回の不況が金融機関の信用不安を引き起こし、この信用不安を伴っていたと言う、これまでにない事情があったことである。これにより安全を求めた資金が集中的に国債に向かったのである。
    このように見てくると、筆者が予想を誤ったケースの共通点は、様々な「先入観」と言える。「利回りが2%を割り込むことはない」と言う固定観念も、その典型である。やはり経済の動きを正しく予想するには、このような先入観に囚われることのない自由な思考が必要と考える。そのためにも物事の実態をまず正確に観察することが重要である。

来週から「市場における競争」を取り上げる。これは今後何回かにわたるテーマである。来週号ではまず「独占と完全競争」について述べることにしたい。



99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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