- 合成の誤謬
世間では、現在の不況からの脱出策が真面目に取り上げられている。先週号で取り上げた「企業のリストラ」もその一つである。しかし各々の企業が合理化に邁進すれば、さらに経済全体の需要が減少することになり、不況は一段と深刻になる。リストラにより人員整理が行われるケースはこの典型である。このような個々の企業にとっては良いことであるが、全体では事態をより悪化させる現象をよく「合成の誤謬」と呼ぶ。 銀行のリストラも結果は同じである。経費や人件費の削減はもちろん、貸し出し金利の引き上げも、それを行う銀行にとっては経営のプラスになるが、経済全体に対してははっきりとマイナス効果である。今、公的資金投入をめぐって大手の銀行はリストラを迫られている。公的資金投入自体は、金融の安定につながり景気にはプラスであるが、銀行のリストラは景気にマイナスとして作用する。したがって公的資金投入の条件が厳しくなるとしたならば、何のための公的資金投入かわからなくなるのである。ところが金融再生委員会は、公的資金投入の条件として「貸し渋りの解消」を銀行に迫っている。これは明らかに銀行のリストラに反することであり、矛盾した要求である。金融再生委員会の銀行に対する態度は厳しいと毎日報道されている。これは、公的資金投入に対して厳しい見方をするマスコミや世間を意識した、単なるポーズなのかはっきりしない。筆者の言えることは、金融再生委員会が目指すような立派な銀行が誕生しても、銀行として機能しないのなら何の意味もないと言うことである。どこまで本気なのか、今後も金融再生委員会の動きは注目される。 民間の設備投資において電力会社のウエートは大きい。この電力会社に対して通産省は、以前から電気料金の引き下げを要求してきた。つまり電力会社の合理化を通じたコストの引き下げを要求しているのである。これに対して電力各社が行ってきたことは、設備投資の減額である。現在では、設備投資額がピーク時からかなり小さくなっている。来年度にかけても各社減額を予定している。以前は不況時には、景気対策として率先して設備投資を増やしていた電力会社が、今回は減額に回っている。たしかに電力料金の引き下げは他の民間企業や国民生活にはプラスであるが、設備投資の減額は明らかにマクロ経済にとって需要の減少を意味している。筆者は、国民経済全体に対しては、料金引き下げによるプラス効果より設備投資減少によるマイナス効果の方が絶対値としては大きいと考えている。これについての詳しい説明は省略するが、「減税」と「公共投資」の比較と同様と考えもらえば良い。 日本においては、不況を克服に向かって、各企業は立派な企業を目指し努力している。しかしこのことがさらに需要を減退させ、景気を落ち込ませるのである。まさしく「合成の誤謬」である。このような状況になれば、政府の登場しかないのである。政府が財政支出を増やし、需要を創出する他はない。政府までが立派な政府を目指し、財政再建政策を行ったのが前内閣であった。また景気が回復したら直ぐに財政の再建を目指せと言う声が聞こえるが、景気回復と言っても以前の景気回復期ような状態は無理であり、これを行えば、また景気は大幅に下落するはずである。日本経済は相当の間、大きな財政赤字と付き合って行かざるを得ないのである。そして金利が大幅に上昇しない限り、これは可能なことである。 バブル崩壊で何百兆円の資産が吹っ飛び、その後80円まで進んだ「円高」で日本経済は危機状態となった。この日本経済を何とか持ちこたえさせてきたのは「財政支出」と「企業が本格的にリストラ向かわなかったこと」である。つまり企業が短兵急に立派な企業を目指さなかったからである。これがなかったら失業率は今ごろ軽く10%を超えていたと考えている。外国人が今の日本の現状を見て、どうしても「不況」と思えないと考えるのも不思議はない。彼等にとって不況とはとてもこんなものではないのである。
- 地方財政の再建
政府は財政再建を棚上げにして、景気対策を行っている。しかし今だに間違った意見が聞こえる。「財源はある。遊休の国有資産を売却しろ。」と言うのもその一つである。売却代金をそっくり財政支出に充てるなら問題はないのであるが、国債の発行の減額に使うのなら、これは明らかに景気に対してマイナス効果である。今は赤字国債を発行してでも、民間の遊休資産を買い上げると言う政策の方が景気対策として正解である。 国は立派な財政を放棄して、財政を拡大しているが、地方は逆に財政の赤字縮小に向かい、支出を削減している。これは大きな問題である。景気対策に政府がアクセルを踏んでいるのに、地方はブレーキを踏んでいるのである。そしてこれが今回の景気回復を難しくしている事柄の一つである。地方の財政支出の削減の理由は、多くの自治体は地方債発行の累積額の増加により起債の限度額に達しており、これ以上の地方債を発行できないからである。政府が、地方財政のこれ以上の起債枠の増額を認め、法律を改正すればこれが解決するのであるが、政府は積極的ではない。筆者はこの理由を政府の地方自治に対する不信感と考えている。たしかに高額の退職金を払うため地方債を増額発行している自治体がある現状では、これは難しい問題である。国の国債や借入金の債務残高は予算の6倍位であるが、地方の債務残高は予算の2倍以内と考えている。つまりこれまでも政府が借金を増やしながら景気対策を行ってきたと言う図式になる。どうしても地方単独の借金の増額を認めないとしたなら、政府はその分国の財政赤字を増やし、財政支出を増やす他はないと筆者は考える。 今、都知事選が話題になっているが、どの候補も「財政の再建」を公約として挙げている。立派な都の財政の実現である。しかし、本当にこれを行えば、景気がそれだけ落ち込み、税収がさらに減少することを意味する。景気対策は国が行う事と言う割切りがあるのなら、候補者はそれを明言すべきである。いずれにしても、景気対策について国と地方行政は調整を急ぐべきである。今のような中途半端な状態は景気回復への障害となる。
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