- 企業のリストラの功罪
ほとんどのエコノミストの成長率の予想が低い大きな原因の一つは、99年度の設備投資をかなり減少するものと予想していることである。そして設備投資の大幅減少の理由は、大きな需給ギャップの存在である。このような見方をするエコノミストの困る点は、たいてい「設備投資を回復させるには、企業はリストラを行い、予想収益率を改善することが必要」と短絡的に結論づけていることである。企業がさらにリストラを行うと言うことは、さらに需要が減退することになり、需給ギャップがより大きくなることを意味する。これではとても不況からの脱出は無理であり、むしろ状況を一段と悪化させるのである。 日本は過去に何度となく不景気を経験したが、その度にここから回復している。景気回復のきっかけはいつも財政支出の増加と輸出の増大であった。これにより消費が回復し、最後に設備投資が増えると言うのが通常のパターンであった。しかし今日エコノミストが主張するように、企業がリストラを進め、設備投資を増やしたことが不況脱出のカギになったと言うことはない。もちろん大企業の倒産をきっかけに政府の景気対策が強化されたことは有り得るが、企業の破たん自体が不況脱出のきっかけになったとはとても考えられない。たしかに不況を経験することによって企業の経営が強化されることはあるが、これによって景気が回復するわけではない。 筆者が主張するように「消費の限界」にぶつかっている日本経済にとって、今回の不況の克服は簡単ではない。これ以上輸出を増大するさせることも無理である。それほど今回の景気回復は難しいのである。 たしかに「企業のリストラ」を進めることが景気を回復する条件に成り得る国は存在する。常に大きな貿易赤字を抱え、国内市場に輸入品が溢れているような国である。このような国では国内企業の合理化を進め、生産性を向上させることが理にかなった行動である。また輸出主導型、あるいは輸出依存型の経済の国も、他の輸出国との競争上「国内企業の合理化」を押し進める必要を感じるであろう。しかし日本は現在でも十分貿易黒字を確保しているのである。日本においてこれ以上の「国内企業の合理化」は、日本製品の競争力の強化であり、一段の貿易黒字の拡大を生むことになる。したがってこれ以上の貿易黒字の拡大は各国からの非難を強めるか、あるいは為替をさらに「円高」にするだけである。このように他国では有効な政策や企業の行動も日本の経済にとっては有害なケースが有り得ることを考慮する必要がある。日本経済にとって一番必要なことはやはり内需の拡大であり、需要拡大政策である。そして内需の拡大が確認されてから、企業の合理化を進めても遅くはないと考える。
- 予測が困難な投資
本誌では、これまで何度となく内需の拡大策の一貫として公共投資や住宅投資を取り上げて来た。今回はちょっと角度を変えて、技術進歩に伴う需要増について述べる。もちろん技術進歩による画期的な新商品の登場によって消費の拡大が考えられるが、ここでは技術進歩に伴う設備投資の増加による需要増を取り上げる。もっとも最近は技術進歩も一つの曲がり角なのか、あまり大きなヒット商品がないのも事実ではある。 過去の歴史においては、蒸気機関やガソリンエンジンなどの登場によって設備投資は盛り上がった。近年においてもエレクトニクス関連の技術の進歩により、多大の設備投資が行われている。技術進歩も「新機軸」と言われるほどの画期的なものの場合には、設備投資もそれだけ大きくなることは容易に想像できる。しかし技術進歩としてはそれほど大きくなくても、広い範囲に影響を与える場合にもその経済効果は思いのほか大きくなることがある。身近な例としてはパソコンのOSのバージョンアップなどが挙げられる。 筆者も最近パソコンのバージョンアップを行い、思いがけない出費を強いられた。最初はプリンターが壊れたので、新しいプリンターを購入したことから始まる。新しいプリンターのドラバーソフトがどうも使っていたOSのバージョンと合わなかったようである。また色々考えた末、OSのバージョンアップを決断した。まずメモリーの増設を行い、データのバックアップ用のMOとそのドライバーソフトの購入した。ところが新しいOSとモデムもどうもしっくり合わず、これも新しく購入することになった。またこの作業中、誤ってフロッピーのドライバーを壊し、この余計な修理費も結構高くついた。新しいプリンターとOSの金額はわずか4万円であったが、最終的な出費はその3.5倍を超えていた。このようにOSのバージョンアップと言う、決して大きくはないと考えられる技術の進歩でさえも、なにかしらの経済的波及が起こることを身を持って体験したしだいである。 一般の企業においてもパソコンは大量に使われている。余裕のある企業はOSのバージョンアップに合わせ、新しいOSソフトの購入に止まらず、パソコン本体や周辺機器までも新たに買い替えるケースがあると考えられる。こうなればOSのバージョンアップに伴う設備投資額もけっこう大きくなる。昨年はウィンドウズがバージョンアップし、個人のパソコンの購入が増えた。今年はいよいよ法人がパソコンの新規購入を増やす可能性がある。パソコン減税もこの流れをアシストすると考えられる。 「2,000年問題」も新規投資を生む可能性がある。この問題については各企業によって対応に温度差がある。早い企業は既に対応済みと考えられるが、かなりの企業は現在取り組み中と考えられる。メーンフレームについては対応が終わっても、その他の雑多なマイコン類まで手が及ぶか問題である。結局、メンテナンスの時間がなくなり新しく買い替えると言うケースもあり得ると思われる。このように「2,000年問題」でも99年度に特需が期待されるのである。 企業は企業間の競争に付いていくため、継続的に各種の投資を行う必要がある。さらに前述したような大きな「新機軸の登場」に伴う投資やOSのバージョンアップなどに伴う投資もある。これらの投資の特徴は、必ずしも需要が増え、生産設備が不足したから行われると言う性質のものではない。つまり不況で需給ギャップが大きくても実行される可能性がある投資である。ところがこの種の投資額を正確に予想することは大変難しい。しかし、予想するのは難しいからと言ってこれらを異常に低く見積もると、予想する経済成長率はどうしても低くなり過ぎると思われる。日経新聞が集計したの99年度の設備投資の見込み額は対前年でマイナス8%である。これは政府見通しのマイナス5.4%より厳しい。筆者は、これらの数字より楽観的に考えているのであるが、結果はどうなるか注目される。
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