- 世間の経済見通し
今週号では日本の99年度の経済見通しを取り上げるが、今回は単に本誌の見通しを述べるだけではない。色々な立場の人々から、来年度の経済成長率については見解が出ているので、これに論評を加えることから始めたい。 まず政府であるが、政府の予想は0.5%であり、これはほぼ国際公約となっている。0.5%は3年振りのプラス成長予想である。しかしこの数字は客観的と言うより、多分に政治的意味合いが強いものである。したがってこれは政府の予想と言うより、政府の期待の数値と解釈される。この政府の予想を除くと、世間の見通しは二分される。ただ二分されると言うより、圧倒的多数の意見に対して、例外的に少数派が存在すると言う状況である。 多数派の見通しは「来年度もマイナス成長が続く」と言うものである。シンクタンクなどの主要23機関の見通しの平均はマイナス0.5%であり、ブラス成長を予想する機関はわずか5機関であり、これらの予想の最高値も0.4%と政府見通しを下回るものである。またほとんどのエコノミストも同様の意見である。よく挙げられる理由は「公共投資を中心とした景気対策の効果は限定的であり、この効果はすぐになくなる」「過剰設備と過剰人員を企業は抱えており、設備投資はまだ減少し続ける」「米国経済は減速する」と言ったものである。 一方、ごく少数ではあるが、景気に強気の見通しを持つエコノミストがいる。金森久雄氏とリチャード・クー氏である。ただし後者リチャード・クー氏の意見は「経済政策は正しい方向に進んでおり、貸し渋りを解消できれば、将来はV字型の回復も可能」と言うものである。金森久雄氏の意見はもっとはっきりしている。99年度の成長率は1%はいけると言うものであり、最近ではこれを2%に上方修正している。現在のところ金森氏のような99年度の景気回復を予想するエコノミストは他にいないようである。 ところで、各機関や各エコノミストの経済見通しを見ていると面白いことに気がつく。来年度の経済成長を悲観的に見る人々の多くは、以前は「財政の再建」や「小さな政府」を主張していた面々である。反対に来年度の景気見通しを強気、あるいは急速な回復を予想しているのは、2年前の政府の「財政の再建」路線に反対してきた人々である。 2年前までは、多くのエコノミストは「財政の再建」を主張してはずなのに、景気悪化後は、一転して景気対策としての「減税」要求の合唱を始めた。そこで政府は公共投資に加え、史上空前の規模の「減税」を景気対策に盛り込んだはずである。それにもかかわらず、景気は回復しないと予想しているのである。「減税」の額がまだ小さすぎると言うのならわかるのだが、全く矛盾した論調である。最近では供給側のリストラが完了していないから景気は回復しないと主張している。これについては本誌でも来週号で取り上げるが、「減税の経済効果」について述べた時と同じように、今回も「逃げ水」のような印象を与える言い訳を行っているとしか考えられないのである。 詳しくは後述するが、筆者は金森久雄氏の景気見通しに賛成である。この大きな理由の一つは単純である。金森氏の経済予測がこれまで当っているからである。96年度の景気回復も予想通りであったし、それ以降の不況も予想していた。一方、他のエコノミストやシンクタンクの大部分は全く逆の予想を平気にやっているのである。このようなことは本誌98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」で述べたが、大半のエコノミストは不況の進行中の97年の8月おいてさえも「景気は順調に推移しており、在庫調整も進んでいる」と寝ぼけたことを言っていた。筆者には、これらのエコノミストの考え方には根本的な欠陥があるとしか考えられないのである。 最近これらのエコノミストは、景気対策のための赤字国債の大量発行により長期金利が上昇していることに着目し、政府の積極財政を問題視し始めている。しかし、景気対策にはこれらのエコノミストが主張した効果が小さい「減税」が含まれていることを忘れているかのようである。筆者は、本誌で前にも述べたが、今の長期金利の上昇は、低くなり過ぎた金利が是正されている過程であり、このまま一本調子に上昇を続けるとは考えていない。もっとも景気がある程度回復してくれば、金利が多少上昇する局面は考えられる。しかしこの場合には景気対策としての国債の発行額がそれだけ小さくて済むわけであるから、このことはまた金利上昇をマイルドなものに作用するはずである。いずれにしても資金が余剰の日本においては、金利の上昇には限度があると言うことである。また、これに関して「日銀による国債の引き受け」が話題になっているが、これについては後日にテーマとして取り上げることにする。
- 本誌の経済見通し
前述したように、筆者の99年度の経済見通しは強気である。具体的には政府見通し0.5%を超える経済成長率を予想している。ただし、政府の追加の景気対策が行われると言う前提である。具体的な数字となると難しい。筆者の手元にあるのは電卓だけであり、資料も限られている。ただポイントは「住宅投資」と「設備投資」の見通しと考えている。筆者は、これらが政府見通しより大きくなると予想しているのである。 民間のシンクタンクの予想が低くなっているのは、これらの数値を小さく予想しているからと考えている。またこれらのシンクタンクはりっぱなスーパーコンピュータで計算しているのだから、計算に間違いはないと考えられる。したがってこれらのシンクタンクの予想がいつも間違っているとしたら、方程式自身が間違っていると解釈する他はないと考えている。筆者に言わせてもらえば、方程式自体が日々変化しているのである。つまりスーパーコンピュータで正確に計算すればするほど、計算結果は現実と離れる可能性があるのである。実際、経済の予想が正確に計算できるのなら、これらのシンクタンクの系列の金融機関が、今日問題となっている大量の不良債権を抱え込んでいるはずがないのである。 現代の経済において、「設備投資」額を予想することは本当に難しい。「女工哀史」時代の設備投資と訳が違うのである。筆者は、ひょっとしたらシンクタンクのコンピュータにはこの時代の方程式が入っているのではと考えている。また、これはコンピュータだけでなく多くのエコノミストの頭に入っている方程式ではないかと憶測している。最近のエコノミストの発言を聞いているとそのような印象を受ける。そしてこれは重要なことであり、これもまた来週号で述べることにしたい。 今後の日本景気動向において「設備投資」と「住宅投資」はポイントとなるが、注目している具体的な数値は「地価の動向」と「住宅着工件数」である。昨年12月の「住宅着工件数」は10万戸であり、依然、対前年でマイナスを続けている。ただし12月は11月より3千件増えているのである。例年11月よりも12月の方が住宅着工件数が減るのが普通なのに昨年の末は増えたのである。これは明らかに明るい徴候である。筆者は今回の不況の大きな要因は97年度の公共投資の減少と住宅投資の急減と考えている。(筆者は世間で言われている消費税などの増税の効果をあまり重要視していない。)この住宅投資が回復することは重要である。今後も「住宅着工件数」には注目することになる。 前述したように「設備投資」を決定する要因は複雑である。ただ今回の不況においては、設備投資は、輸出を除けば需要項目の中で最後に落ち込んだ項目である。97年の9月まで対前年でプラスを続けていたのである。つまり筆者の見方は、2年前の設備投資の増加傾向は腰折れ状態になっていると考えている。つまり条件さえ整えば、また設備投資は再開される可能性があると言うことである。設備投資が急速に減少したのは、あまりにも景気後退が早く来たことと、当時の金融不安の高まりであった。これらが解決される道筋がはっきりすれば、設備投資は予想以上に活発化すると考えている。 筆者は、設備投資を決定する要因の一つとして「地価の動向」が日本では重要と考えている。日本においては地価が下がったから投資を行うと言う企業と、地価が上がりそうだから投資を行おうとする企業がある。したがってこのようなリスクを取ろうとする企業にとって今がチャンスだと考えられる。96年に下げ止まったと見られた地価も、97年、98年には再び下がり始めたのである。特に一時活発だった外資の不動産買いも中断の状態である。つまり地価がこれ以上下がらないと判断されれば、これらの不動産投資も再開されるはずである。外資の考え方は「底値では買うのは難しいので、底値になる直前から買いに入る」と言うものであり、極めて合理的である。いずれにしても地価の動向は重要である。 景気見通しでは、大半のシンクタンクやエコノミストと本誌とでは大きな隔たりがある。そして今発表されている経済数字には良いものはほとんどない。これからどうなるか注目されるところである。
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