- 資産価格の底
今週は予定を少し変更し、まず政治家がりそな銀行救済劇のスキーム作りにどれだけ関与したかについて述べる。筆者の見方ではあるが、小泉官邸や小泉直系の「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」がこれにはほとんど関与していなかったのではと前回号で話した。では小泉官邸以外の政治家についてはどうであったろうか。
筆者は、「スキーム作り」はやはり官僚主導であり、他の政治家もほとんどタッチしていなかったと見ている。もちろん自民党の一部の政治家は、「スキーム作り」の途中経過ぐらいは聞いていたかもしれない。しかし「スキーム作り」に直接参画していたとは思われないのである。
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」で述べたように、当時、不良債権処理策の策定は、相沢英之委員長を中心にした自民党の「デフレ対策特命プロジェクト」が担っていた。しかし実のところ筆者は、りそな銀行救済劇が公表される一週間ほど前、この相沢英之議員にお会いしてお話をしているのである。
ある参議院議員の紹介で、日本経済復活の会の会長、小野盛司氏と共に議員会館の相沢英之事務所を訪れ、主に小野氏が「積極財政による経済活性化によってむしろ国家の財政が健全化する」というシミュレーションモデルについて説明した。議員には熱心に我々の説明を聞きてもらい、「是非とも『自民党のデフレ対策特命プロジェクト』チームにこの話をしてくれ」と言ってもらった(諸般の事情でこれは実現しなかったが)。忙しい中、30分間の時間を割いてもらったのである。もし政治家主導でりそな銀行の救済策が練られていたなら、この「デフレ対策特命プロジェクト」チームがこれを担っていたはずであり、当然、委員長の相沢氏が我々に会う余裕などなかったと思われる。つまり筆者自身が見聞きした事柄から判断して、政治家が「スキーム作り」に深く関与した可能性は低いと思っている。ただ相沢議員は非常に疲れておられる印象があった。
さて今週のメインテーマは「小泉的なもの」の構造改革政策と地価の動向である。日本の株価はりそな銀行の経営危機でどん底まで行った。しかしそこで底を打ち、りそな銀行救済策公表から反発に転じた。一方、地価の方はりそな銀行救済劇より少し早い時期に底を打ったと見る。ただしこれは都心の一等地に限った話であり、全国の地価は今日でも下落を続けている所の方が多い。
筆者は、株価と地価が、実際の価値よりも大きく下げ過ぎたと考える。バブル期の高値が異常であったことは誰でも認めるが、底値の底さも異常であった。本誌で前に取上げたように、筆者は97年頃に一旦地価の下落が止まる気配を見せたと思っている。それ以降の下落は全く余計であった。ところがこの大事な時に橋本政権が「経済は回復した。次は財政再建だ」と緊縮財政路線に突然転換した。「経済はまだ立直っていない」というまともな声は無視されたのである。
これによって一旦浮上してきた経済も再び急降下し、この影響で大手金融機関の不良債権問題が表面化し、地価の下落に一層拍車がかかったのである。なんてばかな事をやっているのだと筆者は思った。このように筆者が言うところの「小泉的なもの」、つまり構造改革派のばかげた政策が繰返され、日本の資産価格は03年あたりまで下落を続けたのである。また都心の地価が回復基調に転じたのは、景気が良くなったからではなく、あまりにも下がり過ぎたためのリバウンドである。
- 地価の動向と経済の動向
筆者は、地価の動向と経済の動向は密接に関連していると考える。まず理論上、投資が実行されるかどうかは、投資の期待収益率と金利の比較によると考えられている。期待収益率が金利より大きければその投資は実行される。一般にこの場合の金利は名目金利から物価上昇率を差引いたところの実質金利である。しかし特に土地の買収を伴う投資の場合、筆者はさらに地価の変動率も加味すべきと考える。これは重要なポイントであるが、しばしば当局が見落とす点である。
まず日本の場合、デフレ経済によって物価上昇率がずっとマイナスで推移していたから、名目金利が低くても、実質金利は高い状態が続いている。つまり低金利であるが、投資が難しい状態である。これに加え、さらにバブル崩壊後は問題の地価下落がずっと続いていたのだから、土地代を考慮した実質金利(筆者は99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」他でこれを「体感金利」と称した)はさらに高くなり、投資のハードルは一層高くなる。つまり地価の下落が続く限り、投資はなかなか増えず経済政策の効果は小さくなるのである。
逆に地価が上昇している場合には、過剰な投資を誘発しがちである。例えば金利以上の地価上昇が続いておれば、それだけ「体感金利」は低下し、どんな投資でも実行されやすい。またこのような投資がどんどん増えれば、さらに地価が上昇し、「体感金利」さらに低くなるという悪循環に陥る。これは設備投資だけではなく住宅投資にも言えることである。
バブル期には、地価がどんどん高くなるので、「体感金利」がどんどん下がる。ところが一般の物価の上昇率が小さければ、金融当局(中央銀行)の金利引上げが遅れたり不十分なものになる(後ほど述べるが、金利を少々引上げぐらいで地価の上昇を止められるかどうか疑問であるが)。この結果、バブルがどんどん大きくなるのである。この点では米国のサブプライム問題も、日本のバブルと同様の経過を辿ったと言える。
サブプライム問題でグリーンスパン前FRB議長の責任を問う声がある。たしかにFRBはここ数年金利を少しずつ上げてきたが、住宅価格の上昇を抑えるような大胆な金利政策までは採らなかった。しかし一般の物価が上昇していないのに、住宅価格上昇だけを理由に大幅な金利引上げを行うのは現実問題として難しかったと筆者は考える。実際、グリーンスパン氏は他のFRBメンバーから大きな利上げに賛同を得られなかったと釈明している。
ただ米国の場合、バブル崩壊後の当局の対応が素早い。半年の短期間にFRBはFFレートを3.25%も引下げている。バブル崩壊がかなり進んでも、一向に金利を引下げなかった三重野日銀総裁と大違いである。
ところで今日の米国も、地価や住宅価格の下落が止まらない状態にあり、前述したように経済政策の効果に限度がある。これからも住宅や商業不動産の価格が下落すると分かっているのだから、投資する者は限られる。新築住宅着工件数も年率100万戸を割ってきた。米国経済はこれから正念場を迎えることになる。
資本主義経済においては、時たま起る不動産バブルの発生とその崩壊は避けられない事と筆者は考える。それに対して金融当局ができることは、バブルの生成をなるべく大きくさせないことぐらいである。筆者は、どうしても不動産価格の動きは大きくなるのだから、とても金利操作だけでは追い付かないと考える。また金利は他の経済活動にも影響を与えることから、不動産価格の動きだけで政策金利は決められない。このように金融政策は万能薬ではないのである。例えば日本のバブルの場合では、国土利用計画法の活用(法改正を行って)をもっと考えれば良かったのではと筆者は思っている。
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