経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/9/26(909号)
日本経済こそが「ニューノーマル」

  • 延々と続く的外れで無駄な議論

    先週まで分析してきたように、日本の企業は膨大な内部留保を持ち、またそのかなりの部分を現預金の形で保有している。経営上でよほどの問題がある企業を除き、資金に困っているところはほとんどないと見て良い。これは一見好ましいと考えられるが、裏返せば日本での投資の不足を意味する。またこれによってマクロ経済上で需要不足が起り、このことが日本経済低迷の大きな要因となっている。

    政府は、投資を喚起するために投資減税などを実施しているがほとんど効果はない。また外国企業の投資を呼込むべきといった間抜けな政策に固執している者がいる。日本の実情を知っている日本の企業さえ十分な投資を行わないのに、外国の企業が進んで投資を行うなんて信じられない。またもし外国企業の投資だけに優遇を与えるということがあるなら(明らかに日本企業への差別)、実におかしなことである。そもそも日本は発展途上国で見られるような外資導入に力を入れる資金不足の国ではない(金利だってマイナス)。


    成長戦略の実施で日本経済が成長できるという話がある。しかし13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」などで述べたように、日本の経済低迷は今日検討されている経済成長戦略で脱することは無理である。もし経済成長戦略が効果を持つとしたなら財政支出を伴う場合だけと以前から筆者は指摘してきた。

    安倍政権が発足して4年が経ち、経済成長戦略と言われ始めてほぼ同じ時間が過ぎた。しかし全くと言って良いほど成果がない。このように今日検討されている経済成長戦略は意味がないとそろそろ認めなければならない段階に来ている。


    経済成長戦略の中核になっているのが規制緩和である。構造改革派の人々が規制緩和を進めることによって経済が成長すると主張している。これには主に二つの理由を挙げている。一つは規制緩和によって競争が起り、日本の企業の生産性が上がることである(生産性の話は近々別のところで取上げる)。もう一つは規制緩和によって新規の投資が喚起されるというものである。

    規制緩和を主張する構造改革派は、既得権益を持つ団体や企業が不利益を被ると徹底的に抵抗していて日本では規制緩和が進まないと訴えている。特に昔から懸案のままの規制を「岩盤規制」と名付け規制緩和が進まないと言っている。しかしそもそも規制緩和で投資が増え経済が成長するという話自体が怪しいのである。


    本誌は04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」などで、規制緩和で経済が成長するという話を完全に否定してきた。たしかに筆者の説は仮説である。しかし「規制緩和による経済成長論」も仮説に過ぎない。ところが構造改革派は「規制緩和による経済成長論」があたかも証明された経済理論のごとく扱っている。

    構造改革派は、規制緩和の項目を並べるが、これらがどの程度GDPを押上げるか示すことはまずない。実際、筆者自身がそのような数字を見たことがない。仮に予測の方が困難であっても、少なくとも過去に実現した規制緩和でどの程度経済が成長したか実績を数字で示すことぐらい出来そうである。ところがこのような数字も筆者は見たことがない(昔の非論理的なインチキ論文の数字を別にして)。

    もっとも4年間の規制緩和の成果で思い当たるものは、特区の設置とコンビニでの薬の販売といった本当につまらないものだけである。たしかにこれらで日本経済が成長したなんて冗談でも言えない。しかし日本の経済政策を検討している現場は、「規制緩和」とか「生産性の向上」といった的外れで無駄な議論を延々と続けている。


  • 「消費年齢世代」人口の減少

    日本経済は煮詰まっていると言おうか膠着状態に落ち入っている。経済成長率はずっと零点いくつかの世界に入ったままである。まるで視力検査のような数字が毎年続いている。しかしこれは日本に限った現象ではなく、多少様相に違いはあるが欧米でも共通して起っている。

    今日の低成長率、低金利、低物価上昇率は先進各国の共通した現象である。米国ではこの一連の経済現象を「ニューノーマル」と称している。しかしこの現象については日本がずっと先頭ランナーであった。つまり他の先進国が段々と「日本化」しているのである。どれだけ金融を緩和しても、投資は盛上がらず経済も成長せず物価も上がらない。まさに日本がここ20年以上も前から経験してきたことである。


    筆者はこの原因を分かっているつもりであり、したがって対策や処方箋も本コラムで度々示してきた。日本経済低迷の原因はズバリ「慢性的な需要不足」である。供給サイドに問題はほとんどない。これに対して経済学者やエコノミストは「規制緩和」とか「生産性の向上」と供給サイド重視の間抜けたことばかり言って、時間だけが無為に過ぎている。

    「需要不足」の主な要因を13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」などで指摘したように、日本で30才台、40才台の「消費年齢世代」の人口が減少していることと筆者は指摘してきた。ところが現実の経済を知らない構造改革派や財政再建派は、経済低迷の原因を「消費年齢世代」の問題ではなく「生産年齢世代」の人口の減少にすり替えて説明する。つまり需要不足ではなく労働力が不足し供給力が低下しているので経済が低迷しているととんでもないことを言っている。


    日本経済低迷の原因が「需要不足」なのか「供給不足」なのかは重大な論点のはずである。ところが日本の役立たずの経済学者やエコノミストはこれをあいまいにしたまま、供給サイド重視の政策、例えば主婦や高齢者を生産現場やサービス業に狩出すといった方策ばかりを並べる。

    しかし筆者は、日本経済低迷は日本の総需要の低迷を反映していると言っているのである。「消費年齢世代」人口の減少の影響は、特にローンを組むような高額の住宅や車などの耐久財の購入に如実に現れている。日本の80年代後半のバブル経済も団塊の世代が40才前後のまさに「消費年齢世代」のど真ん中になった時に起っている。


    バブル経済崩壊後も引続き90年代の前半までは住宅新築着工件数は毎年150〜160万戸で推移している。今日はこれが90万戸前後である。また新車販売台数はバブル時代からずっと500〜600万台程度でずっと推移している。ちなみに昨年度は軽自動車が不振で494万台に止まった(今年度も500万台を割りそう)。国内販売が伸びないので各自動車メーカーは輸出に活路を見い出してきたが、現地生産が増えこれも頭打ちである。

    しかし昨今の生産状況は決して悲劇的に低いものではない。米国の住宅新築着工件数が毎年100万戸ということを考えると、日本の毎年90万戸は特別少ないとは言えない(ただ日本と米国では住宅耐久年数が大きく異なるので単純には比較できないが・・米国はその分中古住宅の売買が盛ん)。毎年500万台の新車販売台数も公共交通機関の発達した日本の実情と人口比を考えると米国の1,700万台の米国に遜色はないと言える。また人口が10倍の中国の新車販売台数が2,500万台であるが、人口比を考慮すればいまだに日本は中国の倍の新車が売れているのである。


    つまり日本の消費レベルは決して低くはない。しかし「消費年齢世代」人口の減少により、消費が増えて行かないので経済の低迷感が漂っている。まさに日本経済こそが「ニューノーマル」状態に落ち入っているのである。したがって膨大な内部留保を保有しているが、企業も需要が伸びないから投資を積極的に行わない。しかし筆者は、高度成長期のような経済成長率は無理であるが、ある程度の経済成長は可能と考える。安倍政権のGDP600兆円(あるいは700兆円程度)の目標は適切と見ている。

    今日の日本の経済問題は「若者が将来に明るい展望を見出せず不安を持っている」「高齢者が漠然とした不安を感じている」「著しく貧困な世帯がある」などと筆者は見ている。筆者は、日本はもう少し高い経済成長を達成して、これらの諸問題の解決に道筋が引けると確信している。またそのための方策も分かっている(本誌でも何回も取上げてきた)。ところがいまだに役立たずの構造改革派や財政再建派が跋扈し、デタラメなことを言ってこの実施を邪魔している。



来週は今週の話を踏まえ具体的な政策を提言する。

民進党代表レンホウ参議院議員の二重国籍問題は、台湾当局に除籍の手続をとったという報道で落着した雰囲気になっている。しかし除籍手続に使った証拠書類(例えばパスポート)の有効性が問題になる。証拠書類に有効期限があるものなら期限切れによって除籍手続ができない可能性がある。反対にスムーズに除籍手続が済まされるのなら、パスポートなどが定期的に更新されていた可能性が出てくる。もし後者ならレンホウ議員の言ってきたことは真っ赤な嘘ということになる。つまり二重国籍問題はまだ終わっていない。



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16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
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16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
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16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
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16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
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