経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/5/28(987号)
100兆円の基金の設立

    「うまい話」はある

    今週から、しばらく財政と経済に関わる提言を行う(米朝首脳会談の前あたりまで)。本誌はこのテーマを何回も取上げてきた。したがって提言がこれまでの記述とかなり重複することを承知している。

    筆者はこのテーマこそは単独で取上げるのではなく、色々な要素を総合的に関連付けて考えるべきと思っている。まず財政と経済は互いに影響を及しあう。またこれらは物価、金利そして為替にも関係してくる。またデフレギャップ(需給ギャップ)や経済の循環などにも触れることになる。さらに政策提言を考えると日銀の政策や財政法、そして社会保障などにも言及する場面がある。この他にも技術進歩や世界的な金余りの影響も考える必要がある。これら全部が有機的に繋がっている。

    財政と経済を取上げる場合、このような複眼的な見方が極めて重要である。ところが世間ではこと財政を扱う場合、財政だけを単独に取上げることが多い。しばしば日本の財政の累積赤字が膨大なことだけが最重要な問題として捉えられる。またこのような意図的で片寄った意見に沿った経済政策が続けられてきたのだ。新規の国債の発行を行わないという方針もその一つである。この結果、先週号で述べたように日本経済は長期のスランプから抜け出せなくなっている。


    しかしこれらの要素を全て考慮したモデルに基づき、財政と経済を考えると言っても難しくなる。筆者達は、これに関して色々と模索して来た。これまでも「政府紙幣を財源とした財政政策」や「シミュレーションモデルに基づく積極財政政策(日本経済復活の会)」などの提案を行ってきた。

    たしかにこれらには賛同する意識の高い人々がいて、一時的には話が盛上がる。しかしこの動きがなかなか世間に広がらない。いまだに「日本は財政再建が急務」といったばかげたセリフに押されている。筆者達もこれまでのやり方が正しかったのか反省する必要がある。


    筆者は同じ政策を訴えるにしても打ち出し方に工夫が必要と感じる。出来る限り簡単な形で政策を打出すことが良いと考える(これまでは分る人が分れば良いと割切っていたかもしれない)。これを踏まえ、今週から改めて財政と経済に関する分りやすい政策といったものを提示する。ただこの政策は、新奇なものではなく本誌で幾度となく取上げてきたものの延長線上にある。


    まず今日、もし政府が財源に縛られずに自由に歳出を増やすことができるのなら幸いなことである。大半の人々もそう思うであろう。政府は、社会保障費を大幅に増やしたり、教育に金を掛けることができる。

    しかし財源には限度があることが今日の常識になっている。したがって何かの財政支出を増やそうとすると、他の何かの財政支出を削る必要があると思い込まされている。そこで筆者が提案するのは、この財源問題の解決策である。

    このような話をすると「そのようなうまい話はない」「副作用がある」「借金の将来への付け回しだ」と真っ向から否定する人が必ず出てくる。ところがそのような「うまい話」が実際にあるのだ。それどころか日本(日本だけでなく米国も)は、ほとんどの国民は気付いていないが既にそれを実行しているのである。


    「打出の小槌」のような政策

    筆者が提案する政策は「政府が100兆円の永久債(償還期限のない国債)を発行し、それを日銀が買うことによって100兆円の基金を作ること」である。この基金は政府が取崩して、財政支出の財源として自由に使える。ただし100兆円に決まっているわけではない(これ以上でも一向にかまわない)。この基金設立に国民の負担はほとんどない。ちなみに永久債は、戦前、英国で発行されていた(コンソル債)。

    この財源の使途は、年金・福祉・医療といった社会保障だけでなく、教育や公共投資でも良い。また防衛費の増額や地方財政への補助にも使える。つまり必要だが、予算がないので諦めている政策の実現に充てることができる。


    これは「シニョリッジ(ヘリコプター・マネー)」政策と呼ばれるものである。本誌の長年の読者の方にはおなじみであり、特に説明は必要でないであろう。これは日銀が国債を購入するといった形でのシニョリッジである。

    シニョリッジにはこのような日銀の国債購入とは別に政府紙幣(貨幣)の発行がある。政府紙幣は本誌が昔から取上げて来ている。この一番分りやすい説明を09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」で行った。

    筆者は、シニョリッジを政府紙幣で行うことに反対ではない。しかし実現性という点では日銀の国債購入方式の方が勝っていると筆者は考える。また問題点や論点も両者で重なる部分が多い。ただ説明を簡潔にするため、政府紙幣への言及はこれ以上行わない。


    前段でこの政策は、日本だけでなく米国でも形は少し違っているが既に行っていると述べた。これについては18/3/5(第976号)「米国でのシニョリッジ政策」で取上げた。ただ両国の政府がこのことを説明しないので、ほとんどの国民がこれに気付いていないだけである。たぶんシニョリッジに一番関係の深い財務官僚やエコノミストは理解しているであろう。しかし力のある財政規律派に遠慮して口に出さないだけと筆者は思っている。もしシニョリッジのことが国民に広く知られると、これまで財政規律派が押進めてきた消費増税や歳出カットは一体何であったかという話になるのである。

    国債の日銀購入によるはシニョリッジ政策は、決して突飛な考えではない。05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」で触れたように、元大蔵事務次官の相沢英之衆議院議員(当時)が「政府が国債を発行し、それを日銀がどんどん買えば済む話じゃないか」と言っておられたほどである。このように相沢さんはまさにシニョリッジ政策に賛同している。

    またシニョリッジの対象となる国債が永久債かどうかは本質の議論ではない。ただ償還期限のある国債だと、反対派からまた「次の世代への負担になる」という的外れの話が出る可能性がある。これを避けるためにも永久債の方が良いと筆者は考えたのである。元財務官僚で元衆議院議員の松田学氏(東大客員教授他)も日銀保有の国債の永久化を主張している。つまり相沢さんや松田さんのように分かっている人は分かっているのである。

    また法律を作って日銀が保有する永久債を、政府の同意なしでは市場に売り出せないようにすることが考えられる。この条件が加われば、本当に国民の負担がない形で100兆円の基金設立の政策は完成する。まさに「打出の小槌」のような政策ということになる。


    しかしこのような政策は、デフレ経済の日本だからこそ可能なのだある。むしろデフレの日本こそこの政策を行うべきと筆者は言いたい。反対に供給力が乏しいアルゼンチン、ベネズエラ、そしてギリシアみたいな国では絶対に無理な政策である。



来週は、今週の続きでデフレギャップとシニョリッジ政策の関係を取上げる。

トランプ大統領は、突然、6月12日の米朝首脳会談を中止すると言い始めた。北朝鮮の担当者会議のボイコットがあり、外務高官が不規則発言を発したことを理由にしている。北朝鮮は脅しのつもりであったろうが、トランプ大統領はこれを逆手にとった。
北朝鮮が中止を言い出す前に、機先を制し米国が中止を宣言したという見方がある。おそらくこれは正しい観測であろう。前から首脳会談については検討結果を今週あたりに発表すると言っていたが、4〜5日早めて中止を宣言した。今週と言っていたのは北朝鮮を油断させるためだったと筆者は見る。この中止宣言は北朝鮮を慌てさせ、米国は譲歩を引出したようだ。このように米朝間で激しい駆け引きが行われている。また核実験場の廃棄作業が終わったタイミングで中止を発表したのも面白い。



18/5/21(第986号)「北朝鮮情勢他」
18/5/14(第985号)「環境の激変に対応できない財務官僚」
18/4/30(第984号)「「ノーパンしゃぶしゃぶ」事件の顛末」
18/4/23(第983号)「日米主脳会議に対する筆者の感想」
18/4/16(第982号)「通商摩擦は中国の敗北」
18/4/9(第981号)「米中の通商摩擦の行方」
18/4/2(第980号)「森友学園問題の真相」
18/3/26(第979号)「米中貿易戦争」
18/3/19(第978号)「米朝主脳会談を推理」
18/3/12(第977号)「トランプ政権の脆弱な経済スタッフ」
18/3/5(第976号)「米国でのシニョリッジ政策」
18/2/26(第975号)「世界的な「金余り」の実態」
18/2/19(第974号)「VIX指数の不正操作」
18/2/12(第973号)「VIX指数暴落か」
18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
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17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
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