経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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来週はゴールデンウィークにつき休刊 次回号は5月15日を予定

17/5/1(937号)
予備自衛官の大幅増員を

    今どきリカードの中立命題なんて

    シムズ理論への批判を展開しているのは主に財政再建派(財政均衡派)である。シムズ理論が世間で認められると、彼等の主張である「財政支出の削減や増税」といった財政再建路線が否定されることになる。したがって支離滅裂な経済理論を繰出しても、シムズ理論を必死になって攻撃している。

    ところで日銀は400兆円、FRBは4.5兆ドル(490兆円)もの国債や債券を購入するといった空前の金融緩和を行っている。しかし金利水準が下限で推移しているのに一向に経済は上向かない。物価もほとんど上昇しない状態が続いている。明らかに先進国の経済の体質が大きく変わっているのである(これについては本誌で何回も説明してきた)。


    このことは現実の経済に携わっている者は誰もが感じているところである。最近商品の値下げ戦略を打出したイオンの社長は「デフレを脱却したなんてイリュージョンだ」と言い切っている。シムズ理論に賛同するかどうかを別にして、消費増税などの財政再建路線には以前より厳しい目が向いている。

    金利がゼロといった金融緩和政策が極限まで来た状況では、財政政策が有効というシムズ理論(「物価水準の財政理論」(FTPL))は、現実の経済を知っている者なら誰でもなんとなく納得するであろう。トランプ政権のインフラ投資や大型減税を期待し、株価が上昇したことを見てもこのことが分る。またかなりの財政政策を実施しても、簡単には物価が急騰することはないと実際の経済に関わる者は肌で感じている。


    シムズ理論に対する批判はどれも似ていて「インフレを起こす力が全くない」か、あるいは「ハイパーインフレを招く」かのどちらかと言ったものである。ここでは前者の「インフレを起こす力が全くない」を取上げる。先週号の週刊ダイヤモンドの「シムズ理論が成功しても庶民だけが損をする理由」(山口圭介副編集長)でも同じ論理が使われている。「政府の「増税しない」との宣言があっても、将来に不安を持つ者(特に若者)は所得が増加しても消費に回されず貯蓄に回される」と決め付けている。

    この発想は明らかに「財政支出が公債で賄われても増税で行われても効果は同じ」という200年前の「リカードの中立命題」である。つまり「国債を発行して公共事業を行い人々の所得が増えても、将来の増税が予想されるので消費を抑える」(いわゆる合理的期待形成論)といった論理である。しかし一体誰がいちいち財源を気にして消費行動を変えるものかと思われる(千人に一人くらいはそのような変人がいるかもしれないが)。つまり亡霊まがいのポンコツ理論が日本の理論経済学の世界ではまかり通っているのである。


    このようにシムズ理論への批判を展開しているのは、浮き世離れした経済学者とエコノミストの一群である。今の時代に「リカードの中立命題」に捕われているなんて、どう見てももまともではない。これに財政当局の考えを忖度(そんたく)した御用学者(主に財政学者)が加わっている。

    安倍政権は、シムズ理論に沿った政策を進めれば良い。逆に消費増税を行って財政再建を進めれば人々は将来に安心して消費を増やすといった虚言・妄言(もしリカードの中立命題が正しければそうなる)に影響を受け、3年前に消費増税し大失敗したのである。


    実現性がある予備自衛官の大幅増員

    本誌はここのところシムズ理論を取上げてきたが、人々の関心はやはり緊迫している朝鮮半島情勢と考える。人々は連日の安全保障関連のニュースで不安になっている。ほとんどの日本人はこのような危機感を今まで経験したことがない。

    日本の防衛体制が万全ではないことを政府も認めている。ところが今さら憲法を改正し防衛力を短期間のうちに高めると言っても無理である。そこで筆者は実現性が多少でも有りそうな緊急対策を提案したい。


    まず2年前に成立した安保関連法の改正である。事態が朝鮮半島有事ということがはっきりして来たのだから、想定される日本の安保上の問題点や不備はある程度絞られると考える。野党の猛烈な反対があったが安保関連法はなんとか成立した。しかし成立を急ぐあまり、かなり妥協した面があった。つまり現行法は本当の有事に十分耐え得るものとは言えない。

    問題点や不十分なところは分かって来ているのだから、現行法の手直しを急ぐべきである。安保関連法に徹底的に反対した野党も、少しは現実的になっていると思われる。ただ国会を止めることにしか一生懸命にならない日本の野党とは、一体何なんだろうと筆者は思う。


    当然、政府は半島有事の日本への影響をシミュレーションしていると思われる。国土防衛には自衛隊、海上保安庁、警察が協力して当ることになる。ここで筆者が懸念する大きな問題は、必要な人員が十分に確保されているかということである。

    半島有事ということになればかなりの難民が発生することになり、一部が日本にもやって来る可能性はある。現在の体制でこれに適切に対処できるのかということになる。日本は海岸線が長くまた離島も多い。おそらく自衛隊員の不足が特に深刻と考える。南スーダンのPKO部隊が撤収するが、これも半島有事を見越していたという話が出ているほどである。また半島有事と言えど、尖閣諸島防衛などを疎かにするわけには行かない。


    短期間のうちに自衛隊員を大幅に増やすと言っても不可能である。そこで筆者が今週の本誌で提案するのは予備自衛官(予備役)の活用と大幅な増員である。予備自衛官とは非常勤の自衛官(国家公務員)であり、有事・訓練に召集され自衛隊の各任務に就く。基本的に自衛隊を退官した者が志願する。いわゆる予備自衛官(年間5日の訓練)の他に、高度な訓練(年間30日の訓練)を受けより負担が重い即応予備自衛官と、さらに自衛隊員の経験はないが訓練を受けた予備自衛官補がいる。員数の割合としては圧倒的に予備自衛官が多い。

    しかし日本の予備自衛官(予備役)は各国に比べ格段に少ない。2013年で現役23万人に対して、予備自衛官は全体で3万2千人と定員の5万にも満たない。諸外国では予備役を現役の5〜10割揃えるのが一般的である。特に徴兵制のある国の中には現役の数倍の予備役を抱えている国もある。日本の予備自衛官が極端に少ないのは、待遇が悪いことと政府が力を入れてこなかったためと推察される。


    半島有事が現実のものとなる可能性が出てきた。ところが自衛隊がこれに対処するとしても決定的な人手不足が予想される。しかし今から自衛隊員を緊急募集し訓練を施すといっても限度がある。この状況を踏まえ筆者は予備自衛官の待遇を改善し志願者を大幅に増やすことを提案しているのである。年間5日間(本来は20日間)の訓練であっても、他の職業に就いている元自衛官にとってはかなりの負担である。

    特に離島に住んでいる元自衛官については、訓練を省略しても予備自衛官に採用すれば良いとさえ筆者は思っている。また元自衛官の中には、国家の危機に際し自分でも何か役立ちたいと思われている方が多いと筆者は推測する。しかし負担の重さと待遇の悪さで二の足を踏んでいる方も多いと筆者は見ている。

    現役自衛官のように前線に立つことはなかなか難しいとしても、予備自衛官ができることは沢山あると考える。ただ予備自衛官を大幅に増やす具体的な方策は専門家に考えてもらう他はない。筆者は10万人くらいの増員ならかなり短い期間で実現可能ではないかと思っている。



来週はゴールデンウィークにつき休刊であり、次回号は5月15日を予定している。



17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
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16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
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16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
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16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
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16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
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16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
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